文芸評論家・三宅香帆イチオシ!知らない世界にいざなってくれる、働く女性におすすめの小説3選

15万部超のベストセラーとなった『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』、母と娘の関係性を描いている作品を分析した『娘が母を殺すには?』など、自身が興味を抱いたテーマに沿って、幅広いジャンルの書籍を執筆している、文芸評論家の三宅香帆さん。
幼い頃から本が大好きで、1年間に読む本は、なんと500冊以上! 常に面白い本を探すためのアンテナを張り続けている三宅さんに、「働く女性におすすめの小説」を3冊、教えてもらった。
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本に狂わされた文芸評論家・三宅香帆が「好き」を貫いて探し当てた「自分らしく生きるための答え」
ゲーム業界の男女バディものの傑作『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』

『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』(ガブリエル・ゼヴィン著/池田真紀子訳/早川書房)
最近、面白い起業ものが増えているのですが、その中でも、ガブリエル・ゼヴィンさんというアメリカの女性小説家が書いた『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』(早川書房)は、現在30歳の私と同世代の方にぜひ読んでいただきたい作品です。
1990年代のアメリカを舞台にした、いわゆるゲーム業界の男女バディもので、マサチューセッツ工科大学(MIT)に通うセイディと、ハーバード大学(HU)に通うサムが再会して、2人でゲーム会社を立ち上げるところから始まります。
女性ながらにMITに通い、ファイトゲームの開発に取り組むヒロイン、セイディがとても魅力的に描かれていて、ゲーム開発の裏側も興味深いですし、セイディとサムの恋愛になりそうでならない、みたいなところもすごくいいんですよ。
働く女性が読むには分厚いかもしれないのですが……ぜひ読んでみてください!
格差社会の中で暗号通貨にハマった3人の女性の行く先は……『月まで行こう』

『月まで行こう』(チャン・リュジン著/バーチ美和訳/光文社)
『月まで行こう』(光文社)は、韓国の若手女性小説家チャン・リュジンさん初の長編で、韓国で働くアラサー女性、ウンサン、タヘ、チソンを主人公に描かれたお仕事小説です。
製菓会社に中途で入社した3人は、格差社会の中で一発逆転を求め、イーサリアムという暗号通貨にハマっていきます。暗号通貨のジェットコースターのような急落と急騰に一喜一憂する彼女たちの様子を読んでいるうちに、「お金とはどういうものか」ということを考えている自分に気付きました。
韓国セレブの話なども描かれている爽快な物語なので、「仕事にちょっと疲れたな……」というときに読んでほしい小説です。これを読むと、働く女性の小説がもっと読みたくなりますよ。
お金持ちの世界をのぞき見!百貨店の外商部でのお仕事術『上流階級 富久丸百貨店外商部』

『上流階級 富久丸百貨店外商部』(高殿円著/小学館文庫)
『上流階級 富久丸百貨店外商部』(小学館文庫)は、現在4巻まで出ているシリーズもので、百貨店の外商部で働く女性の話です。
百貨店の外商さんって、名前は聞いたことあるものの、どんなことをするのか、具体的には知らない方も多いのではないでしょうか。この作品では、芦屋のお金持ちがどんなものを買っているのかのエピソードはもちろん、主人公のお仕事哲学も書かれていて、働く女性にとっては参考になる部分も多いと思います。
「お買い物とお仕事の話」なんて、私と同世代のアラサー女性は読むしかない!みたいなテーマですよね。上流階級の人々の、きらびやかなお買い物をのぞき見する感覚で読んでみてください。
年間500冊以上もの本を読む「文芸評論家」の読書スタイルとは?

企業で働いているときには、思うように読書ができなかったという三宅さん。現在は、会社勤めをしている夫に合わせて、夜は12時くらいまでには寝て、朝8時には起きるという規則正しい生活の中で、働きながらの読書ライフを楽しんでいる。
「私は本を読むのがすごく早いんです。それは、大学院のときに大量の論文をとにかく気合で読んでいたから。あれだけの文章を必死で読むと早くなるんだなと。訓練のたまものですね(笑)」
幼い頃から本が大好き。年齢を重ねて読むペースは早くなったが、読者としての気持ちはまったく変わらない。「好きなことを仕事にすると本を読むのがつらくないですか?」とよく聞かれるものの、「まったくそんなことはないです」とほほえむ。
「変わらな過ぎるのがちょっと自分でも困るくらい。私、昔から面白くない本にすごく怒っちゃうんです。つまらない本と出合うと、『私がもっと面白い本を紹介しなければ……』みたいな使命感が湧いてくるので、悪いことばかりでもないのですが(笑)」
そんな三宅さんが教えてくれた、働く女性にこそ読んでほしい3冊。日常的に読書をする方はもちろん、本を読みたいけれど「どれを読んでいいのか分からない……」という方は、目利きである三宅さんおすすめから読んでみてはいかがだろうか。

三宅香帆(みやけ・かほ)さん
1994年、高知県生まれ。京都大学大学院在学中にアルバイトしていた「天狼院書店」のブログ記事が話題となり、2017年に『人生を狂わず名著50』(ライツ社)で書評家デビュー。その後、大手人材系会社に就職し兼業作家となる。『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(笠間書院)などの著書を執筆した後、22年に独立。24年発売の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社)は、15万部を超えるベストセラーに。最新刊『30日de源氏物語』(亜紀書房)が発売中。■X/Instagram/note
取材・文/石本真樹(編集部)