引っ越し30回、趣味で宅建取得、日課は物件チェックな女性が「仕事は金融一筋」な理由
これまでの引っ越し回数はなんと約30回。趣味で宅建を取得し、日課は物件情報のチェック。引っ越し予定がなくても「良い!」と思った物件は内見に走るーー。
物件と引っ越しを愛してやまないのが、生命保険会社で働く八木満里子さんだ。
住まいを変えることにはフットワークが軽い彼女だが、仕事は金融業界一筋。そんな八木さんに話を聞いていくと、彼女流の人生のメリハリの付け方が見えてきた。

八木 満里子さん
大学卒業後、銀行に就職。退職後、派遣社員として複数の金融系企業で勤めた後、再び大手銀行に勤務。2017年生命保険企業に転職し、保険内容の変更や解約手続きの受付・対応など、顧客情報を扱う部署で働く。2024年4月管理職に昇進
20代後半、海外暮らしを転機に「引っ越し好き」に
まずは引っ越し遍歴について教えてください。初めての引っ越しはいつですか?
大学進学の時ですね。実家を出て学生寮に入り、その後は友達と一緒に住んだり、学年が変わってキャンパスの場所が変わったりして、合計3回引っ越しました。
すでに3回……!
卒業後は間もなく家族が海外へ引っ越し、私も一緒に移動していました。
当時は日本にある実家を拠点に1年ほど働いてお金をため、数カ月海外で暮らす生活だったんです。

「国はラトヴィア(バルト三国)が中心でした」(八木さん)
引っ越しというか、もはや定住していない感じですね。
家族も海外で頻繁に引っ越しをしていたので、行く度に違う家に住んでいて。
海外の物件は基本的に家具付きで、敷金や礼金もないんです。「また違う土地で暮らしてみたいな」と思ったら、すぐに引っ越していました。
気軽……!
多い時は年間5〜6回引っ越していて、1回の滞在期間中にマンスリーから別のマンスリーに引っ越すこともありました。
そうしているうちに、新しい土地を探求するのが好きになりましたね。
どのくらいの期間、海外で引っ越し続けていたんですか?
新卒で入社した銀行を約3年で辞めてから、30歳で家族が日本に戻るまでなので、5年くらいの間ですね。トータルで3年ほど海外に住んだと思います。
その後は日本で再び引っ越しを?
そうです。初めて関東に移って、賃貸物件に住んだり、分譲マンションを買ったり、マンションを賃貸に出して再び引っ越したり……という感じで、多い時は年間に複数回引っ越したかな。
今は分譲マンションに住んでいますが、その間もコロナ禍のリモート期間中に岐阜県で暮らしたりもしています。
全部合わせると、30回くらい拠点を変えていますね。
趣味が高じて宅建を取得
今では毎日、面白い物件がないかチェックするようになりました。海外で暮らしたことで、そもそも自分が物件好きなことにも気付けたんです。
日本とは部屋やインテリアの雰囲気が全然違って、屋根裏の部屋があったり、築300年の家があったりして、いろいろなところに住めるのが楽しかったからかもしれません。

引っ越し先を探すために物件を見ているんですか?
いえ、予定はないんですが、引っ越す先々で、新しい出会いが生まれるのがうれしくて。自分の暮らしを変えられる可能性が見えるので、つい見てしまうんです。
リノベの施工事例をみるのも好きですね。「この間取りいいな〜!」と思ったら、すぐ現地に足を運びたくなってしまいます。
一カ所に腰を据えたいとか、疲れるとか、そういう気持ちはないものですか?
全然ないです。「明日引っ越しなさい」と言われても大丈夫。むしろ「ずっとここに住みなさい」と言われる方が寂しいです。
「土地勘がない場所へ引っ越すのは苦手」と言う人もいますけど、私は土地勘がないからこそ楽しいと感じるんです。
もし引っ越しをしていなかったら、自分がそんな風に新しい環境を楽しめることも、知らなかったかもしれません。知らない土地に踏み出すことや人と出会うことへの抵抗が少なくなったことで、フットワークが軽くなりました。
でも、今は分譲マンションを購入したんですよね? 一世一代の買い物だし、そう簡単に引っ越せないのではと思うのですが。
物件購入は投資も兼ねると思っていますし、一世一代の買い物とまでは考えていないんです。人に貸したり、売却したりすることを考えるのも、自分の経験になってワクワクします。
たしかに大きなお金が動くので慎重に考えますが、値崩れしない物件を探すのに燃えますね。

