芸歴20年超、永山瑛太の存在感はなぜ高まり続けるのか「余計なプライドは捨てた」

一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心をつかみ、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

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仕事をする上で大切にしたいことは何か。その答えは、きっと経験を重ねるにつれて変わっていくはず。

俳優・永山瑛太さんもまた若い頃と今では仕事に対する考え方が全く違うという。

2001年に俳優デビュー。実に四半世紀近く俳優としてさまざまな作品に出演してきた永山さんは、今なおその存在感を高め続けている。

その裏には、どんな考え方の変化があったのだろうか。

リーダーに向いているのは、答えが定まっていない人

永山さんが今回出演するのは、大胆なアイデアで「忠臣蔵」をアレンジした映画『身代わり忠臣蔵』。

嫌われ者の殿・吉良上野介には、実はうりふたつの弟がいた……。そんな設定の元、上野介が斬られ、存亡の危機に見舞われた吉良家のピンチを救うべく、厄介者扱いだったなまぐさ坊主の弟・孝証がまさかの身代わりになる物語だ。

しかも、身代わりであるはずの弟は、いつしか家臣からも慕われ、吉良家の空気もすっかり風通しが良くなっていく。

本作は笑いたっぷりのエンターテインメント時代劇である一方、働く人々の視点から見ると、理想のリーダーとは何かを学べる教科書のようでもある。

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永山さん

結局、理想のリーダーというのはあまりリーダーっぽくない人というか。ちょっと抜けているくらい人の方がいいんじゃないかという気がします。

大石内蔵助役を演じる永山瑛太さんは、そう語る。

大石内蔵助と、ムロツヨシさん演じる孝証。本作の中心人物である二人のリーダーは、いわゆる統率力のあるリーダータイプには見えない。むしろいい加減で、ちょっと不真面目。だけど、そんなリーダーの下、人々は結束を強めていく。

永山さん

映画を観てても思いますけど、リーダーって「絶対こうしよう」という確信的なものがあまりない人の方が向いているんですよね。

なぜかというと、答えが定まっていない方が、周りの人たちが「自分がちゃんと考えないと」と思うから

永山さん

昔は、リーダーがいて、その人が提示した答えをめがけて、みんなが突っ走っていった。

でも今はそういう時代じゃなくて。一人一人がちゃんと仕事において一番大切なことは何かを考えられる組織の方が強いですよね。

旧来式のリーダー論が通用しないこのご時世。上に立つ人に求められるのは、アップデート力だ。

永山さん

これまで自分が培ってきた常識だとか当たり前をどんどんゴミ箱に入れていかないと、時代についていけない。だけど、体に染みついたものってそう簡単には取れないじゃないですか。

今の時代、位の高い人は責任だけ背負わされて、でも下にいる人たちからはあれこれつつかれて。本当に難しいし、大変だろうなと思います。

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永山さんが演じた大石内蔵助も、血気盛んな浪士たちに仇討ちを迫られ、決断に迷う。その姿は中間管理職さながらだ。

『身代わり忠臣蔵』は、未完成なリーダー・大石内蔵助が、討ち入りという“一大事業”への決意を固める物語でもある。

永山さん

だから、「のほほん」としてる人の方がリーダーに向いていると思うんですよね。


僕の理想のリーダー像は、『SLAM DUNK』の安西先生。安西先生って普段はすごくのほほんとしていて、言ってることも普遍的。でも、その中にずっと引っかかるような言葉がある。

そういう気づきを与えてくれる人がリーダーだと、下の人たちも成長していけるんだと思います。

それは、永山さんの“職場”である映画の現場でも同じだ。

永山さん

監督によって現場の雰囲気はさまざまで。「行くぞー!」と先頭に立ってくださるタイプの監督の方ももちろんいらっしゃいます。

それはそれで楽なところもあれば大変なところもあって。結局どちらが正しいかなんてなくて、一長一短なんですよね。

永山さん

そこで言うと、今回ご一緒した河合(勇人)監督は「のほほん」タイプ。周りに決して緊張感を与えることなく、いつも優しくておっとりしている。

だから、僕たちも何でも言える安心感があった。相手を受け入れる包容力を感じる方でした。

言い換えるなら、「のほほん」とは「心理的安全性」だ。

若手やキャリアの浅い人間が発言をためらうような現場では、どうしても自主的な働きかけや型にとらわれないアイデアは生まれにくい。

どんな意見も受容するリーダーの器が、『身代わり忠臣蔵』のような大胆奇抜なものづくりを可能にするのだ。

若い頃は、自分がすり減っていくような感覚があった

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気づけば、人生の半分以上の時間を芝居に費やしてきた永山さん。俳優という職種を選んだのは、何に魅力を感じたからだったのか。

永山さん

僕は、同じことを繰り返すのが苦手なんですね。どうしても日々、変化を欲してしまう。

その点俳優は、作品が変われば役も変わるし現場も変わる。新しい役をもらうたびに、新しい人生を生きられるような感覚になる。おかげで、なんとかギリギリやってこられました(笑)


僕にとって仕事は、自分の人生をなんとか退屈せずに生きていくためのものかもしれない。

とはいえ、一つの仕事をずっと続けていると、どうしたって飽きや停滞が生まれる。

特にキャリアの地盤が固まる30歳前後は、多くの人が自分の成長スピードが鈍化してきたというあせりを覚える。

ある種の疲弊や摩耗とどう付き合っていくかは、仕事をする上での大きな課題の一つだ。

永山さん

僕の場合は、生きることと演じることが密接になりすぎて、演じていないと自分がどうやって生きていったらいいのか分からないような状態になった時期がありました。

特にそれを強く感じたのは、20代の頃。仕事に埋没する中で、どうしても役と自己の境界線が曖昧になりがちだった。

永山さん

作品によっても違うので一概に言えないところはありますけど、せりふを覚え、衣装を身に着け、自分を別の人間にする作業を続けていると、表面だけではなく、内面まで変わってしまうときがあって。

