
子どもも大人もつらい生理は治療できる。フローレンス「小学生からのピル外来」院長・田中純子さんが語る我慢への後悔
「生理が来ると、本当に憂うつ。会社を休まないといけないような腹痛に襲われることもある」
そう話すのは、事務職として働くAさん(32歳)。
毎月やってくる生理の痛みは鎮痛剤を飲むことで乗り切っているが、症状がひどいときには仕事を休んだり遅刻・早退をすることも。
飲食店のスタッフとして働くBさん(27歳)は、「仕事中にぼーっとしてミスが増えてしまう。薬を飲むと眠くなってしまうため、ただ痛みを我慢することも多い」と言う。
実際、Woman typeが20~40代の働く女性を対象に行った調査では、7割の女性が「生理で仕事に支障が出たことがある」と回答。多くの女性たちが、毎月やってくる生理のつらさに悩まされている。

しかし、「生理による体調不良で仕事に支障が出たことがある」と実感している人のうち、医療機関を受診したことがある人は約4割。半数以上の人が、医療機関に足を運んでいない。

病院を受診しない理由としては、
「市販薬を飲んで数日耐えれば回復するので、病院に行くほどの事ではない気がしている」(商品開発/40歳)
「周囲にも悩んでいる人はたくさんいるので、自分だけじゃないから」(営業職/38歳)
などの回答が寄せられた。
「小学生からのピル外来(生理外来)」にSNSで反響
認定NPO法人フローレンスのグループ法人『フローレンスこどもと心クリニック』で院長を務める田中純子さんは、「多くの女性たちがつらい生理を『我慢すべきもの』『こういうもの』だと思っているけれど、本当は治療ができるものなんです」と話す。

フローレンスこどもと心クリニック 院長
田中純子さん
葉大学医学部卒業。千葉大学医学部附属病院・松戸市立病院・千葉市立海浜病院などの勤務を経て『フローレンスこどもと心クリニック』(旧:『マーガレットこどもクリニック)を開設。2児の母として日々奮闘しており、自身の子育て経験から「親子のつらいにたちむかう」という思いで臨床に取り組む。2025年6月、「小学生からのピル外来(生理外来)」を開設
同クリニックでは、2025年6月に「小学生からのピル外来(生理外来)」を開設。
つらい生理の症状に対して、ピルをはじめとするホルモン製剤や漢方薬、鎮痛剤などさまざまな選択肢を提示しながら、子どもから大人まで「生理の悩み」に寄り添う医療の提供を開始した。
子どもの生理に関する悩みを専門的に扱う医療機関はまだ少なく、「小学生にピル」という選択肢も日本人にとってはまだ馴染みが浅い。
しかし、「小学生からのピル外来(生理外来)」が新設されるやいなや、多数の問い合わせ・予約が入っている状況だ。
「小学生からのピル外来(生理外来)」の開設をプレスリリースやSNSでお知らせすると、想像以上の大きな反響がありました。
「こういう外来ができるのを待っていた」「子どもにはつらい生理に悩んでほしくない」というお母さんたちを中心に、好意的に受け止めてくださる人たちから応援の声をたくさんいただいています。
ここ数年、生理について社会全体で議論される機会が増え、大人の女性に向けたピルなどの治療情報が出回ること自体は増えてきた。ただ、それでもまだ「十分とは言えない」と田中さんは言う。
ピルは避妊のためだけでなく、生理痛や過多月経、月経不順、貧血の予防など多くの医療的メリットがあるものですが、他の先進国と比較して日本での利用率は著しく低い。
そうした環境下にあって、生理のつらさに悩むこどもたちが適切な情報や治療にアクセスするのは非常に難しいのが現状です。
子どもへのピル処方はまだ国内に事例が少なく、副作用等への懸念を持つ人は少なくない。
田中さんは「子どもの身長や体重、副作用のリスクを理解した上で、治療方針を選ぶ必要がある」と話す。
当クリニックでは、身長が伸びる時期の子どもたちには、女性ホルモンが混ざっているものではなく黄体ホルモンだけが入っているピルを処方する予定です。
また、「ピル外来」だからといって、必ずしもピルを使ってくださいというものではありません。漢方を処方するなど、選択肢はいろいろあります。
一人一人の状況や症状、希望に沿って治療方針を決めていくので、自分のことでもお子さんのことでも、生理について困ったときはまず気軽に相談してもらいたいです。
「生理のつらさ」を長く放置してきたことを後悔
「小学生からのピル外来(生理外来)」立ち上げ背景の一つには、田中さん自身が長年にわたって生理のつらさを我慢し続けてきた過去への後悔がある。
10代の頃から、生理が来ると腹痛に悩まされてきた。痛み止めを飲むことも多く、学校や仕事に行くのがつらいと感じる日もあった。
ただ、医師になってからは診療に追われ、「自分のつらさに向き合うことは後回しになっていた」と明かす。
当直がある日に生理があたると特につらくて、仕事中に白衣が汚れてしまうこともあったんです。
でも、仕事の負担を減らしてもらうとか根本的に治療するとか、そういうことは全く考えませんでした。

