【松本若菜】34歳まで飲食バイトと両立で夢を追った18年「遅咲きブレイク」を果たした彼女のモチベーションの保ち方

松本若菜さん

ドラマ『西園寺さんは家事をしない』『わたしの宝物』で2クール連続主演を果たし、2024年のブレイク俳優の一人となった松本若菜さん。

実は遅咲きの苦労人。いくつものアルバイトを掛け持ちし、34歳まではカフェの料理長を務めながら俳優業を続けてきたという。

2007年のデビューから17年。努力がすぐに成果に結び付かない中でもやりたいことを貫き、 芸能界という浮き沈みの激しい世界を生き抜いてきた松本さん流のモチベーションの保ち方を聞いた。

自分だけでも自分を認めてあげなきゃ、折れてしまう

積み重ねてきたものが結実し、いまや唯一無二の存在感を放つ松本さんが今回挑んだのは、室町時代の暗闘を描いた傑作を映像化した映画『室町無頼』。大泉洋さん演じる蓮田兵衛が想いを寄せる高級遊女・芳王子を演じている。

物語の中で、兵衛たちは「勝率ゼロ」と言っても過言ではない状況で、幕府という巨大な権力に立ち向かい、歴史に残る大反乱を繰り広げていく。

松本さんもまた、自身の望む未来が保証されていない中で、長い下積みを経て夢をかなえた一人。

未来の保証がない中で、もがき苦しんだ時期もあったという。

松本さん

もちろん、努力が成果に結びつかないと「もう頑張れないかも」と思うことは何度もありました。

でもその度に自分の気持ちに正直に向き合うと、「このまま辞めたくない」と思うんですよね。「だって、俳優の仕事がやりたいんだもん」って。

そんな自分の気持ちにうそをつかなかったから、ここまで続けてこられたのかなと思います。

松本若菜さん

下積み期間が長くなると、「もう辞めちゃえば」というような、外野からの声が聞こえてくることもある。

ただ、そんな中でも松本さんの意思が揺らがなかったのは、「自分で自分を認める」気持ちを持ち続けてきたからだ。

松本さん

つらいことや乗り越えられないことがあったときは、反省しながらも「私、本当によく頑張った!」と、自分のことを必要以上に褒めるようにしてきました

だって、他の人に認められないんだったら、自分だけでも自分を認めてあげないと、本当に折れちゃうから。

周りに誰もいない、自分一人の時に、人目を気にせずに思い切り褒めちぎってあげることがポイントです。私はよくお風呂で、今日一日頑張った自分を褒め称えています(笑)

松本さん

モチベーションが下がってしまうときって悪い方に悪い方に……と考えてしまいがちだと思うんです。

そんな時こそ、私は自分と向き合って、弱い部分も含めて受け入れるようにしてきました。

例えば、私の性格上、「緊張して失敗したらどうしよう」と思う後ろ向きな自分がどこかに必ずいるんですよ。だから、「どうせくるんでしょう、私の中の後ろ向きなあいつ」と受け入れるようにしていて(笑)

松本さん

ネガティブな自分がひょこっと顔を見せたら、「大丈夫、緊張したっていいさ」という感じで、打ち消すのではなく、「そういう自分もいるさ」と認めてあげる

そして、頑張った自分を後でちゃんと褒めてあげる。そんなふうに自分と付き合ってきたから、これまで何とかやってこられたのかなと思いますね。

松本若菜さん

自分だけは頑張る自分をちゃんと認めて、褒めてあげる。一番近いところにいる「自分」という心強い味方がいたからこそ、松本さんは長年の夢を成就させることができた。

「でも、頑張り続けることだけが正解ではないと思うんです」と松本さんは続ける。

松本さん

人から「もう夢をあきらめたほうがいいんじゃない?」と言われて、「そうだよね。辞めようかな」と本気で思ったのなら、それは一つの決断。

それ自体は悪いことではないと思います。一度やると決めたことをやり切らないといけない理由なんてないし、頑張りすぎて気持ちがつぶれてしまいそうなら、逃げるのだってありです。

私自身は、続けるか辞めるか悩む度に「やっぱりやりたい」と思えたから続けてきただけ。 将来のことは、自分の正直な気持ちと向き合いながらその都度決めていけたらいいんじゃないかな。

