【のん】独立から9年、20代で訪れたキャリアの転機を経て知ったモチベーションの源泉
自分の仕事に自分で責任を持つ、そういう「受け身じゃない働き方」ができる方が、私には向いているなって思うんです。
大きな黒い瞳をキラキラと輝かせながら話すのは、俳優・アーティストの、のんさん。

2013年、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』でヒロインを務めて以降、俳優としてブレイク。
その3年後には当時の所属事務所を退所し、女優・創作あーちすと「のん」として独立を果たした。
自分で会社を興して仕事の責任を持つ範囲が広がってから、ようやく自分らしい働き方を見つけられた気がします。
キャリアの転機となった独立からはや9年ーー。30代を迎え、俳優・アーティストとしてますます魅力を増す彼女に、20代で模索した「自分らしい働き方」について聞いた。
「新しい環境」に飛び込んで知った、自分らしい働き方

独立以降、「女優・創作あーちすと」として活動していたのんさん。20代で個人事務所を立ち上げてからは、「好きなことをする」ことに全力を注いできた。
興味が湧くこと、ワクワクすること、自分の心が動くものを見つけたら、「失敗しても いいから、何にでもチャレンジしてみる」のがのんさんが大切にしてきたポリシー。
自分の「好きなこと」に素直に向き合い続けてきた結果、「第16回 伊丹十三賞」など数々の栄誉ある賞を受賞することができた。
30歳の誕生日を迎えた23年7月13日に、毎日新聞全国版で「俳優・アーティスト」へと肩書を改定することを発表したのんさん。30代を迎え、「自分の仕事にもっと自由に取り組みたい」と決意を新たにした。

ちょっとハードルを下げて、自分の好きなように自由にやりたかったから、「創作あーちすと」と平仮名でおとぼけていた。そして“のん”になって、色んな人と色んな場所で色んなものを作って、私はどうやったって作りたい人なんだってことが分かった。根拠のない自信が確固たる自信に変わった。だから肩書き変えます。
こうした心境にたどり着くことができたのは、20 代で決断した「のん」としての再スタートが大きいという。
事務所に所属していた時は、どうしても受け身で仕事をすることが多かったんです。
自分自身に決定権がないから責任の所在があいまいになることも多くて、そこに妙に疲弊している自分がいました。
一方、独立してからは何もかも自分次第。
一つ一つの仕事に対して責任を持つことは大変ですが、そこで下した決断のすべてが、結果となって自分に返ってきます。
実際にやってみると、その方が自分の性に合っていることも分かりました。
それと同時に、仕事に対する自分のモチベーションを保つ方法も見えてきましたね。
思い切って働く環境・立場を変えてみたことで、「自己理解が深まった」と話すのんさん。変化を恐れず新しい世界に飛び込んだことで、やりたい仕事も自分らしい働き方も手にすることができた。
「身を置く場所を変えたら、新しい才能に気づくかも」

そんなのんさんが主演を務める最新作が、DMM TVオリジナルドラマ『幸せカナコの殺し屋生活』だ。
本作でのんさんが演じる主人公・西野カナコは、上司からのパワハラに耐え切れず、ブラック企業を退職することを決意する。
しかし、カナコが選んだ転職先は何と「超ホワイト」な殺し屋企業。最初は人を殺すことにためらいながらも隠れた才能を開花させ、敏腕の殺し屋へと成長していくアクションコメディー作品だ。
設定はぶっ飛んでいるのですが、不思議とカナコには共感できるところがあります。
例えば、「身を置く場所を変えたら自分の新しい才能に気付くかもしれない」というところ。これは、誰にでも当てはまることのような気がします。
今の職場は大変だな、辛いな……と感じていても、もしかすると自分には別のフィールドがあるかもしれない。カナコを見ていると、そんなふうに思えるんです。
それって、心の支えにもなると思うんですよね。

