仲里依紗「まずは打席に立ってみる」嫌な仕事もポジティブ転換できるギャルマインドの秘訣
この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心をつかみ、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります
現在放送中のNHK連続テレビ小説『おむすび』で、“伝説のギャル”の米田歩がハマり役だと話題の仲里依紗さん。
彼女のこれまでのキャリアを振り返ると、医療ドラマから時代劇まで幅広い作品に出演し、自身のイメージを大胆に変えながら多彩な役を演じてきた。
「役によっては、やだやだー!って思うこともあるんです。私にその役は無理だよって」
そう本気で嫌がる素振りを見せながら、けらけらと笑う仲さん。
なぜ彼女は「無理」だと思う役でも、カメレオンのように演じ続けることができるのだろうか。その仕事に対する姿勢の根底には、仲さんの「ギャルマインド」があった。
ガチなギャル役は「演じるのが楽しくて仕方がない」
『おむすび』で仲さんが演じる米田歩は、主人公・米田結(橋本環奈)の姉で、地元・福岡で名を馳せた伝説のギャル。
最初にオファーを受けた時は、その設定に「ウソかと思いました(笑)」と振り返る。
だって、“朝ドラ”と“伝説のギャル”なんて、朝ドラの歴史を塗り替えそうなくらい対極なワードの組み合わせじゃないですか。
オファーがあった時は“NHK仕様のギャル”になるのかなって思っていたんですよ。私、結構ガチめなギャルだけど大丈夫?って(笑)
でもふたを開けてみたら、NHKの本気を感じるくらいガチなギャルの設定で、うれしかったです。
私生活でも自身を「ギャルです!」と公言している仲さん。ギャルを演じることは「楽しいし、息しやすいって感じですね」と、喜びを語る。
役作りで心掛けているのは、「ギャルを表面的に演じないこと」だ。
ギャルは友達や家族のためにパワーを注入できて、自分の“好き”に忠実に生きている人たち。どんなときでも自分らしさを大切にするために、すべてに全力投球なんですよね。
でも歩は、震災で亡くなった親友がやりたかったことを代わりにするためにギャルになった女の子。
ギャルになったことが歩自身の『救い』になっているので、そこは私とは違う部分だなと思って、彼女がギャルをやっている背景に意識を向けながら演じています。
どんな仕事も「やれば終わる、やらなきゃ終わらない」
『おむすび』では等身大のギャル役を楽しそうに演じているが、時には苦手だと思う役や仕事もあるという。
もちろん『キツイな』って思う仕事はありますよ。やりながらつらい、もうやりたくないと思っているときもあります。でも、やります。とにかくやるんです。
だって、どんな仕事でもやれば終わるし、やらなきゃ終わらないですから。
仕事では、まずは打席に立ってみるという仲さん。苦手意識がある仕事に挑むことに躊躇はないのだろうか。
最初に嫌だと思っていた仕事でも、乗り越えたら自分に自信がつくと思うんですよね。乗り越えた自分、マジでかっこいいじゃん!って。これができたなら敵なしだって思えるんですよ。
かつて出演した作品の中にも、苦手な役はあったと正直に話す。
難しい医学の専門用語を使う医者役、着物が重くてトイレに行くのも大変そうな時代劇、私には絶対ムリだと思っていました。セリフも難しそうですし。
でも『TOKYO MER』(TBS)での医者役も、『大奥』(NHK)の綱吉役も、終わってみたら楽しかったんですよね。
大変なのは、やってる時だけ。終われば、見てくれた人からの『良かった』という声もありますしね。
やる前のハードルが高い仕事ほど、やり終えた時の充足感や得られる自信も大きい。その実感を貯めてきたことが、苦手な仕事に挑む勇気や乗り越える気力を支えているのだろう。
仕事から逃げることって、マジで簡単。でも逃げると後悔したり、ずっと引きずったりすると思うんです。
