スターダム・上谷沙弥「憧れのヒールレスラーはいない」令和の極悪女王が目指す“美しきダークヒーロー”

いま日本各地で熱烈に「推されている」注目の人に、仕事に対する知られざる努力とこだわりをテーマにインタビュー。彼・彼女たちがファンから「激推し」される理由を探ります!
「美しすぎるラスト」「プロレス史に残る名試合」……
2025年4月27日、横浜アリーナで開催された女子プロレス団体スターダムのビッグマッチがSNSを賑わせた。

メインイベントのワールド・オブ・スターダム選手権を制したのは、同団体のヒールユニットH.A.T.E.(ヘイト)に所属する上谷沙弥さん。
現王者・上谷沙弥さんと元王者・中野たむさんによる「負けたら即引退」という、お互い絶対に負けられない試合ーー。
愛憎入り混じる因縁の相手を破った上谷さんは、試合前に実施したWoman typeの取材に対して「ヒールレスラーのステレオタイプを覆す『美しきダークヒーロー』になりたい」と語っていた。
新時代の極悪女王・沙弥さまが、女のしもべたち(女性ファン)に推される理由を探った。
過去にやってきたことが、今ここに来て全てつながった
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上谷沙弥「中野たむの全てを奪ったぞ!でも、なんか苦しいな…全部こうなったのお前のせいだからな!お前のせいで私はプロレスラーになった。お前のせいで怪我もした。お前のせいで強くなった。お前のせいでお前を引退させることになった…… pic.twitter.com/sqiKaoUI6F
— STARDOM WORLD (@stardomworld) April 27, 2025
中野たむさんとの引退をかけた試合がついに終わりました。肉体的にも感情的にもすごく負荷がかかっている気がするのですが、沙弥さまは今もプロレスが好きですか?
そうだな、確かにつらいことや厳しいことはたくさんある。だけど、プロレスが好きだし楽しいよ。
タイトルマッチだったり、広い会場で行うビッグマッチだったり……重要な試合ほど、リングに立つとアドレナリンがドバドバ出るのを感じる。
それに、試合中は会場に来たしもべたちとも一つになれているような気がするんだよね。
会場に集まった全員が一体となって盛り上がるのを実感できた時はやっぱり一番楽しいし、この瞬間のためならつらいことも乗り越えられる。

プロレスを心から「楽しい」と思えるようになったのは、いつ頃からでしたか?
初めてベルトを巻いた時だな。その時のタッグパートナーだった林下詩美と一緒に、人生で初めてベルトを巻いたんだ。
アイツはもう別のプロレス団体に移ってしまったけど、当時は憧れていた選手だった。
一緒に力を合わせてタッグのベルトを獲って、初めて目標を達成できたことがすごくうれしかったんだよ。
二人で勝ち取ったベルトを巻いた瞬間は、言葉にできないくらい、めちゃくちゃ楽しかったね。
やったらやっただけ、結果につながる。それがプロレスのいいところ。だから辞められないし、理想のプロレスをもっと追求していきたい。
沙弥さまにとっての理想のプロレスというのは?
私は360度、どこから見ても美しく「魅せる」プロレスがしたいと思ってるんだよね。
以前アイドル活動をしていたときもステージには立っていたけれど、舞台の場合は正面からしか見られない。
だけど、プロレスはリングに上がったら、すべての方向に見ているやつらがいるだろ?
だから、入場するとき、リングに立っているとき、試合中……。
その全ての瞬間がどこから見ても華やかで美しいと思ってもらえるように、背中までしっかり意識しなきゃいけない。
いまは禁じているフェニックススプラッシュのような大技(※)も、360度どこから見ても美しくて、上谷さんにしかない華やかさを感じます。
(※)コーナー最上段から相手に向かって後ろ向きにジャンプし、体を捻って前方回転を加え、相手にぶつかる体当たり技。難易度が非常に高く、女子プロ界では沙弥さまのみが放つことができる大技
自分は器械体操、ダンス、アイドル、演技といろいろやってきて、まあ……なかなかどれも報われなかった。
だけど、プロレスに出会ってからは、今までうまくいかなかった経験も、「プロレスのためだったんだ」と思えるようになったんだ。
器械体操の経験は、フェニックス・スプラッシュのような技で体をコントロールすることにすごく活きているしな。
ダンスやアイドルの経験があるから、どんな立ち姿をして、どんな仕草をすればより華やかに見えるのか感覚的に分かる。
過去にうまくいかなかったことも、ここにきて全てが一つにつながった感覚があるんだよね。
そして、沙弥さまがしもべたちにいいことを教えてやろう。
プロレスの醍醐味は、相手の技を受けて、相手を輝かせること。
だから、ヒールレスラーとしては、いかに悪いことをして、選手にも見てるやつらからも反感を買うかが何より大事だと思ってる。
まあ、自分は根っからの悪だから……あれこれ考えずに悪いことをしまくって楽しんでるよ。
それに、ブーイングも気持ちいいし、憎まれるのも大好物だしね。
元アイドルの沙弥さまは「みんなに愛される・好かれる」ことをかつては目指していたはず。ヒールターンして憎まれ役になることに抵抗はなかったんですか?
意外とそこにギャップは感じなかったな。
だってヒールレスラーからしたら、会場からのブーイングっていうのは、ベビーフェイスでいう声援みたいなもの。
だから、ヒールレスラーになって初めてブーイングをもらった時は、「きたきたきた!」って感じだった。正直言って、めちゃくちゃ快感だったよ。
目指すのは美しきダークヒーロー

