「やりたいことや目標は特にないけれど、今の仕事には飽きてきた……」
「これといった軸はないけれど、転職したい」

そんな悩みを持つ人は、どのようにキャリアメークにしていけばいいのか。キャリアアドバイザーの藤井佐和子さんに聞いてみました。

＜プロフィール＞ 株式会社キャリエーラ 代表取締役
藤井佐和子さん

大学卒業後、カメラメーカー海外営業部にて3年半従事、その後、前職インテリジェンス（現：パーソルキャリア）では、創業期の1994年から8年間派遣事業部と紹介事業部の立ち上げに携わる。2002年株式会社キャリエーラを立ち上げ、キャリアアドバイザーとして1万7000人以上のカウンセリングを行う

今回の相談：やりたいことも目標もないけれど、転職したい

今の仕事にマンネリ感が出てきたため、転職したいと思っていますが、特にやりたいことがありません。

「将来こうなっていたい」という目標も特にないのですが、どのようにキャリアの方向性を決めたらいいのでしょうか。

社内で「楽しい」と思えることを探してみよう

私のようなキャリアアドバイザーのもとには、「やりたいことが明確にあって、どう行動すればいいのか分からない」という人だけでなく、Fさんのように「自分に向いていることが見つからない」「何がやりたいのか分からない」ために、転職したくても踏みとどまっている、という人も大変多くいらっしゃいます。

私がFさんにアドバイスをするなら、「まず動いてみること」。

やりたいことは、頭で考えているだけで見つかるものではありません。行動の幅を広げ、新しい何かに出会うことで「これ楽しいかも」「もっと追求したい」という感情が自然と湧き出てくるものです。

「動く」というのは転職活動のことだけを指しているわけではありません。自分の気持ちを前向きにするエンジンをかけることがファーストステップになるので、まずは社内でできることを考えてみましょう。

例えば、働く中で「これは不便だな」「ここは問題だな」と思うことがあれば改善するために動いてみたり、業務外の委員会や労働組合に参加してみたりするのはどうでしょうか。

eラーニングや研修に参加できる制度があるなら、とりあえず参加してみるのもいいかもしれません。

このように、実は社内でもできることはたくさんあります。

「向いていない」「好きではない」と選り好みをせず、まずやってみることで人脈が広がったり、意外な自分に出会えたりするかもしれませんよ。

まずは自分のやる気スイッチを探ってみましょう。

流れに身を任せる「川下り型のキャリア」がおすすめ

Fさんのように、「やりたいことが見つからない」人におすすめしたいのが「川下り型のキャリア」です。

「川下り型のキャリア」とは、川の流れに身を任せるように、偶然の出会いや与えられた仕事など、目の前の状況にうまく対応することでキャリアがつくられていくという考え方。

「人生、何が起こるか分からない」という考え方を前提としたキャリア形成であり、目標に向かって一歩ずつ進んでいく「山登り型のキャリア」とは対照的ですね。

キャリアのターニングポイントは、本人の予想しない偶然の出来事によるものであるという「計画的偶発性理論」や、スティーブ・ジョブズのスピーチで話題となった、過去の経験はその当時は思いもよらなかったことに生かせるものだという「Connecting the dots（点と点をつなげる）」などの考え方に近いかもしれません。

ただし、この「川下り型のキャリア」には注意点があります。

それは、ちゃんと「寄り道」をすること。

「なんだ、流れに身を任せればいいのか」と安心して流されているだけでは、結局何もしないままボートから降りてしまう、なんてことになりかねません。

「いつか王子様が来てくれるかもしれない」とただ待っていても来ないのと同じ。「川を下っていればやりたい仕事や達成したい目標に出会えるかもしれない」と思っていても、大抵出会えません。

自分から、やりたいこととの出会いをつくるためにも、下りながら「いかにたくさん寄り道ができるか」を意識できるといいですね。

「やりたいことがない」人の強みは、選り好みせずいろいろなことに手を出せること。

資格の勉強をしてみたり、副業にチャレンジしてみたり、外部セミナーに参加してみたり、社内で業務外の活動に参加してみたり……。

山登り型の人が「自分の目標達成には関係がない」と切り捨ててしまうことにもどんどんチャレンジしちゃいましょう。

その寄り道が新たな出会いやチャンスを生み、自分らしいキャリアにつながるかもしれません。

転職するなら「派遣社員」も一つの手

「転職に限らずたくさん寄り道をしよう」という話をしましたが、転職をせざるを得ない状況にある人もいるでしょう。

その場合には、ぜひ積極的にジョブローテーションを行っている会社や裁量の大きいベンチャー企業を選んでみてください。

転職という選択の際も、「できる限り多くのことにチャレンジして視野を広げる」ことができそうかを判断軸に転職先を決められるといいですね。

また、幅広い経験を積むという観点でいうと、期間限定で派遣社員になってみるのも一つの手。

派遣社員はさまざまな企業で働くチャンスが得られるため、多くの人や仕事との出会いが期待できます。

派遣先を決める際は必ず担当者との面談があるため、「新しい分野にチャレンジしたい」「キャリアアップにつながる経験がしたい」と希望を伝えることで新たな世界が広がりますよ。

ただ一つ気を付けたいのが、やりたいことや向き不向きを見極める期間であることを意識して仕事に取り組むこと。

期間を定めて、「派遣社員で働く間に方向性を見出すぞ」という気持ちで取り組むと、いざ正規雇用を前提とした転職活動をする時に、何かしらの道しるべができると思います。

派遣社員として働く中でしっくりくるものがあれば、そこで直接雇用を目指すのもいいですし、派遣社員からそのまま正社員になれる「紹介予定派遣」の形態を選択してみるのもいいですね。

派遣社員というと、「次のキャリアで正社員として雇用されるハードルが上がるのではないか」「転職活動でネガティブに影響するのではないか」という不安を抱く人も多いかもしれません。

ただ、ここ数年は売り手市場が続いており、働き方も多様になってきているので、一昔前と市況感は変化しています。正規雇用を前提とした転職活動をする際に、経験の幅を広げるための選択であったこと、派遣社員として働きながら何を得られたのかをしっかり企業に伝えることで、派遣社員として働いた経験をプラスにアピールしましょう。

「やりたいことがない」は、むしろさまざまなことに手を伸ばすチャンス。

転職するにせよ、しないにせよ、選り好みせずに幅広い経験を積むことで、きっとあなたならではの道が見えてくるはずです。

取材・文／赤池沙希　編集／光谷麻里（編集部）

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