「残業規制緩和」に働く女性の声はポジティブ?“幸福度”を左右するワークライフバランスの実態【独自調査】
2025年10月21日、高市早苗首相が厚生労働相に時間外労働(残業)の上限規制の緩和を検討するよう指示したことが、大きな話題となっています。
指示書には「心身の健康維持」と「従業者の選択」を前提とする旨が盛り込まれ、政府は“働きたい人が働ける”選択肢の拡大に舵を切る考えです。
一方で、「結局、長時間労働が助長されるのではないか」「残業しない、という選択がしづらくなるのでは」という不安の声も。
特に、この動きが「残業できる人が評価される」という空気感に逆行してしまうことで、ライフステージの変化に伴い、時短勤務を選ばざるを得ないことが多い女性たちが、キャリアアップの面で再び不利な状況に置かれてしまうのではないか――という懸念も聞かれます。
私たち働く女性にとっても賛否両論、さまざまな受け止め方をされているこのニュース。そこでWoman type編集部では、20~30代のフルタイムで働く女性100名を対象に「残業時間と仕事の幸福度」に関する緊急アンケート調査を実施しました。
可視化された「いま」と、これからのワークライフバランスの条件を、データと声から読み解きます。
7割が「残業月10時間未満」。多くの人がWLBを維持
まずは、彼女たちのリアルな残業実態を見てみましょう。20~30代のフルタイムで働く女性100名に「Q. あなたの毎月の平均残業時間は?」と質問をしました。
すると意外なことに、「まったくない」「月10時間未満」と答えた人が71%、さらに「月11時間~20時間」まで含めると、全体の88%が「残業時間は月20時間以下」という結果になりました。
フリーコメントでも、「以前は残業ありきで働いていたが、働き方改革で残業がなくなり、その悩みから解放されて良かったと思ってます」(38歳/一般事務)といった声があり、多くの人がワークライフバランスを保ちやすい環境で働いている現状が伺えます。
幸福度の分岐点「月20時間の壁」
では、この残業時間は「仕事に対する幸福度」にどう影響しているのでしょうか。
「あなたは今の仕事で幸せを感じますか?」という質問をしてみると、残業時間が「月20時間以下の人」と「月20時間を超える人」の間で、顕著な差が出る結果になりました。
「非常に幸福」「まぁまぁ幸福」を合わせたポジティブな回答は、「月20時間以下」のグループでは49%でした。一方、「月20時間超」のグループではポジティブな回答が33%に減少しています。
さらに深刻なのが、ネガティブな回答(「あまり幸福ではない」「まったく幸福ではない」)の合計です。
月20時間以下で「あまり幸福ではない」「まったく幸福ではない」と答えた人が29%に対し、月20時間超のグループは67%。残業が月20時間を超えた途端、幸福ではないと感じる人の割合が2倍以上に跳ね上がり、3人に2人が幸福を感じられていないという結果になりました。
今回の調査では、「月20時間」が心身の余裕や幸福度を保てるかどうかの、一つの大きな「壁」となっていることが示唆されました。
幸福度を押し上げるのは、「残業しない自由」があるかどうか
残業時間が幸福度に影響するという結果にもう一つ、幸福度との強い相関が見られたのが「残業取得の自由度」です。
「今の職場で『残業しない』という選択は、自由にできますか?」という質問への回答別に、幸福度の実態を見てみました。
結果は一目瞭然。幸福を感じている人の55%が「残業するかどうかは、完全に自由」と答えており、「まったく自由ではない」人は0%という結果になりました。
中には残業時間が短くても幸福ではない理由として、「上司が残業していると帰りづらい雰囲気がまだある」(35歳・営業事務/あまり幸福ではない)といった声もありました。
つまり、実際の残業時間の「長さ」以上に、「今日は帰ります」と気兼ねなく言える職場の「空気(=残業しない自由)」こそが、働く女性の仕事の幸福度を大きく左右する要因となっているようです。
規制緩和、賛否両論。カギは「空気」より「選択」
では、渦中の「残業規制緩和」のニュース自体、働く女性たちはどう受け止めているのでしょうか。
結果は、「ポジティブ」(45%)が最も多く、「ネガティブ」(30%)、「どちらでもない」(25%)と続く形となり、懸念の声もある一方で、肯定的に捉える人が多いという結果になりました。
ネガティブ派からは、「『従業者の選択』と言われても、結局『残業して働かざるを得ない』雰囲気になりそうで不安」(38歳/一般事務)など、前述の「残業しない自由」が失われることへの懸念が寄せられました。
一方で、ポジティブ派からは、「働きたい人が働ける選択肢が増えるのはいいことだと思う」(26歳/製造業)という意見のほか、「基本的に残業はさせない方針の職場なので、残業代で稼ぐことができないのが不満」(27歳/開発職)といった、「残業してでも稼ぎたい」という切実な声も聞かれました。
「残業はしたくない」という声と、「残業代で稼ぎたい」という声。どちらも働く女性のリアルな本音です。
「どちらでもない」が25%となった背景には、規制のあり方そのものよりも、自分の職場で「残業するかしないか」を本当に“選択”できるのかどうかが見えない、という実態があるのかもしれません。
調査で見えた、幸福な働き方の本当の条件
今回の調査では、「月の残業時間が20時間を超えると、幸福度が著しく低下する」というリアルな「壁」が明らかになりました。
同時に、「残業時間そのもの」よりも「残業しない自由がある」という職場の空気感が、幸福度に直結している実態も浮き彫りに。
「残業規制緩和」が「働きたい人の自由」を意図するものであっても、多くの職場で「残業しない自由(『お先に失礼します』と言える空気)」が確保されなければ、かえって幸福度を下げてしまう懸念もあります。
重要なのは、規制の「緩和」か「強化」かという二項対立ではなく、「残業したい人」も「残業したくない人」も、どちらも気兼ねなくその時々の状況に応じて“選択”できること。
「残業しない自由」が組織の文化として根付けば、出産や育児、介護といったライフステージの変化に直面したときも、キャリアを諦めずに働き続ける選択肢が広がります。それこそが、多くの女性が活躍しやすくなる社会の土台となるのではないでしょうか。
規制のあり方がどう変わるとしても、私たち一人ひとりが心身の健康を保ち、幸福を感じられる「自分だけのベストバランス」を見極めていくこと。そして組織の一員として「残業しない自由」を確保し、気兼ねなく退社できる空気感を醸成していくことが、ますます重要になりそうです。
【調査概要】
●調査方法:20~39歳の働く女性へのWebアンケート(クラウドワークス)
●調査期間:2025年10月22日~2025年10月23日
●有効回答者数:100名
文/Woman type編集部


