史上最年少の女性市長・川田翔子が目指す未来「若い女性でも政治家になれる。その事実に意味がある」
時代が変わる過渡期の今、より良い未来をつくろうと活動する人たちにフォーカス。前例や常識を超えて前に進む彼女ら・彼らの姿を見てみよう
2023年11月、京都府八幡市で全国最年少の女性市長が誕生した。
川田翔子さん、33歳。京都市役所でケースワーカーとして勤務した後、政治の世界へと転身。京都府八幡市の市長選に初出馬し、当選を果たした。
全国の市区町村長の女性比率は、2021年時点でわずか2.3%に過ぎない。
圧倒的に女性が少ない政治界に「私のような若い女性がいることに意味がある」とほほ笑む川田さん。彼女が描く未来とは?
「全国史上最年少の女性市長」に想像以上の反響
私が政治の道を志すことになった原点は、家族です。
弟に生まれつきの知的障害があり、両親は弟に教育を受けさせるための支援先探しに苦労していました。最終的に弟は他県の私塾に通うことになり、家族が離れ離れに暮らしたこともあります。
そんな両親の姿を間近で見てきて、家庭に寄り添った支援の難しさを痛感したことがきっかけとなり、福祉に興味を持ちました。
福祉を改善するアプローチはいろいろありますが、私が選んだのは政策です。大学で恩師から「政策は社会の処方箋」と教わり、その通りだなと思ったんです。
だから政策を仕事にするために、卒業後は京都市役所に就職し、ケースワーカーとして勤務していました。
ただ、役所ではセクションが決められているので、携われる分野はどうしても限られてしまいます。
平等性や公平性を前提に行政サービスを提供する上で、決められた枠組みの中で対応するのはとても大切なこと。そう実感する一方、職員の立場でできることの限界を感じるようにもなりました。
その点、政治家は分野を横断して動くことができ、枠組みそのものを変えることだってできる。それが政治の道に転身しようと思ったきっかけです。
私が京都府八幡市長に当選したことは、「全国史上最年少の女性市長誕生」と全国で話題にしていただきました。
実は「当選したら女性で史上最年少市長になる」というのは、私も選挙を始めてから知ったんです。想像以上の反響に驚きました。
「期待しているよ」と温かい言葉をかけていただける一方、「どれだけのことができるのか」と厳しい目で見られる面もあることを理解しています。
本来であれば仕事に性別は関係ありませんが、「最年少女性市長」であることで注目をしていただいているのであれば、それを追い風に、政策を前に進める推進力にしていきたいと思っています。
若い女性であってもまちづくりのトップとして実績を上げられることを着実に示していけるよう、「本当にできるの?」という懐疑的な思いを実績ではね返すくらいの気持ちで、市役所の皆さんと頑張っていきます。
目指すのは「みんなに奉仕する」リーダー像
市長になり、改めて明確になったのは、自分がやりたいことをやるのではなく、皆さんがやりたいことを実現するのがリーダーの仕事だということ。
自分のまちづくりの目標を持ちながらも、市民の皆さんの「こうなったらいいな」という意見を最大限実現できるよう、トップとしてまとめ、前に進めていく。それが私がやるべきことだと思っています。
支援者の方から「川田さんが目指しているのはサーバントリーダー(支援型リーダー)だと思う」と教えていただいたのですが、まさにそう。チームの意見に耳を傾けた上で方向性を示し、チーム全体に奉仕することで物事を前に進める。それが私が描いているリーダー像です。
そのためにも、これからはかえって我を抑えることを意識しなければと思っています。私、本来はとても我が強いんです(笑)
ただでさえ忙しかったり、努力が認められなかったりすると、つい「自分の気持ちを分かってほしい」という思いが芽生えるもの。
余裕がなくなると、どうしてもイライラが態度に出てしまいやすくもあります。そういった自我をどこまで抑えられるか。
これは秘書時代に先輩から言われたことですが、「評価は他人がするもの」であり、「私はこんなに頑張っている」というのは自己評価でしかありません。
それに、あらゆる立場や年代の方に「川田さんの言うことなら聞いてみよう」と思っていただくためには、「この人ほど頑張れないな」と相手が思うところまで自分が行動する必要があります。
そうして認めてもらうことで初めて聞く耳を持っていただける。そう思っているので、「自分なりに頑張った」ではなく、周りが納得してくださるまで力を尽くすことを心掛けていきたいです。
政治の世界にいる女性は「お皿でスープを出された鶴」と同じ
政治の世界は男社会であり、女性はマイノリティーです。
これは政治のみならず、男性が大多数を占める業界全般に言えることですが、男性が仕組みをつくった世界で、女性が働きにくいのは必然なのだと思います。
皆さんは『キツネと鶴のご馳走』というイソップ童話をご存じですか?
