04 SEP/2024

ストイックに仕事に向き合う、葵わかなのチャレンジの源泉「少しでもさぼっていないか、自問自答できる人でありたい」

次のチャレンジ応援します!
Another Action Starter

日々の暮らしの中で、ちょっとしたチャレンジをすること。それが、Woman typeが提案する「Another Action」。今をときめく女性たちへのインタビューから、挑戦の種を見つけよう!

葵わかなさん
葵さん

新しいことへの挑戦は、不安や葛藤もあるけれど、私に新しい景色を見せてくれるんです。挑戦した先での失敗や成功は、すべて自分の糧になる

一つ一つの質問に、まっすぐなまなざしで答える葵わかなさん。2017年には、NHK連続テレビ小説「わろてんか」でヒロインを務め、一気にお茶の間の人気者に。19年には初舞台を踏み、その後もコンスタントに話題作に出演。映像だけでなく、舞台俳優としてのキャリアも伸ばし続けている。

舞台6作目にして挑むのが、ドイツの劇作家、ベルトルト・ブレヒトの代表作『セツアンの善人』。演出を務めるのは、これまでに数々のブレヒト作品を手掛けてきた白井晃さん。演劇好きなら心躍るタッグに、葵さん自身も「自分の中でも大きな挑戦」と語る。

新しいことに挑戦するたびに不安もあると言うが、キラキラと瞳を輝かせながら話す葵さんを見ていると、その不安すら楽しむ様子が伺える。葵さんが楽しみながらチャレンジし続けられる理由とは――。

舞台の世界に足を踏み入れて6年。想像を超えるチャンスが巡ってきた

葵わかなさん

『セツアンの善人』で葵さんが演じるのは、心優しい娼婦のシェン・テと、冷酷な青年のシュイ・タの一人二役。シュイ・タは、善人であるがゆえに行き詰まってしまったシェン・テが作り出した架空の人物という、演劇ならではの仕掛けが満載だ。

葵さん

初めてだらけの挑戦に、まだ想像が追いつきません。一人二役を演じるのも初めてですし、音楽劇というのも初めてです。さらに、ご一緒したいと思っていた白井晃さんの演出で、憧れの世田谷パブリックシアターに立たせてもらえる。

初めて舞台の世界に足を踏み入れた頃の私には、まったく想像のつかないようなことが今、起こっています。身にあまり過ぎる光栄で、何段も飛び越えている感じがしますが、なんとか頑張りたいです。

「人はどこまで善人でいられるか」「人はお金で幸せになれるのか」といった、現代にも通じる、簡単には答えの出ないテーマを描いた本作。一見、小難しい内容かと思いきや、登場人物のセリフのやり取りはとても軽快で、歌も交えつつ、笑っているうちに考えさせられる巧みな構成になっている。

葵さん

重たいテーマの作品なのに、よくこんなに軽く描けるなと。人のいいシェン・テは、気付いたらまわりの人に追い込まれていて、冷酷なシュイ・タに扮(ふん)して行き詰まった道を切り開いていこうとするのですが、その違いがすごく面白いんです。

白井さんが、ブレヒトの良さは、「難しいテーマを難しいままで伝えないこと」だとおっしゃっていて、まさにそうだなと。エンターテインメントとして楽しんでもらいながらも、テーマが深く刺さるんです。

私自身、自分の考えが変わるきっかけや、感動して気付きを得ることは、人に言われるよりも作品から感じることが多いので、誰かにとって気付きを得るきっかけになるような作品にできたらいいなと思います

葵わかなさん

まっすぐでひたむきな役柄を演じることが多いからか、シェン・テとシュイ・タなら、善人のシェン・テの方が、葵さんと近いキャラクターというイメージだが、葵さん自身は、どちらにも共感できると言う。

葵さん

極端なキャラクターなので、シェン・テも私からしたらいい人とも言い切れないと思うんです。まわりから利用されてしまう「都合がいい人」という感じもします。

シュイ・タは冷酷ですがとても合理的で、ダメなことはダメと言える人。両方あってバランスがいいというか。見る人によって感じ方が違うとは思いますが、私はどちらの気持ちも結構分かるんです。

新しいことへの挑戦は、自分にとってものすごい価値がある

葵わかなさん

現在、芸歴16年目。朝ドラヒロインまで務めた勝手知ったる映像の世界から、まったく知らない舞台の世界への挑戦に不安はなかったのだろうか。

葵さん

それまで映像の世界しか知らなかったので、分からないことだらけでした。

舞台と同時にナレーションの仕事もやらせていただけるようになったのですが、まったく知らない世界で1年生としていられるなんて、大人になってからはなかなかないことなので、それもいいなって

成功を目指していかないといけないとは思いますが、失敗からも、成功からも、得られることは本当に大きいですから。

葵さんのまっすぐな瞳は常に、挑戦したその先に広がる「未来」を見つめている。

葵さん

不安や葛藤が大きい分、見たことのない景色を見せてもらえるし、新しい場所に足を踏み入れなければ、感じることのできない気持ちを味わえる。誰でもそうですが、新しいことへの挑戦は、自分にとってものすごい価値があるんです