だからそこにけりをつけるというか、まず勝負に出なきゃ何も始まらないぞって感じですね。
すごく大変だったことも、過ぎてしまえば楽しんで話していることってありませんか?『あの時、マジやばかったよね』なんて笑い話にしてる。結局、笑って喋ってるんじゃんって思えば、やることのハードルも下がっていくように感じます。
やってしまえば、時間とともに嫌だった記憶も薄れる。それどころか、人生経験が増えたとプラスに捉えられるようになるそうだ。
とりあえず何でもやってみるとは言いつつも、「でも、私には弁護士役とか本当にムリだと思う。怖いよ~」と笑う。そうは言っても、彼女は求められればきっと打席に立つのだろう。
心から楽しまないと、ウソになるから
15歳で上京し、ティーン誌のモデルから俳優へ。23歳で母になり、多忙な毎日を走り抜けてきた。
長く仕事で挑戦を続けてきた人生を振り返り、「結局は楽しむことが一番大事なんですよね」と笑いながら話す。
やっぱり自分が心から楽しんでいないと、見てる方にも伝わっちゃうし、続かないですよね。楽しくないことはやりたくないし、それを楽しそうにやるのって、ウソになるから。
私がやっていること、全部そうなんですよ。お芝居も、YouTubeも、母親も。すべて楽しむことを一番大事にしています。
その言葉には清々しいほど迷いがない。とはいえ、人生が楽しい瞬間ばかりではないのは先に話したとおり。
仕事もあるし、最近は朝も寒いから起きたくないし……。でも私、人生でやりたいことがたくさんあって、全部やり切りたいんです。
だから嫌なことも、とにかくやって早く終わらせないといけません。毎日マジで全力だから、夜は気絶したように寝ています(笑)
全力で日々を過ごし続けることは、かなりハードルが高い気がするが、仲さんにはそれをする理由がある。
私の人生の目標って、『長生き』なんですよ。長生きして、自分がどうなったのかが見たい。自分自身が将来どうなっているかを知りたいんです。
年を取った自分がどんな服を着て、どんな仕事をして、どんなごはんを食べてるのか。自分の未来を見ないで死ぬなんて、考えられないです。
日々を全力で生きているからこそ、未来の自分にワクワクできる。全力で生き抜いた先にある自分の変化や進化への期待が、仲さんを動かしている。
仕事を頑張るのは、なりたい自分のため
仲さんにとって仕事は「お金を稼ぐ手段」という側面も大きいという。
やっぱり生きていくにはお金が必要です。働いていれば、ごほうびに楽しく買い物もできるし、頑張った分だけ喜びも大きい。それを楽しみに働いています。
仲さんは昔から「セレブになりたい」と公言してきた。かつて情報誌『TV Bros.』で「前略パリスヒルトン様」という連載を持っていたほどだ。
私、セレブにもなりたいんですよね。でもセレブになるためには、お仕事を頑張って稼がなきゃいけないでしょ? だから、働くしかないんですよ。
自分のやりたいことや、なりたい姿が明確にあれば、それに向かうための手段として仕事の必要性を実感できる。
一方で、誰しもが仕事に重きを置く必要はないことも付け加えた。
私は、自分がしたいことをしてるだけ。ギャルのセレブとして長生きしたいっていう人生のテーマがあるから、仕事を頑張ってるだけです。
これを誰かに押し付けるつもりもないし、みんなが全力で働いた方が良いとも思っていません。私は働きたいから働くだけ。みんな、自分の好きなように生きてほしいなと思います。
一見キラキラして見える芸能界も、キツイ仕事があるのはビジネスパーソンと同じ。
でも、どんな仕事も「やってしまえば終わる」し、そこから得られるものもきっとある。一度は打席に立ってキャリアを積み重ねてきた先に、“カメレオン俳優”としての今の仲さんがいるのだろう。
取材・文/古屋江美子 撮影/赤松洋太 編集/大室倫子(編集部)
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