理屈は分かりますけど……住宅ローンとか、税金とか、お金周りも難しそうじゃないですか?
20代の頃、派遣先の銀行で住宅ローン業務を担当したことがあって。だから基本的な知識はありますし、実はその時に宅建も取ったんですよ。
宅建!? 2023年の合格率は17.2%と、結構難しい資格ですよね?
お客さまの物件情報を扱う中で興味が湧いて、何度か受験して取得しました。
当時から将来的に家を買いたいと思っていたので、そのために勉強したい気持ちもありましたね。
結果的に法律や税金関係に強くなれて、お金のシミュレーションがしやすくなりました。皆さんが難しいと感じる分野なので、同僚に質問されることもあります。勉強しておいてよかったですね。
仕事は堅実に、引っ越しで人生の波をつくる
とはいえ引っ越しをすると、まとまったお金が出ていってしまいますよね?
そこは仕事を頑張るしかないと思います。家に限らず、自分が欲しいものを手に入れようと思ったら、その分頑張らないといけないのは変わらないので。
楽しいことをするには、仕事できちんと土台を築かないといけない。だから私は金融系の仕事を地道に続けることを大事にしてきました。
仕事は堅実というか、手堅いんですね。
私は仕事とプライベートを切り分けて、メリハリをつけたいんです。だから新卒のときはそれが実現できそうな銀行に就職して、そこからずっと金融業界にいます。
同じ理由で、フルリモートも苦手なんですよ。たまにリモートワークをするのはいいけど、基本的には職場で仕事に集中して、帰宅後に自分の好きな空間でリラックスしたい。
それこそ不動産系の仕事をしたいとは思わないですか?
思わないです。
私の場合、好きなことを仕事にすると時間を気にせずいつまでも仕事をしてしまう気がして。あくまで仕事は仕事、趣味は趣味と切り分けたいと思っています。

それに、金融業界でキャリアを重ねることは、私自身が仕事に集中するために守ってきたことなんです。働く業界をあえて変えないことで、着実に経験を積み重ねたかったので。
趣味を充実させるためだけに、仕事をしているわけではないんですね。
そうですね。とはいえ、何も変化しないのはもったいないと感じてしまうからこそ、引っ越しで人生の波を作ってバランスを取っているのかもしれません。
いろいろなことに興味をもってしまう性格でもありますが、金融業界で働き続ける選択は間違っていなかったと思います。
自分でメリハリがつけられるように常に考えてきたからこそ、引っ越しや物件の購入も楽しめている気がしますね。仕事においても、いい意味で思い切りよく決断できるようになったのは、住まいもキャリアも、自分で選択することを大切にしてきたからかもしれません。
「物件」から相手の人となりが見える
引っ越しや物件好きが仕事に役立つことはありますか?
直接引っ越しに関する仕事をすることはありませんが、普段のコミュニケーションの幅が広がったなと感じます。相手を知るのに役立つんですよ。
どういうことですか?
「八木さんといえば引っ越し」というイメージがあるようで、引っ越しや物件の相談をされることも多いんです。
引っ越しは私にとって趣味ですが、人生の転機になる方もいますよね。職場で業務上必要なやり取りしかなかった人とも、もう少し深い話ができるなと思います。
最近も同僚が長年住んでいた部屋から引っ越すという相談を受けました。一度頼ってもらえると、日頃のコミュニケーションもグッと近くなるような気がします。
なるほど。住環境には「どういうライフスタイルを送りたいのか」が反映されそうですもんね。
物件の条件は十人十色です。だからこそ、「物件探しで何を大事にしますか?」という質問で、相手の人となりやライフスタイルがイメージできるんですよ。
例えば、私は駅から家まで15分くらい歩きたいんです。帰宅後は仕事モードから切り替えたいので、駅から歩いて帰る時間がクールダウンにちょうどいい。
対して駅近重視の人は移動効率を上げたい人が多いです。「合理的に物事を考える人なのかな」など、駅からの距離一つとっても性格が出るなと思います。

「新入社員への自己紹介でも『趣味は物件探しです』と言っています。良いつかみにもなっていますね」(八木さん)
現状を変えたいなら引っ越せばいい
八木さんは購入した分譲マンションに現在は住んでいるとのことですが、今後引っ越しの予定はあるんですか?
私にとって新しい展開なんですけど、珍しく5年も住んでいるんです。
30回も引っ越しをしていると、5年同じところに住むのは逆に新鮮そうですね。
夫と一緒に選んだ今の家がものすごく好きで……私の趣味に付き合ってくれる夫にも、とても感謝しています。
なので、しばらくは今のところに住むつもりです。仕事も順調ですし、住み心地もいいので、今は引っ越すタイミングではないなと感じています。
将来的には、両親を気軽に呼べるような広い家に住みたいですね。
改めて、引っ越しの魅力って何だと思いますか?
引っ越しは、一歩を踏み出す良いきっかけになると思うんです。
一歩を踏み出すきっかけ?
住む場所は生活の基盤であり、不可欠なものじゃないですか。
なんとなく住んでいる家を見直して、今の部屋を居心地良くするだけでもいいと思うんです。
私は、自分がしっかり働くためにも、毎日暮らす場所を整えたいし、そこに投資をする必要があると感じています。
ときには思い切りと覚悟が必要なのも、面白いんですよね。引っ越すたびに自分がさまざまな選択ができて、新しい発見があることも、人生にとってプラスになると思います。
企画・取材・文・編集/天野夏海