【土屋太鳳】睡眠3時間、休みは年4日。怒涛の20代を経て感じる「今を慈しむ」重要性

【土屋太鳳】睡眠3時間、休みは年4日。怒涛の20代を経て感じる「今を慈しむ」重要性

20代は、目の前の仕事に必死で、キャリアや未来を考える余裕すらないことも多い。

スキルを身に付けなければ、期待に応えなければ。そうして走り続けるうちに、気付けばがむしゃらに日々が過ぎていた。そんな経験を持つ人は少なくないはずだ。

俳優の土屋太鳳さんも、まさにそんな20代を過ごしてきた一人。

「1日の睡眠時間は1時間から3時間、休みも年間で4日しかなかった」時期を、「まるでしがみつくような気持ちで、必死に『目の前の今』を掴もうとしていました」と振り返る。

2025年10月31日公開の最新出演作『盤上の向日葵』では、過酷な宿命を背負う主人公を静かに見守る難役に挑んだ土屋さん。

芸能界デビューから20年近くが経ち、プライベートでもライフステージが変化した今、彼女の仕事への向き合い方はどう変わったのか。その変化の軌跡を探った。

土屋太鳳

土屋太鳳(つちや・たお)さん

1995年2月3日生まれ、東京都出身。2005年、オーディションを経て芸能界入り。2008年に映画デビュー。NHK連続テレビ小説『まれ』でヒロインを務め、以降、映画、ドラマ、CMなど幅広く活躍。近年は『今際の国のアリス』シリーズなどでのアクションも高い評価を得ている

「見守る強さ」を知ったからこそ演じられた難役

土屋さんが最新作として挑んだ映画『盤上の向日葵』は、昭和から平成へと続く激動の時代を背景に、過酷な人生を生きる天才棋士の光と闇を描いたヒューマンミステリー。

本作で土屋さんが演じたのは、殺人事件の容疑者となった天才棋士・上条桂介(坂口健太郎)の元婚約者であり、原作には登場しない映画オリジナルのキャラクター・宮田奈津子を演じている。

土屋さん

この作品の魅力は、「闇のような部分」にあると感じます。どんな人も一度は「自分は何のために生まれてきたのか」と自問自答することがあると思いますが、この作品に登場する人たちは、その答えがはっきり分かっていて目の前にあるのに、どうすることも出来ないんです。

土屋太鳳

彼女が演じた奈津子は、セリフや表情の変化が極端に少ない。それゆえに「役作りに取り組むための軸が少なく、とても難しかった」と語る。

土屋さん

監督と話し合いながら、セリフが少ない場面においても「そこに存在している」という意識を大事にしました。言葉が少ないからこそ表現できることもあるはずなので、そこを任せていただいたと思って演じました。

多くを語らず、ただ静かに「存在する」奈津子。 土屋さん自身は「思ったことは伝えようとするし、すぐ行動に移すタイプ」で真逆の性格だという。

しかし今は、土屋さん自身のライフステージが変化したからこそ、奈津子の「沈黙の中にある強さ」にも、共感できるようになったと話す。

土屋さん

私自身もプライベートが変化し、子どもを育てるようになって、家族を守りたいという意識が強くなってきました。だからこそ奈津子の人との距離感や「沈黙の中にある強さ」に対して、「本気で見守るなら、確かにそうなるだろうな」と感じるようになったのだと思います。

土屋太鳳

土屋さんは、他者を「見守る」ことの難しさを、自身の経験と重ね合わせながら深く掘り下げていく。

土屋さん

誰かを「見守る」って、とても難しいことですよね。 自分だけのことなら自分が我慢したり傷ついたりすればいいだけですけど、自分ではない人を大切に思う時は、どんなに真剣に思いやっても、その人が本当に望むことって、分からないと思うんです。

自分以外の人のことを出来るだけ理解したいなら、その人の表情や行動を制限しない距離で、時間をかけて見守るしかないですよね。だからこそ、映画の中で奈津子が桂介さんを見守る姿には、共感するところがありました。

目の前の「今」に、必死にしがみついていた日々

土屋太鳳

キャリアや年齢を重ね「見守る」という視点を得た土屋さん。そんな今だからこそ、かつてがむしゃらに前だけを見て走っていた日々の意味が見えてくる。

多くを語らない奈津子の姿とは対照的に、自身の20代を振り返り「とにかく必死でした」とほほ笑む。

土屋さん

20代前半は、まだ大学に通っていたり現場でも年齢が一番下だったりして、「教えていただく」立場にいました。睡眠時間は1日1時間から3時間くらい、休みも年間で4日くらいしかなかった頃なので、実をいうと記憶がないくらい必死だったんです。

その頃から「今この瞬間」を大切にすることを心掛けてはいたものの、当時はまるでしがみつくような気持ちで、必死に「目の前の今」を掴もうとしているような感覚でした。それは私に限らず、同年代であればどんな環境の方々も同じなのではないでしょうか。

