【蒼井翔太】誰にも孤独でいてほしくない。不登校経験から誓った「現場のムードメーカー」貫く働き方

透き通るような白い肌に、艶やかさと可愛らしさをあわせ持つ表情。「エンジェルボイス」とも評される、唯一無二のハイトーンボイスーー。そんな特徴を持つのが、声優であり、歌手・舞台俳優としても活躍する蒼井翔太さんだ。
2011年に声優デビューを果たしてからは、『うたの☆プリンスさまっ♪』の美風藍役でブレーク。『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』ジオルド・スティアート、『KING OF PRISM』如月ルヰ、『ヴィジュアルプリズン』ハイド・ジャイエなど、数々の人気作品で声優を務め、存在感を発揮してきた。

「よろしくお願いします!」
そう言って深々と頭を下げて取材陣を部屋に迎えてくれた彼は、そこにいるだけで周囲を明るく照らすエネルギーに満ちている。
僕自身は現場にいるだけで、「みんなを元気にするような存在」でいたいんです。一緒に働く人たちみんな、誰一人として疎外感を抱いてほしくないから。
チームで仕事をする時の役割やスタンスについて問うと、蒼井さんは迷いなくそう答えた。
彼が「現場のムードメーカーでいること」を貫く理由とはーー。
「自分が感じた孤独」を誰にも味わってほしくない
蒼井さんはチームで仕事をするときにムードメーカーでいることを大切にしているということですが、そう意識するようになったきっかけは何だったのでしょうか?
幼少期の経験が大きく影響していると思います。
小学生の時から長く不登校で、中学も高校もまともに行けなかったんです。学校に馴染むこともできなければ、家から一歩も出られない。そういう時期が長くありました。
自分の声、見た目、性格……「自分は人とは違うんだ」「周りの人から変だと思われているんだ」という思いにとらわれていたんです。

当時はもう、周囲の人たちの輪から自分だけ除外されたような感覚で、すごく、すごく孤独でした。
でも、その時の経験があるから僕はいま、「自分と同じような思いをする人がいなくなってほしい」と本気で思っています。
そして、少なくとも自分がいる現場では誰にも疎外感を抱いてほしくないし、「自分もこの場の一員なんだ」って思っていられるようにしてあげたい。そういうこだわりが強いんです。
だから、自然と自分がムードメーカーでいなきゃって思うようになっていたんですよね。
現場のムードメーカーでいるために、心掛けていることは?
とにかく自分がハッピーでいること。僕自身のぶっ飛んでいるところも含めて、「見ていて楽しいな」「何だか面白いな」っていう人でいることです。
人のことをよく観察しているから、元気がなさそうな人がいたらすぐに気付いて声をかけてあげることもあるし、仲間に何かあったら率先して心配する……みたいなところもあるんですけどね。
やっぱり、自分自身が元気でいて、ハッピーを周囲に届けることが大事なのかなって思うんです。
忙しく仕事をしている中で「いつも元気を振りまく自分」でいることに疲れてしまうこともあるのではないかと思うのですが、蒼井さんにもそういうことはありますか?
ありますよ。ふと、我に返ったときに孤独を感じてしまうこともあるし。
でも、そういうときって自分がそう思い込んでいるだけだったり、単に疲労でネガティブになったりしているだけのことも多いんですよね。
そういうモードになったときは、どうするんですか?

身近な人たちに話を聞いてもらって、少しでも孤独から遠ざかるようにしますね。
例えば、僕の場合はファンの皆さんもいますから、心強いですよ。
この前、ライブ配信をしている時にね、ふと「孤独を感じる」っていうことをお話ししたんですよ。そんな風に打ち明けたのは、生まれて初めてだったと思います。
そうしたら、「私たちがいるよ」っていうような温かいコメントを本当にたくさんいただいて。そうだよね、応えてくれてありがとうって、すごく心強く思いました。
だから皆さんも遠慮なく、ネガティブな気持ち、疲れちゃった気持ち、周囲の人に吐き出してみたらいいと思います。
きっと救いになる言葉をくれる人や寄り添ってくれる人がいてくれるはずですから。
かばちゃんは、自分そのもの
蒼井さんが声優として参加される映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』が5月1日に公開されますね。本作で蒼井さんはかばちゃん役を演じられていますが、かばちゃんはまさにどうぶつアイドルグループのムードメーカー的存在ですよね。

