
【アンゴラ村長】健康体型界隈のニュースター爆誕の裏側「素の自分を大事にすることが、長く働き続ける秘訣です」
「20代の頃は、芸人として『こうあるべき』というような『型』に自分をあてはめることばかり考えて、苦しくなっていた時期がありました」
そう打ち明けてくれたのは、お笑いコンビ・にゃんこスターのアンゴラ村長さん。
2017年の「キングオブコント」で準優勝したことをきっかけに、リズム縄跳びネタでブレーク。芸人として働くかたわら、新卒入社した企業に今も籍を置いている。
24年には自身初となるデジタル写真集『150センチ、48キロ』がヒット。続く1st写真集『標準体型』(ともに講談社)の出版を控える彼女が、「素の自分」で表現することを大切にする理由について聞いた。
標準体型で「普通」な自分もかわいい
去年(2024年)にアンゴラ村長さんが出されたデジタル写真集『151センチ、48キロ』(講談社)がヒットして話題になりましたね。
はい、私の写真集に需要なんてあるのか……? って、ずっと疑問だったんですけど(笑)
いざ出してみると、ありがたいことに1.4万冊以上ダウンロードしていただけました。こんなことが起きるなんて、異世界転生しちゃったんじゃないかって思うくらい驚きです。

特にうれしかったのは、写真集を見てくださった女性たちから「自然体な姿がかわいい」という声をたくさんいただいたこと。
「写真集を出しませんか」と講談社さんからお話をいただいた時は、反射的に「痩せなきゃ!」って思っちゃったんですけど、すぐに「そうじゃないよな」って思い直したんです。
私はモデルやアイドルじゃないし、スタイル抜群であることなんて求められていない。
だったら、「ありのままの自分で、やれることをやらなきゃ」という気持ちで撮影してもらいました。
というわけで、撮影の直前までがぶがぶビールを飲んだり、いつも通り過ごすことを頑張りました。
潔いですね。2025年7月に新しく出版される写真集『標準体型』でも、自然体な自分を見せるスタンスを貫いていますね。
はい。
ちなみに、写真集のタイトルは撮影時の身長体重で『152センチ、51キロ』にしようかなって思ってたんですけど、前回と違う写真集だと気付いてもらえない気がしてやめました(笑)
30代にして、背が伸びたんですか?
そうなんです。
整体に通って姿勢が良くなったのか1センチ伸びました。あと、体重も増えたんですがおかげでより標準体型そのものになりました。
昨年より、全体的に少し大きくなったんですね!『標準体型』というタイトルも、印象的ですよね。

最近はSNSでも「健康体型界隈」というキーワードが話題になったり、普通であることをポジティブに受け入れる若者の価値観も目立つようになってきたと感じます。
ですが、まだまだ多くの女性が「痩せたい」「ダイエットしなきゃ」と悩んでいるはず。
もしもそれが苦しかったり、ストレスになっていたりするなら、もっと多様な「かわいさ」や「美しさ」に気付くことができるといいんじゃないかと思います。
この写真集をきっかけに、標準体型でもご飯を食べればお腹は膨れるし、座ればお腹が出ることが世の中の常識になってほしいです。
あとは体型以外にも人の「かわいさ」や「美しさ」はあるのでそういうのも感じ取ってもらえたらうれしいです。
自分自身を偽った結果、誰も得しなかった

「ありのままの自分を見せる」というスタンスは、仕事をする上でも大事にしていることなんですか?
そうですね。そもそも私は「うそをつく」ことができない性格で……。
大学3年生から事務所に所属して芸人として活動をしていたのですが、まだスケジュール感が読めず、アルバイトに遅刻してしまったことがあって。
「もう遅刻はしないな?」って社員さんに聞かれて、普通の人は「はい」って言うんだと思うんですけど……。
でも私は、今後お笑いの活動がますます忙しくなっていったら「絶対遅刻しない」なんてことは約束できないよなって思って「いや、遅刻します!」って答えたんですよ。
そうしたら、普通にバイトをクビになりました。
不器用なくらい正直なんですね(笑)。
「できないことはできないと言う」自分を偽らないスタンスは、ブレークをしても変わりませんでしたか?
気持ちとしてはそうしたかったんですけど、「ありのまま」でいることが難しい時期もありました。
でも、社会人になってからはなおのこと、無理して自分を大きく見せるようなことは誰のためにもならないから「やらないほうがいい」と学びましたね。
それはなぜですか?

