中野信子が脳科学で解決! 働く女性のプチうつ予防&改善策とは

朝起きるのがつらい。常に体がだるく、やる気が出ない――。職場環境や気候の変化が激しい季節は、心の不調から体の不調も出やすいタイミング。“プチうつ”なんていう言葉もあるように、「ちょっとうつっぽい?」と自分の心の不調を不安に思ったことがある女性は多いのではないだろうか。

実際、弊誌のアンケート調査によれば、働く女性の約7割が「『自分はうつかもしれない』と疑ったことがある」という結果が出ている。仕事をしていく中で避けては通れない心のストレスやプレッシャー。どう向き合えば、心身ともに健康的な毎日を送ることができるのだろうか。よく言われる精神論ではなく、科学的な側面から対策と不調改善の方法を考えてみたい。

そこで注目したいのが、脳科学。脳内物質のセロトニンが不足すると、うつ症状を招く要因になると一般的には考えられている。

脳科学者の中野信子先生も、「精神的な不調は、脳の働きと密接につながっている」と話している。では、脳科学の観点から見たとき、うつになりやすい人の特徴とは? また、うつ予防やちょっとした心の不調改善のために日ごろから心掛けておきたい「行動パターン」や「思考法」について聞いた。

中野信子

脳科学者 中野信子さん

脳科学者。東日本国際大学教授。1975年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から2010年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの正体』(幻冬舎新書)『脳はどこまでコントロールできるか?』(ベスト新書)『サイコパス』(文春新書)『科学がつきとめた「運のいい人」』(サンマーク出版)ほか。脳や心理学をテーマに研究や執筆活動を精力的に行っている。

“ネガティブフィードバック”が強い女性はうつになりやすい

携帯電話に会社の番号から着信があっただけで、何だか胸が苦しくなるということはないだろうか。これは不安や緊張、イライラを増幅させるノルアドレナリンの分泌により、気持ちをリラックスさせる効果のあるセロトニンの分泌が抑制されてしまうことが原因だとされている。

また、男性と女性では女性の方がうつになりやすい傾向があり、さらに「真面目な女性ほどうつになりやすい」と中野先生は指摘する。

「ここで言う真面目とは、“ネガティブフィードバック”を強めやすい人という意味。周りの何気ない言葉や態度を過剰にマイナスに受け取ってしまうことを“ネガティブフィードバックが強い”と言いますが、こういう傾向が強い方は要注意です」

もしも『うつっぽい』という症状を既に自覚しているなら、まずはすぐに病院に行って医師に相談することが先決。その上で、普段からうつ病予防を心掛けたいときや、ちょっとした心の不調を軽くしたい場合には、「必要以上に自分のことをマイナス評価していないか、見つめなおす時間を取ってみるといいと思います」と中野先生。

中野信子

具体的には、どんなことを意識しておくとよいのだろうか。今回は、働く女性たちの心の不調を予防・緩和させる行動パターンをご紹介しよう。

【処方箋1】
起床したら・・・朝日を浴び、朝食を食べる

「起床時にカーテンを開けて朝日を浴びると、セロトニンの合成が脳内で促進されます。また、『食べる』という行為もセロトニンを増やす上で効果的。難しいことをしようとする必要はないので、自分が自然とできることから朝をスタートしましょう」

朝食には、「トリプトファンを多く含んだ食べ物を加えると特に良い」と中野先生。牛乳・チーズ・ヨーグルトなどの乳製品や、果物ではバナナが朝食にはぴったり。朝食を食べる習慣がない人も、『飲むヨーグルト』のようなドリンクタイプのものであれば、手間を掛けずに取り入れられそうだ。

【処方箋2】
仕事中は・・・「今日やらなくていいこと」「他人の仕事」までやろうとしない

「真面目な女性ほど、責任感から必要以上の仕事を抱えて消耗してしまう傾向がある」と中野先生。しかし、
時には「“あれもこれも”と頑張り過ぎてしまう自分がいないか客観的になってみるといいですよ。今日やらなくていい仕事は、明日にまわしたっていいんです。誰かに任せられる仕事まで、自分でやろうとしないでください」と優しく呼びかける。

とは言え、そうすることによって生まれる周囲からの「サボッているんじゃないか」という視線は、余計に不安を膨らませてしまうことにもなりそう……。

「とんでもない。じゃあ、1ついいことを教えてあげます。私がフランスで研究員として働いていた頃、実験の後、きちんと後片付けをして帰る大学院生は周囲から叱られたものです。なぜなら、それは片付けをする人の仕事を奪う不道徳な行為だから。国が変わるだけで、価値観ってこんなにも変わるものなんです。だから、世の中の“当たり前”に縛られすぎる必要はない。心がしんどくなるのは自分の能力以上のことをやっている証拠ですから、それで体調を崩すようなら、手放せる仕事は手放してみてほしいと思います」

【処方箋3】
帰宅後は・・・夕飯に好きなものをおいしく食べてゆっくりお風呂に浸かる

まず大切にしたいのが、夕食。「魚や肉、大豆などトリプトファンを多く含んだ食べ物を中心に、自分の好きなものを気にせず美味しく食べることを心掛けましょう。とはいえ、栄養バランスを気にし過ぎるより、自分が美味しいと思えるものを食べた方が元気になれますよ」

「あとはバスタイムも脳をリラックスさせるのに効果的。いつもシャワーで簡単に済ませている人は、ぜひ温かいお湯に浸かってみるといいでしょう。長湯ができる程度の温度でのんびりバスタイムを楽しむだけで、セロトニンが増加します」

【処方箋4】
休みの日は・・・「1人の時間」を大切にする

体がだるいと、ついベッドの上で1日無駄に過ごしてしまいがち。「また休みを無駄にしてしまった」なんて、自分を責めてしまうのもよくあることだ。

「外に出て人に会うと気分転換になるということがよく言われますが、気が向かないのであれば無理に外出する必要はありません。でも、ずっと家に閉じこもっていて心がつらくなるようなら、家の周りを気持ちよく散歩してみるくらいのことをするのは、脳のリラックスにつながりオススメです。1人で過ごす時間を持つことは、心の疲れを取るためにも効果的ですよ」

中野信子

後編では、働く女性がよく職場で経験するシチュエーションにフォーカスを当て、プチうつ症状の予防・解消に効く中野先生流の【思考法】を教えてもらった。

>>脳を騙して心の健康を守る! 脳科学者・中野信子先生流うつを寄せ付けない思考法とは【後編】

・脳科学者・中野信子先生からの処方箋! 働く女性の“プチうつ”予防&改善に効く行動パターン【前編】
脳を騙して心の健康を守る! 脳科学者・中野信子先生流うつを寄せ付けない思考法とは【後編】

取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太