
【King & Prince髙橋海人】順風満帆に見えても「常に不安」笑顔の裏にある感情とプロ意識
King & Princeのメンバー、そして俳優として、常に新しい表現を模索し続ける髙橋海人さん。
14歳で事務所に入所し、19歳でデビュー。一見、順風満帆に見えるキャリアの裏には、意外なほどの「不安」と、それを乗り越えるための真摯な「プロ意識」が隠されている。
最新作・映画『おーい、応為』では、初の時代劇に挑んだ髙橋さん。豪華なキャスト陣に緊張を隠せなかったと語る彼が、いかにして“自分だけの表現”を見つけ出したのか。
大森立嗣監督との対談で語られた髙橋さんの言葉から、新しい環境で「自分らしい価値」を見出すためのヒントを探る。
監督に見抜かれた俳優としての本質「彼の“影”が武器になる」

髙橋海人さん
1999年4月3日生まれ。2018年、King & Princeとしてシングル『シンデレラガール』でCDデビュー。俳優として数多くのドラマや映画に出演。近年の主な出演作に、ドラマ『DOPE 麻薬取締部特捜課』、映画『Dr.コトー診療所』など。映画『君の顔では泣けない』の公開を控える。
大森立嗣さん
1970年9月4日生まれ。2005年『ゲルマニウムの夜』で監督デビュー。13年『さよなら渓谷』で第35回モスクワ国際映画祭審査員特別賞、18年『日日是好日』で第43回報知映画賞監督賞を受賞。近年の作品に『セトウツミ』、『MOTHER マザー』など
映画『おーい、応為』は、天才絵師・葛飾北斎とその娘・応為の生き様を描いた物語。髙橋さんが演じるのは、酒と女性を愛する人気絵師でありながら、ひょうひょうと自分の道を生きる渓斎英泉(善次郎)だ。
数々の話題作を手掛けてきた大森監督は、善次郎役に髙橋さんを抜擢した決め手をこう語る。
一番のきっかけは、ドラマ『だが、情熱はある』でした。髙橋さんが演じたオードリー 若林さん役は、一見快活に見えるけれど、どこか寂しさを背負っているところがあって、それがとてもよかった。
髙橋さんがもともと持っている明るさと爽やかさに、その影を乗せると、善次郎というキャラクターが際立つんじゃないかと思ったんです。
監督の言葉に、髙橋さんは「そうだったんですね!」と、大きな瞳をさらに丸くして驚きの表情を見せる。
時代劇に出ることが夢でした。僕も絵が好きなので、絵にゆかりのある作品に出られること、そして大好きな大森組に参加できることが本当にうれしかったです。

夢だった時代劇への挑戦。しかし演じる善次郎は、ただ明るいだけの男ではない。3人の妹を養うため、生活のために絵を描く現実主義者だ。
善次郎は生活のために絵を描いているので、常に自分たちの生活のことが頭の片隅にあるんです。
周りから見たらお調子者でお気楽なやつに見えるかもしれないけど、内に秘めているものをあまり表に出さない人。物語が進むにつれて見えてくる善次郎の寂しさも表現できたら、と思っていました。
その想いが結実したのが、映画中盤、お栄(応為)を抱き寄せるシーンだ。「あのシーンは山場の一つだと思っていました」と髙橋さんの声に力がこもる。
善次郎が持っている影の部分、普段は人に言わないような感情が少しずつ放出されていく。そんな意識で演じていました。
その演技を、大森監督は「すごい俳優だと思います」と称賛する。
若い頃とは違う、酸いも甘いも知った“少し重たい人生を背負ってしまった男”にちゃんと見えた。しかも、あのシーンはほとんどカットを割らず、一連の芝居の中で彼がすべてを表現しているんです。
さらに本作では、感情を吐露した直後に絵を描くという難易度の高いシーンも。大森監督は「急遽ワンカットで描いてもらった」と撮影秘話を明かす。
「筆に触れ、絵を描く。その一つ一つの経験が、英泉(善次郎)を理解する上でとても大切でした」と、髙橋さんは役と向き合った日々を振り返った。
「僕で大丈夫?」不安を武器に変えたプロ意識
念願だった時代劇、憧れの監督との仕事。喜びの一方で、髙橋さんの心には大きな不安が渦巻いていた。
出演者の方のお名前を見たら、長澤まさみさんや永瀬正敏さんといった経験豊富な方々ばかりで……。始めは「怖いな、僕で大丈夫かな?」と不安でした。心の中では戦いに出るような気持ちでしたね。
その不安を、彼は行動に変える。撮影前、自ら大森監督に「本読みの練習をしたい」と申し出たのだ。その姿勢に、監督は髙橋さんの「プロ意識」を感じたという。
小さい頃からお仕事をされている“プロ感”がありながら、「本読みをさせてください」と言える素直さと謙虚さがある。それは、自分がこの役に入っていくために今何が必要か、明確に分かっているからこそ。そこに彼のプロ意識を感じました。
「ただの不安症なんですよ(笑)」と髙橋さんははにかむ。
いつまでもビギナーズマインドでいるのも良くないとは思うのですが、大森監督の世界観にちゃんと染まりたくて。撮影が終わるたびに「大丈夫でしたか?」と聞きにいかないと心配で仕方がなかったです。