目標を声に出すことが、夢を引き寄せる近道

松本さんが17年の下積み時代をへてブレイク俳優の座へと上り詰めた背景には、もう一つ大切にしてきた信念がある。それは、人の縁を大切にすることだ。

松本さん

仕事をする上で大切にしているのは、「人と人とのつながり」です。

『室町無頼』も、主演の大泉洋さんが「芳王子役は、松本さんがいいんじゃない?」と入江(悠)監督に推薦してくださったことがきっかけで、参加させていただけました。

これまで大切につむいできた縁が新しいチャンスをもたらしてくれるのは、すごくうれしいことだなと思います。

松本若菜さん

撮影中は、「自分をキャストとして推してくれた大泉さん、受け入れてくれた入江監督の気持ちに答えたいと必死だった」と話す松本さん。

大泉洋さん演じる蓮田兵衛の想い人であり、堤真一さん演じる骨皮道賢からも愛された過去を持つ芳王子は、気丈でありながらすべてを包み込むような「菩薩」のような存在。

撮影に入る上では、芳王子の「心のあり方」を特に意識したという。

松本さん

兵衛の身を隠すため、道賢に啖呵(たんか)を切るシーンがあるのですが、気が強いけれど愛情深い、芳王子の内から出る表情を大切に演じたいなと。

何を考えているか分からないところがあるのに、どこか不思議な魅力がある女性なんですよね。

芳王子の醸し出す魅力を表現するのは、私にとって大きなチャレンジとなりました。

『室町無頼』で松本若菜さんが演じる高級遊女・芳王子

アクション巨編である本作をはじめ、夢に見ていた仕事への挑戦権を手にすることができた松本さん。

夢を育てるステージに立ったいま、モチベーションを保ち続けるために大切にしているのは「ポジティブな言葉を口に出すこと」だという。

松本さん

私は「言霊」を大事にしていて、口に出したことが自分に返ってくると思っているんです。

愚痴や弱音を吐き出すことももちろん大切ですけど、極力「自分はこうなりたい」「こういうふうにしたい」という希望を言葉に出すようにしています。

松本さん

そうすると、周りの人たちが、「松本こうしたいって言ってたな」とか、「若菜誰々に会いたいと言ってたよね」と思い出してくれて、希望がかなったりする。

マイナスなことじゃなくて、プラスなことを声に出すことで、これからもチャンスを引き寄せていけたらと思っています。

働く女性たちに対して「みんな本当に頑張ってる!頑張りすぎ!」と優しい笑顔を見せてくれた松本さん。

自分のことを誰よりも大切にしながら、周囲の人たちのことも大切する。そんな姿勢こそが、夢をつかむための第一歩になるのかもしれない。

松本若菜さん

松本若菜さん

1984年2月25日生まれ。2007年、特撮ドラマ『仮面ライダー電王』で女優デビューし、09年、映画『腐女子彼女。』で初主演を務める。17年、映画『愚行録』で、『第39回ヨコハマ映画祭』助演女優賞を受賞。22年、ドラマ『やんごとなき一族』で、『東京ドラマアウォード2022』個人賞で助演女優賞を受賞し広く知られるように。他の出演作に、ドラマ『コウノドリ』『チア☆ダン』『金魚妻』『復讐の未亡人』『ファーストペンギン!』『どうする家康』、『18/40~ふたりなら夢も恋も~』『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』や映画『マリッジカウンセラー』『はたらく細胞』に出演。24年はドラマ『西園寺さんは家事をしない』『わたしの宝物』で2クール連続主演を果たす ■XInstagram

取材・文/石本真樹 撮影/渡辺 美知子 ヘアメイク/George スタイリスト/瀬川結美子 編集/光谷麻里(編集部)

作品情報

『室町無頼』2025年1月17日(金)公開/IMAX 1月10日(金)先行公開

『室町無頼』メインビジュアルポスター
時は室町、“応仁の乱”前夜の京みやこ――。 大飢饉と疫病の連鎖、路上に重なる無数の死骸。 そんな混沌の世に風の如く現れ、巨大な権力に戦いを挑んだ者たちがいた・・・。 蓮田兵衛(はすだひょうえ)――日本史上、初めて武士階級として一揆を起こし、歴史書に唯一度だけその名を留める男。 本作は彼の元に集結した「アウトロー=無頼」たちの知られざる戦いをドラマチックに描く。 空前の一揆を巻き起こす無頼たち、ラストはたった9人で幕府軍に挑む。 勝率ゼロに等しい無謀な戦い、その勝機と狙いとは!? 原作は直木賞作家である垣根涼介の『室町無頼』(新潮文庫刊)。 “リアル”な風と炎と砂塵が舞う中世の暗黒時代ダークエイジを駆け抜ける、エンタメ全開のアクション巨編!!

出演:大泉洋 長尾謙杜 松本若菜 遠藤雄弥 前野朋哉 阿見201 般若 武田梨奈 水澤紳吾 岩永丞威 吉本実憂 ドンペイ 川床明日香 稲荷卓央 芹澤興人 中村蒼 矢島健一 三宅弘城 柄本明 北村一輝 堤真一

原作:垣根涼介『室町無頼』(新潮文庫刊)
監督・脚本:入江 悠
音楽:池頼広

製作幹事・配給:東映

公式サイト公式X公式Instagram

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