舞台に関して言えば、初舞台からコンスタントに立たせてもらっていることは、本当にありがたいですし、恵まれていると思います。それよりも、一つ一つの中身の濃さや、自分自身がどう変化したか。実感するためにはチャレンジあるのみなので、これからも挑戦し続けたいです。

あと一歩、努力できる隙があるなら、半歩でも進みたい

葵わかなさん

どんな仕事にも真摯(しんし)に取り組む葵さんだが、実は人見知りで、初めての現場は特に緊張するという。さらに、タイトルロール(表題役)を務めるということで、思い悩むことも多い。

葵さん

場に打ち解けたり、盛り上げたりすることが昔からすごく苦手で。主演のポジションをやらせていただけるようになってからは、「どういう人がふさわしいのか」と、常に考えてしまいます。

別現場での主演の方の立ち振る舞いを参考にしようかとも思ったのですが、自分にできるかと言われるとできないことが多くて……。まだまだ課題だらけです。

課題をそのままにせず、常に努力を続けられるのが、彼女の強さの理由。どんなことでも、「やるかやらないかで迷ったときには、やることにしています」ときっぱりと言い切る。

葵さん

例えば、作品に入るときの下準備でセリフを覚える場合は、「覚えたような気がする」くらいだったら、もう少し時間をかけます。

仕事においては、あと一歩、努力できる隙があるなら、半歩でも進みたい。結構、追い込むタイプです。「これぐらいでいいか」と思った瞬間に、すべて崩れてしまいそうな気さえしてしまっていて。

極端な方だとは思いますが、少しでもさぼっていたと思いたくない気持ちがとても強いんです。人間なので、疲れから気が緩むときももちろんあります。ただ、そのときにでも「さぼっていないか」と自問自答できる人でありたいなと

葵わかなさん

かれんであどけない笑顔の葵さんからは想像できないほどのストイックさ。これが、数々のクリエイターたちが「葵わかなと仕事がしたい」と思う理由だ。

20歳で舞台をやりたいと新たな畑に種をまき、6年の月日がたった。はたから見ると、その種は大きく花開いているように思えるが、葵さんにとっては、「ちょっとずつ芽が出た」くらいなのだとか。

葵さん

今、26歳なのですが、ようやく芽が出てきたかなと思えるようになったので、花が開くまで育てたいです。どのタイミングでそう思えるかはまだ想像がつきませんが、自分で決断をして手に入れたものだから、育てることによって自分自身がより成長できるかなと。

新しい挑戦は、私を育ててくれた映像の畑にも大きな栄養を与えてくれます。自分の中でいい循環をつくって、俳優としての経験をより豊かなものにしていきたい。

いつか、また違う畑に種をまきたいという気持ちもあるので、「こうだ」と決めつけずに、いくつになってもいろいろなことをチョイスして挑戦できる人になりたいです

挑戦心を常に忘れない、仕事の仕方ができればいいなと思っています。

葵わかなさん

葵わかな(あおい・わかな)さん

1998年6月30日生まれ。神奈川県出身。小学5年生の時に原宿でスカウトされて芸能界入り。2009年女優デビュー。2017年、2,378人の候補者からヒロインに選ばれ、NHK連続テレビ小説「わろてんか」に出演。一躍お茶の間の人気者に。19年には「ロミオとジュリエット」で舞台初出演。映像、舞台、CM、ナレーションなど、幅広く活動中。才木の主な作品にドラマ「キッチン革命」「Dr.チョコレート」「ブラックペアン2」などがある。24年9月からは、主演ドラマ「おいち不思議がたり」がスタート。■XInstagram

取材・文・編集/石本真樹(編集部) 撮影/渡辺美知子 ヘアメーク/masaki スタイリスト/武久真理江

■作品情報

『セツアンの善人』

『セツアンの善人』

撮影:山崎伸康

第二次世界大戦中、ナチスにより市民権をはく奪された、20 世紀最大の劇作家、ベルトルト・ブレヒトが亡命先で執筆した名作。

人間臭い立ち振る舞いをした神様たちが下界に現れ、「善人探し」をする中でたどり着いたのは、貧民窟に暮らす心優しき娼婦、シェン・テ(葵わかな)。神様たちから「善人」と認められ、褒美として与えられた大金をもとに商売を始めるが、お人よしがゆえにうまくいかず、つけこんでくるまわりの人たちに、自分の財産を分け与えてしまう。このままでは自分の身を滅ぼすと気付いたシェン・テは、冷酷にビジネスに徹する架空のいとこ、シュイ・タを作り出し、自らがいとこに扮(ふん)し、邪魔者を一掃しようとするが――。

作:ベルトルト・ブレヒト
音楽:パウル・デッサウ
翻訳:酒寄進一
上演台本・演出:白井晃
訳詞・音楽監督:国広和毅

出演:葵わかな、木村達成、渡部豪太、七瀬なつみ、あめくみちこ、小林勝也、松澤一之、小宮孝泰、ラサール石井 ほか

<東京公演>
上演期間:2024 年10 月16 日(水)~11 月4日(月・休)
場所:世田谷パブリックシアター

<兵庫公演>
上演期間:2024 年11 月9 日(土)~11 月10 日(日)
場所:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール