22 MAR/2023

長澤まさみ「キャリア20年以上の今も、迷いはある」自分の実力に言い訳も悲観もしない“プロの前向き力

一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

長澤さん

自分がプロかどうかというより、仕事をしている以上、もう「プロになる」しかないですよね。

大きな瞳を少し細め、微笑むようにこう口にしたのは、俳優の長澤まさみさん。俳優デビューの2000年から数々のドラマや映画、舞台など、第一線で活躍し続けている。

長澤まさみ

2023年3月24日公開の映画『ロストケア』では、松山ケンイチさん演じる介護士であり42人をあやめた殺人犯・斯波宗典を裁く検事・大友秀美を演じた長澤さん。

法曹界で活躍するプロフェッショナルな検事を演じ切った今、自身がこれまで大事にしてきた「いい仕事」をするための心掛けについて語ってくれた。

新しい役を演じるときは「いつも悩む」

ロストケア

映画『ロストケア』で演じた検事・大友について、「第一印象でとても優秀な人だと思った」と長澤さん。演じる上で意識したのは、検事としての信頼感だと言う。

長澤さん

彼女の優秀さをひけらかすように演じるのではなく、観客の皆さんが大友を見たときに、自然と「この人を信じたい」と思ってもらえるような性格・人物像を意識して演じました。

また、大友は作品の中で一番観客の皆さんに近い目線を持つ人物でもあります。

ですから、大友の人柄や視点をこの映画を見ている皆さんに受け入れてもらわなければ、物語に入り込んでもらえません。

監督からは、「検事らしさを意識して」というオーダーをもらっていたので、自分を律してハッキリ話す、テキパキと動く……皆さんがイメージする検事像に近づけるよう意識しました。

長澤まさみ

劇中では、松山ケンイチさん演じる殺人犯・斯波と向き合う中で、「正しさとは何か」という問いに直面する大友。長澤さん自身も日本社会が実際に直面する課題を前に「戸惑いを感じた」と明かす。

長澤さん

日本の福祉・介護現場で実際に起きている社会問題を前にして、私自身も不安を感じましたし、戸惑いましたね。

結果的にそれが大友の感情とリンクして、これまでに皆さんに見せたことがないような、一味違った演技ができたのではないかと思います。

本作の出来に自信をのぞかせながらも、「とはいえ芝居のことで悩むことは、まだまだたくさんありますけどね」と照れくさそうに笑う長澤さん。

芸能の仕事を始めてから20年以上となったが、それでもまだ、演じることへの迷いは消えないと言う。

長澤さん

私は優柔不断なところがあって、新しい役をやるときはいつも悩むんですよ。

どうやって演じればいいか、どう演じればよかったのか……最後までずっと迷いもがきながら進んでいく感じ。

今回の大友役もそうでした。

長澤まさみ

ただ、迷いをそのまま演技に出してしまうわけにはいかない。そこで長澤さんが意識しているのは、「とにかく撮影本番までに集中力を高めること」だ。

長澤さん

いくら悩んだり迷ったりしても、最終的にはみんなでいいものを作らないといけません。

だから、本番前だけはあれこれ考えず、とにかく今やるべきことに集中する。

そのために、現場ではみんなの輪からあえて離れ、一人になって過ごすこともあります。スタッフの皆さんと楽しくおしゃべりしたい気持ちを抑えて(笑)

