会社の制度・環境だけでは磨けない。 DEI先進企業の女性リーダーたちの“キャリアを創る”マインド【デロイト トーマツ・NTT東・ネスレ】
働き方やキャリアの選択肢が広がる今、「どんな環境やライフステージでも、自分らしく成果を出し続けたい」と考える女性は少なくない。
企業側もDEI(Diversity, Equity & Inclusion、以下DEI)推進を加速させ、多様な人材が活躍できるよう、柔軟な制度や働きやすい環境づくりに力を注ぐ組織が増えている。
もっとも、制度や環境が整っているだけで、誰もが理想のキャリアを実現できるわけではない。制度をどう活用し、自身の成長や成果につなげていくか。その差を生むのは、働き方に対する主体性や個人のマインドセットだ。
そこで今回は、DEI推進の先進企業でキャリアアップを実現する、合同会社デロイト トーマツ(以下、デロイト トーマツ)の秦詩織さん、NTT東日本株式会社(以下、NTT東日本)の助川裕美さん、ネスレネスプレッソ株式会社(以下、ネスレネスプレッソ)の高田寛子さんにインタビュー。
制度を柔軟に活用しながら、環境やライフステージの変化を乗り越え、プロフェッショナルとして成長を続けるためのヒントを、3社の女性リーダーたちの言葉から探った。
【合同会社デロイト トーマツ】大切なのは、時間の“長さ”ではなく“密度”
合同会社デロイト トーマツ/コンサルティング
Engineering, AI&D
Engineering Unit マネジャー
秦詩織さん
アウトソーシング企業を経て、2014年に合同会社デロイト トーマツへ入社。コンサルタントとして業務プロセス改革案の策定や実行支援プロジェクトに数多く従事。2度の産休・育休を経て復帰し、24年よりマネジャーを務める
──秦さんは育休から復職後もコンサルタントとして第一線で活躍されています。どのように仕事と家庭を両立しているのでしょうか。
秦:私自身、復職する時は「子育てをしながら以前のように働けるのだろうか」という不安がありました。大好きな仕事に打ち込みたい気持ちはあるけれど、自分が今の状況でどれだけ成果を出せるか分からない。そこで活用したのが、当社のFWP(フレキシブルワーキングプログラム)です。
この制度は仕事と家庭を両立する社員が柔軟な働き方を選択できる仕組みで、私はまず「週4日×7時間勤務」という緩やかなスタイルで復帰しました。自分にとって丁度良いバランスが分からなかったので、まずはできるだけ無理なく家庭を重視した形態にしたいと考えたからです。
そして、数カ月働くうちに両立のリズムがつかめてくると、段々と「もっと仕事の比重を増やしても問題はなさそう」「より高いパフォーマンスを発揮したい」という気持ちが強くなりました。そこで制度のスタイルを変更し、現在はリモート中心のフルタイム勤務へ移行しています。
──子育てをしながらのフルタイム勤務は、時間配分も難しいのでは? パフォーマンスを維持する工夫についても教えてください。
秦:今もFWPは継続して利用していて、現在は「不在時間」を設定できるようにしています。
例えば、保育園へのお迎えや子どもの寝かしつけの時間をあらかじめ「不在」に設定することで、その間は会議への参加や業務連絡ができないことをチームに共有しておきます。プロジェクトにアサインされる際も、「この時間帯は業務を離れますが問題ありませんか」と事前に相談し、合意した上で参画するので、毎回調整したり肩身の狭い思いをしたりすることがありません。
周囲と認識を合わせた上で、動ける時間帯に集中して働く。そんなスタイルが今の私には合っていますし、そのおかげで無理せずパフォーマンスが発揮できていると感じます。
一方で、私が業務を抜けることでプロジェクトに支障があってはいけないので、メンバーとの情報共有は徹底しています。チャット上でタスクの進捗や予定を常にオープンにし、私自身も隙間時間を活用しながら、こまめに指示やレビューを返すよう心掛けています。
──自分に合った時間のバランスをうまく取ることで、コンサルタントに求められる高い成果と育児を両立しているのですね。
秦:実際に制度を使ってさまざまな働き方を試す中で、「納得のいく時間の使い方とは、必ずしも長さだけではなく、時間の密度やタイミングも重要なのだ」と実感しました。
復帰後、「仕事に時間を使いすぎて、育児がおろそかになっているのでは」とモヤモヤした時期もあったんです。
改めて過ごし方を振り返ると、仕事をしながら片手間で子どもの対応をしている時間が多いことに気が付きました。そこで、「仕事に集中する時間」「子どもと向き合う時間」を明確に区切ってメリハリをつけたことで、子どもとの時間を延ばしたわけではないにも関わらず、どの時間も充実し、生活のリズムが安定していきました。
