【井上咲楽】眉毛で大胆イメチェンの再出発から5年で学んだ、「なりたい自分」に固執するより大切なこと

Woman type4月の特集では、転職、起業、出産など、キャリアの転機を経てリスタートをきった女性たちにフォーカス。再出発を経験した彼女たちの事例から、サステナブルに仕事を頑張り成果を上げていくための「良いスタートダッシュ」の切り方を提案します!
「これといった強みも個性もない。そんな自分に自信が持てなくて、ずっと不安を抱えていました」
そう打ち明けるのは、タレントの井上咲楽さん。
2015年に芸能界デビューを果たして鮮烈な印象を残した彼女は、その5年後にトレードマークだった太眉を剃り落としてイメージを一新。
「ゲジゲジ眉毛のちょっと変わった女の子」は、いつの間にかコスメ雑誌の表紙を飾り、グラビアや俳優業、人気番組のMCなどにも挑戦するマルチタレントへと成長した。
大胆なイメージチェンジで芸能生活をリスタートした彼女が気付いた、長く仕事を続けていく上で大切なマインドとはーー。

【Profile】
井上咲楽さん
1999年10月2日生まれ、栃木県出身。番組企画で太眉毛をカットして美女に大変身したことで注目を集め、現在は『新婚さんいらっしゃい!』(ABCテレビ)のアシスタントを務めるなど多数の番組で活躍。国会傍聴、マラソン、料理など多趣味で知られる。初のレシピ本『井上咲楽のおまもりごはん』(主婦の友社)や、自身のこれまでを赤裸々につづったエッセイ『じんせい手帖』(徳間書店)など好評発売中 X
「眉毛の子」どまりの自分に悩んだ日々
とにかくテレビに出たい、有名になりたいーー。それが幼少期からの夢でした。
10代の頃にあこがれていたのはインフルエンサーのkemioさん。当時は6秒動画を投稿できる『Vine』というアプリが流行っていて、SNSで個性を爆発させて有名になっていくkemioさんが本当にかっこよくて。
自分にないものを持っているkemioさんがうらやましかったし、後にも先にも「追いかけたい」と思ったのは彼だけです。
一方、「芸能界に入りたい」気持ちだけがあった私は、事務所のオーディションを片っ端から受けまくり、スカウトされるために原宿の竹下通りを1日に何往復もする……そんな高校生活を過ごしていました。
結果として、ホリプロが主催する新人発掘オーディション『ホリプロスカウトキャラバン』(2015)で特別賞をいただいて、その後は「眉毛の子」として少しずつお仕事をいただけるようになりました。

「オーディションでは『芦田愛菜のモノマネをしながらスルメを食べる』という芸を披露して決勝に勝ち進みました」(井上さん)
ただ、人気番組への出演機会が増えていく中、自分の力量以上の場所にいる感覚が常にあったんです。
バラエティー番組でひな壇に座ると、周りには「トークの神」みたいな人たちがずらりといるわけで……。
神々に囲まれて縮こまってしまい、収録後には「あれじゃ普通すぎる」ってマネージャーさんからはよく𠮟られました。
「普通じゃだめなんだ、もっと変わったことをしなきゃ」と思って何とか自分の話をするんですけど、みんなが全く笑っていない気がしてつい声が小さくなっていってしまう。
周囲から向けられる視線が「お前はつまらないやつだ」と言っているような気さえするーー。周りを直視したくないがためにコンタクトをつけず、ぼやけた視界のまま撮影現場に行ったこともあるくらいです(笑)
何をやっても「眉毛の子」としか認識されない、眉毛に負けちゃうくらいの個性しかない。そんな「何もない私」がテレビに出続けるためには、奇をてらったことをしなきゃダメなんだ。
そう思って、好きでもない、興味もない趣味をいろいろ増やした時期もありました。あとは、広尾にあるプレハブの家に住んでみたり、人の名前を音訓読みする練習をしたり(笑)
芸能界で生き抜く武器を増やしたい一心で「打算的な挑戦」を続けていたんですけど、周りからは痛々しく見えていたでしょうし、心配もされていたと思います。
でもそれくらい、「つまらないやつ」だと思われるのが怖かったんです。
個性的な眉と別れて「井上咲楽」の個性を発見

