「美学とアントレプレナーシップが“いい仕事”を支える」日本初女性単独VC代表・矢澤麻里子の仕事論
より良い人生を送るには、どうしたらいいのだろう。
趣味やプライベートに熱中するのもいいけれど、中には仕事でしか味わうことができない達成感ややりがいもあるはずだ。
では、「いい人生」をつくるための「いい仕事」とは一体何なのか。各界で活躍中のビジネスパーソンたちに、インタビューを実施した。
今回登場するのは、日本初の「女性単独 」VCであるYazawa Venturesの代表・矢澤 麻里子さん。
多くの起業家を支援してきた彼女が思う、「いい仕事」とは?
※本記事は2024年11月に発売予定の雑誌『type就活』から先行公開をしています。

Yazawa Ventures Founder/CEO
矢澤 麻里子さん
ニューヨーク州立大学を卒業後、ソフトウェアベンダーを経て、サムライインキュベートに転職。スタートアップ70社以上の出資を経験後、米国Plug and Playの日本支社立ち上げ及びCOOに就任。出産を経て、2020年Yazawa Venturesとして独立
ベンチャーキャピタル(以下、VC)は、未来をつくる仕事です。
日本を代表する企業も最初は小さい会社だったのであり、そういう会社を応援する人がいなければ、大きな産業はつくれません。
私は主に会社設立前後のプレシード・シードステージのスタートアップを支援していますが、最初の苦しい時期を共にするからこそ、その会社が成功したときの喜びは本当に大きいもの。
何より「この事業で世界を変える」という熱量の高い起業家の皆さんと一緒に仕事ができるのはすばらしいことです。
2020年には私自身が起業し、VCとして独立しました。
現在は「働く」に変革を起こそうとしているスタートアップや女性起業家の支援をしていますが、そのきっかけは私自身の体験にあります。
実は以前務めていたVCでも女性起業家に投資したい思いはあったのですが、当時の自分は優秀な人であれば性別に関係なく資金調達はできるとも思っていて。
ところが実際に自分が妊娠、出産を経験したことで、その大変さに気付きました。早く仕事に戻りたい気持ちと、子どもを思う気持ちの狭間で身動きが取れなくなってしまった。
定期的な支援を受けられる環境が必要だと思いましたし、私も先輩女性たちから応援してもらったので、今度は自分がサポートできる人間になりたいと思ったんです。

自身が起業し、大変さを理解したことで「起業家の皆さんへのリスペクトはより大きくなった」と矢澤さん
それに、世の中にとって絶対必要だと思ったことも後押ししました。子育て中はどうしても働く時間が短くなり、100%仕事にフォーカスするのも難しいですが、それは能力が低いからでは決してない。
そう考えた時に、妊娠、出産を機に仕事を辞めてしまったり、自分の能力を過小評価してチャレンジができなかったりする現状は、日本社会にとって機会損失だと思いました。
日本の未来を考えれば、長期的にしっかり働ける人を増やし、一人当たりの給与を高めることが重要です。そのためには「働く」の在り方を変え、生産性やビジネス環境を見直す必要があるのではないか。
そこにチャレンジしている起業家を支援することは、世界を変える一つの方法だと思っています。
「かっこいい」と思える人を起点に自分の美学を磨く
最近ではプライベートの在り方も多様になりましたが、どのような人生を歩んだとしても、年齢を重ねるほど人は寂しさや孤独を感じやすくなるのだと思います。
そのときに仕事を通じて人から頼られ、それに応じることで喜んでもらい、世の中に価値を提供することの意味は大きい。社会から求められていると思えれば、仕事が人生の支えになり、それが生きる目的にもなっていく。
それは自分を認め、自信を持つことでもあります。
そういう意味では「仕事=人生」なのでしょうね。私の父は事業をしていたのですが、まさにお客さんのために働くことが生きがいになっていて、働き方が生き方そのものになっていました。

そんな父や起業家の皆さんを見て、また私自身も起業して思うのは、アントレプレナーシップの重要性です。
どんな仕事にも責任を持ち、期待値の120%を達成する方法を考え、実行し、打ち手を考える。このPDCAを回す力は、人生をより良くすることにも直結します。
自身を振り返ってもそう思いますし、起業家の皆さんを見ていても、仕事と人生の双方でやりたいことを実現する力があるのを感じます。
アントレプレナーシップを磨くには、与えられた仕事に全力で向き合いながら、同時にスピードを意識すること。
特に新人の頃は見えている世界が狭く、目の前の仕事の意味を正しく理解できるとは限りません。だから無駄に思える仕事であっても、最終的な120%の着地を目指し、70%の完成度でいいからまずは提出して、指摘を受けながら改善できるといいですね。
そして、できれば自分がかっこいいと思える人の近くで働いてほしいです。やりたい仕事をベースにキャリアを考える人は多いですが、かっこいい人を起点にするのも一つの方法。
私の場合はサムラインキュベート代表の榊原(健太郎)さんを「すごい」と思ったことが同社に入ったきっかけでした。一緒に働く中でますますその思いは強まり、今でも働き方のベースになっています。
自分のお手本となる人を探し、指針の一つに定めるのはアンドレプレナーシップの第一歩です。
ビジネスやキャリアの意思決定をする際、正解がない中でどうすべきかが問われますが、その際に大事なのが美学。何が好き、嫌いで、何に対して良い、悪いと思うのか。その価値観が美学をつくるのであり、他人に意識を向けることは自分の美学を磨くことでもあるのです。
こういったインタビュー記事などを通じて、ぜひいいなと思う人を見つけてください。その人について徹底的に調べ、できれば会いに行って、「かっこいいな」を体感してほしいですね。
自分がすごいと思える人の生き方を吸収することは、自分の「こうしたい」を何倍にも広げてくれるはずですから。
取材・文・編集/天野夏海 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)