「出社回帰が進む」は誤解? 専門家が予測する2025年の働き方トレンド【石倉秀明】

採用&ビジネスのプロが解説
2025年「女性の転職」大予測

2025年の転職市場はどうなる? 女性採用が活発化する業界は? 最新の転職市場動向や、後悔しない転職を実現するために知っておきたい会社選びの新しい視点について、採用・ビジネスのプロが解説します!

転職活動のポイント

出社とリモートワークを組み合わせて勤務するハイブリッドワークが定着してきた一方で、大手企業の相次ぐ出社回帰が話題となった2024年。

その他、週休3日制の導入や副業解禁、スポットワークの拡大など、女性を含め多様な人材を獲得するための働き方改革の試行錯誤は続いている。

しかし、目新しい制度だけを取り入れて、その制度に合わせた人材評価の仕組みを見直したり、企業文化を醸成させるところまではできていない企業も多い。

例えば、「リモートワークの人は重要な意思決定の場に参加できない」「週休3日を選ぶなら雇用形態を変更する」といった姿勢を持つ企業がまだ少なくないのが現状だ。

こういった企業の動きは2025年以降どうなっていくのか。

株式会社キャスターで新しい働き方の調査・分析を行う「Alternative Work Lab」所長の石倉秀明さんに、2025年の「働き方」トレンドと、柔軟な働き方とキャリアアップの両方を実現できる企業を転職活動の際に見極める方法について聞いた。

株式会社キャスター Alternative Work Lab 所長 石倉秀明さん

株式会社キャスター Alternative Work Lab 所長
公益財団法人 山田進太郎D&I財団COO
石倉秀明さん

2016年より、800名以上の従業員がリモートワークで働く株式会社キャスターの取締役として上場に貢献。「すべての人が、好きなことを目指せる社会に」という思いから24年2月より公益財団法人山田進太郎D&I財団のCOOに就任。慶應義塾大学院政策・メディア研究科修士課程にてリモートワークに関する研究をしながら、23年12月よりキャスター内に研究室「Alternative Work Lab」を設立し所長を務める。キャスターが運営するオウンドメディア「Alternative Work」にてコラムを連載中。Xnote

「働き方の柔軟性」を求めて転職する人が増加中

編集部

2024年は「出社回帰」に関する話題を多く耳にする年だったかと思います。

石倉さん

話題にはなっていますが、さまざまな調査を見る限り、日本を含む世界各国でリモートワークをしている人やリモート可能な人の割合は、ここ数年ほとんど変わっていません。

なので、実際は「出社回帰」ではなく、働き方が固定化しただけのように感じます。

編集部

アマゾンをはじめとした大企業が続々とオフィス出社を義務付けているニュースを見て、今後はこの流れが進んでいくのかと感じていました。

石倉さん

仰る通り、グローバル企業のニュースを見て「あの企業でもリモートから出社に戻すんだ」と印象付けられますよね。

でも実際に海外でリモートワークを廃止した大企業では、必ずと言っていいほどその後大量のレイオフが行われています。

つまり出社を義務化することで従業員に圧力をかけ、退職を促す目的で「出社回帰」が使われているケースがあるわけです。彼らの本質的な狙いは社員を「出社させること」ではなく、人員削減なのかなと。

編集部

なるほど……! そういう見方もできるんですね。

石倉さん

ただ最近では、フル出社ではなくても出社日数を増やしている企業が多くなってきている印象はありますね。

その影響で、特にもともとリモートワークで子育てや家のことをやっていた20~30代の男性が、働き方の柔軟性を求めて転職を選ぶケースが増えています。

実際にリモートワークやフレックスなどを求める方向けの転職サービスでは、男性のユーザーが増加しているそうですよ。

編集部

週1の出社で良かったのが、気付けば週3、4に増えている……あるあるですね。

石倉さん

柔軟な働き方を求めて転職する人が増えた背景には「Flexibility Bias(フレキシビリティ・バイアス)」という、職場の規範にそぐわない働き方を求める人が不利な扱いを受けるというバイアスがあります。

