【米良はるか】日本初のクラウドファンディング企業を立ち上げた起業家の「期待を超える」にこだわり続ける仕事マインド
国際女性デー記念特集「先駆けの女性たち」では、各分野で「初」を成し遂げた女性たちにインタビュー。前例や常識に縛られず、新たな道を開拓してきた先駆者たちのチャレンジマインドを紹介していきます!

2011年3月、日本初のクラウドファンディングサービス『READYFOR』が誕生した。事業を立ち上げたのは、当時まだ大学院生だった米良はるかさん。
「みんなの想いを集め、社会を良くするお金の流れをつくる」というパーパスを掲げ、サービス開始以来、集まった資金の累計流通額は480億円、プロジェクト掲載数は2万9000件、支援者数は170万人以上。(※2025年2月時点)
日本にクラウドファンディングの概念を広める旗振り役になるとともに、起業家として寄付型クラウドファンディングにおいて業界ナンバーワンのシェアや支援額を誇るビジネスへと成長させた。
学生起業だった創業当初を振り返り、「私自身はあまり気にしていなかったけれど、周囲の起業家や投資家からは、若いから・女性だからと軽くみられることもあったと思う」と打ち明ける米良さん。
そんな中でも、彼女が日本初のサービス立ち上げに挑戦し、「新しいスタンダード」へと育てあげられたのはなぜだったのだろうか。

READYFOR株式会社 代表取締役CEO
米良はるかさん
慶應義塾大学卒業。2011年日本初のクラウドファンディング『READYFOR』を開始。2014年に株式会社化し、代表取締役CEOに就任。日本人史上最年少でダボス会議に参加。「新しい資本主義実現会議」等の政府有識者会議の構成員を務める■X
「やってみたら?」と言われても動かない人だと思われるのが嫌
私が日本初のクラウドファンディングサービス『READYFOR』を立ち上げたのは、大学院に在学していた24歳の時です。
スタンフォード大学に留学した際に、当時米国で注目され始めていたクラウドファンディングを知り、帰国後に事業をスタートしました。
私は昔から「自分が何をすれば、人々が豊かな人生を送れるようになるだろう?」と考えるのが好きでした。
世の中には何かにチャレンジしたいと思っても、資金や社会的信用が足りなくて行動できない人たちがたくさんいます。その状況を変えることができたら純粋に面白いと思ったんです。

スタンフォード大学留学中の米良さん
実際に大学生の頃、パラリンピック日本代表スキーチームが資金不足で困っているとの話を聞き、インターネット上で小口の資金を募る投げ銭サイトを立ち上げたことがあります。
その結果、100万円以上の資金が集まり、われながら「なかなかいい仕組みだな」と思っていたところ、留学先でそれをクラウドファンディングと呼ぶことを知りました。
だったら日本でもこの仕組みを広げて、新しいお金の流れを生み出し、世の中の流れや人々の行動をポジティブに変化させたい。それがサービスを立ち上げた動機です。
だから自分の好奇心に突き動かされるまま行動したら、結果的に起業することになったという感じで、まさか自分が経営者になるとは思ってもみませんでした。
そもそも当時の日本では起業家の存在がまだめずらしく、そんな選択肢があることすら分かっていませんでしたから。

ところが留学先でその認識は一変しました。
スタンフォード大学は数多くの起業家を輩出していて、自分と同世代の学生たちも当たり前のように起業を目指していたのです。そして知れば知るほど、起業家は自分のマインドに合う仕事だと感じるようになりました。
起業家は新しい物事にチャレンジするのが仕事です。そして私は挑戦に対するハードルが低く、リスクテイクを怖がらない。おそらくリスクに対する許容度がもともと高い性格なのだと思います。
私はそれよりも「やりたいことがあるのに動かないんだ」と周囲に思われるのが嫌なんです。
自分はクラウドファンディングがやりたくて、「やってみたら?」と言ってくれる人もいるのに、立ち止まったままでいたら「なんだ、こんなものか」と思われるじゃないですか。それが悔しいというか(笑)
私にボールを投げたら、期待を超えたアウトプットが返ってくる。そんな存在であり続けたいというのが私の基本スタンスです。
「米良さんに声を掛けたら何かすごいことをやってくれる」と思ってもらえれば、面白い話がどんどん舞い込んで、私自身の人生も新たな可能性が広がっていく。私はそれがすごくワクワクするし、起業の原動力になりました。
「今までなかったものを生み出す」ことに時間を使いたい
とはいえ、新しいことにチャレンジするのは大変でもあります。特に私の場合、クラウドファンディングという日本では誰も知らないサービスの普及に挑んだので、苦労もありました。
しかも社会人経験がないまま起業したので、会社や組織がどんなものかもよく分からず、経営者としてのあり方に悩んだ時期もあります。
それでも創業当時を思い返すと、ものすごく楽しかった。何もかもがゼロからのスタートなので、上がることはあっても、これ以上は下がることはない。メンタルがしんどくなるのって、やっていることがうまくいかずに下がっていく時じゃないですか。
だから「0→1」の起業って、実はとんでもなく面白いんです。

