小関裕太流、越えられない壁との向き合い方「苦手な仕事ほど、楽しいことに変換する」
「歌うキャラクターの声優というのは、ずっと夢だったんです」
そう語るのは、現在大ヒット上映中の映画『モアナと伝説の海2』で、モアナの航海を支える伝説オタクの青年、モニ役を演じた小関裕太さん。
本作で、ディズニー作品の声優に初挑戦。29歳という節目の年に、長年の夢をかなえた。
しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。かつて声域の狭さに悩みを抱えていたという小関さん。
モニは、声の幅がすごく広いんです。今回この夢のような仕事を手にできたのは、なかなか超えられなかった声域の壁を超えられたからこそなのかなと。
今じゃなかったらきっと、こんなチャンスは舞い込んでこなかったと思います。
彼はどう壁を乗り越え、夢を実現させたのか。小関裕太流「”苦手”との向き合い方」に迫った。
「ありのままの自分」を信じて挑んだ夢のディズニー作品
今回、実はオーディションだったんです。
アメリカ本国での厳しい審査をへての大抜擢だった。これまでの積み重ねが実を結び、ついに手にしたあこがれの役柄。その喜びを、目を輝かせて語る。
29年間、いろんなチャレンジをさせてもらって、苦手も克服してきたことに対する、まるでご褒美みたいな作品でした。
本作で小関さんが日本版声優を務めたのは、モアナとマウイのことが大好きな伝説オタクの青年・モニ。
体格がよく、好奇心旺盛。その好奇心を原動力に、モアナたちの冒険物語を前に進めていく。作品の中でもとりわけポジティブでユーモラスなキャラクターだ。
そんな魅力的な役柄だが、演じる上で課題もあったと明かす。
モニは、興奮すると声がすごく高くなったり、歌の終わりで低い声を出したり。その音域の幅広さが難しいポイントでしたね。
特に歌に関して、高い声の方が出しやすく、真ん中や低い音が得意ではなかったという。
しかし、ここ数年で積極的にチャレンジした数多くのミュージカルでを通し、試行錯誤しながらこの課題と向き合い、克服してきた。
モニの声域の広さという難しさに加え、夢のディズニー作品、という重圧も加わった。
プレッシャーは大きかったのですが、本国のオーディションで「モニの役に合ってる」と自分の声を認めていただけたので、あまり難しく考えずに「ありのままの自分」で飛び込んだ方がいいのかなと思いました。
僕は、その場で出せるベストを出し尽くす。そんな姿勢で臨んだ作品です。
「苦手」は楽しいことに変換しちゃえばいい
もともと声域の狭さに悩んでいたという小関さんだが、どのようにその壁を乗り越えたのか。
小関さんの苦手と向き合うマインドセットのルーツを辿ると、中学生時代の経験にさかのぼる。
中学生の時、ダントツで嫌いな教科が「社会科」でした。ですが、中学2年生で出会った社会科の先生の授業がものすごくおもしろくて。
歴史上の出来事を、その時代の人が語っているように教えてくれる授業のスタイルだったんです。偉人たちがその場にいるかのような臨場感に、つい前のめりで聞いていました。
それまでは「テストで点数を取るために覚えなければ」と思っていた歴史が、突如として「魅力的な物語」として目の前に広がった。
歴史の出来事を自分の人生と重ね合わせることで、苦手だった年号や名前も自然と頭に入っていったという。
一番大嫌いだった教科が、一番好きな教科に変わったんです。ワースト1がベスト1になるんだという経験に驚いたと同時に、あることに気づきました。
人によって得意・不得意があって、それを人は「分野」で捉えがちなんですよね。
例えば「英語が得意」「社会科が苦手」といった感じで。その「分野」を、もうちょっと広げてみるといいのかもと。
僕は年号などをたくさん暗記しなければいけない社会科の授業は嫌いだったけれど、偉人たちのストーリーは好きだった。つまり、社会科の中にも「好き」の要素はあるんです。
こうやって「社会科は嫌い」と切り捨てずに、「アプローチを変えて、苦手なことを好きになる」スキルを習得できたら、何でもできる気がしたんです。
その考え方は、声優としての課題克服にも活かされた。低い声が出しにくいという壁に直面した時、小関さんは父親との関係から新たなアプローチを見出した。
僕の父は声が低く、同じ遺伝子なのに、なぜ自分はその声が出ないんだろうってずっと思っていて。
そして、小関さんは自分なりの練習方法を編み出していく。
父とよくカラオケに行くんですが、「どこの部分が響いてこの音が出ているのか調べたい」って言って、体を触らせてもらいながら観察させてもらったり、自分の骨格の中での舌の使い方を研究してみたり、僕なりに楽しいと思える方法で苦手と向き合っています。
時間はかかりましたが、少しずつ見えてくるんですよね。このやり方だったからこそ、苦しかった声域の壁を乗り越えられたように思います。
「好きになるルートを探す」ことが趣味になった
誰かが「好き」だと感じているものは、自分も好きになれる可能性があると思っていて。「じゃあなぜ僕はそこに出会えていないんだろう」と考えて、好きになるルートを探す。それは、いわば僕の“趣味”でもあるんです(笑)
小関さんにとって「壁を越えること」は、その対象を「好きになる方法」を見つけることと同義だ。その姿勢は仕事でも、プライベートでも変わらない。
そういう捉え方をすれば、何でも趣味になる可能性がありますよね。発想の転換をしていけば、いつしか苦手がなくなっていくんじゃないかなと思うんです。
自分が楽しいと思えるやり方に転換していく。それが僕なりの“壁の乗り越え方”です。ちょっとポジティブすぎますかね(笑)?
今回の作品でモアナは、誰も成し遂げたことのない危険な航海に挑む。
失敗を重ねながらも、その都度やり方を変えて再チャレンジすることで、ついに航海を成し遂げる。小関さんもまた、自分なりの方法で壁を越え、夢への航海を続けている。
その姿勢は、仕事や人生で壁にぶつかった時、「やり方を変えてみる」という新しい選択肢を私たちに示してくれる。
コンプレックスや苦手意識は、見方を変えれば新たな可能性への入り口になるのかもしれない。
取材・文/安心院 彩 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) 編集/光谷麻里(編集部)
作品情報
『モアナと伝説の海2』大ヒット公開中
「アナと雪の女王」のディズニーが贈る、美しい南国の海を舞台にした感動のミュージカル・アドベンチャー。
海と特別な絆で結ばれたモアナは、ある伝説を知る──かつて人々は海でつながっていたが、人間を憎む神に引き裂かれてしまった…。
その呪いを解くためにモアナは、風と海の守り神・マウイや新たな仲間と共に、世界を再びひとつにする航海に繰り出す。
「海の果ても、越えてゆこう」——たとえ、どんな運命が待ち受けていても。
監督:デイブ・デリック・ジュニア、ジェイソン・ハンド、デイナ・ルドゥ・ミラー
音楽:アビゲイル・バーロウ, エミリー・ベアー, オペタイア・フォアイ, マーク・マンシーナ
日本版声優:屋比久 知奈 (モアナ) 尾上 松也 (マウイ) 小関裕太 (モニ) 鈴木梨央 (ロト) 山路 和弘 (ケレ) ソニン (マタンギ) 増留優梨愛 (シメア) 夏木マリ (タラおばあちゃん)
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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