【斎藤アリーナ】男社会な動画クリエーターの世界で「日本女性初・登録者1000万人」をわずか一年半で成し遂げた裏側

~進め、わが道。拓け、道筋~
先駆けの女性たち

国際女性デー記念特集「先駆けの女性たち」では、各分野で「初」を成し遂げた女性たちにインタビュー。前例や常識に縛られず、新たな道を開拓してきた先駆者たちのチャレンジマインドを紹介していきます!

ショート動画クリエーターの斎藤アリーナさん

『天才てれびくん』や『ムジカピッコリーノ』、現在では『ウェルカム!よきまるハウス』など、NHK Eテレの顔として、美しい声と愛くるしい笑顔で視聴者を魅了する、シンガーソングライターの斎藤アリーナさん。

実は彼女、YouTubeにショート動画を投稿し始めてからわずか1年半で、日本人女性チャンネル初の登録者数1000万人超えを果たした、トップ動画クリエーターでもある。

斎藤アリーナさんYouTubeチャンネル

斎藤アリーナさんYouTubeチャンネルより

「トップクリエーターは実は男性が多くて、私が登録者数1000万人に到達した時、女性のソロクリエーターでは初めてでした」とアリーナさん。

意外にも「男社会」の一面があるこの業界で、彼女が先駆者になれたのはなぜなのだろうか。

斎藤アリーナさん

斎藤アリーナさん

シンガーソングライター。2000年2月3日生まれ。東京都出身。日本とオーストラリアのハーフでバイリンガル。10年4月よりNHK Eテレ『天才てれびくんMAX』レギュラー (てれび戦士)に。その後、NHK Eテレ『3か月トピック英会話 英語で楽しむ!リトル・チャロ』NHK『連続テレビ小説 あまちゃん』NHK Eテレ『ムジカ・ピッコリーノ』などに出演。現在はNHK Eテレ『ウェルカム!よきまるハウス』に出演中。18年から本格的に音楽活動を開始し、ライブや楽曲リリースなどを行いながら、現在は動画クリエーターとしても活躍中。2024年、YouTube女性ソロクリエーターとして国内初の登録者1000万人を突破 ■XInstagramYouTube

今まで通りの音楽活動では、生き残れない

動画クリエーターとして活動を始める前は、音楽活動をメインにやっていました。

シンガーソングライターとして音楽を発信する毎日の中で、時代とともに音楽の消費のされ方が変わってきているのを感じたんです。

TikTokが台頭してきたと思ったら、あっという間にYouTubeでもショート動画が盛り上がり始めて──。

それらが音楽のトレンドに大きな影響を与えているのを目の当たりにして、「従来の音楽活動を続けているだけだったら、私の音楽はいつか届かなくなってしまう」そんな危機感が生まれました。

