今企業で“アクセサリー女子”と“チャック女子”が増えている! 女性が陥るキャリア上の“10大疾病”

株式会社プロノバ 代表取締役CEO 岡島悦子さん
三菱商事、マッキンゼーを経て、2002年グロービス・マネジメント・バンク立ち上げに参画。2005年より同社取締役。2007年、「経営のプロ」創出を目的としたシンクタンクのプロノバを設立し、代表取締役就任。著書に『抜擢される人の人脈力』(東洋経済新報社)
20代は目の前のことに取り組むのに精一杯。仕事も楽しい。しかし30歳を過ぎると、ふと「自分は5年後、10年後にどうなっているのだろう」と将来への不安が心をよぎる。そんな働く女性は多いのかもしれない――。
35歳以降もイキイキと働き、周囲にも求められる人材になるには、今のうちに何をすべきなのか。その答えを求めて、カリスマヘッドハンターであり、数々の企業で女性活躍推進プログラムの策定に携わってきた岡島悦子さんを訪ねた。
「アクセサリー勝負病」に「嫌われたくない病」……
女性たちがかかる“10大疾病”とは?
岡島さんによれば、20代から30代にかけて、女性がかかりやすいキャリア上の“10大疾病”があるという。
「まず27歳ころまでにかかるのが、『アクセサリー勝負病』。若くて周囲がちやほやするので、本人もかわいさで勝負できると思うわけですね。また、この時期は『嫌われたくない病』にかかる女性も多数。周囲に『仕事はできるけど、嫌な人だよね』と思われたくないために、バリバリ働く一方でお茶汲みやコピー取りも断らずに全て引き受けてしまう。あれもこれもとエネルギーを分散させた結果、本当にやるべき仕事に集中できず、何もスキルが身に付かないまま20代を終えてしまうという結果になるのです」
お茶汲みやコピー取りでロスした分を、深夜残業や土日出社で取り戻そうとするのが「体力過信病」。ある程度の経験を積んでチャンスを与えられても、「私なんてまだまだです」と言ってしまう「過少評価病」にかかる女性も目立つ。逆に男性は自分を過大評価しがちなので、ここで彼らに遅れをとってしまうことが多い。
「その負け惜しみからか、『私は現場でお客さまと接するのが好きだから、出世なんて意味がないわ』などと考える『出世嫌悪病』が出てきます。こうして30代になり、下にはかわいいアクセサリー女子が入ってきて、体力勝負にも限界が来ると、急に『私の強みって何かしら』と迷い出す。これが『キャリア迷子病』です。そこで悩み過ぎた挙げ句、婚活で運命の人に出会ったり、転職のスカウトが来たりといったことを妄想する『白馬の王子待ち過ぎ病』にかかる人が続出します」
「初めての育児・職種・管理職」の三重苦に陥らないために
女性は「前倒しのキャリア」を心掛けるべき