映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』の舞台はおかしと人間が仲良く暮らすスイーツランド。歌って踊るスーパーアイドル「たべっ子どうぶつ」たちが大人気。
しかし、この世の全てのおかしを排除して世界征服をもくろむ凶悪な「わたあめ軍団」に、ぺがさすちゃんが囚われてしまう。かわいいだけが取り柄で戦闘力ゼロのたべっ子どうぶつたちは、大切な仲間を助けてスイーツランドを救うべく立ちあがる
そうなんです。この作品の台本に目を通した時、かばちゃんはまさに「僕そのもの」だと思いました。
かばちゃんは、かわいいだけじゃなく、みんなを気遣う優しさを持っているし、お姉さん的存在だから発言に説得力がある。
ムードメーカーなんだけどしっかりものでもあるというキャラクターにすごく共感したし、自分に通じるところばかりだったから、もう必要以上の役作りはせず、自然体で演じさせてもらいました。

蒼井さん演じるかばちゃんは、ここぞとばかりに一発ギャグを仕掛けてくる、たべっ子どうぶつのムードメーカー的存在。誰に対しても愛情たっぷりで、ゾーンに入ればその巨体を揺らして誰よりも速く走ることができる
蒼井さんが普段から仕事をする上で大事にしている姿勢と、かばちゃんのキャラクターがぴったり重なっていたんですね。
そうなんです。
そして、かばちゃん役に蒼井翔太という声優を起用していただいたっていう時点で、期待されているのはムードメーカーの部分だろうということも考えました。
やっぱり、映画の中ではちゃめちゃにやるかばちゃんを観ていて楽しくなる、歌を聴いてワクワクする。そういう感情を刺激するような仕事が求められていると思ったので、自分自身が思い切り楽しんで役をやらせていただきました。
ありったけのハッピーをかばちゃんに託してモリモリにつめ込むような気持ちでしたね。
完成した作品をご覧になっていかがでしたか?

どうぶつたちが「かわいい」の力で世界を救っていく姿にすごく癒されるんですけど、最後に心の中に残るのはそれだけじゃなくて。
この世界でいろいろな人と関わり合いながら生きていく上ですごく大切なことや、生きづらさをちょっと軽くするための考え方なども教えてくれる作品だなと思いました。
作品の詳細はぜひ劇場で見ていただけたらなと思うのですが、特に僕自身に響いたのは「見栄は極力いらないんじゃないか」という考え方。
みんな頭ではそう分かっていても、意外とできていないことも多いと思うんです。
でも改めて、自分たちが手放した方がもっと楽になることだったり、生きやすくなったりするようなことを気づかせてくれる作品ですね。

自分を偽ることだけはしたくない
映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』しかり、話題作・人気作への出演が続いています。声優・歌手・俳優業はいずれも競争の激しい世界ですが、蒼井さんが長くこの世界で仕事を続けてこられたのはなぜだと思いますか?
僕がプロとして意識してきたことを一つあげさせていただくと、「うそをつかないこと」だけは徹底してこだわっているんです。
作品に対しても、役に対しても、僕の演技や歌を観たり聴いたりしてくださる人に対してもそう。
例えば、何かの職業を演じるときに、よくその職業のことを知らないまま適当に演じてしまうことはしたくないんです。
「本当はそんな仕事じゃないのに」ってその職業をやっている方が観てがっかりするのも嫌だし、「そういう職業なんだ」って観ている人に事実と異なる印象を残してしまうのも嫌。
だから極力、自分なりに下調べをしっかりして、自分の中でその役を「確かなもの」にしてから演じたい。
自分がもう何年もその職業をやってきた人かのような……それくらいの状態で「うそのない芝居」をしたいんです。
歌もそうで、自分が思ってもいないことを歌詞には書きたくないし、口にしたくはないですね。

仕事をしていると「求められること」をやらなければいけないシーンもありそうです。
はい。周囲の期待を察して動くことは大事だし、求められることに応えることも大事です。
ただ、そんな中でもできる限り「偽らない自分」でいたいから、そのための努力やコミュニケーションは惜しまずにします。
例えば、今回のような取材があった時に、写真を撮っていただくじゃないですか。
以前、「この本を持ってポーズをとってください」って言われたことがあったんですね。
それで、渡された本を開いてみたら、見た目はかっこいい洋書なんだけど、何語で書いてあるかも分からないし、一切読めなかったんですよ(笑)
カメラマンさんからしたら単に撮影のアイテムだったと思うんですけど、こういう場合も、僕自身は読めない本を持って写真に写るのは「偽りの自分」のような気がしてしまって。
だから、「僕、こういう本は読まないです」ってお伝えして、「これだったら僕が読んでるかも」っていう本を代わりに持たせてもらいました。
正直、この程度のことでこだわって、面倒くさい人だなって思う人もいらっしゃると思います(笑)
でも、それくらい僕にとってはリアリティーが大事。なるべくありのままの自分を発信して伝えていくことを大切にしてきました。
一緒に働く人から「面倒な人だな」って思われるのって、仕事を失うリスクにもつながりかねないわけで、怖くないですか?
そういう気持ちも少しはありますけど、でも「伝え方」でカバーできますね。
最初の提案をくださった方を傷つけないようにムードを大切にしつつ、明るく自分の考えを伝えます。
わがままかもしれないけれど、やっぱりうそをつきたくない。「自分の軸をぶらしたくないんです」って誠意を込めてお話しすれば、分かっていただけますしね。
「自分を偽らない」ことを貫いてきた蒼井さんだからこそ、応援してくれる人や「仕事を任せたい」と思う人たちが結果として増えていったんでしょうね。