「子どもがいるのだから、仕事にばかり時間を使うのは良くない」とか、反対に「仕事に目一杯時間を使えないと周囲に迷惑をかけてしまう」などといった固定観念にとらわれず、自分や家族にとって心地よいバランスを探していくことが大切なのだと思います。
工夫や試行錯誤を重ねれば、その時々の自分に合った働き方は必ず見つかる。今はそう感じています。
【NTT東日本】育休を経て変化した“仕事観”が、キャリアを前に進めた
NTT東日本株式会社
グローバルビジネス推進室 企画担当 担当課長
助川裕美さん
2012年、NTT東日本に入社。支店営業や本社勤務を経て、川崎支店で営業企画を担当。その間に産休・育休を取得した後、25年7月にグローバルビジネス推進室に担当課長として着任
──助川さんも仕事と育児を両立されていますが、育休から復帰後はどのような働き方をしてきましたか。
助川:私は育休明けからフルタイムで復帰しました。というのも、育休中に仕事に対する価値観が大きく変わったからです。
もちろんそれまでも仕事は好きでしたが、以前の私にとって仕事はあくまで生活の一部であり、そこまで特別な意味を持つものではありませんでした。
しかし育休中に、少しずつ社会との距離ができたような孤独感や疎外感を覚えるようになって……。その時初めて、「自分にとって働くとはどういうことなのか」を真剣に考えるようになったのです。
私にとって仕事とは、「誰かのために貢献し、成果を上げることで自分を評価してもらえる大切な場所」であり、その評価がモチベーションとなって自己成長していけるのだと気付きました。
復帰後に昇進試験を受けて管理職を目指したのも、育休中の気付きによって「さらなるキャリアアップに挑戦したい」という前向きな気持ちが生まれたからです。
──復帰後は生活も大きく変わる中で、管理職という新たな役割が加わるのは大変だったのでは?
助川:物理的に難しいことはもちろんありました。ただ、自分の中に複数の役割ができたことは、むしろ精神的な支えになっていたと感じます。
母であり、妻であり、社会人でもある。それぞれの場所で自分の力を発揮できることが心地よく、一つの役割だけに偏らずに済むことで、気持ちをフラットに保てるんです。
復職や昇進の際には、会社の制度も大きな支えになりました。中でも心強かったのが、育児経験のある女性管理職と定期的に面談できる「メンタリング制度」です。
ロールモデルとなる存在が身近にいたことで、「自分も挑戦していいんだ」と前向きに思えましたし、キャリアアップを目指す上で大きな後押しになりました。
また当社には、働く時間を柔軟に設定できる「スーパーフレックス」や、国内であれば居住地を原則自由とする「リモートスタンダード」など、多様な働き方を支える制度があります。
例えば私の場合、夜は子どもと一緒に早く寝て、朝5時から仕事を始めることもあります。その後に家族と朝食を取ったり、子どもを保育園へ送ったりして、再び仕事に戻る。そんなふうに、オンとオフを切り替えながら、メリハリをつけた働き方を工夫しています。
【ネスレ】多様な人材が活躍する組織が、ビジネスを強くする
ネスレネスプレッソ株式会社
ヒューマンリソース マネジャー
高田寛子さん
外資系メーカーの人事部門を経て、2013年にネスレネスプレッソの採用担当としてネスレ日本に入社。20年よりネスレ日本の人事部門にて、採用やタレントマネジメントマネジャーとして、人材開発やダイバーシティー推進に携わる。23年より現職
──高田さんは長年人事としてさまざまな社員を見てきた立場から、組織の中で多様な人材が活躍することに、どのような意義を感じていますか。
高田:ネスレグループでは、DEIをグローバル戦略の中核に据えており、多様な視点や価値観があるからこそ、より良い意思決定やイノベーションの創出につながると考えています。
例えばネスレでは、乳児向けミルクから女性や高齢者の健康をサポートする食品まで、幅広いライフステージに寄り添うプロダクトを展開しています。だからこそさまざまな経験を持つ社員がいることで、消費者の視点に立った戦略やアイデアを考えられる。多様性は、当社のビジネスにポジティブなインパクトをもたらす原動力だと考えています。
──高田さんご自身も、多様性が組織に与える影響を実感されていますか。
高田:はい。私は現在、ネスレのグループ会社であるネスプレッソで人事責任者を務めていますが、当社の女性管理職比率は約40%と非常に高いんです。
ネスプレッソ製品のユーザーには女性が多く、女性社員の声を商品やサービスに生かしてきたことが、ビジネスの成長につながってきました。そうした積み重ねの中で、自然と女性リーダーも増えていったのだと感じています。
──多様な人材が活躍するために、ネスレではどのような働き方のカルチャーが根付いているのでしょうか。
高田:ネスレ日本では早くから企画業務型裁量労働制を導入してきたこともあり、「時間は会社に管理されるものではなく、自分でマネジメントするもの」という意識が根付いています。
