就活全滅のどん底から“統計のお姉さん”へ「あっという間に人は死ぬから」著者・サトマイの自分らしく働くための選択
生き方も、働き方も、多様な選択肢が広がる時代。何でも自由に選べるってすてきだけど、自分らしい選択はどうすればできるもの? 働く女性たちが「私らしい未来」を見つけるまでのストーリーをお届けします
確立・統計を使って世の中の謎を解く「リアル謎解き」ができるYouTubeチャンネル「謎解き統計学」のサトマイこと佐藤舞さん。
「東京都知事選」「パリ五輪射的競技の無課金おじさん」など、身近な旬の話題を取り上げ、統計学を使って分かりやすく解説する、“統計のお姉さん”として注目を集めている。
現在は、自身でデータ活用のコンサルティング会社を設立し、二冊目の本『あっという間に人は死ぬから「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』(KADOKAWA)が大ヒットしている彼女。しかし、ここまでの道のりは決して平たんではなく、就職活動をしても全滅、ようやく就職した会社も体調を崩して退社、と挫折を繰り返してきた。
周りに流されるまま、なかなか行動に移せなかったというサトマイさんが、回り道をしながらも、自分のやりたいことにたどり着くまで。
組織で働くことが向いていないから、起業するしかなかった
父が経営者だったので、「将来は自分でビジネスをしたい」という思いが中学生ぐらいから漠然とありました。でも、具体的にやりたいことやアイデアがあるわけではなく、大学卒業後はまわりに流されるまま、何となく就職活動をしていたんです。ところが、まったく内定がもらえなくて……。
大学では統計やデータ分析の研究に熱中していて、データ分析のコンテストで賞をもらったこともあって、当時の私は調子に乗っていたんだと思います(笑)コンサルやIT業界でデータ分析やマーケティングの仕事がしたいと思っていたのですが、全滅でした。
落ち続けて、自己肯定感がだだ下がりの時に内定をくれたのが地元のパチンコ屋さんです。こんなダメな私を拾ってくれる会社があるだけでもありがたくて。パチンコをやったこともなければ興味もなかったのですが、「役に立てることがあるのなら」と期待を込めて入社しました。
それなりに仕事はできて、出世もしたのですが、その会社で働き続ける未来が想像できなかったので、「取りあえず別の業界も経験しよう」と物流業界に転職しました。それでもやっぱり何かが違っていて。パチンコ屋さんで2年、物流の会社で2年働いたのですが、ついに体調を崩してしまったんです。
そこでようやく、「仕事を辞めるしかない」と決意できました。
それまではスキルも知恵もアイデアもなく、人脈をつくろうともせずに、食いぶちを稼ぐためにダラダラと働いていたので、疲れて仕事が終わった後に勉強する時間も気力もなかったんです。この悪循環を断ち切るには、もう今の仕事を辞めるしかないなと。
では、仕事を辞めて何をすればいいのか。そう考えたときに、二度も会社勤めに失敗して、また就職活動をする力も湧いてこなかったですし、同じことの繰り返しにはしたくない。神様が「今だよ」と言ってくれてるような気がして、思い切って独立する選択をしました。
それが就職して4年後の、26歳のときです。私の場合、明確にやりたいことがあったわけではなく、組織で働くことが向いていない社会不適合者だったので、起業という選択肢しかなかったんです。
会社を辞めてからの1年間はほぼニートだったのですが、起業に向けての準備はしていました。
「在宅起業」や「在宅副業」といったキーワードで検索すると、今ほどではないですが、いろいろな情報が出てくるんですよね。その私の検索の傾向から、コピーライターの広告が出てくるようになって、「紙とペンがあればどこでも仕事ができる」というコピーに感激して、コピーライターで生きていこうと決意しました。
教材を取り寄せて勉強し始めたら、もともと文章を書くのが得意だったこともあって、とても楽しくて。ただ、お客さんを獲得できるかと言われたらそうではない。一向に仕事にはなりませんでした。
コピーライターを目指して独立したものの、初仕事は「データ分析」
最初のお客さんを獲得するために、独立開業した人々がどんなことをやっていたのか。本や起業した方のインタビュー記事を読んだり、インターネットで情報収集してリサーチしました。
特性も職種も違う約50人のデータを集めてひたすら分析したら、「とにかく人に会っている」という共通点を見つけたんです。そこで、私が住んでいる福島県内で相談できる窓口を調べてピックアップして、片っ端からコンタクトを取って会いに行くことにしました。
最初に仕事をいただいたのは福島の商工会議所で、今でもお世話になっています。「コピーライターで起業したものの、お客さんが獲得できない」と相談したら、商工会議所の方が私の経歴を見て、「あなたの専門は、データ分析でしょ」と言ってくださって、統計学を仕事にすることができました。
初仕事は、商工会議所が定期的に出しているアンテナショップでのアンケートの設計と分析、レポーティングです。さらに、商工会議所の会員の方々に私を紹介してくださって、どんどんデータ分析のお仕事をいただく機会が増えていきました。
統計学の魅力は、言葉を選ばずにいうと、「ラクにもうける方法が分かるところ」です。
私が関わった案件ではないのですが、スポーツジムで取ったデータの結果が面白かったんですよ。
スポーツジムはサブスクのビジネスなので、顧客満足度と継続率が大事ですよね。顧客満足度と継続率を高めるためには、スタッフが丁寧な接客をするか、あまり接客をしない塩対応か、どちらがいいかデータを取ってみたんです。
もちろんオーナーは、丁寧な接客をすれば上がると仮説していたのですが、実際は塩対応の方が顧客満足度と継続率が上がるという結果が出ました。
オーナーは人件費や接客にコストをかければ売り上げが伸びると思い込んでいたけれど、実際はそうではなかった。接客をしなくても問題ないのなら、もっとラクに売り上げを伸ばす別の方法が考えられるわけです。