創業1周年記念パーティーの時の一枚
私は根底に「今までにないものを作りたい」という思いを持っています。自分たちの人生を懸けてやることによって、新しいお金の流れが生まれるようなことに時間を使いたいと思っています。クラウドファンディングサービスはまさに、その思いがかたちになったものです。
クラウドファンディングには、支援の対価として物品やサービスを支援者にリターンする「購入型」と、金銭的な価値のあるリターンを必要としない「寄付型」があります。
購入型はeコマースと同じ感覚で利用する支援者も多く、米国でも大きなマーケットを築いています。ですから事業の拡大だけを目的とするなら、日本でも購入型を中心にビジネスを展開した方が堅実だったかもしれません。
でも私は先ほど話したように、従来の資本主義市場では借り入れや資金調達が難しい個人や組織のチャレンジを支えたいとの思いが原点にあり、「このサービスがあるからより良い社会を実現できる」と自信を持って言えるものを作りたかった。
だから「物品のリターンがなくても応援したい」「社会貢献がしたい」と考える支援者をターゲットとして、事業成長を目指そうと決めました。
日本において「寄付型」の市場は小さかったですが、プラットフォームがまだないだけで、いいサービスを作れば絶対に伸びるという自信もあったんですよね。
加えて、今後寄付を集めざるを得なくなる領域も増えていくだろうなという確信もあって。
例えば、人口減少や財政難を背景に、美術館や博物館、研究機関、大学など、日本の文化や教育を担う領域でさえ、国や自治体の予算では支えきれなくなっています。
そこへ寄付型を通じて新たなお金の流れを作ることができれば、日本の大事な資産を民間の力で守っていけるのではないか。
そんな可能性も感じ、「寄付型」に軸足を置いて事業をスタートした『READYFOR』は、寄付型に強いクラウドファンディングとして認知され、2023年11月には国立科学博物館のプロジェクトが国内のクラウドファンディングにおいて史上最高額となる約9億円を達成するなど、多くの支援を集めています。

「若い女性だから」と軽く見られたって別にいい
サービスの立ち上げから14年が経つ今も、次々とやりたいことが出てきて、新たなチャレンジが続いています。
こうやってチャレンジし続けることができてるのも、私自身性別や年齢を気にせずに走ってきたからかもしれません。
「若い女性の起業家ならではの壁やハードルはなかったのか」という質問をよく受けますが、正直言って自分ではよく分からない。
ただ、「明らかに軽く見られてるな」と感じることはいくらでもあります。でもそれが女性だからなのか、年齢によるものなのか、あるいは私のキャラクターの問題なのかは分からないんですけどね。
あとになって周りから「あの時は、女性の起業家だからチャンスがなかったんだよ」と言われたこともありました。
「学生だから」「女性だから」と軽く見られることはきっとあっただろうし、今でもあると思っていますが、私は全く気になりません。
というのも、期待値を超える結果を出せば、相手は「思ったよりすごいね」と思ってくれます。それを繰り返していけば驚きに変わっていき、大事な仕事相手として信頼されるようになり、次はもっと大きなチャンスが回ってきますから。
むしろ私は、最初から「こいつはすごそうだ」と思われるほうが嫌。期待値が高すぎると、それを超えるのは大変じゃないですか。だから第一印象で軽く見られたら、ある意味ラッキーと思えばいいんです。
裏を返せば、信頼を積み重ねない限り、チャンスはめぐってこない。だから男女問わず、一つ一つの仕事で高速かつ高品質のアウトプットを出すことに集中すればいい。それに尽きると思います。

もちろん20代の頃はまだスキルや経験値が足りないから、全力で取り組んでも思うような成果を出せず、悔しい思いをしたこともたくさんあります。それでもめげずに頑張っていると、30代に入った頃から少しずつ楽になる。少なくとも私はそうでした。
15年近く起業家をやってきて感じるのは、「マジで楽しい日」と「マジでつらい日」が交互にやってきて、ジェットコースターみたいに急上昇と急降下を繰り返すのが仕事なのだということ。
「もうメンタルがもたない」と思うくらいキツい日が続いても、しばらく経つと面白い話が舞い込んできて、「よし、これはいける!」と意気込んだら、また難題が降りかかる。今もそんな日々が続いています。
だからこそ私は、目の前の仕事を毎日きちんとやることを何より重視しています。次の好機を呼び寄せるのは、過去の努力です。
つらい時期も泥臭く努力を重ねていれば、また必ず楽しいことが起こる。これからも私はそんなマインドで仕事と向き合い続けていくのだと思います。
ただしこれはあくまで私の考え方であり、自分がどのような人生を送りたいかによって、思考や行動は当然変わります。極端なことを言えば、「仕事を頑張らないことが私の幸せ」という価値観の人がいても別にいいはずです。
私に言えることがあるとすれば、周りと自分を比較する必要はないということ。人生はその人のものであって、どんな生き方や働き方を選択するかは自分で決めればいい。
人生の方向性と仕事がうまくフィットすれば、どんな道を選んでも、おのずと成果を出せるようになる。私はそう思います。

取材・文/塚田有香 写真/本人提供 編集/光谷麻里(編集部)
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