柔軟な働き方を求めると「仕事以外を優先している」と勘違いされて、重要な仕事を任せてもらえなかったり、評価が上がりにくくなったりするのがまさにそれです。

編集部

産後に時短勤務に働き方を変更した女性などは、長くそういったバイアスにさらされてきたとも言えますよね。

石倉さん

そう思います。「あの人、子育てや家事の優先順位が高いだろうし、無理なくできる仕事にアサインしよう」と勝手に思ってしまうようなバイアス(偏見や思い込み)ですね。

コロナ禍を機にリモートワークが浸透したことで、子育てや家事に参加する男性が増え、このバイアスが強い会社からは離れる人が増えてきているということです。

編集部

そういった人たちが増えれば、男女問わず働きやすい社会が実現するかもしれませんね。

石倉さん

理論上は100年単位でかかると言われていますが、それをどれだけ早く進めるかが課題ですね。

編集部

変化にはどれくらい時間がかかるとお考えですか?

石倉さん

10年くらいで大きく変わるんじゃないですか。柔軟に働くことが当たり前と思う世代が管理職になり、意思決定層として組織を動かす時代が来るからです。

人的リソース、特に日本でいうと若手や女性をうまく活用できない組織は生き残れませんから、この課題は無視できないと思います。

リモートワーク

2025年は、「男性的な働き方」が見直される?

編集部

2025年は、働き方のトレンドはどのように変化すると思われますか?

石倉さん

劇的な変化というよりは、じわじわと浸透するようなかたちで、長時間労働を前提とするような「男性的な働き方」が見直されていくと思います。

最近、在宅勤務の比率が久しぶりに増加して、女性の正社員の割合が非正規を上回るというデータが発表されました。これらの流れを考えると、女性がより重要なポジションに進出し、より公平な働き方が進むことは間違いないでしょう。

その過程では、従来の「男性的な働き方」が見直され、在宅勤務や柔軟な働き方の割合がさらに増加すると思います。

例えば、小池都知事が都庁で導入することを決めた「週休3日制」のような柔軟性のある働き方も、方向性としては広がっていくのではないでしょうか。

編集部

働き方の選択肢が広がる中で、週5日出社のようなスタイルはどうなっていくのでしょうか?

石倉さん

10~20年後には「週5で8時間、出社していた」というのは懐かしい話になるかもしれませんね。

スポットワークのような新しい形態の働き方も増え、週休3日制の中でスポットワークを組み合わせるようなスタイルも出てくるかもしれません。

例えば「タイミーで年に1000万円稼いでます」という人も出てくるかもしれませんね。

編集部

他には、どんな動きがあると思いますか?

石倉さん

「新しい働き方」の登場とまでは言えないかもしれませんが、いま私が特に注目しているのは、企業が女性の健康やライフイベントを支援する取り組みです。

例えば不妊治療の補助、低用量ピルや卵子凍結の費用支援など、女性が万全な状態で働ける環境を整える企業が増えていくのではないでしょうか。

これは歴史的な流れとも一致しています。避妊技術の進化に伴い、女性が自身の体の状態を調整しやすくなったことで、女性の権利は拡大してきました。こうした動きが、企業の支援策にも反映されていくと考えています。

編集部

女性が「働きやすい状態」を支援してくれる動きが広がるのはいい流れですね。

石倉さん

ええ。また同時に、男性の育休取得率や時短勤務の利用も徐々に増加すると思います。

今年、男性の育休取得率が初めて3割を超えましたが、「黄金の3割」と言われるように、ある属性が集団の3割を超えるとその意見やニーズが無視できなくなるという現象が起きます。これにより、家事や育児に積極的に関わる男性の働き方を支援する動きが一層進むでしょう。

こうした変化は、来年を契機に加速し、働き方の選択肢をさらに広げるはずですし、柔軟な働き方を推進する企業が、より一層これからの時代において競争力を持つことになるはずです。

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キャスター

「柔軟な働き方」を「ただの制度」にしてしまう会社が多いワケ

編集部

ただ、人材獲得のために目新しい働き方を取り入れはするけれど、それにあわせて人事評価の制度を見直さなかったり、社内コミュニケーションのやり方はこれまで通り続けていたり、多様な働き方をする社員を平等に扱う姿勢を持ったりできていない企業も多い印象です。これはどこに課題があるのでしょうか?