デビューから5年が経って20歳になった頃、ある転機が訪れました。
当時放送されていた『今夜くらべてみました』(日本テレビ)という番組で、「眉毛を剃ってみませんか?」というオファーをいただいたんです。
意外かもしれませんが、迷わず「やります」と答えました。
変な話ですけど、「眉毛>井上咲楽」という状況になっているのがすごく嫌だったんです。だって、眉毛にインパクトで負けているなんて、悔しいじゃないですか(笑)
ただ、いざ眉毛を剃ることが決まると、やっぱり不安も出てきました。
唯一の個性がなくなるわけですから、自分が一番恐れていた「普通」によりいっそう近づいてしまうんじゃないかって。
この眉毛があるから陽キャっぽく見えていたのに、剃ったら一気に、陰キャで超絶ネガティブな本当の自分がバレてしまうことも心配でした。

2017年撮影
でも、いざ眉毛を剃ってイメチェンしてみてびっくり。そんな心配をしていたのが、ばかばかしく思えるくらいの良い変化が起きました。
一つは仕事が一気に増えたこと。
それまではバラエティーへの出演がほとんどでしたが、女性誌の撮影、グラビア、俳優業、そして『新婚さんいらっしゃい!』のアシスタントMCの仕事までオファーをたくさんいただくことができました。
もう一つは、素の自分を出しやすくなったこと。
イメチェン後、眉毛を剃った私を見た視聴者の方が「普通の子になっちゃったな」ってSNSに書き込んでいるのを見つけたことがあったんです。
ちょっとショックでしたけど、一方で「なるほど、もう普通のことを言ってもいいんだ」と安心した自分もいました。「普通の見た目になったんだったら、発言ももっと普通でいいや」って吹っ切れて。
結果的に、自分が思ったことを素直に言いやすくなったり、自分からすると「普通」だと思っていたことを周囲の人が面白がってくれるような現象もあったりで、逆に個性を出せるようになりました。
これはすごく不思議な感覚なんですけど、個性的な見た目をやめたら、内側から個性が出てきたというか。
自分がもともとやってきたこと、好きなことや嫌いなこと、そういうものが自然と出てきて仕事につながるようになったんです。
「やる・やらない」で迷ったら、「やる」一択

このイメージチェンジは間違いなく私にとっての大きな転機ですし、タレントとしての再出発にもなりました。
そして、この時に新しく舞い込んできたお仕事は、美容やグラビアなど、これまでにやったことのないことばかり。
「私なんかがやっていいの?」と思うこともあったけれど、やるかやらないかで悩むくらいなら、全部やってみようと腹を決めました。
なぜなら、過去の仕事を振り返ってみても「やらない方がよかったな」と思うものは一つもなかったから。
例えば、マラソンの仕事もそう。最初に仕事のオファーをいただいた時は、それがどう次の仕事につながるとか、努力したからどうなるとか、正直なところ分かりませんでした。
でも、走るのはもともと得意だし好きなことだったから、やり始めたらハマってしまって。
24年には『FNS27時間テレビ』(フジテレビ)の「100キロサバイバルマラソン」にも出させていただくことができましたし、先日は『東京マラソン2025』を完走して自己ベストを更新することもできました!
東京マラソン!
3時間24分23秒!自己ベスト更新しました。
約3万7000人中、631位でした。あつかった〜!走れて嬉しかったです!
何回走ってもフルマラソンを攻略できません。辛くて苦しいから楽しいになるんだろうな。ありがとうございました!
次を目指します! pic.twitter.com/uu7uQ0FD1j— 井上咲楽 (@bling2sakura) March 2, 2025
「これって何の意味があるんだろう」と思うような仕事でも、とりあえずやってみる。
すると、数カ月後、数年後……いつになるか分からないけど、まるで答え合わせのように「あの時、頑張ったから今につながっている」と思える瞬間が必ずやってくるんですよね。
だから、再出発後にオファーをいただいた新しい仕事は、食わず嫌いせずに何でも全力で取り組んできました。
「あのちゃんみたいになりたい」考え直した自分の役目
あともう一つ、リスタートを切った私が大切にしてきたことがあります。それは、みんなの役に立つことで「自分の役割」を見極めること。
以前の私はタレントなんだから「目立たないといけない」という焦りから、陽キャを演じて奇抜なことを話そう・やろうと必死でした。