例えば、恋愛物だったら、相手役の方を本当に好きなのではないかと錯覚してしまうなど、そういうことをずっとやっていると、それなりに消費するし、自分がすり減っていくような感覚はありました

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公私の境目が揺らぐのは、私たちの仕事でも十分起こり得る話だ。

昼夜もなく仕事に没頭するあまり、家に帰っても仕事のことが頭から離れなかったり、休日なのに心と体をしっかり休められなかったりすることは、特に若手のうちは“あるある”かもしれない。

そんな“仕事中毒状態”から永山さんはどう脱却したのだろうか。

永山さん

大きかったのは、結婚ですね。家庭を持ったことで、切り替えができるようになりました。

あとは友達との時間をちゃんと持つようにしたり。俳優としての時間ではなく、人間・永山瑛太の時間を大切にするようになってから、自然とちょうどいいバランスが取れるようになりました。

世間のどんな反応も面白がっちゃえばいい

2023年は『あなたがしてくれなくても』、『時をかけるな、恋人たち』の2本のドラマに出演。

こうした主演級の大役に加え、近年は『ミステリと言う勿れ』や『エルピス-希望、あるいは災い-』のように、限られた出番でも記憶に焼きつく鮮烈な存在感が改めて高く評価されている。

40代を迎え、さらに仕事へのギアが上がっているようにも見える永山さん。本人はどう捉えているのだろうか。

永山さん

そうですね。マック(マクドナルド)の店長をやったり、ドン・キホーテにも行ったりと、結構忙しいです(笑)

そう自身が出演するCMの話を交えながら冗談めかして話してくれたのは、永山さんの仕事への向き合い方だ。

永山さん

ここ最近は、できる限り仕事を断りたくないという気持ちがどんどん強くなっている感じがします。


今、僕が思っているのは、とにかく一緒に仕事をして楽しい方と、良い作品をつくっていきたいということだけ。それ以外は、あんまり何も考えなくなりました。

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もっと若い頃は、自分自身の見られ方を気にしたり、そのために作品選びにこだわったりもしたという。

そんな時期を経て、「今はあまり自分が世間にどう見られているかを気にしなくなった」と視界は晴れやかだ。

永山さん

それよりも今は、求められていることに対してシンプルに応えていこうと思っているんですね。


例えば何かちょっととがったことや自分のイメージと違うことを提示されたとする。そのときに「ちょっとそれはやりすぎなんじゃないですか」と意見することも可能は可能なんです。

でもそうすると、なんとなく良い感じにまとまったものしか生まれない。それだと面白くないし、ものづくりをしていても気持ち良くないんです。

永山さん

であれば、未知のものにも思い切って乗っかってみた方がいい

そして、そこでどんなリアクションが世間で生まれたとしても、それも含めて面白がればいい。

今はそんなやり方で仕事をしています。

キャリアを重ねるとモチベーションを見失うこともある。だけど、決して悪いことばかりでもない。年齢と共に身についた余分なプライドという脂肪をそぎ落とし、シンプルな気持ちで仕事と向き合える。

自分の見え方ばかりにとらわれるのではなく、求められるものに全力で応える。

40代を迎えて永山瑛太さんがたどり着いた境地は、どんな職種にも通じる“いい仕事”をするための基本姿勢だ。

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永山瑛太さん

1982年12月13日生まれ、東京都出身。2001年、フジテレビ系ドラマ「さよなら、小津先生」で俳優デビュー。その後はドラマ「WATER BOYS」「オレンジデイズ」「アンフェア」「のだめカンタービレ」「最高の離婚」「リコカツ」「ミステリと言う勿れ」「あなたがしてくれなくても」などの話題作に出演。映画では「サマータイムマシン・ブルース」「アヒルと鴨のコインロッカー」「まほろ駅前多田便利軒」「ミックス。」「友罪」「怪物」「福田村事件」「ミステリと言う勿れ」などに出演

作品情報

『身代わり忠臣蔵』2024年2月9日(金)公開

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嫌われ者の殿・吉良上野介(ムロツヨシ)が江戸城内で斬られ、あの世行き!

斬った赤穂藩主は当然切腹。だが、殿を失った吉良家も幕府の謀略によって、お家存亡の危機に!! そんな一族の大ピンチを切り抜けるべく、上野介にそっくりな弟の坊主・孝証(ムロツヨシ)が身代わりとなって幕府をダマす、前代未聞の【身代わりミッション】に挑む!

さらに、敵だったはずの赤穂藩家老・大石内蔵助(永山瑛太)と共謀して討ち入りを阻止するというまさかの事態に発展!? 幕府に吉良家に赤穂藩も入り乱れ、バレてはならない正体が…遂に!?

出演:ムロツヨシ、永山瑛太、川口春奈、林遣都、北村一輝、柄本明、寛一郎、森崎ウィン、本多力、星田英利、野波麻帆、尾上右近、橋本マナミ、板垣瑞生、廣瀬智紀、濱津隆之、加藤小夏、野村康太、入江甚儀
原作:土橋章宏「身代わり忠臣蔵」(幻冬舎文庫)
監督:河合勇人
脚本:土橋章宏
企画・プロデュース:橋本恵一
プロデューサー:森田美サクラ、福島一貴
テーマ曲:東京スカパラダイスオーケストラ「The Last Ninja」
製作幹事・配給:東映

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©2024「身代わり忠臣蔵」製作委員会

取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) 編集/光谷麻里(編集部)