2025年は「越境転職」が増加する? 転職の女神が解説、業界未経験でも即採用される人の特徴【森本 千賀子さん】
2025年の転職市場はどうなる? 女性採用が活発化する業界は? 最新の転職市場動向や、後悔しない転職を実現するために知っておきたい会社選びの新しい視点について、採用・ビジネスのプロが解説します!

「いま、転職市場はかつてないほど大きな変化の時を迎えています」
そう話すのは、30年以上にわたって日本の転職市場を第一線で見てきた、キャリアアドバイザーの森本千賀子さん。
“転職の女神”の異名を持ち、過去3万人以上のビジネスパーソンの転職・キャリアを導いてきた。

【Profile】
morich代表取締役 兼 オールラウンダーエージェント
森本 千賀子 さん
1993年、現(株)リクルート入社。在籍時に株式会社 morich 設立、複業を経て2017年独立。 転職エージェントとしてCxOクラスの採用支援を中心に、社外取締役・アドバイザー等の立場でのスタートアップ支援をライフワークにパラレルキャリアを体現。 「本気の転職」等の著書執筆、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」「ガイアの夜明け」日経新聞「人間発見」等各種メディアや講演多数出演。二男の母。最新著に『「選ばれる人」の新常識 リミットレス時代の転職術』(日本経済新聞出版)がある
この数年で「転職の常識」は一気に様変わりしましたよね。
例えば、コロナ禍を機に、時間や場所に縛られずに働ける職場が増えました。
それによって、地方居住者でも首都圏の会社で働くことができるようになったり、子育てや介護など何らかの制約があって働けなかった人が仕事復帰できるようになったり。
他にも、アルムナイ採用といって「出戻り社員」を迎える企業や、シニア世代など幅広い年齢層を採用対象とする企業が目立つようになりました。
また、転職せずとも副業を通してほかの職場の仕事を経験できるようになるなど、企業にとっても求職者にとっても、転職の新しい価値観が広がりつつあります
では、2025年以降は女性採用・転職にどんなトレンドが生まれるのか。ここ数年で転職市場に起きた変化とあわせて、今後の予測を聞いてみた。
30代でも約8割が「越境転職」を経験する時代に
ここ数年の転職市場を見ていて、最も大きく変わったと感じることは何ですか?
転職に対するネガティブなイメージがだいぶなくなりましたよね。 20代の皆さんに関しては、転職することもキャリアは主体的に個人が選ぶものという考え方も、当たり前になったと思います。 ですが、それでもなお転職に関して「数年前の常識」を引きずっている女性を多く見かけます。
例えば?
一つは年齢。「30代になったら転職は難しい」と考えている女性は、いまだに少なくありません。
確かに、中途採用のボリュームゾーンは20代なのですが、少子高齢化による労働人口減少が確定している中で、30代はまだまだ若手だと考える企業が増えています。
実際、シニア世代の活用も含めて幅広い年齢層の採用に乗り出す企業は増加傾向に。転職における年齢の制約は、かなり緩和されてきています。
もう一つは、業界・職種を変える転職についてです。
30代で新しい業界・職種に挑戦するのは難しいと考える人もいますが、その常識ももはや古くなっています。
ここ数年で、「越境転職」が転職市場全体で増加しているのです。
越境転職ですか?
はい。越境転職とは、異業種や異職種へ移る転職のこと。
かつては、転職と言えば同業種・同職種で転職先を探す人が多かったのですが、今はその常識が一変しています。

