「声をあげれば、組織も社会も必ず変わる」20代の政治活動家・酒向萌実が問題だらけの世の中に絶望せずに済んだ理由
「どうせこの会社は変わらない」
「どうせ日本の社会は変わらない」
国や企業がいくら男女平等や女性活躍を唱えようと、まだまだ解消されない男女格差。女性のキャリアアップを阻む、ガラスの天井ーー。
そういう現状を前に、自分が何かを変えられるなんて思えない。そう感じてしまう女性は多いかもしれない。
でも、そんな“絶望ムード”な私たちに、「もしかしたら何か変化を生み出せるかも」という希望を与えてくれるのが、クラウドファンディング事業を行うGoodMorning元代表で、現在は武蔵野市で政治活動にチャレンジしている酒向萌実さん(29歳)だ。

「いきなり大きな変化を生み出そうとしなくていい。目の前の小さな課題解決から試してみて」と呼び掛ける酒向さん。
自分が今いる組織や社会をより良く変えるための一歩をどう踏み出すか、酒向さんが自身の実体験をもとに語ってくれた。
「この状況をどうにかできる」と思えるだけで希望が湧いてくる
ーー酒向さんは「自分の声で社会を変えられる」と思える人を増やしたいというビジョンを掲げて政治活動をしていますよね。その理由は?
社会は自分以外の誰かがつくってるもので、「自分はそこにいるだけ」という感覚で生きていると、つらくなってしまうと思うんですよね。
でも、もし今がつらくても「この状況をどうにかできる」と考えられるだけで、人は希望を持てるじゃないですか。
だから、未来に希望を持てる人を、若者を中心に増やしていきたいんです。
ーー酒向さんの目から見て、今の若者たちは未来に希望を持てていない人が多い?
残念ながら、そうかもしれません。
今の若者は「自分はそこにいるだけ」という感覚が強いし、社会の構成員であるという自覚を持ちにくくなっていると感じます。

ーー若者世代がそう感じてしまう理由は何だと思いますか?
政治の場に若者がいないことは、大きな要因の一つですね。
例えば、私が政治活動を行っている武蔵野市には、20代の市議会議員が一人もいないんですよ。30代も一人いるだけで、ほとんどの市議会議員さんたちが中高年。
武蔵野市は40%が女性ですが、全国では女性の地方議員は全体のたった14%です(2023年2月時点)。
政治の場に自分たちの世代の代表がいないことで、「どうせ選挙にいっても無駄」「自分たちは社会から大事にされていない」という気持ちが膨らんでしまう。
でも、実際は未婚の若者たちだって、この社会の中で生きていく上でさまざまな課題を抱えているわけで、行政の支援が必要な人もたくさんいます。
20~30代は元気で働けている人が多いから支援対象になりにくい存在ですけど、実際には仕事のことや家庭のことで困っている人も多くいるはずです。
ーーそれなのに、政治の世界にこの世代の代表者がいないことで、問題が軽視されてしまう。
はい。そういう面はあると思っています。
だから、若者たちは意識的に「自分たちはこういうことに困っています」と声をあげてアピールしていかなければいけないし、それをちゃんと政治に生かす若手政治家の存在も欠かせない。
私もその一人になれたらと思い、政治活動に乗り出しました。
スタディークーポン、選択的夫婦別姓……「声を上げたら社会が変わった」
ーー酒向さん自身はなぜ、「自分の声で社会は変えられる」と思えるようになったんですか?
誰かが声をあげることで、実際に社会のルールが変わった現場をたくさん見てきたからだと思います。
これは、企業のような組織においても同じです。よく「うちの会社はどうせ変わらない」と口にする人がいますけど、きっとそんなことないと思うんですよね。
会社には社長のような立場の人がいますけど、社長=会社じゃないし、実態としては社員一人一人がつくっているもの。
だから、誰かが作ったルールを誰かが変えたいと言えば、変わる可能性は十分あると思います。

例えば、前職のCAMPFIREにいた時、朝9時半くらいから始まる会議が結構あったんですよ。
でも、その時間って子どもがいる社員からしたら、保育園に子どもを送って必死の思いで会社に来てようやく間に合うくらいの時間なんですよね。
それで、ある時「保育園に子どもを送った後だとこの時間の会議に遅れず参加するのがきついので、会議は10時以降にしませんか?」って提案してくれた人がいて。
それで「確かにそうだよね」ってなって、新しく「社内会議は10時以降から」という時間に関するルールができたんですよ。
すると、「実は私もそう思っていた」「私も困っていた」とそれを機に言い出せるようになった人もいて、最初に声を上げてくれた人の功績はすごく大きかった。
ささいなことかもしれませんが、これだって「声を上げたら組織が変わった」成功例だと思います。
あとは、過去に3000件以上クラウドファンディングのプロジェクトを手掛けてきたので、もっと広い範囲でこれと同じようなことはたくさんありました。
ーー実際に「声を上げたら社会が変わった」印象的な事例はありますか?
特に印象的なものが二つあります。
一つは、「スタディークーポン」という子どもの塾代をサポートしようという取り組みを前職の事業を通してサポートした時のこと。

