【新発見】給与体系を見ると自分に合う会社が見つかる? 人事・労務のプロが解説する失敗転職を防ぐ方法
2025年の転職市場はどうなる? 女性採用が活発化する業界は? 最新の転職市場動向や、後悔しない転職を実現するために知っておきたい会社選びの新しい視点について、採用・ビジネスのプロが解説します!
転職先を選ぶとき、給与情報を確認しない人はほとんどいないはず。
だが、それと同時に「月収・年収はいくらくらいになるのか」だけを確認して終わりにしていないだろうか。
「求人票に書かれている給与体系を見てみると、その会社が大事にしている価値観や社風、社員に求める働き方まで見えてきます」
そう話すのは、クラウド人事労務ソフト『SmartHR』を開発する株式会社SmartHRで人事労務研究所・所長を務める副島智子さん。
最新の給与体系トレンドとあわせて、給与の仕組みにあらわれる会社の価値観から「自分に合う会社」を見極めるための方法について教えてくれた。
「固定残業代」込みの月給を支払う会社が増加傾向
ーーそもそも、給与体系とはどんなものを指すのでしょうか?
簡単に言うと、給料の金額や支給基準をまとめたもの。基本給や手当をどんな基準で支給するのかを決めた給与の仕組みのことです。
例えば、給与体系には大きく分けて二種類あります。
【2】固定残業代を含む月給を社員に支給
業種にもよりますが、最近は【2】の給与体系を選ぶ会社が増加傾向にあります。
ーーなぜ、固定残業代込みの月給を支払う企業が増えているのでしょうか?
本来、残業は従業員の勝手な判断でしてはいけないもので、上長の許可が必要です。
ただ、バックオフィス系やクリエーティブ系の職種では、従業員の裁量で残業できる方が業務が円滑にまわることもあります。
また、【1】の仕組みで勤務時間に応じて給与を支払うと、効率良く働いて短時間で成果をあげた人を報酬で評価しづらくなる側面も。
逆に、仕事をダラダラやって会社に長くいればいるほど、収入が高くなってしまう場合もあります。
ですから、従業員に対して「効率良く働いて短時間で成果をあげてほしい」「存分に仕事に取り組んで成長してほしい」と思う企業ほど、【2】の固定残業代込みの月給を支払う給与体系を選ぶ傾向があるのです。
ーー「固定残業代が40時間分月給に含まれている」と聞くと、むしろ「長時間残業を求められる会社」なのかと思ってしまう人もいそうですよね。
そうなんです。ただ、実際のところはケースバイケースです。
給与体系が【1】の場合でも、長時間労働が常態化していたり、残業しなければいけなかったりする職場もあります。
一方、【2】の場合は固定残業代が月給に含まれているからといって、必要のない残業をしなければいけないことはありません。
つまり、残業0時間でも必ず40時間分の残業代をもらえるとも言えます。
どのくらい残業をする必要があるかは職場次第なので、給与体系にかかわらず、内定承諾をする前に社員に確認しておく必要がありますね。
ーー2025年以降も【2】の給与体系の会社は増えていきそうですか?
そう思います。
店舗や顧客対応の窓口があるなど、営業時間が明確に決まっている業種・職種の場合は【1】の給与体系をとる会社が多いのですが、そうでない場合は【2】を選ぶ会社がますます増えるのではないかと思います。
ーーそれはなぜですか?
大まかに言うと、多様な働き方を尊重する企業が増えているからです。
例えば、コロナ禍以降、リモートと出社を組み合わせたハイブリッドワークや、フレックス制を取り入れる会社が増え、固定時間制で給与を支給することが難しくなっています(下図)。
また、今後は労働人口が減り続けていくことが確定していますから、働く制約があっても意欲や能力がある人なら各社が「奪い合う」ような時代です。
ワークライフバランスを重視したい人、家庭と仕事を両立したい人、さまざまな人のニーズに応える労働環境を整備していくことが、ほとんどの企業にとって急務になっています。
時間や場所に縛られずに働けて、成果さえ出せば給与も減らない……。子育てなどで仕事の制約が生まれやすい女性にとっても、追い風が吹いている状況とも言えます。
実はよく知らない? 求人票の給与欄の読み解き方
ーー給与体系には会社の価値観があらわれるということですが、どんなふうに求人票を読み解くとよいのでしょうか?