沙弥さまは、これまでのヒールレスラーの一般的なイメージとはまた違った存在ですよね。
内面的な弱さ・優しさに共感するしもべも多いし、メイクなどルックスに注目が集まることも多い。
そうだな。見た目に関しては、すごくこだわってるよ。私はいままでのヒールレスラーみたいになりたいとは全く思わない。憧れる選手も全然いないね。
例えば、世間一般の人がイメージするヒールといえば、ダンプ松本さんとか、ブル中野さんあたりだよな。
ヒールと聞くと、彼女たちのように体が大きくて、強面に見せるようなペイントメイクをしているようなレスラーを思い浮かべると思う。
でも、私が目指したいのはそうじゃない。華やかできれいな、ダークヒーローのようなイメージなんだよね。
まだ日本にそういうヒールがいるとは思えないから、だったら私がなってやろうっていうわけさ。
なぜ、美しいダークヒーローを目指したいと思ったんですか?
去年ヒールターンする3カ月くらい前に、海外遠征に行ったんだ。
その時に知ったのが、リア・リプリー選手。実際に会ったわけじゃないんだけど、写真や動画で目にした彼女に目を奪われた。
彼女はヒールだけどビジュアルもすごくきれいで、華やかで……まさにダークヒーローのような感じ。
その時に思ったんだ。世間の固定概念に縛られずに、自分だけのヒール像を築き上げていけばいいんじゃないかって。
だから、私はメイクも大事にしているし、コスチュームもきれいめなものを選んで着てる。自分にしかない、特別なオーラを出していきたいからね。

美しくあることを目指す上で、いま努力していることは?
実は、美容皮膚科には定期的に通ってる。強い化粧品を使ってメイクすると、すぐ肌荒れするからな(笑)
メイクにもすごくこだわりがあって、特に力を入れているのは目元。シルバー、赤、黒を混ぜてグラデーションっぽくしたアイシャドウに強いラメを入れるのが気に入ってるよ。
リングの上では誰よりも輝きたいから、キラッキラにして……妖艶な沙弥さまでいたいと思ってる。
あとはネイル。手元だって美しく見せたいしね。美意識は結構、高いと思う(笑)
コスチュームに関しても、スタイルがよく見えるように黒で統一して、肉体が引き締まって見えるようにしてるよ。
ドラマ『極悪女王』(Netflix)の効果は絶大?