デビュー当時は、「芸人たるもの、こうあるべき」という型に自分をはめなければいけないと思って、無理をしていた時期がありました。
まだ自分に何が出来るかも分かっていない状態で世に出たので、芸人なら「こういう場面ではこうボケるよね」みたいなお決まりの流れができなきゃいけないと勝手に思い込んで焦っていました。
他にも、「ディレクターさんから求められることには、ちゃんと応えなきゃ」とその当時なりに頑張っていたと思います。
でも、自分の中から出てくるものじゃなくて、それっぽいことをなぞってやっているだけなので、どんどん“知らない自分”が増えていくようでした。
だからどうしたらいいか考えるんですが、考えれば考えるほどに自分には何もない気がしてきて。だんだん心が荒んでいき、全てのやる気を失った時期もありました。
20代「人生の暗黒期」で、自分にできることを学んだ

「求められること」を無理して続けた結果、心がすさんだ時期があったというお話がありました。その時期をどのように抜け出したのでしょうか?
どん底だったのは、25歳くらいの時ですね。
にゃんこスターとして目指したい理想と現実のとてつもないギャップに押しつぶされそうになっていたのと、テレビで求められることと自分のやりたいことが一致せずに悩んでいた時期でした。
とことん落ち込んでいた時期は、ベッドとリビングを行き来するだけで1日が終わるような日を何日も過していた気がします。
でも、そんな時にふと「ちょっとラジオでお話しでもしてみようかな」って思い立ったんです。
それで、ラジオでお話しするための台本を童話風に書き始めてみたんですけど、すごく気に入ってしまって。
完全に自画自賛だし、客観的にどう評価されるかは分からないんですけど「私、天才だ…」と誇らしく思えたんです。
すると、重たかった気持ちがうそのように晴れていき、「やっぱり私の原動力はモノづくりなんだ」と自分の内側にある気持ちとようやく向き合えたんです。
そうやって創作活動を続けていく中で、「毎月、新ネタを三つ作る」というルールも決めました。
ネタ作りをルールにしたのはなぜなのでしょうか?
やっぱり、好きなこととはいえネタづくりや創作活動にはエネルギーが必要なので、「何もしない方が楽だな」「もっと寝ていたいな」ってなる気持ちも人間だからあります。
決めておかないとサボる未来が見えていたので、もう先に自腹で7万円くらい払って劇場をおさえて。
「この日に劇場借りちゃったんだから、新ネタをやるしかないんだ」とやらざるを得ない環境に自分を追い込んでやっています。
楽しいことでも、続けるための「努力」は必要ということですね。
はい。
にゃんこスターが毎月ライブで新ネタを披露し続けていることを知っている人はまだまだ少ないと思いますが、やればやるほど自分たちとしては「武器」が増えて自信がつくし、テレビでも新ネタを披露する機会を少しずつもらえるようになったりして、良い循環を生んでいます。

「自分の武器」だと思えることを、毎月ちょっとずつ増やしていく考え方はすごくいいですね。
「普通すぎる自分」に悩む……という人ほど、ぜひ試してみてほしいです。
私は新ネタづくりの他に、エッセイを書くお仕事も楽しかったので「note.を週1で更新して文字が書けることをアピールしよう!」と2022年に決めて、今も書いています。
そんなふうに自分が心からやってみたいことを見つけたら「絶対に週に1回はやる」などルールを決めて行動に移してみてください。
ちょっと背伸びしてようやくできるくらいの目標を立てて継続していくと、周囲のことを見てる暇がなくなって自分自身の目標や行動に集中できるので悩む時間が減ります。
人と自分を比べて悩んでいるときって、集中できることがないときだったりしますよね。