土屋太鳳

目の前の「今」をこぼれ落とさないよう、必死にしがみついていた日々。

「今を大切にする、という生き方の方針は変わらない」と語る彼女だが、その内実には大きな変化があったという。

土屋さん

「今」をどう大切にするか。当時に比べるとその姿勢は変わりました。 しがみつくというより、慈しむというか……包みたくなる、味わうようになったイメージです。

私の場合はライフステージの変化がきっかけの一つだとは思いますが、こういう変化は周りの同年代の友人にも感じるので、仕事もプライベートも「人生経験の積み重ね」が感覚を変えるんだろうなと思います。

仕事に必要な厳しさは「愛情」から生まれてくる

土屋太鳳

キャリアを積み重ねる中で、「今」を慈しみ、味わうことを知った土屋さん。そのしなやかなマインドの変化は、彼女の仕事観にも深く結びついている。

土屋さん

「いい仕事」って、いろいろな解釈があると思うんです。人間関係的にいい仕事だなとか、やりがいがあるからいい仕事だなとか。年月が経ってみないと本当の良さって分からなかったりしますよね。

私自身は、せっかく人と人が出会って何か一緒のことをするのであれば、「心が通う仕事」がいいなと思っています。

そう柔らかな表情で彼女が言う「心が通う」とは、単に仲良くすることではない。その視線は、仕事の「結果」へと真っ直ぐに向いている。

土屋さん

私はどの現場でも、愛情を大切にするよう心掛けています。お互いを本当の意味で思いやって、仕事に愛情を注ぎ合うことで、必要な厳しさも生まれてくると思うんです。

キャストさん、スタッフさん、たくさんの人と関わる仕事なので至らないこともたくさんありますし、「届かないな」と感じることもありますけど、日々のちょっとした時に愛情をほんの少し意識するだけでも、何かが違ってくるような気がします。

「心の通うライフワーク」をスタートしたい

10歳で「演技の仕事をしたい」と思ってから20年。大きな節目を迎えた彼女は「大人として、小さくても心の通うライフワークをスタートしたい」と、新たな目標を語ってくれた。

土屋さん

いま、姉と弟と一緒に、朗読劇の作品を作っているんです。初めての試みなので心配だったのですが、読み合わせや演出が始まってみたら、「あれ?これなんだか、子どもの頃にやっていたな」と懐かしい感覚でいっぱいになりました。

子どもの頃に姉弟と謎の劇を作って、めちゃめちゃダメ出しし合って遊んでいたので(笑)、そんな感じで進めているんです。

こんなふうに小さくてもオリジナルの作品を少しずつ作っていきたいですね。将来的には、海外でもそういった活動が出来たらいいなぁと。

その「心の通うライフワーク」も、彼女にとっての「大切なこと」の一つなのだろう。インタビューの最後に、土屋さんは同じように「大切なこと」を探し続けるWoman type読者へ、エールを送ってくれた。

土屋太鳳
土屋さん

好きなことを続けるのはすごく難しいけれど、人として生きる上で、本当に大切なことだと思います。この作品を通して、ご自分にとっての好きなこと、大切なこと、守りたいことへ思いを馳せていただけたら嬉しいです!

20代のがむしゃらな時期を経て「今を慈しむ」ことを知ったからこそ、彼女の言葉は温かく、力強く響く。

土屋さんのように、自分だけの「大切なこと」を見つけるために、私たちもまずは目の前の「今」を味わうことから始めてみたい。  

文/大室倫子 撮影/赤松洋太

映画『盤上の向日葵』10月31日(金)全国公開!

土屋太鳳

山中で謎の白骨死体が発見される。事件解明の手掛かりは、遺体とともに発見されたこの世に7組しか現存しない希少な将棋駒。容疑をかけられたのは、突如将棋界に現れ、一躍時の人となっていた天才棋士〈上条桂介〉だった。

さらに捜査の過程で、桂介の過去を知る重要人物として、賭け将棋で裏社会に生きた男〈東明重慶〉の存在が浮かび上がる。桂介と東明のあいだに何があったのか?謎に包まれた桂介の生い立ちが明らかになっていく。それは、想像を絶する過酷なものだった……。

映画『盤上の向日葵』
監督・脚本:熊澤尚人
原作:柚月裕子「盤上の向日葵」(中央公論新社)
出演:坂口健太郎 渡辺謙 佐々木蔵之介 土屋太鳳 高杉真宙 音尾琢真 ほか 
音楽:富貴晴美 主題歌:サザンオールスターズ「暮れゆく街のふたり」(タイシタレーベル / ビクターエンタテインメント)
製作:盤上の向日葵」製作委員会
公式HP:https://movies.shochiku.co.jp/banjyo-movie/
公式X/Instagram

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