
二宮和也「無力だった頃の経験が今の僕をつくってる」彼をジャンルを超えたトップランナーにした原体験
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
『嵐』としてデビューしてから26年。誰もが認めるトップアイドルである二宮和也さんだが、俳優としてのキャリアも25年を超える。
2006年には映画『硫黄島からの手紙』でハリウッドデビューも果たし、日本アカデミー賞の受賞歴も多数。
バラエティーでも冠番組を持つ彼は、アイドル、俳優、タレント……とジャンルの垣根を越えた芸能界のトップランナーとしてキャリアを築いてきた。
ここに至るまでに、数えきれないほどの「キャリア選択」の岐路に立ってきた二宮さん。彼はなぜ、自らの選択を「正解」にしてこれたのだろうか。
プロフェッショナル・二宮和也の今につながる「仕事への向き合い方」を聞いた。
「ストーリーのない原作」の映画化への挑戦
二宮さんが主演を務める映画最新作『8番出口』は、不気味な世界観と独特のゲーム性で話題となった同名ゲームを原作にした作品だ。
出口のない地下通路をさまよいながら、微細な違和感を見抜き“正しい出口”を探し出すというゲームの設定に、独自のストーリーが乗った新感覚の映画に仕上がっている。
本作において、脚本から携わった二宮さんの前に立ちはだかったのは、原作に「物語」が存在しないという難しさだった。
原作にストーリーがなかったので、設定だけ借りて中身をめちゃくちゃにしてしまうことが一番怖かったですね。
原作のファンの方々が付いてこられるよう、延長線上にある物語にしながらも、それが普遍的になりすぎると単調になってしまうので、うまく波も作らなければならない。
では、その波をどこに持ってこようか……なんていうことを現場で皆で話し合いながら、組み立てていきました。

監督・脚本を務めた川村元気さんから「脚本から一緒にやらない?」と声を掛けられたことで、脚本協力として参加がかなった二宮さん。
本作においてはぜひ脚本から参加したいと考えていた二宮さんにとって、「ありがたいお声がけだった」と話す。
全編において「自分一人だけ」のシーンが多かったので、自分が書いていないものに対してお芝居をしていくと、ひずみが出るんじゃないかなと思ったんです。
だからこそ最初から参加して、現場でも一本軸を通していきたいと思っていました。多分、監督の元気さんもそれを何となく感じていて。だから「やらない?」って声を掛けてくれたんだと思います。
元気さんとはたくさん意見をぶつけ合いました。完成した作品を見ると、どれが僕の意見で、どれが元気さんの意見で、どれが総意なのかも分からないくらい、自然に融合したなと感じますね。
脚本から参加していく上での難しさに加え、チームで一つの作品を作り上げていく難しさも再確認したと、二宮さんは続ける。
今回、一人芝居のシーンが多かったので、間の取り方だったり、空間の取り方だったり、タイミングだったりを自分のいいように進めていけたんですよね。
だからこそ、共演者の方たちと撮るシーンは「あれ、誰かと一緒に芝居するのってこんな難しかったっけ?」って思って(笑)
話し合いながら、呼吸や目線を合わせて作品を作り上げていく難しさを改めて感じました。
そういう意味でも、今回の作品は、チームみんなでこだわりながら一つのものを作り上げていくことの難しさや意義を再確認できるいい機会でした。

成功は「たまたま」、失敗は「実力」
本作において、二宮さん演じる『迷う男』は、どの道が正解か分からないながらも、信じて進んでいく強さを求められる。
それは、単に地下通路から抜け出すという意味合いだけでなく、『迷う男』自身の人生における「選択」も含まれる。
二宮さん自身も、20年以上にわたりキャリアを築く中で、たくさんの「選択」をしてきているが、その道を「正解」にできたのは、彼の仕事への向き合い方によるものが大きい。
自分の選んだ道を正解にするために、まず一生懸命やることは大前提ですが、その一生懸命やった結果を、自分自身でしっかり受け止めることが大事だと思ってます。
僕は良い結果が出たら、それは「たまたま」だと思うようにしていて。「皆さんのおかげです!」っていうニュアンスで受け止めてますね。
一方で、うまくいかなかったときは、その結果をそのまま受け止めて次に向けてブラッシュアップするようにしています。 だから僕は、失敗したことの方がよく覚えてるんです。
たとえば、『嵐』としての活動においても、いつどのツアーをやったとかはあまり覚えていないんですが、「あのツアーのこのポイントでしくじったな~」とかはよく覚えてて(笑)
「もっとこうした方がフィットしたんじゃないかな」なんていう具合に、毎回うまくいかなかったことについては考えを巡らせるようにしています。