出典:リクルート
例えば、こちらの調査結果によれば、25歳~29歳では、「異業種×異職種」の転職をした人が約4割。「異業種×同職種」の転職をした人が約3割。
「同業種×異職種」の転職をした人が約1割と、約8割の人が業界か職種を変える転職をしているという結果が出ています。
そして、30代においてもその割合に大きな変化はなく、約8割が越境転職をしているのです。
むしろ、全世代において同業種×同職種の転職はマイノリティーとも言えますね。なぜここまで越境転職をする人が多いのでしょうか?
採用を行う企業側のニーズと転職者側のニーズ、その両方の変化があると思います。
そもそも企業側は、中途採用によって「既存の枠組みを超えた発想ができる人」を採用したいと考えています。
その背景には……
・新規事業として異分野に参入したい
・時代の変化に対応するために自社にはない知見を取り入れたい
・組織変革を率いたり促したりしてほしい
・凝り固まった組織に新しい風を吹き込んでほしい
……などのニーズがあります。
一方、転職者側は個々人のキャリアの選択肢を増やすために、
・新しい経験・スキル・知見を養いたい
・今よりも発展性、成長性が感じられる分野でキャリアを磨きたい
と考える人が目立つようになりました。
こうして、双方のニーズが合致して、越境転職を受け入れる企業・行う転職者が増えてきたのです。
その傾向は、2025年以降も続きますか?
なぜですか?
最近では、ESG経営(※)に取り組む企業が増えています。
例えば、ここ1~2年で「女性役員が一人以上いない企業は、投資対象にならない」という考え方が国内でも広がってきました。
さらに、大手企業では人的資本経営の開示義務もあって女性管理職比率などの情報を公にしなければならず、ダイバーシティーへの配慮が必要不可欠となっています。
ですが、管理職経験のある女性や役員クラスの女性は世の中的に「少ない」から問題になっているわけで……同業界の中で探そうと思ってもなかなか見つかりません。
そこで、業界をまたぐかたちで「仕事・キャリアに対する意欲の高い女性」を奪い合う採用競争が起きています。
管理職経験のある女性や管理職を目指したい女性にとっては、転職に追い風が吹いている状況。
ただでさえ売り手市場が続いている中、女性管理職を増やしたい企業がさらに増えていくわけですから、ますます「引く手あまた」になると言えるでしょう。
越境転職で大切なのはポータブルスキル
企業側も転職者側も、越境転職へのニーズが高いということでしたが、業界・職種を変える転職を成功させるために大切なことは何だと思いますか?
業界・業種特集の専門的なスキルを磨く必要があると考える人は多いのですが、それよりも重視すべきは「ポータブルスキル」を身につけておくことですね。
ポータブルスキルとは?
一つの職場や業界に限らずさまざまな場所で活用できる汎用性の高いビジネススキルのことです。
先ほど「女性管理職」や「女性管理職を目指す人」のニーズが非常に高いという話をしましたが、マネジメント能力も立派なポータブルスキル。
こうした能力を強みとして自覚して、人にPRできれば、即採用につながると思います。
マネジメントスキルの他、どんなスキルをポータブルスキルとして分類することができるのでしょうか?
では、「対課題力」「対自分力」「対人力」の三つに分けて具体的に見てみましょう。
マネジメントスキルは、この三つの総合力を示すものとも言えますね。

なるほど。
ただ、業界・職種の専門スキルと違って、ポータブルスキルは言語化しづらく、「そもそも自分にあるのか分からない」と感じる人も多そうですね。
そうなんです。自分自身のことはなかなか客観視しづらいですからね。
そういう場合はぜひ、周囲の人からの評価を参考にしてみてほしいと思います。
職場の人からフィードバックをもらってもいいし、社内外でキャリアメンターになってくれる人を見つけて自分の強みを教えてもらうといいと思います。
自分が強みだと思うポイントと、他者から見たときに強みだと認識されるポイントが違う可能性もあるので、転職活動を始める前にぜひ周りの人の意見に耳を傾けてみてください。
越境転職では、専門的な知識やテクニカルスキルの有無はあまり関係ないのでしょうか?
もちろん、業界・職種によっては特定の資格が必要なポジションや、特定の業務経験が豊富な人を採用する企業もあると思います。
ただ、テクニカルなスキルはすぐに陳腐化してしまうことが多く、あまり重視されない傾向があるのです。
例えば、最近では生成AIを使ってさまざまなタスクができるようになっていますよね。
技術革新が進んでいく中で、1年後、5年後、いま皆さんがやっている仕事の中身もそこで必要とされる知識も、ずいぶん変わっていくでしょう。
一説には、「1年たつと、いま持ってる知識や経験の約3割が陳腐化する」と言われています。5年もたてば、8割以上の知識が「時代遅れ」のものになってしまうわけです。
となると、「いま何を知っているか」はさほど重要じゃないんですよね。
それよりも、新しいことを学び続ける能力があるか、時代に適応していける柔軟性があるか……そういうポータブルスキルの方が大事なんですよ。
女性の場合、新しい分野に転職するならそこで役立つ資格を取った方がいいのか? と相談してこられる方も多いんです。
でも、「資格があること」より「学び続けるポテンシャルがあること」や「インプットしたことをアプトプットする能力があること」を示す方が、実は重要なこと。
新しいことに挑戦したときに、自分がどのように学んで取り組んだのか、過去の経験を用いて説明できるようにしてみましょう。
主体的に仕事をすれば、ポータブルスキルは自然と磨かれる