沙弥さまは前回のインタビューで「女のしもべが増えている」と話していましたが、女子プロレス自体の人気も高まっていると感じますか?
メチャクチャ感じるよ。特に、『極悪女王』(Netflix)の影響力がすごい。あのドラマが配信された後から、どんどん女子プロレスブームが来ているね。
沙弥さまはこのドラマ、ご覧になりましたか?
観たよ。話はもちろん面白かったんだけど、役者たちがどういう受け身をとるんだろうとか、そういうところばっかり見ちまったけどな(笑)
ロープワークとかも「頑張ってるじゃねえか……」って感心した。
そういえば、この間もサイン会の時に「『極悪女王』を見て来ました」って言われたな。そういうことも増えてるよ。
『極悪女王』をきっかけで沙弥さまのしもべになる女性も多いんですね。
そうだな、ありがたいことに。
しもべたちの存在は、沙弥さまにとってどんなものですか?
安心して暴れさせてくれる存在だな。
最近は「沙弥さまはベビーフェイスの時より、ヒールになってからの方が何にも縛られずに自由に伸び伸びと、楽しそうにプロレスをしている。そういう姿がすごく好きだ」って、よく言ってもらえるようになったんだ。
でも、自分としては、もともとはベビーフェイスの方が合ってるのかなって、悩んだ過去もあった。だから、そう言ってもらえると、やりたい放題やって思いっきり悪くなれる。

実際、ヒールになってからの方がプロレスを楽しめている?
まさに。メチャクチャ楽しいよ。
それに、気持ちの面で強くなれた。例えば、ベビーフェイスの時だったらアンチコメントがSNSでいっぱいきたら傷ついていたかもしれない。
でも、「ヒールだし、悪いことしてるし、アンチが来るのは当たり前」みたいな気持ちになれたら人の意見なんてどうでもよくなって、いろんなことが吹っ切れたんだ。
だから今は、思っていることをすごくストレートに言えるし、それで喜んでくれるしもべたちがいることに支えられてるね。
ブーイングが歓声と同じなら、もう何も怖くないですね。
「嫌われることがうれしい」って、最強じゃない? 自由にやればやるほど、しもべたちがついてきてくれるようになったし、嫌われてなんぼだし。もう無双状態だよ。
無敵状態の沙弥さまは、中野たむさんを破ったいま、これからどんな目標を持ってプロレスをしていくのでしょうか?
プロレスラー個人としては、今持っているワールド・オブ・スターダムっていう赤いベルトと共に、今年は一年間突っ走っていきたい。
あとは、今後もプロレス界の中はもちろん、プロレス界の外にプロレスっていうコンテンツの魅力を発信していきたい。
「野球観に行こう」「サッカー観に行こう」みたいに、「プロレス観に行こう」って、気軽に足を運んでもらえるようなものにしたいんだよね。
だから、呼ばれたらいろんなメディアに出ていくことも続けていくつもりさ。
沙弥さま流・女子プロレスの沼り方
まだプロレスについてよく知らない女性たちに、沙弥さまから伝えておきたい楽しみ方とは?
まずは会場に来てもらえれば、絶対に「推し」が見つかると思う。
スターダムはいくつかのユニットに分かれていて、例えば私が所属する「H.A.T.E.」だったら、悪いことをするヒールグループ。
「コズミック・エンジェルズ」だったらアイドルグループ、「God's Eye」だったら格闘集団…………という感じで、ユニットごとに本当に個性豊かな選手がいっぱいいる。
まずは好きなユニットを見つけて、その中から「ビジュアルが好き」とか「ファイトスタイルが好き」とか、そういう入り口でいいから「いいな」って思う選手を見つける。
「推しメン」を見つける感覚で見てもらえると、初心者でもすごく楽しめると思うんだよね。
ちなみに、沙弥さまが「推してる」選手はいますか?
スターダムの中なら、 同じH.A.T.E.の刀羅ナツコ。

ナツコはユニットのリーダーでもあり、「ダンプ松本の後継者」って言われていて、体もすごく大きいし、タックルやラリアットとか、一発一発の技がすごく迫力がある。
ザ・プロレスラーっていう、昭和のヒール像を受け継いでいるようなレスラーだから、『極悪女王』を見てプロレスに興味を持った女たちにも絶対に見てほしい選手だ。
ベビーフェイスだと……「スターズ」の羽南(はなん)。

こいつはスターダムの正規軍のスターズっていうユニットに所属していて、未来のスターダムを担っていくであろう、正統派な選手だね。
ファイトスタイルとしては、柔道ベースの技だったり、あとはパワフルさが魅力。
がむしゃらなファイトがすごくいいんだよね。次世代のスターダムを担っていく選手だと思うから、ぜひ注目してほしい。
取材・文/栗原千明(編集部) 画像提供/スターダム(©STARDOM)
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