石倉さん

まず、その必要性を本質的に理解していない経営者がまだまだ多いのだと思います。

特に男性が経営者の場合、自分が不利な立場に立つことが少ないため、女性をはじめ職場のマイノリティーが抱えている問題に気付きにくいのではないでしょうか。

例えば、現在大企業では男女間の賃金格差を公表する動きがありますが、平均値を出すだけでは何が原因か分かりません。そこでどの部分で格差が生じているのか、データを分析して把握するのが最初のステップです。

編集部

体感的に分かっていなくても、データで分析して対応することはできると。

石倉さん

ええ。見えない格差やバイアスを、データで可視化することが重要です。

例えば私が携わっているプロジェクトで、日本を代表する企業の人事データを分析しているのですが、そこでは同じ年齢・グレードでも、残業1時間あたりの時給換算で男性の方が高く評価されるケースがあるということが分かりました。この男女差には無意識のバイアスがかかっており、まさに「説明できない要因」ですよね。

ちなみにこの企業では、男女格差の30~40%が同様の「説明できない要因」によるものだと分かりました。

編集部

働き方に関する制度は整えているつもりでも、無意識のバイアスを抱える企業は多そうですね……。

石倉さん

私の経験上、実務で起きている問題の多くは既に研究や議論がされている内容です。

しかし働き方の分野では、経営者や人事が自分の勘や経験で意思決定をすることが多いので、科学的・データ的なアプローチが欠けていることが少なくありません。

マーケティングやセールスの分野でKPIやABテストを使って意思決定するように、働き方に関しても、持論を捨て、データや理論を基に検証することが本来は必要です。

「新しい働き方」を求めるための転職活動のポイント

転職活動のポイント
編集部

転職活動をする際、柔軟な働き方を取り入れつつもバイアスを排除した企業を見つけるにはどうすればいいですか?

石倉さん

バイアスが完全にない企業は存在しませんが、新しい働き方に対して安易な施策に頼らず、働き方を真剣に考えている企業を選ぶことはできると思います。

例えば「アマゾンが出社を増やしたから、うちもそうしよう」といった破綻した論理で意思決定をする企業は避けた方がいいですよね。

編集部

それはどうやって調べたら……?

石倉さん

例えばSNSやnoteなどで発信している内容を見てみたら探ることはできますし、カジュアル面談や面接などを利用して企業に直接話を聞ける機会があれば、率直に聞いてみればいいのではないでしょうか。

その中で、社員の働き方をどう捉えているのか、何か施策を行っているのであればちゃんと振り返りや改善をしているのかを確認すれば、その会社のスタンスが見えてくるはずです。

あとはそもそも、「いい会社」を探したいのであれば、転職活動と転職は分けて考えた方がいいんですよ。

編集部

転職活動と転職を分ける?

石倉さん

一般的に転職活動はなるべく短期間で終わらせたいと考える人がほとんどだと思います。つまり、決められた期間の中で情報収集を行う必要があるのですが、そこで得られる情報には限りがあります。

そうではなくて、日頃からカジュアル面談をしてみたり、会社の情報にアンテナを立ててみたり、転職しなくてもいいから薄く長く転職活動を続けて、機会を探るんです。

転職活動をすること自体には何もリスクはありませんから、気負わず企業の話を聞くことから始めてもいいと思いますよ。

編集部

日頃からアンテナを立てて情報収集をして、安易な施策に走っていないかを見ておこうということですね。

石倉さん

あとは、副業などから試してみると会社のことがよく分かるかもしれませんね。

編集部

「転職活動を始める」と決めてから動くのではなく、良い機会がめぐってくることに常にアンテナを張っておくことが、結果的に良い転職につながりそうですね。ありがとうございました!

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取材・文/大室倫子(編集部)