優秀な女性が「もう一度輝く」を当たり前に。PwC Japanグループの在宅秘書が示すキャリアの可能性
女性の社会進出が進み、キャリア構築に性別が問われにくい時代になった。それでもなお、結婚や出産、育児や介護といったライフイベントを機に、キャリアの継続を断念する女性は少なくない。
本来であれば高いスキルを発揮できる人材が、働き方の制約によって活躍の機会を失ってしまう――。このミスマッチは、個人にとっても企業にとっても見過ごせない課題だ。
こうした状況に対し「家庭の状況に縛られずにプロフェッショナル人材を活かす」という発想から生まれたのが、PwC Japanグループの「在宅秘書」という働き方である。
在宅秘書は、PwC Japanグループのパートナー(役員層)をリモートで支えるポジション。2015年の導入以降、現在では約80名規模へと広がり、同社の成長を支える重要な機能として組織に定着した。
今回は、制度導入期からこの領域に関わり、現在はシニアマネージャーとして在宅秘書チームの運営を担う本多宏江さんにインタビュー。キャリアを途切れさせない働き方の意義と、その可能性について話を聞いた。
PwC Japan合同会社 総務部 シニアマネージャー
本多宏江さん
2004年にPwC Japan合同会社に入社し、総務部に配属。2014年に出産、翌年に復職。復職後、米国法人で導入されていた在宅秘書制度の日本展開にあたり、導入期から現場サポートに携わる。現在はシニアマネージャーとして在宅秘書チームの運営・支援に関わり、約80名規模の組織を支えている
※PwC Japanグループは、日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社の総称です。各法人は独立した別法人として事業を行っています。
「眠るプロ人材」を活かすPwC Japanグループの選択肢
コロナ禍を経て多様な働き方が広がるようになる前の2015年から、PwC Japanグループでは在宅秘書を取り入れてきた。
導入期からこの領域に携わってきた本多さんは、在宅秘書について「単なる働き方の選択肢ではない」と話す。
「本来であれば第一線で活躍しているはずの方々が、家庭の事情などによって現場を離れているケースは少なくありません。そうした方々の力を、時間や場所に縛られず発揮できるかたちがあれば、もう一度ビジネスの現場に戻ってこられるのではないか。そうした発想から、この仕組みが広がっていきました」
PwC Japanグループの在宅秘書が支えるのは、同グループの役員層であるパートナー。重要な意思決定に関わるパートナーを支えるには、単なる業務処理ではなく、ビジネス理解や判断力を備えた人材が求められる。
そうした役割を担う人材が、従来ライフステージの変化によりキャリアを中断せざるを得なかった、優秀な女性たちだ。
「子どもがいるから、家庭の事情があるからといって、これまで築いてきた経験がなくなるわけではありません。そうした力を再び組織の中で生かしていくことは、企業にとっても大きな価値があります」
同時に、在宅秘書として働き方を見直すことで、生活の在り方そのものも変えていけると本多さんは続ける。
「例えば、学校から帰ってきた子どもに『おかえり』と言える時間を持ちながらも、やりがいのある仕事を続けることは本来両立できるはずです。そうした選択肢を当たり前にしていきたいという想いも、この制度には込められています」
個人の事情によって分断されがちだったキャリアの間にある壁を取り払い、眠っていた才能を再び現場へとつなぐ。これは企業にとっての人材戦略であると同時に、社会的な価値も併せ持つ制度なのだ。
在宅でも求められるのは「ビジネスパートナー」の視点
「在宅秘書」と聞くと、サポート業務や定型的な作業をイメージする人も多いかもしれない。しかし、PwC Japanグループの在宅秘書に求められるのは、それとは一線を画す。
「PwC Japanグループの在宅秘書は、単に指示された業務をこなす存在ではありません。パートナーの思考や意思決定を理解し、一歩先を読んだ支援ができる『ビジネスパートナー』であってほしいと考えています」
実際、在宅秘書は1人で3~5名のパートナーを担当する。日々状況が変化する中で、スケジュール調整一つを取っても、その背景や優先順位を踏まえた判断が求められる。
「リモートであっても、扱う情報は機密性の高いものが多く、パートナーの意思決定に関わる場面も少なくありません。だからこそ、高いコミュニケーション力や判断力に加えて、プロフェッショナルとしての責任感が求められます。
例えば会議の調整でも、単に空いている時間を押さえるのではなく、『この会議は何のためのものか』『どの優先度で扱うべきか』を理解した上で動くことが重要です」
一方で、「最初からすべてを完璧にこなせる必要はない」と本多さんは続ける。
