【早見沙織】声優を20年やって気付いたスランプ脱出術「自分をご機嫌にするリストのススメ」
いま日本各地で熱烈に「推されている」注目の人に、仕事に対する知られざる努力とこだわりをテーマにインタビュー。彼・彼女たちがファンから「激推し」される理由を探ります!
中学生で声優の道に入り、そのキャリアはまもなく20年。
『SPY×FAMILY』のヨル・フォージャーや『鬼滅の刃』の胡蝶しのぶなど、数々の国民的アニメ作品で印象的なキャラクターを演じ、多くのファンを魅了してきた声優・早見沙織さん。その透明感と深みを併せ持つ声で、アーティストとしても評価が高い。
彼女はなぜこれほど長く第一線で活躍し、多くのファンから「推される」存在であり続けるのか。
11月7日(金)公開の最新出演作である映画『プレデター: バッドランド』で、半身アンドロイド〈ティア〉役の日本版声優を務めた早見さんの、「いい仕事」へのこだわりに迫った。
早見沙織さん
声優、アーティスト。東京都出身。主な出演作に『SPY×FAMILY』(ヨル・フォージャー役)、『鬼滅の刃』(胡蝶しのぶ役)、『ONE PIECE』(ヤマト役)、『魔法科高校の劣等生』(司波深雪役)など多数。その卓越した演技力と透明感のある声質で、幅広い役柄を演じ分ける。2015年からはアーティストとしても活動を開始し、作詞・作曲も手掛けている。 ■X / ■Instagram
『プレデター』シリーズで魅せた異色の展開
早見さんが日本版声優を務めた最新作『プレデター: バッドランド』、これまでのシリーズとは一線を画す展開に驚きました。
私もプレデターが意思疎通できることに驚きました。物語の序盤からプレデターがコミュニケーションを取るという異色の展開で、それを可能にしているのが、どんな言語にも対応できるアンドロイドのティアです。この設定がまず面白いですよね。
早見さんが演じたティアは、アンドロイドでありながら非常に感情豊かでしたね。
その通りです。アンドロイドと聞くと、私の中では感情の起伏がないイメージでしたが、実際の映像を見ると、人よりもよくしゃべるのではないかと思うくらい陽気で、どんな状況でも明るく前向きな、見ていて気持ちのいい子でした。
プレデターと出会ってからは、本当にティアが一人でしゃべり続けています。その勢いや、おちゃめなティアの要素を吹き替えでも壊さないように臨みました。
ティア役のエル・ファニングさんの吹き替えは、今作で4作目になると伺いました。早見さんの中に「エル・ファニングらしさ」のようなものは構築されていますか?
感覚としては、作品ごとに毎回新しい気持ちで向き合っています。ですが、今回のティアのチャーミングな言い回しを聞いたときに、以前吹き替えを担当したドラマ『THE GREAT』での表現をふと思い出すことはありました。
意識して引き継ごうとはしていませんが、これまでの積み重ねが自分の中にも無意識のうちにあり、それが新しい表現に生かされているのかもしれません。
アニメと吹き替えでは、また違った表現が必要になるのでしょうか?
マイクの前で自分の心を動かしながら表現する、というベースの部分は同じだと思っています。
ただ、吹き替えの場合は、演じる役者さんがしゃべった尺(秒数)に合わせて台詞を言わなければなりません。役者さんに寄り添い、近い感覚で表現を追求していくのは、吹き替えならではの面白さです。
落ち込む感情もすべて「味わい切る」
若くしてデビューされて、もうすぐ声優歴も20年を迎えようとしています。早見さんがアニメや吹き替えを演じる上で、大事にされていることは何ですか?
現場に入る前には、「キャラクター像をあまり作らない」ことを意識しています。その場で何を言われても柔軟に対応できるよう、自分の「余裕」や「余白」を残して現場に向かう。その方が結果的にうまくいくと感じています。
あえて、作り込みすぎない、と。その「余白」をつくるために、日々意識していることはありますか?