これが、私がショート動画クリエーターへの一歩を踏み出したきっかけです。

最初は、TikTokで「○○を歌ってみた」といった音楽の動画を上げていたのですが、早々に「これだけで数字を伸ばすのには限界がある」と思い、方針転換をすることに。

TikTokで「歌ってみた」動画をアップしていた頃の斎藤アリーナさん

TikTokで「歌ってみた」動画をアップしていた頃の斎藤アリーナさん

そこで優先することにしたのは、チャンネル登録者数・視聴数が最も伸びるコンテンツにすること。

「斎藤アリーナ」の認知度を高めれば、より多くの人たちに私の音楽を届けられるようになるし、将来音楽以外のことがやりたくなったとしても選択肢の幅を広げられる。

そんな考えから、動画の形態は音楽にこだわらず、最も数字が伸びる方法を取ることにしました

チャンネル登録者数の多いクリエーターたちの動画を片っ端から分析していって行き着いたのが、言葉を使わずに映像だけで楽しめる「非言語のショート動画」です。

どの国に住んでいても、どんな言葉を話す人でも理解できる動画にすることで、「潜在的な視聴者の分母を大きくする」ことがねらいでした。

今配信しているコンテンツは、子どもたちに楽しんでもらえることも意識しています。

世界全体で見ると、YouTubeでエンタメ動画を視聴するのは子どもがすごく多いので、これも「パイを大きくする」という考えから行き着いた戦略です。

いずれ世界を舞台に自分の音楽を発信していきたい。そう考えていた私にとって、海外の人をターゲットに知名度を上げていくのは、そういう意味でも合理的な戦略でした。

「あの人何やってんだろう」と思われることにチャンスが詰まってる

YouTubeにショート動画を投稿し始めて一年半がたった頃、チャンネル登録者数が1000万人を超えました。

「日本女性のソロクリエーターでは初めての快挙だ」と注目してくれる人も多かったのですが、「性別は関係ない」というのが、率直な感想です。

確かに、私がチャンネル登録者数1000万人に到達した時、男性ではすでに成し遂げている人が何人もいたのに、女性のソロクリエーターは日本に一人もいなかったのは事実。

登録者数を伸ばすためには、アップする動画の数もかなり影響するので、体力がものを言う世界でもあります。そういう面では、男性の方が成果を得やすい世界なのかもしれません。

朝起きてから寝る直前までずっと稼働しているタフな男性クリエーターを見ては、「私ももっと体力があれば、今の2倍は作れるのに……!」とはがゆい思いをすることもありました。

ただ、制作量に関しては工夫次第でいくらでもカバーできるので、「女性にはできない」理由にはならないなと思っていて。

例えば、「むだを省く」ことで体力差はカバーできる。私はデータをしっかり分析したり、人気のクリエーターの動画の傾向を見て感覚を磨いたりすることで、一つ一つの動画の質を上げるようにしています。

動画作成の工程でも「ここを省いても質は変わらないな」と思うところはどんどん効率化しています。

このジャンルはまだ女性が少ないので、周囲や世間の人たちから理解されないことも多々あります。

始めた頃は「あの人、何やってんだろう」という目で見られることもありましたが、私はチャンスだと捉えていて。

自分のキャリア戦略に明確な根拠を持っていたので、理解されにくかったことは何も問題に感じていませんでした。

非言語のショート動画を作っている女性クリエーターは少ないので、女性というだけで一つの差別化になるし、こうやって「女性初の快挙」と注目してもらえるのも、女性であることのアドバンテージですよね。

女性が少ないフィールドに飛び込むことの障壁ももちろんあるけど、先人がいないからこその「うまみ」もたくさんある。

女性であること自体が個性になる環境なら、うまみに転換して生かしちゃえばいい。そして、それ以外の場面では女性であることを意識しない。そんなマインドでやっています。

目標は「人生を楽しくする」スパイス

クリエーター活動って華やかに見えるけど、大きな波もないし、毎日コツコツ続けていくことが成果を生む一番の近道なんですよね。なんだか、「終わらないマラソン」みたいだなと日々感じています。

だからこそ私は、あえて目標を高く掲げて、意図的に「野心」を持つようにしています。

目標を立てる醍醐味って、達成した時に感じるものではなくて、達成に向かっていく過程で感じるものだなと思っていて。

誰も成し遂げたことがないことに近づいていく過程は、本当に楽しいし、ワクワクします。

「誰もやったことがないことなんだから、できないのではないか」と思ってしまいがちだけど、成し遂げるためのヒントはあらゆるところに転がっているもの。

違うフィールドに目を向けてみたら似たようなことを成し遂げている人がいるかもしれない。その人の「自分に活かせそうな要素」を探して落とし込んでみるみたいなことが重要だと思っています。

ショート動画の撮影をする斎藤アリーナさん

チャンネル登録者数1000万人を突破した今、次は1億人を目指したいなと思っていますが、これはあくまで「人生や仕事を楽しくするため」の短期的な目標に過ぎません。

たくさんの人に私の存在を知ってもらったその先のことは、時代のニーズを見極めながら考えていきたいなと思っています。

自分の得意なことを生かしつつ、時代に合わせてそれをアップデートし続けていければ、楽しく働きながら、私らしい生き方を続けていけるんじゃないかな。

取材・文/光谷麻里(編集部) 写真/斎藤アリーナさんご提供