そうなんです。私も「新ネタづくり」のルールを決める前は、周りの芸人さんと自分を比べては落ち込む……なんてこともあったのですが、いまはそれどころじゃない。
ネタを考えなければ!ってそっちばっかり考えているので、悩みとしてはすごく健全です。
そして、自分に目標を課してちょっと努力するようになると、今の自分に足りないものや、自分の得意なことがますます分かってきました。
努力をカタチに残すと、確実に自信につながります。
実際にそれが、次の仕事につながることもありますしね。
そうですね。忙しいときは「一行だけでもいい」と決めてnote.を更新し続けていました。
すると、それを読んだ方からエッセイ寄稿のご依頼をいただいたり、コラム連載のお仕事をいただいたりもして。
あとは、出身が埼玉なんですけど、地元に何か還元できる仕事ができたら存在意義を感じられるなと思っていたところに「テレ玉」の番組のレギュラーをいただきました。
そこから、もっと埼玉の魅力が広まるようにとロケ先で動画を撮っておいて自分でショート動画に編集してSNSに上げています。
好きなものや得意なものは、苦手なことを知ってこそくっきり浮かび上がるものだったりすると思うので、20代の頃に向いてないことにも挑戦したり、とことん落ち込んだりするような経験もできて良かったです。
そういうものも知ったからこそ、30代で自分が何に「心の高鳴り」を感じるのかがちゃんと分かった気がします。
失敗しても「笑える未来」がくればOK

30代になると、20代ほどフットワーク軽くいろいろなことに挑戦できなくなる人もいると思います。アンゴラ村長さんはどうですか?
意外とそうでもないですね、むしろ、失敗することを気にしなくなりました。
芸人だから……っていうのもあるかもしれませんが、結局、何かで大失敗しても「面白い結果」になるような気もしていて。
仕事で「こういうことをやりたいんだ」っていうプロジェクトを仕掛けて大コケしても、後から「あれ、めっちゃ気合い入れてたのにまるでうまくいかなかったよね(笑)」みたいになってもそれはそれで笑えるというか。
何か挑戦するときには、失敗したとしても「笑える未来」を想像しておくと、気が楽になると思いますね。
20代の頃は、そんなふうに考えられてはいなかった?
全く考えられない時期もありましたね。
「次の仕事で爪痕が残せなかったら、もう終わりだ」とか、極端なことを考えて自分を変に追い詰めた時期もありました。
肩の力を抜いて働けるようになった転機の一つになったのは、「漫才協会」に入ったこと。
漫才協会に入って衝撃だったのが、80歳を超えても漫才をずっと続けている人がいて、それこそ「80歳だからこそできるボケ」で笑いをとっていたこと。
そういう先輩たちの姿を見ていたら、80歳になった私が縄跳びを飛んで、よぼよぼすぎて全然飛べなかったら……それはそれでめっちゃ面白いじゃんと思うようになりました(笑)
そういう「笑える未来」を想像しつつ、「80歳までゆるっと芸人してるかな」って思ったら、「今のちょっとした失敗なんて、そんな怖いことじゃなくない?」っていう気持ちになったんですよね。

20代の頃って、何か「スキルを上達させる」とか「秀でる」ことに重きを置きがちですけど、「笑えるか」みたいな軸を持つともっと自分を肯定できそうですよね。
何かを「必死でやる」っていうのもかっこいいし、うまくいかなくても「必死でやったのに大失敗した自分」に笑えたらいいな、と。
そうやって、カッコ悪い自分も笑いながら、ゆるっと80代まで芸人を続けて……よぼよぼしながら縄跳びが飛べたらいいなと思います。
取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)
書籍情報

アンゴラ村長1st写真集『標準体型』(講談社)
にゃんこスター・アンゴラ村長が「“ふつう”の30歳が魅せる本格グラビア」に挑戦した、最初で最後の写真集
©東京祐/講談社