オーナーの直感だけで意思決定してしまうと、スタッフ側が「それは違う」と思っていても、言えないじゃないですか。それがデータによって分かったら、納得せざるを得なくなる。それは会社にとってもスタッフにとってもいいことだと思うんです。
大変でもやりがいを感じる作家業は「ずっと続けられる仕事」
2020年に法人化するまでの数年間は、フリーランスで企業のデータ分析や市場調査、マーケティングリサーチの仕事をしていたのですが、より難易度の高い仕事にチャレンジしてステップアップしたいという思いが強くなってきました。
その時に、私のたくさんいる師匠のうちの一人から「本を出してみたらいいんじゃないか」というアドバイスをいただいたので、「やります」と即答して(笑)
どうしたら本が出せるのかが分からなかったので、周りのツテをたどって、なんとか出版コーディネーターにつないでもらい、2021年に一冊目の本、『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち!?』(総合法令出版)を出版しました。
YouTubeはその本を売るために始めたんです。YouTubeを始めたことで、アプローチできる客層が、予想以上にどんどん広がっていきました。
仕事をしながら執筆するのは本当に大変だったのですが、もともと文章を書くのが好きでコピーライターに興味を持ったという経緯もあり、とてもやりがいを感じました。
ものすごく疲れたのに、終わったらすぐに、もう一度書きたくなってきて。「この仕事ならずっと続けられる」と思えました。
7月には、二冊目の本、『あっという間に人は死ぬから「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』を出版しました。
本を出すにあたり、どんな本が売れているかをリサーチしたところ、時間に関する本がとても売れていて、多くの人が時間の使い方に悩んでいることが分かったんです。私自身も、もったいない時間の使い方をしてしまっていると思うことも多かったので、このテーマで行こうと。
この本では、短期的な時間の使い方ではなく、「死ぬまでの有意義な時間の使い方」を、統計学を使った科学的なエビデンスをもとに提案しています。
人生という時間軸で見たときに、目の前のことだけに追われていたら取りこぼしてしまうものがあるかもしれない。お金は失った分、働けば取り戻せるかもしれないけれど、時間は取り戻せないですから。
後悔しない時間の使い方に意識を向けることが必要だと思い、「自己啓発を終わらせる」というコンセプトをもとに書きました。
サトマイさんによる「選択のクセ」の解説。2024年10月26日には『あっというまに人は死ぬから』の出版記念講演会を開催
自分らしく働くために大事なのは「素直さと柔軟性」
私が「自分らしい働き方」を見つけられた理由は、周りの人のアドバイスを素直に聞いて、柔軟に行動に移せたからかなと思っています。
会社員時代は、先輩や上司からフィードバックをもらっても素直に受け止められず、仕事に対して柔軟に工夫を重ねようとも思いませんでした。
独立して、事業を軌道に乗せるためには、以前のようにダラダラ働いている場合ではないんですよね。お客さんや協力してくれる方のアドバイスに素直に耳を傾け、柔軟に動くことを意識していたら、「あなたと一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるようになり、さまざまな仕事が舞い込むようになりました。
統計学を使って、世界中の人をパイロットにしたい
「自分の人生の舵は、自分で取る」それが私のモットーです。
就活の時がまさにそうですが、逃げで選んだ選択肢は間違っていることが多いんです。
特に「本当はこっちに行きたいけど、怖いからこっちにしよう」と妥協しているなら、自分の行きたかった方向に進んでみると、道が開けるかもしれません。
ある実験で「転職や離婚をするかしないか、二者択一の葛藤がある場合、どっちを選んだ方が幸福になれるのか」を調べたのですが、「現状維持ではない方を選ぶ」方が、長期的に見ると幸せだというデータが出ているんです。
人は正当化する生き物なので、挑戦が失敗に終わっても「次につなげよう」とか、「自分が選んだことだから頑張ろう」とコミットメントしようとするんですよね。
現状維持よりも自分の行動を変えるという選択をした方が、最終的には幸せになれた人の方が多いということを、どこか頭の片隅に置いておいてもらえるといいかなと思います。
私が運営する会社のミッションは「世界中の人をパイロットにする」で、パイロットとは「自分の人生の舵を自分で取れる人」のことです。
パイロットは自分で飛行機を操縦し、目的地を決めてコントロールすることもできれば、天候などの自分ではどうにもできないことも見極める必要がある。人生も同じことが言えますよね。
自分で目的地を決めて、どうにもできないことを見極められるように。今後も、統計学の知識を使って、悩んでいる方の手助けをしていきたいです。
取材・文・編集/石本真樹(編集部) 写真/ご本人提供
■書籍情報
『あっという間に人は死ぬから「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』(KADOKAWA)
「仕事、家事、育児、タスクだけに追われ疲れている」
「生きる意味や目的があればと思うが、特にない」
「空いた時間も、スマホを見るだけで潰れてしまう」
「大きな不満はない。でも、人生に行き詰まりを感じる」
「1日がすぐ、1年もすぐ過ぎる。年齢だけが増える」
このような悩みを抱えた人に、古今東西の知恵とエビデンスに基づいた「人生における有意義な時間の使い方」を提案する一冊。自己啓発の「常識」を、統計で叩き潰しまくった末に見えた「希望」とは?
『「私の未来」の見つけ方』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/mirai/をクリック