国「女性管理職増やそう」→「私には無理」が超もったいないと断言できる理由【キャリアコンサル森本千賀子】
女性管理職登用に注力する企業が増加する一方で、当の女性の中には「自分に管理職が務まるか自信がない、イメージが持てない」と不安を抱く人も少なくない。そこで本特集では、当事者のインタビューや識者の解説を通して、“等身大のリーダー像”を徹底考察。自分なりのリーダー像や、管理職のロールモデルを見つけてみよう!
2024年7月、厚生労働省内の研究会が「一定の従業員数以上の企業に、女性の管理職比率の公表を義務づけることで、女性管理職の登用を広げ、男女賃金格差の是正を図るべき」と提言した。
しかし先日行った女の転職typeが実施したアンケートによると、当の女性たちは「管理職になりたくない」人が全体の4割にのぼり、「なりたい派」(30.9%)よりも優勢となった。

この傾向について、人材紹介やコンサルティング事業を手掛ける株式会社morichの森本 千賀子さんに話を聞くと「不安を感じていたとしても、女性たちがこのチャンスを活かさない手はない」と話す。
その発言の真意とは一体何なのか。企業や転職市場の現状と、不安な中でも女性が管理職を目指すメリットについて、詳しく解説してもらった。

株式会社morich代表取締役
森本 千賀子さん
新卒で現リクルートに入社。転職エージェントとしてCxOクラスの採用支援を中心に、4万名超の求職者と接点を持ち、2500名超の転職に携わる。リクルートエージェントでは累計売り上げ実績は歴代トップで全社MVPなど受賞歴は30回超。2012年にはカリスマ転職エージェントとして『プロフェッショナル~仕事の流儀~』(NHK)に出演。 17年3月株式会社morich設立。現在、NPO理事や社外取締役・顧問など「複業=パラレルキャリア」を意識した多様な働き方を自ら体現。日経オンライン・プレジデントオンラインなどの連載のほか、著書多数。22年には日経新聞夕刊『人間発見』の連載や『ガイアの夜明け』(テレビ東京)にも取り上げられる ■X
求められるのは「俺さま」ではなく「おかげさま」のリーダー
そもそもなぜ今、国は「女性の管理職」を増やそうとしているのでしょうか?
マクロの視点でいうと、日本の労働人口の減少問題が背景にあります。働ける年代の人(生産労働人口)がどんどん減り、このままいくと2030年には644万人、2040年には1000万人超の人材不足の時代が訪れるため、女性・シニア・外国人などの活躍促進や、DX推進などが叫ばれているのです。
管理職に限らず、人材が不足する分を女性にもっと活躍してもらわざるを得なくなったということですね。
また最近では「人的資本経営」といって、人材の価値を最大限に引き出すことで企業の価値を上げる経営の考え方があります。その文脈で、女性社員の活躍、ダイバーシティーなどが重視されるのです。
「女性比率何割を目指す」などの言葉を見かける機会も増えました。
特に新卒市場では、既に男女差別はほとんど感じられなくなってきていると感じます。ダイバーシティーが進んでいる会社が世の中から注目されたり、投資家から評価されたりしていますし、実際に女性管理職や役員比率が高い企業ほど株価が高値で安定しているというデータも出ているんですよ。
つまり企業の経営やブランディングとしても、今後は女性管理職比率を上げていかなければならないんですね。
転職市場にもそれは表れていて、中途採用で管理職を増やそうという動きがあります。そこに女性だったらなお可、という案件は増えていますね。
女性活躍推進に欠かせない「ロールモデルを増やそう」という動きがあって、これまで管理職層については中途採用してこなかった大手企業を中心に、求められるリーダー像も変化してきました。
どのように変わっているのでしょうか?
今までは社内人脈を構築して、強いリーダーシップで率いていくリーダー像が重視されていましたが、最近では「俺さまではなくおかげさま」というのがキーワードになっているんですよ。
おかげさま?
先頭を走る統率型リーダーではなく、共感型、サポート型といったメンバーの成長速度に合わせて伴走できるリーダー像が重視されるようになったのです。共感力が求められる伴走タイプのリーダーは、実は女性に得意な人が多いと言われているため、中途でも女性を採用しようという動きにつながっています。
「自分には無理」女性の昇進意欲を妨げる心理的な壁

国や企業側の事情は分かりましたが、当の女性は「そんなこと言われても……」と消極的に考える人も多いように感じます。
そうですね。実際に女性がいざ活躍しようと思うと、現状ではロールモデルがいなかったり、目指したい指標がなかったりするので、そこが天井になってしまっているのだと感じます。
たしかに、上の世代で活躍している女性たちを見ると、みんなスーパーウーマンな感じがして……。自分には無理だな、と思ってしまいます。
だからこそ企業は、特に20代の女性の価値観に合った「目指せる姿」を見せてあげないといけないですよね。
また女性の意識が追いついていない背景には、「インポスター症候群」といって自己を過小評価してしまう傾向もあります。自分が昇進することで、周りに迷惑をかけるのでは、私にそんな能力はないんじゃないかと、抵抗を感じてしまうのです。
それは思い当たる節がありますね……。
これは女性に多い傾向で、昇進を妨げる心理的な壁になっています。
また最近では、リモートワークと出社のハイブリッドが増えていたり、DX導入の過渡期だったりすることで、マネジメントの難易度が上がり、管理職の負荷が増えていることも関係します。出産や育児と管理職の両立にさらに抵抗感が強くなりますし、給与や昇進よりも自分の時間の方を重視する人も増えているんですよ。
管理職を経験すれば「レア人材」として市場価値が上がる