だが王子様が来ないと分かると、今度は安心するためのよりどころが欲しくて資格を取ろうと考える。これが「努力安心病」だ。仕事の機会を獲得する努力よりも努力方法が分かりやすい資格取得に逃げ込んでしまう。ただ取得するのではなく、志につながる資格なのかどうかがポイントになってくる。こうして迷走を続けた挙げ句、とうとう疲れ果て現実から逃避する「燃え尽き逃避病」に至ってしまう。おそらくWoman type読者も、これらの疾病のいずれかに当てはまる人が少なくないはずだ。そして、多くの女性が最終的にたどりつくのは「チャック女子病」だと岡島さんは指摘する。
チャック女子とは岡島さんの造語だが、外見は女子の着ぐるみを着ているが、背中のチャックを下ろすと中身はおじさん、というオス化女子のことを指す。女性が視点も思考パターンもおじさんと同一化してしまう現象のことだ。
「今、多くの企業で“女性の二極化”が起こっています。“アクセサリー女子”の年齢を過ぎ、30歳前後で悩み過ぎた結果、何が起こるかというと“チャック女子”の誕生です。職場と自宅と飲み屋の三角地点をぐるぐる回っているだけのおっさんですね(笑)。企業がダイバーシティを推進するのは、多様な価値観を取り入れるためなのに、女性が男性と同じ価値観しか持たなくなったら、女性活躍推進を進めた意味がありません。さらに問題なのは、チャック女子は結婚や出産を遅らせて会社に尽くしてきたので、後輩女子に非常に厳しい。すると後輩からは『あんなふうになりたくない』と思われてしまい、ロールモデルにもなれない。このアクセサリー女子とチャック女子の二極化が深刻になっている会社は非常に多いのです」
岡島さんは、「20代の人たちは、女性がこうした病にかかりやすい事実をまずは知るべき」と警告する。そうすれば、「かわいさで勝負している場合じゃないな」とか「全員に好かれようとするなんてやめたほうがいい」といった意識の切り替えもできるはずだ。その上で、女性が35歳以降もイキイキと活躍し続けるためには、「前倒しのキャリア」を心掛けてほしいとアドバイスする。
「女性にとって最大の問題は、出産の時期と管理職に登用される時期が重なりやすいこと。そして最悪のパターンは、出産前とは別の部署に管理職として復職することです。『初めての育児』『初めての職種』『初めての管理職』という三重苦を一度に背負って潰れてしまい、会社を辞めてしまうケースも珍しくありません。それを避けるには、3つを背負う時期を分散するしかない。このうち自分の意思で変えやすいのは、職種と管理職になる時期。20代のうちから異動の希望を出して、出産までにいくつかの職種を経験しておくことと、管理職のチャンスが来たら早めにつかむことを心掛けるべきです」
出産までに「分かりやすい実績」を積み
それをかけ算して自分に強力なタグを付ける

そもそも、会社から「出産後も戻ってきてほしい」と思われるには、「復職後の自分に投資しても、ちゃんと利益を回収できますよ」と示す必要がある。そのためには、出産までに分かりやすい実績や特技を作り、「私はこれができる」というタグを自分に付けなくてはいけない。
岡島さんによれば、「分かりやすい実績」はかけ算で作られる。「私は英語ができます」だけでは特別なタグにならないが、「私は英語ができて、営業スキルが高く、小売業界のことも熟知しています」となれば、「英語×営業スキル×業界知識」というかけ算によってタグの価値と希少性はぐっと上がる。「だからこそ、出産までに色々な経験をして、小さくてもいいからかけ算に使える実績を積み上げてほしい」と岡島さんは話す。
「自分に何が向いているかなんて、頭で考えても分かるはずがありません。人は仕事をしながら、『私は細かい作業が得意なんだな』とか『意外と人に会うのが好きかも』といった発見をしていくもの。そうした体験を通して見つけたものをかけ算していけばいいのです」
もう一つ、働く女性たちが知っておくべきは、「職業人生は50年続く」ということ。企業の定年が55歳から60歳になり、最近また65歳へと延長されてきた経緯をみると、現在20代の人たちの定年は70歳になってもおかしくない。そうなると、「出世しないで働き続ける」という選択肢は消滅する。会社に必要とされ続けるには、専門職としてスキルを極めるか、管理職としてポジションを上げていくしか方法はないのだ。
「だからこそ、女性たちには出産までに価値あるタグを自分に付けてほしい。すると管理職になった後がとてもラクです。私も会社勤めをしていたころ、育児中の女性管理職をたくさん見てきましたが、彼女たちが毎日17時に退社しようと、週に何日か在宅で仕事をしようと、周囲は誰も文句を言いませんでした。それは彼女たちが、周囲も納得するだけの高い付加価値を出していたからです。つまり高い価値を提供できる人は、働き方の自由度も上がるということ。だからこそ女性は前倒しのキャリアを意識して、出産や管理職登用の時期を迎えるまでに、ぜひ自分に強力なタグを身に付け、選択の自由を持てるようになっていただきたいと思います」
取材・文/塚田有香 撮影/竹井俊晴