ポータブルスキルは、普段の仕事の中でどのように養っていくことができますか?
最も大切なことは、目の前の仕事を主体的にとらえなおし、自分なりに改善するための工夫をしてみること。
誰かに命じられて「やらされている」と思ってやるか、自分なりに意義付けして主体的に取り組むかで、仕事で得られる成長はまるで変わってきます。
例えば、何となくルーティンでやっている仕事を、「誰のために・どうやって・何のために」やっているかを考えてとらえ直し、もっと意義のあるものにするにはどうすればいいのか「問題点」と「解決策」を考えてみます。
そこで出てきたアイデアを実現しようと思ったら、その業務に関係する人たちに自分の考えを伝えて説明をしたり、説得をしたり、動いてもらったりして、改善を進めていくことになりますよね。
どんな小さなことでもそうやって課題解決を実行していけば、先に説明した「対課題力」「対人力」を磨くための場数が増え、経験値が増えていくのです。
また、「対自分力」ではセルフコントロールをする力を伸ばすことが大事ですが、心理学や哲学、脳科学などを学んだりして、自分の気持ちをコントロールする術を「理屈で学ぶこと」が効果的です。
イライラする気持ち、モヤモヤする気持ち……自分のいろいろな感情がなぜ湧き上がってくるのか、そのからくりを理解できると、自分の状態を冷静にみられるようになっていきます。
セルフコントロールにはさまざまなテクニックがあるので、それを学んで実践してトレーニングすれば、誰でも上達していくものなのです。
そうすることで、人の感情を受容したり、マネジメントをしたりするスキルも磨かれそうですね。
そう思います。
あとは、同じ社内にいたとしても、新しいプロジェクトに参加したり、部署異動をしたり、ポジションアップして管理職の仕事に挑戦したりすれば、これまでと違う環境の中で試行錯誤する必要が出てくると思います。
ポータブルスキル、つまり「どんな場所でも生かせる力」を身につけることは、自分のキャリアの可能性を広げることにつながるわけですね。
まさに。
今や、フリーランスになる、時間や場所に縛られずに働く、子育てと仕事を両立する、副業する……
さまざまな選択肢が広がっています。
そこで重要なのが、いつの時代においても古びることのないポータブルスキルを磨くこと。
「どこにいっても働ける」という自信がつくと、将来への不安もずいぶん軽減されるますし、「自分らしく」をかなえやすくなるはずですよ。
書籍紹介

『リミットレス時代の転職術「選ばれる人」の新常識』(森本千賀子著/日本経済新聞出版)
令和の転職は、制約なし(リミットレス)!「スキル・資格は、なくてもいい」「勤務時間、場所は、希望どおり」「年齢、経験は、問われない」「『出戻り』転職もOK!」――。あなたの転職の常識、大丈夫ですか? “転職の女神”と呼ばれた業界のレジェンドが教える「本当にやりたい仕事」に近づく方法。
取材・文/栗原千明(編集部)
『2025年「女性の転職」大予測』の過去記事一覧はこちら
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