子どもたちの学力格差が「塾に行けるかどうか」で広がっているという問題を明らかにして、クラウドファンディングで塾に行ける子を増やす支援を始めました。
ただ、やればやるほど、教育・学力格差の問題なのであれば、行政も組み込まれるかたちで継続的にサポートすべきだと考えるようになって。
そういう意見を発信して行政にも働き掛けを行った結果、全国の地方自治体にこの取り組みが仕組みとして広がっていきました。
行政の人たちは当初、「学校の問題じゃなくて、塾が対象なら自分たちは関係ない」という姿勢でしたが、根気強く交渉して実際に塾に行けるかどうかで子どもたちの学力格差が生まれているという事実を伝えたら理解してもらえて、徐々に「行政もちゃんとフォローしなきゃね」というスタンスに変わっていったんですよ。
こういうアクションを起こすことで、「税金の使い方って変えられるんだ」という発見につながりました。

もう一つは、選択的夫婦別姓の実現のためのプロジェクト。
選択的夫婦別姓のためのプロジェクトでは、「陳情」という自治体に要望書を出すアクションを全国で展開してきました。
いまだに法改正は実現できていませんが、選択的夫婦別姓というキーワードを目にする機会は増えているし、賛同してくれる人の存在も多くなってきていると思います。
身近な事例で言うと、うちの祖母が選択的夫婦別姓に関するニュースを見て「早く実現するといいわね」って私に言ったんですよ。
選択的夫婦別姓という選択肢をもともと知らなかった祖母がぽろりともらしたこの言葉を聞いて、「ちゃんとこの世代の人にも届いたんだな」と思うと、うれしくなりましたね。
ーーそれはすごく自信につながりますね。
はい。社会課題解決ってそう簡単に成し遂げられるものではないから、やっていてしんどいときもあります。でも、こういういい兆しがでた事例もあるから、「それでもやるんだ」と思って踏ん張れるんですよね。
あと、私自身は「自分の声で社会は変えられる」と心の底から思えるから、世の中に絶望しなくて済みました。
そうやって常に未来に希望を持てる状態でいられることが、私自身を救ってくれていますし、皆さんのことも救うと信じています。
自分の困りごとを口にするのは、わがままなんかじゃない
ーー今いる組織、今暮らしている社会を良くするためのアクションは、誰にでもとれるものでしょうか?

もちろんです。先ほどお話しした会議時間の事例もそうですが、自分が困ってることを「困っている」って声に出してみるだけで、物事が良い方に変わることっていくらでもあると思いますよ。
「こんなこと言ったらわがままと思われそう」という人もいるかもしれませんが、そんなこと心配しなくていいですよ。
だって、あなたの困りごとは、誰かの困りごとでもあるわけで、ひいてはみんなのためになるんですから。
仮に今の職場に時短勤務で働いているのが自分しかいなかった場合でも、「時短勤務の人はこういうルールだと困るんです」って伝えたことで会社が変わったら、これから時短勤務で働く人にとってもめちゃくちゃいいことじゃないですか。
だから、「他の人も困るかもしれない困りごとをみつけた」くらいに思って、しかるべき人に相談したり、みんなもこういうことに困っていませんか? って声を上げたりしちゃえばいいと思うんです。
ーー周りの人の助けになるかもって思えたら、何だか言い出しやすくなりますね。
はい。仮に、困っていることを相談したのに「何わがままなことを言ってるんだ」という反応が返ってくるような組織なら、それは変化を拒む環境だから、そのままいても発展は望めないかもしれません。
共働きが増えているとか、働き方に制約のある人が増えているとか、そういう変化って「これから起きる」ものでも「起こす」ものでもなくて、「もう起きている」もの。
その変化に組織の側が追い付けていないようなら、「追い付けていないよ」って教えてあげて、それでも変わらないなら、変化に対応している環境に自分が居場所を移してしまってもいいのではないでしょうか。
まずはぜひ、どんな小さなことでもいいから自分の困りごとを口に出してみてください。きっと「私も困っていた」という仲間が出てくるはずです。
それをきっかけに、周囲の人が、組織が、社会が少しずつ変わっていくプロセスをぜひ皆さんにも実感してもらえたらいいなと思います。

酒向萌実さん
1994年2月生まれ、東京出身。国際基督教大学卒業後、アパレル企業のTOKYO BASEを経て、2017年1月、CAMPFIREに参画。社会課題解決に特化したクラウドファンディングサービス『GoodMorning by CAMPFIRE』の立ち上げに携わり、18年1月より事業責任者として活躍。19年4月、GoodMorningの事業分社化に伴い、代表取締役社長に就任。22年に退任し、大手人材系企業に入社。23年2月に同社を退職し、政治活動を本格的に始動。地域の対話の場「むさしのダイアログ」を主催Twitter/Instagram
取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)