当初、「時代劇だから」と気負っていた髙橋さんに、監督は「全く意識せず、自由にやってみて」と伝えた。その言葉が、彼を縛るものから解き放った。
肩の力が抜けました。監督に委ねていただいた分、他の人にはできない、自分だけの表現を目指そうと決めたんです。
幼少期からダンスを始め、ライブでは何万人もの前でパフォーマンスをするなど、キャリアを積んできた髙橋さんだが、いまだにカメラの前に臨む前の不安は尽きないと言う。だが、不安や自信のなさは、裏を返せば現状に甘んじることなく、常に高みを目指している証拠だ。
仕事を通してたくさんの経験を積ませていただいているので「もっと自信を持たないと」とは思うのですが……。
今作は時代背景も違い、初めてのことばかりで特に不安要素が多かった。でも、この経験を活かして、どの仕事でもその時自分ができることを自信を持ってやろうと思います!
不安を素直に伝え、学ぶ姿勢を持つこと。分からないことをそのままにせず、不安だからこそ準備と練習を重ねること。そのひたむきな髙橋さんの姿に、「この人と一緒に仕事がしたい」とオファーが絶えない理由が分かった気がした。
遠くの目標より、足元の発見を活かしたい

スタイリスト/丹ちひろ(YKP)
本作を通して、髙橋さんは主人公・応為の生き方にも深く共感したという。
応為は、自分の人生の範囲で得られる情報や、身近にあるものから刺激を受けて絵にしている。今はネットで世界中に繋がれるけど、意外と身の回りのことはスルーしがちですよね。僕も、もっと身近なものに目を向けて、それを仕事に活かしたいと思いました。
遠くの大きな目標だけでなく、日々の暮らしや身近な出来事の中にこそ、自分を輝かせるヒントがある。髙橋さんは、北斎の生き様からもそれを学んだと語る。
北斎は、命の終わりを意識しながらも、今この世界を自由に捉えて描き続けた。その生きざまがすてきだなと思います。
どんな仕事でも、初めての挑戦に不安はつきものだ。しかし、その不安と正面から向き合い、固定観念を壊し、他者との関係性の中で自分の価値を見出していく。髙橋さんのこうした姿勢は、キャリアに悩むWoman type読者にとっても大きなヒントになるはずだ。
取材の合間に、今回の映画や直近で出演したドラマの感想を伝えると「嬉しいです」「ありがとうございます」と、その都度丁寧に感謝を伝えてくれた髙橋さん。取材の最後には「もっと芝居、上手くなりたいです」と、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
その真っ直ぐな瞳は、彼のメンバーカラーである「ひまわりイエロー」のように、太陽に向かって伸びていく姿と重なって見えた。
取材・文/根津 香菜子 撮影/笹井タカマサ 編集/大室倫子(編集部)
映画『おーい、応為』 2025年10月17日(金)全国公開

浮世絵を含め芸術は男の世界だった江戸時代において、北斎の娘という境遇はありながらも、数少ない女性の絵師として活躍した葛飾応為。
「美人画では敵わない」と北斎も認めるほどの絵の才を持ちながらも、短気で気が強く、煙草がやめられない豪快さを併せ持ち、夫と喧嘩の末に離縁し出戻り、北斎が90歳で亡くなるまで弟子として娘として、北斎と共に暮らし続けた応為。
自分の心に正直に情熱を燃やし続けた彼女が最後につかんだ幸せとは──。
キャスト:長澤まさみ 髙橋海人 大谷亮平 篠井英介 奥野瑛太 寺島しのぶ 永瀬正敏
原作:飯島虚心 『葛飾北斎伝』(岩波文庫刊)
杉浦日向子 『百日紅』(筑摩書房刊)より「木瓜」「野分」
配給:東京テアトル、ヨアケ
公式サイト:https://oioui.com/
公式X:https://x.com/oioui_movie
©︎2025「おーい、応為」製作委員会
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