そうだとありがたいですね。
そして、「自分を偽らないこと」はセルフブランディングとは関係なく、単純に自分自身が苦しくならずに仕事を続けていくためにも、すごく大切なことだと思います。
どんな人でも絶対に「本当の自分とは違う自分」を演じた経験ってあると思うんですよ。
例えば、子供の頃に仲良くなりたい子がいたとして、その子に自分をよく見せるために、好きでもないものを好きって言ってみたり、ファッションの系統をその子に寄せてみたり。
あるいは職場でも、自分のできないことまで「できる」と言って見栄を張ってしまったり、周囲に求められる自分のキャラを作り上げてしまったり。
でも、そうやってちょっとずつ重ねたうそは、自分を押しつぶすものへと次第に膨らんでいってしまい、結局のところ誰のこともハッピーにしないんですよね。
思春期の時に家から出られなかった僕はまさにそんな感じで、人からの見られ方を気にして見栄や虚勢を張り、息苦しくなって身動きがとれなくなっていました。
その苦い経験があるから、もう自分を偽るようなことはしないし、口にしないって誓ったんです。
ムードメーカーであることを大事にしている蒼井さんだからこそ、自分の心を元気に保つための方法も、しっかり心得ていらっしゃるんですね。

はい。そこはすごく気を付けていますね。人に元気を与える人でいるには、やっぱり自分が元気でいないとって思うので。
最近、自分の感情を作品として形にするような活動もやっているんですけど、これもすごく効果がありますよ。
感情を作品にするというのは?
何でもいいんですけど、少し前に僕が挑戦したのは、生け花や陶器づくり。ろくろ(轆轤)を回して器をつくりました。
これまでは、自分の感情を文字にして書き出すことがあったんですけど、それ以外にも、自分の今の気持ちを創作活動にぶつけてみたらどうかなと思ってやってみたんですよ。
時間が空いた時にそういうことをやっているんですけど、それが自分の気持ちを整理する上ですごく良い。
しかも、嫌なことがあっても何かカタチにできたら、「こんなに良い作品になっちゃった!」ってうれしくなるし(笑)
嫌なことがあったときでも、自分の中で消化しやすくなるんですよね。
日々のいろいろな感情を創作活動にぶつけることが、心のケアにもなっているんですね。
まさに。あとは、ワンちゃんとか猫ちゃんの動画は、ずっと見てしまいますね(笑)
あ~もうかわいい! って言いながら、仕事の合間も動画を見てにやにやしてしまう。かわいい動物たちには、いつも元気をもらっています。
やっぱり、仕事を続けていくには自分が元気でいることが一番大事だから。
僕がやっていることで参考になればぜひ試してみてほしいですし、皆さん一人一人が自分が元気になれる方法を見つけられるといいですよね。

作品情報
映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』2025年5月1日全国ロードショー

松田元太 水上恒司 髙石あかり 藤森慎吾 蒼井翔太 小澤亜李 水瀬いのり 東山奈央 立木文彦
間宮くるみ 大野りりあな 関智一 大塚明夫 大塚芳忠
主題歌「Would You Like One?」Travis Japan (Capitol Records / ユニバーサルミュージック)
原作:ギンビス
監督:竹清仁 脚本:池田テツヒロ 企画・プロデュース:須藤孝太郎 クリエイティブプロデューサー:小荒井梨湖
音楽:羽柴吟 音楽制作:TBSテレビ 音響制作:グロービジョン 音響監督:横田知加子
アニメーションプロデューサー:宇井正人 CGスーパーバイザー:堺井洋介 アートディレクター:⻲井清明 ラインプロデューサー:髙橋弘樹
宣伝プロデュース:KICCORIT アニメーション制作:MARZA ANIMATION PLANET INC.
製作幹事:TBSテレビ 配給:クロックワークス TBSテレビ
©ギンビス ©劇場版 「たべっ子どうぶつ」製作委員会
取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/赤松洋太