働く女子の「なんとなく不安」は脳科学で解決できる? アラサー編集者が医学博士に相談してみた
「仕事は順調だけど、一生この仕事を続けていく覚悟まではできていない」、「友達もいるし、結婚も焦っていないけど、このままずっと一人だったらと考えてしまう」……今の生活に特に問題があるわけではないのに、アラサー女性を襲う「なんとなく不安」。
姿の見えないこの気持ちの正体を探るため、アラサー編集者Aが向かったのは、脳について多数の著書を持つ医学博士のもと。自ら抱える「なんとなく不安」を赤裸々に相談してみました。
「現状維持」に満足しがちな女性脳

米山公啓さん
1952年山梨県生まれ。作家、神経内科医。元聖マリアンナ医科大学第2内科助教授。1998年より本格的な著作活動を開始し、医学ミステリー、小説、エッセイ、医療実用書など、現在までに280冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修などでも活躍中。日本老年学会評議員、日本脳卒中学会評議員、日本ブレインヘルス協会理事
編集者A:今年29歳になるんですが、今は仕事も生活もそれなりに楽しくやっていて、特に不満があるわけではありません。でもこのままでいいのか、将来を考えると不安になります。
米山さん(以下、米山):30歳前後といえば、次のステップに移るタイミング。結婚にしても、転職にしても、新しい世界に飛び込むのは、それなりのリスクを抱えることになりますから、誰だって不安に感じるはずです。
ただ、思い切って踏み出してしまえば、意外と何とかなるものでもある。困難に打ち勝ったという人も、最初からその覚悟を決めていたわけではありません。
たまたま踏み出した世界で思いがけない困難にぶつかって、何とかしようと奮闘しているうちに、結果的に乗り越えたということが多いのです。壁にぶち当たってもそれを打ち破る能力は、人間はもともと秘めているものなんです。
編集者A:その「思い切って踏み出す」というのが、なかなかできないんですよね。
米山:特に女性の場合は、変化に対する抵抗感が大きいといえます。例えばテレビをつけると、そこで流れている番組をそのまま見続けてしまいませんか。一方で、男性はあわただしくザッピングする。常にもっと良いものはないか、新しい発見はないかと探してしまうのです。
編集者A:それは脳内の違いなんですか?
米山:闘争心や挑戦意欲、決断力を高めるといわれるテストステロンの値を見ると、一般に女性の分泌量は男性の10分の1程度です。極論すれば、男性は闘争意欲が強く、「偉くなりたい」「金持ちになりたい」というシンプルな欲望を抱けるのに対して、女性は「その場の和を大切にしたい」「家族や仲間と仲良くしたい」という傾向が強い。だから特に仕事においては、わかりやすい目標が見い出しにくいのでしょう。
編集者A:確かに。現状の平和を壊したくない、だけど変化しなくてはいけないのも分かっている、そのどっちつかずの状態がつらいのかもしれません。そのテストステロンって女性でも増やせるのでしょうか?
米山:もちろん。女性でも、社会的に活躍している人はテストステロンの値が高いと言われています。
ほどよい緊張や刺激があると増えやすいので、思い切ってブランド物のバッグやスーツを手に入れたり、素敵な服を颯爽と着こなして、周囲の注目を集めているという自意識を高めたりするだけでもいいですよ。意識して、自分から変化を起こしてみてください。
「楽しいこと」を突き詰めると、変化がついてくる

編集者A:ただ、この先どうしたいのかもよくわからないんです。今の仕事は楽しいけれども、仕事中心の人生もさみしい気がするし、いつかは結婚して子どももほしいけれど、今から必死に婚活にいそしむのも何だか違う気がして。
米山:何をやりたいのか分からないなら、何をしているときが一番楽しいかを知る、それに尽きます。いろいろ体験する中で、自分が夢中になれるものを探していくのです。
人間はどこかで、徹底的に何かに没頭する経験が必要です。時間を忘れるくらいに何か一つのことにのめり込んでいくと、右脳が活性化し、自分自身も鍛えられ、やがて違う世界が見えてきます。
もちろん、自分が楽しいと思えることでなければ、そこまで徹底して続けることができません。見つけられない場合は、とにかく目の前の仕事に没頭してみるのも一つです。
必死に取り組んでいるうちに、何か新しい発見があるかもしれないし、プライベートでも、楽しいと思うことがあれば熱中してみるのもいいですね。
編集者A:例えば食べ歩きとか、趣味に関わることでもいいんですか。
米山:もしかしたら、あちこち食べ歩いているうちに、素晴らしいシェフと出会って一緒にお店を開くことになったり、そこで知り合った人とのご縁で、グルメライターとして独立するかもしれません。
人とのご縁は、思いがけないところで結びつくものです。実用書が中心だった私が小説を書き始めたのは、たまたま友人の病院を受診していた出版社の方が、そこに置いてあった私のエッセイを手に取ったのがきっかけでした。
自分自身で新しい道に飛び込む決断をするのはハードルが高いかもしれませんが、人脈を広げていけば、背中を押してくれる人に出会えたりするのです。
編集者A:まずは行動を変えてみることですね。
米山:楽しいと思えることを突き詰めて、今まで行かなかった場所に行ってみる。新しい人との出会いを大切に育てていく。そんなふうに行動を変えていけば、脳も活性化され良いホルモンがたくさん分泌される。「なんとなく不安」なんて消えていきますよ。
女性の脳は、本来現状満足型。「今の平和を壊したくない」とリスクを取ることを避けてしまいがちです。しかし、特に30歳近くのバリバリ仕事をしている女性は仕事においてもプライベートにおいても選択肢が多く、現状維持するのは難しい。とはいえ、自分で決断することもできず、それがストレスとなり「なんとなく不安」に陥るのではないでしょうか。
打ち壊すために大切なのは、行動を変えること。ささやかなことでも良いので、自ら変化を起こすのです。
ある日突然人生の大転換点がやってくるようなことは、実はほとんどありません。たまたま出掛けた先で出会った人の一言で道が開けるなど、ちょっとした変化が新しい世界へとつながっていく。
その変化を重ねていく中で、自分がやりたいことや心から楽しいと思うことに出会えるはずです。過度に気負う必要はありません、たとえ今見つからなくても、30代、40代をかけてじっくり探していけばいいのですから。
意欲や快感と深く関わりを持つドーパミンは、一般的には年齢とともに減少していきます。しかし、自分の楽しみを知っている人は、いくつになってもドーパミンを出し続けることができることが分かっています。まずは今日、いつもと違う道を通って帰ってみてはどうでしょうか。

【著書紹介】
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脳を「気持ちよくリラックス」させる。「関連づけて」覚える―プライミング効果。3段階で記憶する―人の顔と名前を一致させる法。「7つだけ覚える」を習慣にする。「文字・数字」でなく「映像・画像」で考える―まず1つ、やってみよう―。「記憶力を強くする」コツ。
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取材・文/瀬戸友子 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)