成功体験に甘えず、反省を糧にする。どんなに人気が出ても、実績を築いても、ストイックなスタンスを崩さずに「次をより良くすること」を積み重ねてきたからこそ、彼が選択した道は、「正解」になってきたのだろう。
自らが進むと決めた道を正解にするための努力を怠らずに歩んできた道筋こそが、二宮和也のプロフェッショナルたるゆえんだ。
二宮さんが「成功はたまたま、失敗は自分の実力」という考え方を持つようになった原点には、俳優デビューしたばかりの頃の経験がある。
まだお芝居をしたこともない、何の経験も実力もない人間のために、共演してくださる方々をはじめ、衣装、メイク、脚本……と、100人以上の大人が動いて、全力でサポートしてくれる。
僕がただ立っているだけでもお芝居しているように見せてくれるほどの働きに、ただただ感謝しかありませんでした。
下手すぎてどうしようもなかった人間を、諦めずに叱り続けてくれた人たちにも感謝しています。
俳優業を始めたばかりの頃のこのような経験と、この時に感じた感謝の気持ちが、今も僕に「成功に甘えず、失敗を受け止める」ことを続けさせているんじゃないかと思います。

築き上げてきた地位や役割を「作品を良くすること」に生かしたい
映画『8番出口』において脚本から参加し、チームみんなで作品を作り上げていった経験を通して、今後もさまざまな作品に多面的に関わっていきたいという気持ちが強くなったと語る二宮さん。
今回の作品では、監督の元気さんが「みんなの意見をください」というスタンスだったので、現場でもいろんな意見が出て、いろんな答えが出て、それをまとめていって……と、みんなで作品を作り上げていきましたが、そうじゃない現場ももちろんあって。
監督と相反する意見を取り入れた方がいいテイクを撮れるケースだってもちろんあるけれど、それを現場に取り入れるのが難しいことはよくあるんですよね。
そこに意見を通せる立場の人間がいることで、ベストテイクを撮れる可能性があるんだとすれば、今後僕がそういう関わり方をしていけるといいなと思います。
そうすれば、撮ってる人も演じる人も、いい空間で作品を作れるんじゃないかな。
自らの課題から目をそらさず、ストイックに築き上げてきた地位や役割を、作品をより良くするために生かしていく。これこそが、二宮さんが見据えるネクストステージだ。
数々の岐路に立っては、自らの道を正解にするために自分を高め続けていく二宮さんは、これからもその表現を通して、私たちを魅了し続けてくれるのだろう。

二宮和也(にのみや・かずなり)さん
1983年6月17日生まれ、東京都出身。アイドルグループ『嵐』のメンバー。99年、シングル『A・RA・SHI』でCDデビュー。アイドル活動に加え、俳優、歌手、司会者、YouTuberとしても幅広く活躍。俳優としては、ハリウッド映画『硫黄島からの手紙』(2006年)で世界的な評価を獲得。日本アカデミー賞では、『母と暮せば』(15年)で最優秀主演男優賞を受賞するなど、数々の賞に輝く。主な出演作は、TBS系ドラマ『山田太郎ものがたり』(07年)、TBS系ドラマ『流星の絆』(08年)、フジテレビ系ドラマ『フリーター、家を買う。』(10年)、フジテレビ系ドラマ『弱くても勝てます 〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜』(14年)、TBS系ドラマ『ブラックペアン』シリーズ(18年、24年)、映画『GANTZ』シリーズ(11年)、映画『プラチナデータ』(13年)、映画『検察側の罪人』(18年)、映画『浅田家!』(20年)、TBS系ドラマ『マイファミリー』(22年)、映画『ラーゲリより愛を込めて』(22年)など ■X
取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/コウ ユウシエン ヘアメイク/浅津陽介 スタイリスト/福田春美
作品情報
映画『8番出口』2025年8月29日(金)全国公開

原作:KOTAKE CREATE「8番出口」
監督:川村元気
脚本:平瀬謙太朗、川村元気
音楽:Yasutaka Nakata(CAPSULE)、網守将平
脚本協力:二宮和也
製作:東宝 STORY inc.オフィスにの メトロアドエージェンシー AOI Pro. ローソン 水鈴社 トーハン
制作プロダクション: STORY inc. AOI Pro.
配給:東宝
キャスト
二宮和也、河内大和、浅沼成、花瀬琴音、小松菜奈
公式サイト / 公式X / 公式Instagram
©2025 映画「8番出口」製作委員会
『プロフェッショナルのTheory』の過去記事一覧はこちら
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