自分なりにスイッチを切り替えて、本番に臨むようにしています。

自分の実力に言い訳しない。「メンタルの切り替え」も仕事のうち

さらに、長澤さんがプロとして大事にしているのは、自分に言い訳をしないことだという。

いくら自分の演技に納得できないことがあっても、それが今の実力。「周囲の人や、コンディションのせいにはしたくない」ときっぱり言い切る。

長澤まさみ
長澤さん

いくら集中して本番に臨んでも、失敗することもあるし、うまくいかないこともある。

人間だから、日によって体調の良しあしもあるし、感情の波もあります。

でも、本番は待ってくれないんですよね。だから、その時に出た結果がその時の自分の実力

体調が悪かったとか、一緒に演じた人との相性が悪かったとか、うまくいかなかった言い訳をしだしたらキリがない。

ちゃんと自分の実力を認めて、今日だすことができる最高点をちゃんとだせたか、そこを振り返ることが大事なのかなと思います。

さらに、長澤さんが思うプロフェッショナルとは、「メンタルの切り替え」ができる人だという。

長澤まさみ
長澤さん

仕事に対して迷ったり悩んだりすることはあっても、最終的に自分の気持ちや考え方を、前向きな状態に持っていけるのがプロですよね。

うまくいかなかったことをうじうじ悩むこともあるけれど、「よし次に挽回しよう」「同じ失敗をしないようにしよう」と思えれば、失敗もいい経験。

さっきお話しした通り、私も悩みは尽きないんですけど、それでも「悩んで終わり」にはしないようにしています。

なりたい自分の理想像は、明日じゃなくて「もう少し先の未来」に置く

ただ、理想の自分になれないことや失敗してしまったことを、いつまでも引きずってしまう人もいるかもしれない。

うまく気持ちを切り替えられない女性たちに向けて長澤さんは、「今にこだわり過ぎない方が、前向きになれるんじゃないかな?」と優しく問い掛ける。

長澤まさみ
長澤さん

理想の自分に明日にでもなろうと思ったら、今の実力との差に圧倒されて、苦しくなってしまうかもしれない。

でも、目標はもっと遠いところ、もう少し先の未来においてもいいんじゃないでしょうか。

例えば5年後、なりたい自分になれていたらいいし、今はそこに向かって歩いている感覚が持てたらそれでいいんじゃないかな、と。

5年前を振り返ると、その時にできなかったことが今できるようになっていたり、当時は思い描けていなかったような仕事をしていたり、自分自身が進歩していることに気付く人も多いはず。

これからの未来も、「きっとそんなサプライズが待っている」と長澤さんは続ける。

長澤まさみ
長澤さん

今の自分が頑張っていることが、未来の自分へのサプライズになると思ったら、楽しみになるし気持ちも前向きになる。

だから、いまできないことやうまくいかないことに悩みすぎなくていいんじゃないでしょうか。

今できることをできる範囲で頑張って、ゆっくりと理想の自分に近づいていく意識を持てたら、少し気持ちが楽になるかもしれません。

今の実力から目を逸らさず他責にしないスタンスと、自分の成長を長い目で見てポジティブにとらえる視点。その二つがあるからこそ、長澤さんは20年という長いキャリアを一つの道で極めてこられたのかもしれない。

長澤さん

どんな職業の人だって、長く仕事を続けていくためには、プロフェッショナルであることって大事ですよね。

でも、プロってどういうものか、その明確な基準はないから、自分が「プロとして働く」って決めたときからもうプロなんだと思います。

長澤さん

つい謙遜して「私なんでまだまだです」って言いたくなるシーンもあるかもしれませんが、自分の未熟さを言い訳にするのは、逆に周りの人を困らせてしまう行為

「プロとして仕事してほしい」と期待されているなら、自分もそのつもりで応える。

そうやってプロ意識を持って取り組んだ仕事・現場の数を積み重ねていくことが、結果的に自分を成長させてくれるのかなと思いますね。

長澤まさみ

取材・文/阿部裕華 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) 編集/栗原千明(編集部)

作品情報

映画『ロストケア』2023年3月 24日(金)全国ロードショー
主演・松山ケンイチ×ヒロイン・長澤まさみーー連続殺人犯”役と“検事”役で初共演! 第16回日本ミステリー文学大賞新人賞に輝いた葉真中顕のデビュー小説を、前田哲監督が念願の実写化
監督:前田哲
キャスト:松山ケンイチ 長澤まさみ 鈴鹿央士 坂井真紀 戸田菜穂 峯村リエ 加藤菜津 やす(ずん) 岩谷健司 井上肇 綾戸智恵 梶原善 藤田弓子 / 柄本 明
脚本:龍居 由佳里 前田 哲
音楽:原摩利彦
© 2023「ロストケア」製作委員会
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