では、こちらの表を見てみてください。
皆さんはA社、B社、C社の給与体系を見て、どの会社で働きたいと思いますか?
ーー悩ましいですね。先ほど教えていただいた二つの給与体系に分けると、A社とB社は【1】でC社が【2】のパターンでしょうか。
その通りです。
以前、この表を就活生向けの人事・労務講座で見せたところ、圧倒的な一番人気はB社でした。理由を聞くと、「住宅手当など、手当が充実しているから」でした。
さらに、最も不人気だったのはC社。「残業が多そうで、ブラックな会社かもしれない」という意見が多かったのです。
ーー確かに、C社については「残業」という表記が目立つ気はしますね。
はい。ですが、これは先ほども申し上げた通り、固定残業代がついているからといって「残業が多い会社」とは言い切れません。
他にも、この表からは各社が社員に求める働き方が読み取れます。
例えば、A社とC社にはリモートワーク手当(※)があり、通勤手当は「出社日数分を支給」とあります。
その場合、リモートワークと出社のハイブリッドな働き方ができる会社だろうということが分かりますよね。
出社がほとんどになるような場合は定期代で通勤手当を支払う方が経理処理も楽なので、「出社日数分を支給」にしているということは、リモートワークの頻度も比較的高い会社なのかもしれません。
一方、B社が「住宅手当」を出している理由は何でしょうか。
リモートワーク手当がなく、通勤手当は定期代を支給するとありますから、住宅手当を出してでも会社の近くに住んでもらい、毎日出社する働き方を社員に求めている可能性が高いです。
会社が都心にある場合は必然的に家賃も上がりますから、3万円の住宅補助が出たところで家賃支出もそれなりにある状態になるかもしれませんね。
そう考えるといかがでしょうか?
ーーなるほど。リモートワークができれば比較的家賃が安い郊外に住む選択もしやすくなり、住宅補助がなくても家賃支出は抑えられるかもしれません。
そうなんです。
さらに、「月に20時間程度の残業が見込まれる」という前提で見てみると、実はトータルの支給額が一番が多いのはA社になります。
ーー確かに、残業代も込みで考えるとA社の総支給額が一番高くなる……! これは、ぱっと見ただけでは分からないところですね。
ちなみに、賞与が2カ月分支給されると仮定した場合、基本給が高いA社の方がB社よりも賞与の支給額も増えます。
賞与は業績に連動して多少増減することはありますが、基本給をベースに支給額を決めている会社が多いです。
ーーなるほど、すると年収で見てもA社で働いている人の収入が高くなりそうですね。
そうなんです。あとは、A社、B社、C社では従業員の成長環境にも違いがありそうだなという予測もできます。
例えば、リモートワークがメインなのか、出社がメインなのかによっても、どちらの方が仕事に必要なスキルを磨きやすいかは人によって違うでしょう。
自分から分からないところを積極的にチャットなどのツールで聞ける人であればリモートワークをしながらでもスムーズに働けるかもしれないし、それが苦手な人なら出社メインのほうがいい可能性もあります。
また、残業がないことは必ずしもいいことばかりとも限りません。A社やB社のように、残業代を別途支給する会社だと、「残業をできる限りしないように」と徹底しているケースもあります。
一見すると、ホワイト企業に見えるのですが、仕事を強制的に終わらせるように指示されて、頑張りたいときに頑張りきれなかったり、望む成長が得られなかったりする可能性も。
「思い切り頑張る」ことも含めて、なるべく自分の裁量でワークライフバランスを決めたい人にとっては、C社のような制度の会社がしっくりくることもあるのです。
こうやって、単純に支給金額が多いか少ないかだけではなく、自分がどんなキャリアを描きたいかという視点を入れて、それが実現できそうな会社を見極めることをおすすめします。
賞与の考え方にも会社の価値観があらわれる
ーー先ほど、賞与のお話しが出ましたが、賞与にも会社の価値観が出ますか?
