『ベルばら』オスカルはなぜ適任でない仕事を天職にできた? 「この仕事向いてないかも」と思った時に最初にすべきこと
「労働×女子」の分野でマンガ研究を行う大学教員・トミヤマユキコさんが、働きながら生きる上での悩みを“女子マンガ“で解決します!

©池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
やりたかった仕事なのに、いざやってみると向いてないような気がする……。
仕事は好きだけれど、向いてない仕事をこのまま続けていいの?
「女子マンガ」を通して働く女性のお悩みに答えていくトミヤマユキコさんの連載。今回のテーマは、「やりたい」と「向いてないかもしれない」の狭間でゆれる女性のお悩み。
これに対してトミヤマユキコさんが取り上げた「女子マンガ」は、池田理代子さんの不朽の名作、『ベルサイユのばら』だ。

©池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
連載開始から50年以上の時を経て、2025年1月31日(金)完全新作で劇場アニメが公開される本作だが、働く女性のお悩みにどんなヒントを与えてくれるのだろうか。
今回は『ベルばら』の劇場版バージョンでお届けしよう。
【お悩み】向いてないかもしれない仕事を続けても大丈夫?
今の仕事は、人前で話をしたり、多くの人の話を聞いたりするのですが、私はあまりこういうことが得意ではなく、自分には向いていないように感じています。
希望していた仕事ですが、向いていないかもしれない仕事をこのまま続けていいのか、迷っています。
人生には予想外のことがちょいちょい起こります。
どれだけ慎重派で、準備を怠らない人であっても、「思っていたのと違う」となるときはなってしまう。これはもう、不可抗力です。
相談者のNさんも「希望していた仕事」なのに「得意でなく」「向いていないかもしれない」と言っています。
自ら希望していたくらいですから、人事の仕事についてそれなりにリサーチしていたと思うんですよ。
でも、なんか、思った以上に苦手なことをしている時間が長いぞ、と感じているのでしょう。
苦手を克服するには、時間もかかりますし、精神的なエネルギーも必要。
ですので、まずは得意なことをがんばって、気持ちに余裕が出てきたら、苦手を克服する。職場環境的に可能なのであれば、そういう順番で取り組むことをオススメします。持続可能だし、ヘルシーなので。
しかし、Nさんは他に得意なことや、やりたいことがあるとは書いていないので、「得意を伸ばす作戦」にすぐ移れるかどうかが分かりません。
そうなってくると、「苦手と向き合ってみる」のも一つの手かなと思えてきます。そこで処方したいのが、池田理代子先生の『ベルサイユのばら』です。
同作のメインキャラクターの一人である「オスカル」ことオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェは、由緒ある貴族で将軍家ジャルジェ家の末娘。
幼い頃から跡取り“息子”として育てられ、本人もその運命を受け入れ、近衛連隊長としてフランス王妃マリー・アントワネットの護衛などにあたっています。

©池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
オスカルにとってこの仕事は、難しい仕事でも、苦手な仕事でもないようで、葛藤している様子はとくにありません。ジャルジェ家の人間として当然のことをしている、といった感じでしょうか。
しかし、オスカルはとある事情から、自ら降格したいと願い出て、衛兵隊に移ります。するとそこには、さまざまな事情を抱えた荒くれ者たちがたくさんいるんですね。
そうした男たちから見ると、オスカルはいけすかない貴族の女です。なんか知らないけど、いきなり降格してきて、自分たちの上官になるなんて……当然、ウェルカムな雰囲気にはなりません。
おれたちが女の命令なんざきけるかってことよ!!
おなじ高級警備でも飾りものの近衛隊とはわけがちがうんだ!!