「入社後は、しっかりとした研修や引き継ぎのプロセスを用意しています。担当パートナーごとの特性や業務内容をまとめた引き継ぎ資料もありますし、前任者から直接レクチャーを受けながら、段階的に業務に慣れていける環境です」
在宅秘書の勤務時間は、平日9時15分から17時15分まで。通勤がない分、時間を有効に使える環境が整っている。
「在宅勤務だからこそ、必然的に仕事と生活の距離が近くなります。例えばお子さんの送り迎えなど、関係各所との連携が取れていれば一時的に席を外すことも問題ありません。
ただし、対面で状況が見えない環境だからこそ、『どのように信頼を担保するか』はとても重要。進捗共有や連携を通じて信頼関係を築くために、チーム内での密なコミュニケーションは欠かせません」
働く場所は自宅であっても、求められるのはあくまでビジネスパートナーとしての価値発揮。その前提があるからこそ、この仕事は「キャリアの延長線上」として選ばれているのだ。
能力があるのに、キャリアを小さくまとめるのはもったいない
在宅で働きながら、パートナーを支える。その仕組みを成立させているのは、個人のスキルだけではない。在宅秘書が最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、組織としてのサポート体制も整えられている。
その一つが「コンシェルジュデスク」と呼ばれるチームの存在だ。
「在宅では対応が難しい業務を担うために、オフィス常駐のコンシェルジュチームが連携しています。例えば、書類の受け渡しや印刷、急ぎの対応など、フィジカルな業務を在宅秘書と連携してパートナーをサポートする仕組みです」
在宅秘書とコンシェルジュが役割を分担しながら連携することで、場所に制約のある働き方でも、対面と変わらないサポート体制を実現しているのだ。
「実は在宅秘書の導入当初は、『リモートで本当に役員を支えられるのか』という不安の声もありました。しかしこうしたオフィス側との連携強化や体制を整えることで、在宅という働き方であっても、高い付加価値を発揮できるという信頼が社内に広がっていったのです」
さらに、在宅秘書の価値は「働きやすさ」だけにとどまらない。
PwC Japanグループは、世界有数のプロフェッショナルファームだ。グローバルビジネスの最前線で意思決定を行うパートナーを支えるポジションである在宅秘書は、組織の成果に影響する役割を担う。
「私たちは、能力のある女性に『ブランクがあるから、フルタイムが難しいから』といって、キャリアを小さくまとめてほしくはありません。『キャリアを諦めなくていい』という明確なメッセージを届けたいのです。
在宅で働きながらも成果を実感できるこの仕事は、もう一度本気でスキルを生かしたいと考える方にとっては、十分に挑戦しがいのあるポジションだと考えています」
環境を変えることは「逃げ」ではなく「キャリアを守る選択」
ここまで「在宅秘書」に求められる能力の高さに、ハードルを感じる人は少なくないだろう。だが、PwC Japanグループの在宅秘書では、秘書経験の有無を採用基準としていない。実際、約80名の在宅秘書のうち、秘書経験者は半数程度にとどまるという。
「トラベルエージェントや客室乗務員をしていた方もいますし、システムエンジニア出身で、業務効率化の分野で活躍している方もいます。何らかのサポート業務やマネジメント経験があれば、十分にキャリアをつなぐことができます」
業務内容が異なっていても、状況を読み取り、先回りして動く力は、そのままパートナー支援の現場で生きてくる。また、応募条件の一つである英語スコアの基準にも、明確な意図がある。
「英語スコアの基準点を設けているのは、単に英語力を見るためではありません。目標に向かって努力を継続できるかどうかを見る指標でもあります。そこをクリアできる方は、入社後も自走して成長していける方が多いと感じています」
とは言えキャリアのブランクがあることで、自信を失ってしまう人は少なくない。しかし本多さんは、そうした不安を抱える人にこそトライしてほしいと背中を押す。
「『私にできるのだろうか』と考える人の方が、むしろ信頼できると感じています。自信がないからこそ努力を重ねようとする。その姿勢が、結果的に成長につながっていくのだと思いますし、不安を抱くこと自体は決して間違いではありません」
そして、本多さんはあらためてこう強調する。
「環境を変えることを『逃げ』と捉える必要はありません。私はむしろ、『キャリアを守る選択』だと考えています。自分に合った環境で、これまでの経験をどう発揮していくか。その選択肢の一つとして、在宅秘書という働き方を考えてみてほしいですね」
積み重ねてきた経験は、環境が変わっても価値を失わない。重要なのは、それをどう生かして再設計し続けるか。
PwC Japanグループの在宅秘書は、その問いに対する一つの答えとして、今後も優秀な女性社員のキャリアを輝かせていくはずだ。
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取材・文/宮﨑まきこ 撮影/赤松洋太