やっぱり女性が管理職になることには、多くの壁が立ちはだかるんですね…….。
いえ、今は女性にとってはめちゃくちゃ追い風ですよ! もっと ポジティブに捉えていいと思います。
追い風ですか?
国や企業が女性管理職を増やすために、過去類を見ないくらい制度や環境を整えている時代だからです。個人的には、そんなチャンスに乗らない手はないと思いますよ。
断らずに受けてみたら、管理職が自分にフィットしていてやりがいを感じることもありますしね。
女性が今、管理職を目指すメリットって具体的に何なのでしょうか?
管理職になることで、まずは自分の希少価値が上がります。理由はシンプルで、需要はあるのに人がいないから。実際に管理職の中で女性は13%ほどしかいないので、その経験だけで希少価値がとても高いのです。職種別に見たらもっと価値は高くて、例えば営業職で管理職をすれば、労働人口の0.3%の人材になれるんですよ。
経験するだけで、レアな人材になれるんですね。
希少価値が上がれば、転職の選択肢も増えるし、給料も上がりやすくなります。
そしてもう一つのメリットは、自分で決められる範囲が広がるということです。例えば会議の内容や時間帯、報告はメールでしておいてほしいなど、自分がリーダーになったら決める側になれますよね。
自分の裁量で仕事が進めやすくなるということですね。将来的に育児などとの両立にも関係してきそうです。
まさにその通りで、時間の融通が効きやすくなるので、将来の子育てやワークライフバランスを見据えた上でもメリットがあります。
また管理職の経験は、自己鍛錬の場にもなります。私自身も強く感じますが、プレイヤーで使う筋肉とは全く違うミッションで、自分が成長する一つの手段であるのは間違いないと思います。
人材を育成する、マネジメントをすることは、イチメンバー時代にはなかなか得られない経験ですよね。
私も管理職を経験して分かったのですが、自分が高い実績を出して評価されるよりも、自分が育てた部下が、例えば表彰されて壇上に上がってスピーチする姿を見る方がよっぽど感動するんですよ!
たしかに、自分よりも上司が感動していることはあります(笑)。そんな気持ちになっていたんですね……!
あとは、育児を見越して管理職になりたくない人は少なからずいますが、子育てには必ず一段落するタイミングがきます。
そこでどうせだったら、責任あるダイナミックな仕事をしておいた方が、やりがいもありますし給与も比例して増えますから、選択肢の一つにいれてほしいなと思います。私自身の経験からも、機会があるならぜひ飛び込んでみてほしいですね。
女性であることで“担がれた”としてもメリットの方が大きい

それでも「とりあえず管理職をやってみる」には、なかなかハードルを感じてしまいます。
女性管理職と言っても皆さんが想像するような、髪を振り乱しながら仕事に邁進している人ばかりではないので安心してください(笑)。
それに、もしやってみて辛ければ役職を戻すこともできますから。
できなかったらやめていい、と言われると安心です。でも、逆は難しいですよね。メンバーが管理職を希望する方がハードル高そう。
実はそうでもないんですよ。今は本当に企業からの女性管理職のニーズが高いですから、自分の意志で「管理職をやりたいです」と言えばチャンスは広がっています。
女性の方が「管理職になりたい」と口に出す人が少ない傾向はありますけれど。
恥ずかしさというか、昇進したがっているって周りに思われるのも何かな……とは思います。
そうそう。でも企業としては本当にウェルカムですから、もう言ったもん勝ちで「やりたい」と言って挑戦するのがベストだと思います。
最近では、ダイバーシティー促進のために「女性だから管理職登用された」ような動きもありますよね。それはそれで嫌な気もしますが……。
そうですね、実際に女性の方が逆差別される会社があることは否めないです。でも、私はもうそれでいいのではないかと思っていて。仕事は、ポジションや役割がその人を育てますし、「担がれる」ことによるメリットの方が大きいのではないでしょうか。
管理職に対するネガティブイメージが、少し薄らぎました。バリバリのスーパーウーマンでなくてもいいんだなと。では管理職の一歩手前の女性会社員が今すべきことってありますか?
まず疑似体験をしておきましょう、と私はよく言っています。リーダー経験ではなくても、例えば会議のファシリテーター、飲み会の幹事を引き受けるなどでもいいんです。そういった「自分で何かを率いる経験」ができるといいですね。
必ずしもリーダー経験である必要はないのですね。それならできそうな気もする……。
そうやって「できそうな気がする」という女性が増えてほしいですね!
人生100年時代の中で、女性が今後何十年も働き続けるなら、自分のバリューをどう上げるかはとても重要な視点です。日本においては、管理職になるということが一つの近道であることは事実ですから、そこで今求められている「寄り添うリーダー像」に気負うことなくチャレンジしてほしい、と心から思います。
取材・文/大室倫子(編集部)
『“等身大”の女性リーダーたち』の過去記事一覧はこちら
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