出産を経験して生理が再開すると、これまでとは違う変化が起きた。
以前と比べて出血量が著しく増えてしまい、生理の間は何とか仕事には行くものの、帰宅後はだるさでずっと横になっていたという。
あまりに出血量が多くて貧血っぽくなるものだから、健康診断で婦人科の医師に相談してみたこともありました。
でも、「生理期間が終わったら治るでしょ? それなら、あまり気にしなくていいんじゃない?」と言われてしまって。
医者がそういうのなら、大丈夫なのかな……と思って、しばらく放置してしまいました。
ただ、その後も出血量が改善することはなく、生理中の体調不良はますます悪化。漢方薬を飲んで症状が少し緩和されることはあれど、職場の階段をのぼることも困難なほどつらさが増していった。
転機が訪れたのは、生理の症状が重くなってから約10年もの月日が経った時のこと。
職場の上司に、出血量が多くて仕事に支障が出ていることを相談すると、「ミレーナ(※)を入れる選択肢もあるのでは?」と提案してくれました。
それをきっかけに、近所の産婦人科に行って「生理がつらくて出血量も多い。何日も息切れが続いている」と相談すると、すぐにミレーナを入れてもらえたのです。
ミレーナをいれた後は、生理期間の出血量は明らかに減って体調も改善。生理がつらいと感じることはなくなり、大事な仕事・イベントと生理が重なることも気にならなくなった。
それと同時に、つらい生理を長く放置してきた期間を後悔したという。
医師である私ですら最適な医療にたどり着くまでこれだけ時間がかかったのですから、世の中の女性たちはもっと大変だろうなと思います。
そして、過去の診察を思い返してみても、子どもたちから生理の相談を受けること自体が少なくレアケースであることも問題としてとらえるようになりました。
これは、困っている子たちがいないということではなく、ただ表面化していないだけなのだろう、と気付いたのです。
それから、「生理のつらさは治療できる」ことをもっと多くの人に広めていきたいと思うようになりました。
生理の痛みでやりたいこと・挑戦を「諦める」のはもったいない

毎月やってくる生理はつらいけれど、病院に行くほどなのか……そんなふうに悩んだときには下記の要素を一つの目安にしてほしい。
・生理による体調不良でつらいと感じることがよくある
・生理を理由に「仕事を休みたい」と感じる、実際に「休む」必要がある
・生理によって、やりたいことを我慢したことがある
上記に一つでもあてはまることがあるなら、「一度、医療機関に相談してみてもいいのでは」と田中さんは呼び掛ける。
病院では、その人に合った治療法を提案するために、生理の周期、痛みの程度、出血の量などを聞きます。
それから、もともと持っている病気や今飲んでいる薬、タバコを吸っているか、血圧が高いかなど、ピルを飲んで問題ないかどうかもしっかり確認します。
あとは、「ピルは使いたくなくて、漢方薬から使いたい」など治療方針もヒアリングするので、受診前に自分の希望を考えて医師に相談できるようにしておくとなお良いですね。
痛みや出血の多さでやりたいことができないとか、チャレンジしようと思う気持ちがへこんでしまうとか、あらゆる可能性が生理の痛みなどによって潰れてしまうのは、本当にもったいない。
全ての人が医療機関に来るべきとは思いませんが、もしも今、痛みや出血の多さで苦しいと思っている人がいるなら、治療を選択肢に入れて「やりたいことをやりたいようにやれる毎日」を手にしてほしいと思います。
治療を身近なものにするには、通いやすい病院、頼れる医師を見つけることが重要だ。自分と合う医療機関・医師と出会うためには、ある程度「足を使う」ことも大事だという。
私も最初に婦人科で生理の相談をしたときは「我慢すれば」と言われて終わってしまい、そこから次の治療につなげるまでだいぶ期間があいてしまいました。
でも、今思うとすごくもったいないことをしました。そこで諦めずに違う病院に行っていれば、何年も生理に悩まされる人生を送らずに済んでいたかもしれません。
仕事でもプライベートでも、「やりたいことを我慢しないでいい」毎日を過ごせるようになる可能性がありますから、今まさに生理に悩んでいるはぜひ一度相談してみてくださいね。
取材・文/栗原千明(編集部)
【アンケート調査概要】
●調査方法:20~49歳の女性へのWebアンケート(クラウドワークスにて)
●調査期間:2025年6月12日~6月13日
●有効回答者数:100名