でも、バラエティーの現場にはトークの神たちがたくさんいるわけで、私はみんなの話をよく聞く人という立ち位置でもいいんじゃないかと思うようになったんです。
そう思えるようになったのには、あるきっかけがあります。
以前、とある番組の撮影で、あのちゃんとご一緒したことがありました。
その時、私はすごく緊張しながらトークをしていて、「ごめんなさい、皆さんつまらないですよね(汗)」っていう気持ちでいっぱいだったんです。
でも、ふと顔を上げてあのちゃんに目を向けたら、めちゃくちゃ深く頷いてくれていたんですよ。それを見たら何だかすごく安心して、「頑張ってしゃべろう」っていう気持ちになれました。
それ以降、自分もあのちゃんみたいな存在になれたらいいなって思ったんです。うまく話せないなら、うまく聞いてあげられる人になればいいじゃん、と。
うまく話そうと必死だった時は自分のことを考えるので精一杯だったから、ほとんど周りの人の話は頭に入ってきていなかったんです(笑)。だから、撮影中もずっと表情はがちがち。
でも、うまくしゃべるのは諦めようと思って「聞く」ことに徹してみたら、すごく楽しくなって、撮影中にめちゃくちゃ笑えるようになりました。
そうしたら、番組のオンエアで私がめっちゃ笑ってる顔が何度も抜かれて使われていて驚きました。
自分が憧れるのは「トークの神」みたいな面白い人たちの方だったから、そっち側に行くのを諦めたことや、やろうとしたのにうまくできなかったこと自体はすごく悔しいんです。
でも、仕事っていろいろな役割を持った人たちが集まって力を合わせてできるものじゃないですか。だったら、これが「聞き役」だったり「共感役」が私の役目なんだろうなとも思う。
なりたい姿にこだわるより、みんなと一緒にいい仕事をするための「役目」を全うする。それができたらもういいじゃんっていう気がするんですよね。
「不安だった未来」が今では楽しみに

そして、再出発後の変化として大きいのが、未来のとらえ方が変わったこと。
イメチェン前の私は、どうなるか分からない未来が不安でたまらなかったし、何かが変わってしまうことが「怖い」と思い込んでいました。
でも、実際は「変化すること」を受け入れたから、自分の未来が良い方向に動きだしたんです。
例えば、「眉毛に負けない」と決めた私がいたから、こんなにいろいろな仕事に挑戦させてもらえる未来がやってきたし、よりいっそう自分らしく働けるようにもなりました。
さらに、自分の素の姿をYouTubeで発信したり、今回執筆した『じんせい手帖』(徳間書店)の中でも紹介させていただいたりして、共感してくれる人たちの存在が心の支えになっています。
普通でネガティブな私でも、こんなにたくさんの人に「好き」だと言ってもらえる。それが「私は私のままでいいんだ」という安心感や自信を与えてくれました。
このかけがえのない経験ができたからこそ、変化していく未来を楽観視できるようになったんだと思います。
まぁ、基本的にはネガティブなので、不安が一切ないといえばうそになりますけどね(笑)。それでも、「何が起きてもどうにかなるさ!」 と思えるくらいの精神が身につきました。
転職、キャリアチェンジなど、リスタートを切ったばかりの人はもう、すでに変化を起こした人たちだと思います。だから、その時点でもうすごいことです。
そこで大事なのは、何でも貪欲に「やってみる精神」と、新しい環境の中で自分の役目を見極めるバランス感覚。偉そうなことは何一つ言えませんが、少しでも私の経験が、皆さんの役に立てたらうれしいです。
書籍情報:『じんせい手帖』(井上咲楽著/徳間書店)

歌が歌えるわけでもない、演技ができるわけでもない、モデル出身でもない。そんな何者でもない井上咲楽がテレビに出続けられる理由――。「笑顔で明るくいつも元気」というパブリックイメージを持つ井上咲楽が、テレビに出演しながらも抱えてきた「不安」や「悩み」、「ブレイクまでの苦悩」「自己肯定感の低さ」「生きづらさ」などについて赤裸々に綴ったエッセイ
取材/大室倫子 文/栗原千明(編集部) 画像/徳間書店提供(撮影:荻原大志)
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