過去にも数々のコメディー作品に出演してきたのんさん。そんな中でも、「殺し屋のコメディー作品は初めてで、新しい挑戦でした」と撮影当時を振り返る。
カナコは一般の企業で働いていた時と同じ感覚で「殺し屋」の仕事に打ち込んでいくんですけど、そういうところがちょっと世の中の人とずれていて面白い。
根暗で卑屈な面もあるくせに、めちゃくちゃポジティブ志向なところもあって、倫理観もぶっ壊れています(笑)
そういうぶっ飛んだキャラクターを表現できるように、メリハリやギャップを意識しながら演じました。
また、本作ではアクションシーンの撮影にも挑戦。撮影開始の2カ月くらい前からインナーマッスルの強化に取り組んだ。
アクションシーンはずっとやってみたかったことなので、今回の撮影でそれができると分かった時は、すごくワクワクしました。
せっかくやるなら、かっこよくコミカルに演じ切りたい。そう思って、事前に体づくりをすることから始めたんです。
トレーニングを始めた当初は体が重くて思うように動けなかったのですが、段々といい動きができるようになって、監督からも「筋がいい」と褒めてもらえた時はすごくうれしかったですね。
「長く働く」秘訣は、モチベーションの源泉を知ること

観てくれた人に「面白かった」と言ってもらいたい。その一心で、私を含め、みんなで力を合わせて撮影に臨みました
本作の撮影では、チームで一つのものを作り上げていく楽しさを再確認したと話すのんさん。仕事に取り組む原動力となっているのは、一緒にものづくりに取り組む仲間の存在だ。
作品ごとに一緒に撮影をするチームは変わりますが、そうやっていろいろな人と一緒に仕事をすることで起きる化学反応がすごく刺激的なんです。
役割も価値観もバラバラな人たちが同じ目的のもとに集まって、「あ、今みんなで良い作品が撮れてるぞ!」って感じられたとき、この上ない喜びを感じられる。
そういう瞬間が訪れるたびに、「やっぱりこの仕事は辞められないな」って思うんですよね。

長く仕事を続けていくためには、自分のモチベーションの源泉を知ることが不可欠。
自分は何のためなら苦労を苦労と思わず頑張れるのか、どんなときに自分はうれしいと感じるのかーー。
20代のうちにさまざまな環境に身を置いて、多様な人の価値観に触れることが、30代以降の「自分らしい働き方」を見つけることにつながっていくはずだ。
これからも役の中で魅力を放つような自分にしかできない演技をして、自分にしか出せない良さを発揮していきたいです。
そして、好きな仕事を長く続けていくためには、さまざまな経験を通して「自分がどんな人間なのかを知る」ことが大切なんだと思います。
何が好きで何が嫌いか。そういうことを分かっておけたら、自分のモチベーションを上げながら働いていけそうですね。

【Profile】
のんさん
兵庫県出身。2006年にファッション雑誌のモデルとしてデビュー。その後、映画やテレビドラマ、CMなどで幅広く活躍。16年、事務所独立をきっかけに名前を「のん」に改め、俳優業のみならず、アーティストとしての活動も開始。近年の出演作に映画『私をくいとめて』『さかなのこ』『天間荘の三姉妹』『Ribbon』『私にふさわしいホテル』などがある
作品情報

『幸せカナコの殺し屋生活』 2025 年 2 月 28 日(金)、DMM TV で独占配信スタート
監督:英勉
原作:若林稔弥「幸せカナコの殺し屋生活」(星海社COMICS)
出演:のん 藤ヶ谷太輔 矢本悠馬 山崎紘菜 菅井友香 菅田俊 木村多江 渡部篤郎
https://info.tv.dmm.com/original/pre-membership/kanako/
©DMM TV ©若林稔弥/星海社
取材・文/根津 香菜子 撮影/赤松洋太 ヘアメイク/森 香織 スタイリスト/町野泉美 編集/栗原千明(編集部)