そう思います。
賞与は、大きく分けて二つの種類があります。一つは、賞与を年収に含むかたちで年収設計がされているパターン。
例えば、月給は43万円で、賞与は年に2カ月分、それらを合わせて年収600万円程度を支給する……というように、もともと決まっています。
もう一つは、会社の業績と連動して賞与の増減があるパターン。会社の業績がすごく良ければ1回の賞与で4カ月分の月給が支給されたり、業績が悪ければ賞与自体がなくなったり。双方にメリット・デメリットがあります。
例えば、大手や老舗企業に多いのが、年収に賞与を含む前者のパターンです。
社員に長く安定して働いてほしいと思っているからこそ、年収に大きな増減がでづらく、住宅購入や教育資金などのマネープランも立てやすい賞与の仕組みをとっているとも言えます。
一方、スタートアップやベンチャーなどの若い会社に多いのが、業績連動型の後者のパターンです。
利益が大きく出たときに社員にしっかり分配することでモチベーション高く働いてもらい、会社と一緒に成長してもらうことを目的にしています。
ただ、大きく儲けられる可能性もある反面、翌年も同じくらい賞与がもらえるとは限らないので、住民税が高くなってしまったり、収入が安定しづらくライフプランが立てづらかったりする面も。
双方のタイプにメリット・デメリットがあるので、自分の価値観に合うのはどちらなのかをよく考えてみる必要があるでしょう。
「失敗転職」回避のコツは、自分と会社の価値観マッチング
ーー求人票の給与欄を見るだけで、その会社が社員に求めていることがこんなにも見えてくるものなんですね。
はい。転職をする上で大切なのは、給与体系にあらわれているような各社の価値観、つまり会社が社員に求めることと、自分が転職に求めていることが合致していることです。
ワークライフバランスを重視したい、もっと仕事で成長したい、裁量をもって働きたい……転職に求めるものはいろいろあると思いますが、自分が一番求めているものが得られそうな会社はどこなのか、給与体系からも読み取ることができると思います。
ーー転職動機がシンプルな場合は考えやすそうですが、ワークライフバランスも成長も……と求めるものがたくさんあると、会社側のニーズと自分のニーズをマッチングさせるのが難しくなりそうですね。
そういう場合は、「なぜいま転職したいのか」を書き出してみて、自分の中で特に大切にしたいことの優先順位をつけてみましょう。一度、自分の思いを言語化してみることで、考えが整理されていくと思います。
また、「やってみたいこと・やりたくないこと」「経験してみたいこと・自分に足りていない経験」などを考えてみるのもおすすめです。「今の職場ではマネジメント経験がないので、その経験が積める会社」と決めるだけでも、転職する意義も転職先選びの軸もクリアになると思います。
もし、自分一人で言語化するのが難しければ、キャリアカウンセリングを受けてみてもいいし、友人にインタビューしてもらうのもいいと思いますよ。
ーーインタビューですか?
はい、「転職しようと思ってるんだけど、気になること何でも聞いてみて」と友達に伝えると、「なんで転職したいと思ったの?」「どんなところにいきたいの?」という感じで、いろいろ質問してくれると思うんです。
それに答えていくだけでも、自分が求めているものがクリアになっていくのではないでしょうか。
そうやって自分の価値観をクリアにしたうえで、転職先の価値観と照らし合わせてみましょう。お互いが求めるものがうまくマッチングすれば、入社後も長く活躍していけるはずですよ。
取材・文/栗原千明(編集部)
『2025年「女性の転職」大予測』の過去記事一覧はこちら
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