キツネが鶴を食事に招待するのですが、キツネは意地悪で平たいお皿でスープを出します。鶴はくちばしだから、うまくスープを飲めません。
後日、鶴はキツネを食事に招待し、今度は細長い器でスープを出してキツネに仕返しをする。そんなお話です。
政治の世界にいる女性たちは、いわばお皿でスープを出されている鶴のようなものだと思います。仕組みが女性に適していないから、無理せざるを得ない。
ものすごく頑張ってできないことはないけれど、「鶴なのにお皿でスープを飲むのが上手」というのは本質的ではないし、他の女性に同じ努力を強いるのも違うなと思います。
じゃあどうするか。解決策は、プレーヤーの多様化です。
仕組みは利用者の使い勝手が良いように変わっていくものであり、現行の仕組みや制度が男性向けになっているのは自然なこと。イソップ童話と違って、決して悪気があるのではありません。
だから、まずは女性が少しずつでも増えていくことが重要です。いきなり仕組みをガラッと変えるのは現実的ではないけれど、女性が増えれば、少しずつ両者に適した仕組みになっていくはず。
組織や社会のような大きなものに対して、自分一人が頑張っても意味はないと無力に感じてしまう人もいるかもしれませんが、そこにあなたがいることが変化の一助になる。そう私は思います。
そういう意味で、今回私が市長に当選したことで「若い女性でも政治家になれるんだ」というインパクトを皆さんに感じていただけたことには意味があると思っています。
政治家もみんなと同じ働く女性。遠い存在じゃない
私の目標の一つは、皆さんに政治を身近に感じていただくこと。
現状は政治に対する信頼感がなく、要望があっても気兼ねなく伝えられる環境にはないと思います。まして政治の世界に飛び込んでいこうなんて、思えないですよね。
女性や若者が政治の世界に少ないことは日本の大きな課題ですが、単純にイメージが湧きにくいという理由もあると思っています。
入り口が分かりにくく、「こういう人になりたい」「この人が政治家になれるなら、自分にもできるかも」といったモデルケースがほとんどありませんから。
だからこそ、皆さんと同世代の私が政治の世界にいることで、「こういう人でも政治家になれるんだ」と感じていただきたいんです。
私も政策を分かりやすく伝えることを意識しながら、皆さんに身近な存在と感じていただき、信頼していただける政治をやっていきたいと思っています。
現状の政治は「自分とは遠い人たちがやっていること」という印象が強いと思いますが、そんなことないんですよ。
少なくとも私は皆さんと同じ働く女性です。
キャリアに悩みながら市役所から政治の世界へ転身し、市長になって周りの環境はガラッと変わり、仕事で関わる仲間は一気に増えたけれど、私自身は市役所で働いていた頃の自分と地続きです。
この先私が実現したいのは、活気があって、みんなが安心して暮らせる社会をつくること。
私はバブル崩壊の頃に生まれたので、日本が元気だった時代を知りません。それが嫌だというのも、政治を志した理由の一つです。
世の中を見ていると、最近は仕事をする理由として、自分のやりたいことや思い描いている未来を実現するといった、自己実現の意味合いが大きくなっている気がしています。
私は、みんながそういう働き方をかなえられる社会にしていきたい。
そのためにも、まずは「市」という皆さんの生活に一番近い行政のトップとして、八幡で暮らす皆さんの生活実感の充実を第一に、まちづくりをしていきます。
少しでもより良い社会をつくれるよう、一緒に、そしてお互いに、頑張っていきましょう。
取材・文・編集/天野夏海
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