自分の心身を整えることです。
自分が疲弊していたり、寝不足であったり、心が定まっていないと、それが全て表現に出てしまいます。 そのため、なるべくベストなコンディションで収録に向かい、そのときの自分で一番良いものを積み重ねていけるようにしたいと強く思っています。
働く女性にとって、心身を整え続けるのは本当に難しい課題です。早見さんは、心が定まっていない時、どうやって回復されているのでしょうか。
まず、落ち込むことがあると、その感情をしっかりと味わい切るようにしています。
味わい切る。無理にフタをしないんですね。
はい。そして、「ここから上がっていこう」というタイミングで、あらかじめ元気な時に作っておいた「自分の気持ちが上がるリスト」を実行していきます。
気持ちが上がるリスト、ですか?
スマホのメモに、本当にささやかなことを書き出してあるんです。
例えば、私は美味しいものを食べるのが好きなので、日頃から気になっているお店に足を運んでみます。他には、好きな入浴剤を使ってお風呂でゆっくりする、好きな語学の勉強に触れるなどです。
リストをいくつも作っておき、その中から「今できること」だけを少しずつ行動に移す。それが、バランスよく回復していくコツになっている気がします。
それはぜひ真似してみたいです。リストを考えるだけでも楽しくなりそうですね!
ファンは「相互循環」のような存在
そうしたご自身のお仕事観を確立されるまでには、さまざまな経験があったかと思います。早見さんのキャリアのターニングポイントはどこでしたか?
振り返ると、この世界に入るきっかけとなった出来事そのものが、最大のターニングポイントかもしれません。
子どもの頃、声優という仕事に興味を持ったものの、そのことを親に言えませんでした。
そこで、リビングの机の上に、声優の養成所の広告が載っている雑誌を開いたまま置いたんです(笑)
静かなアピールですね。子どもらしくてかわいいです。
それに気付いた親から「こういうことに興味があるの?」と聞かれ、「実は……」と。すると、「じゃあ、養成所に通う申し込みの電話を自分でしなさい」と言われました。 それまでの人生で、自分から習い事のために行動した経験はなかったので、とても緊張しました。
子どもにとっては、ものすごい勇気がいる行動です。
本当にそうでした。ですが今振り返ると、あの時、勇気を出した自分を「頑張ったな」と思います。
例えば大学生頃にこの道の可能性を考えると、きっと「人生の知識」が邪魔をして、怖くなっていたと思います。あの時はすごく怖かったですが、中学1年生になるタイミングで飛び込めて、本当によかったです。
その「知識のない時期の勇気」のおかげで今の早見さんがあるのですね。
そうですね。何かを始める時、用意周到に望まれる方も多いと思いますが、あえて「準備をする前にまずは飛び込んでみる」というのも、時には大切だと思いました。
勇気を出して声優を目指した女の子が、今こうして「推される」存在になったと思うと胸アツです。
それは本当に、ファンでいてくださる皆さんのおかげです。私にとって、ファンの皆さんは「相互循環」のような存在だと思っています。
私が表現したもの、作り出したものに触れてくださった方が「元気が出ました」「心が震えました」と感想をくださる。その言葉をいただくと、私も「次また頑張ろう」と思えます。
お互いに支え合えている関係だと感じているので、 これからも、表現に対するまっすぐな気持ちと、いつまでもワクワクする心を大切に、皆さんに良いものを届けられたらと思っています。
推しとファンとの正しい循環だ……!本日はありがとうございました!
取材・文/於ありさ 撮影/笹井タカマサ
映画『プレデター:バッドランド』2025年11月7日(金)全国公開
シリーズ初、プレデターが主人公の新章。 誇り高き戦闘一族から追放され、宇宙一危険な「最悪の地(バッドランド)」に辿り着いた若き戦士・デク。次々と敵に襲われる彼の前に現れたのは、上半身しかないアンドロイド・ティア。「狩り」に協力すると陽気に申し出る彼女には、ある目的があって――。
「究極の敵」を狩って真の「プレデター」になれるのか、それとも「獲物」になってしまうのか。規格外のコンビが挑む、究極のサバイバルSFアクションが今始まる!
■監督:ダン・トラクテンバーグ
■出演:エル・ファニング
■公式サイト:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/predator-badlands
『推しのお仕事!』の過去記事一覧はこちら
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