©池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
ここからオスカルの苦悩がはじまるのですが、オスカルがすごいのは、明らかに「適任」とは言えないことが分かっても、絶対に逃げようとしないところです(マリー・アントワネットに泣きついたらすぐ元の職場に戻れそうなのに!)。
上官ですから、権力をふりかざすこともできなくないですが、それも禁じ手にして、全く言うことを聞かない部下たちと必死で向き合い、あくまで対等な関係を構築しようとするのです。
部下たちの抵抗がハンパないので、さすがのオスカルも「思ってたのと違う」と感じたかもしれません。
しかしそれでも貴族として貴族としか関わってこなかった自分を反省するかのように働く中で、部下たちへの印象が変わっていきます。すると部下たちの中でも、オスカルの印象が変わっていくのです。
オスカルを応援している私としては「最初から揉めずに仲良くしなよ〜!」と思わぬでもないのですが、本気でぶつかり合ったからこそ手に入れることができた信頼関係は、実に尊いものです。
あえて苦手に飛び込んでみると、次のステップに進める
いまNさんは「向いていないように感じて」とか「向いていないかもしれない」といった書き方をしていて、向き不向きについての断言を避けています。「いやーもう完全に向いていない、無理ですわ!」とは書いていないんですよ。
ですので、私としては、本当に向いていないのかどうか、テストしてみてもいいんじゃないかなと思うのです。
オスカルが衛兵隊に移ったように、Nさんも、あえて自分から話をしたり話を聞いたりする機会を作って、自分から苦手に飛び込んでみるとどうなるか、実験してみたらいいんじゃないでしょうか。

©池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
会社以外でその機会を作るのもオススメです。「会社の業務だと思うと緊張してダメだけど、プライベートでは案外イケるな」となるかもしれないじゃないですか。
そうであれば、話をしたり話を聞いたりするのが苦手なのではなくて、職場だとうまくやれないというだけのことなので、なぜそうなるかの原因を探るステップに進めます(一歩前進)。
最後に言っておきたいのは「苦手を完全に克服する必要はない」ということ。苦手だな〜と思いながらも、どうにかやってのける。それぐらいでも別にいいのです。
もしNさんが最初から話すことや聞くことが得意だったら、そりゃ仕事はやりやすいでしょう。
でも、いま苦手なりに話したり聞いたりしている様子が好ましく見えている可能性もなくはないですよね。「この人、怖くないな、話しやすいな」って思われているかも。それなら、いまの自分を変える必要はないことになります。
それもこれも、自分の苦手ととことん向き合うことでしか分からないことです。
というわけで、ぜひオスカルを参考に、自分の苦手と向き合ってみてください。応援しています!

東北芸術工科大学准教授/マンガ研究者/ライター
トミヤマユキコさん
1979年、秋田県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、同大大学院文学研究科に進みマンガ研究で博士(文学)を取得。2019年4月から東北芸術工科大学教員に。ライターとして日本の文学、マンガ、フードカルチャーなどについて書く一方、大学では現代文学・マンガについての講義や創作指導も担当。2021年より手塚治虫文化章賞選考委員。著書に『ネオ日本食』(リトルモア)、『労働系女子マンガ論!』(タバブックス)、『10代の悩みに効くマンガ、あります!』(岩波ジュニア新書)、『文庫版 大学1年生の歩き方』(集英社文庫)、『少女マンガのブサイク女子考』(左右社)、『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)、『パンケーキ・ノート』(リトルモア)などがある ■X/Instagram
作品情報
劇場アニメ『ベルサイユのばら』1月31日(金)全国ロードショー
原作:池田理代子
監督:吉村 愛
脚本:金春智子
キャラクターデザイン:岡 真里子
音楽プロデューサー:澤野弘之
音楽:澤野弘之、KOHTA YAMAMOTO
アニメーション制作:MAPPA
製作:劇場アニメベルサイユのばら製作委員会
配給:TOHO NEXT、エイベックス・ピクチャーズ
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ:沢城みゆき
マリー・アントワネット:平野 綾
アンドレ・グランディエ:豊永利行
ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン:加藤和樹
ナレーション:黒木 瞳
主題歌:絢香『Versailles – ベルサイユ – 』
■公式サイト / 公式X/ 公式Instagram/ 公式YouTube
(c)池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
『働く女の悩みは、女子マンガに聞け!』の過去記事一覧はこちら
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