そのため、育児や介護をしている人に限らず、社員が働く場所や時間を自分で選びながら、成果を生み出すことが求められる文化があります。
私自身も、どんな状況であっても「成果を出すために時間をどう使うか」を主体的に考え、自分の裁量で働き方を選べる環境は、キャリアを築く上で大きなプラスになっていると感じています。
プロフェッショナルは、制度や環境を“価値”に変える
──みなさんのお話からは、制度や環境を柔軟に活用しながら、それぞれが自分なりに成果を出す工夫を重ねてきたことが、キャリアアップにもつながっているように感じました。その上で、性別や年齢、ライフステージに関係なく、プロフェッショナルとして成長し続けるためには、どのような姿勢が重要だと考えますか。
秦:私が意識しているのは、自分のスキルや経験を客観視し、「強みにレバレッジをかけて弱みを補完する」こと。苦手なことに時間を割くより、得意なことに注力して成果を最大化するやり方が自分に合っているからです。
自分が苦手な領域は、それが得意なメンバーと役割分担するなど、仕組み化によってお互いに補い合うことで、個人だけでなくチーム全体のパフォーマンスも最大化できると感じています。
ただ、強みも“持っているだけ”では陳腐化していきます。社会のニーズや技術トレンドは常に変化しているので、以前は武器だったスキルが通用しなくなることもあるでしょう。だからこそ、自分を客観視しながら、強みそのものをアップデートし続ける姿勢が重要なのだと思います。
助川:私は会社の制度を活用して柔軟に働いていますが、それを単に「好きな場所で、好きな時間に働ける制度」と捉えるのは、制度の無駄遣いになってしまうと感じています。 大切なのは、制度を活用して時間を効率化し、そこで生まれた余力を、自分自身の成長に投資することではないでしょうか。
私自身、就業時間の20%を本業以外の業務に充てられる「社内ダブルワーク制度」を利用し、グループ会社が手掛ける、日本の農産物を海外にプロモーションするプロジェクトに参画しました。
余白を使った新たな挑戦が自己成長につながっただけでなく、仕事の時間がさらに充実したことで、家庭に戻った時に家族が一層愛おしく思えて、子どもにも優しくなれる。そんな良い循環が生まれています。
高田:私も、プロフェッショナルに不可欠なのは「学び続ける姿勢」だと思います。
ネスレには、ベテラン社員でも英語学習を続けたり、新しい資格取得に挑戦したりと、年齢や立場に関係なく学び続ける人が多いんです。そうした積み重ねが、仕事の幅やキャリアの選択肢を広げているのだと感じます。
また、人事として多くの社員を見てきて実感するのは、「制度は、目的を持って活用してこそ価値を発揮する“武器”になる」ということ。
「自分はどんなキャリアを築きたいのか」「どんな成果を出したいのか」という目的がまずあり、その実現手段として制度をどう活用するかを考える。そうした主体性こそが、キャリアを加速させる鍵なのではないでしょうか。
──ライフイベントや環境の変化を前に、キャリアへの不安を感じる女性は少なくありません。最後に、そんな読者へメッセージをお願いします。
今回インタビューを実施したデロイト トーマツのオフィスにて。初対面の3人だったが、すぐに打ち解け会話に花が咲いていた
助川:私自身もそうでしたが、不安を感じる時こそ、自分自身と向き合う良い機会でもあると思うんです。「今の自分はこうあるべき・こうすべき」といった固定観念ではなく、「自分は何を大切に生きていきたいのか」を考えてみてほしいですね。
絶対に譲れない“自分の軸”が見えてくると、不思議と迷いは減っていきます。ライフイベントによる変化も、「制約」ではなく「新しい挑戦」と捉えながら、前向きに楽しんでほしいです。
高田:働き方も、キャリアも、人の数だけそれぞれスタイルは異なります。だからこそ、誰かの正解をなぞる必要はありません。
「自分のキャリアは自分で決める」というオーナーシップを持って将来を描いていけば、きっと自分らしい働き方やキャリアのかたちが見えてくるはずです。
秦:今の時代は、皆さんが思っている以上に、働き方やキャリアの選択肢が広がっています。そして、一度選んだ働き方をずっと続けなければいけないわけでもありません。
私自身も、プロジェクトの状況が変わり、当初想定していた働き方が難しくなった時には、都度、社内で相談しながら、その時々の自分に合った働き方を選び直してきました。
仕事と家庭を両立する人が増え、企業側の制度やサポート体制も進化していますし、困った時に手を差し伸べてくれる人は必ずいます。だからこそ、変化を恐れず、チャレンジを楽しみながら、自分が思い描くライフ・キャリアを突き進んで欲しいと願っています。
取材・文/塚田有香 撮影/赤松洋太


