「二礼二拍手一礼」で願いが叶う、おみくじ“大凶”は最悪…? 初詣前に知っておきたい「参拝マナー」の3大勘違い
全力で駆け抜けた2025年。
「来年こそは昇進したい」「素敵なパートナーと出会いたい」「とにかく健康で穏やかに過ごしたい……」
そんな切実な願いを胸に、年始は「初詣」へ出かける人も多いはず。
お気に入りの着物を着たり、少し遠出して有名なパワースポットへ行ったりと気合を入れる一方で、いざ拝殿の前に立つと、急に不安がよぎることがある。
「あれ、お辞儀って何回だっけ? 周りの人とタイミングが違うかも」
「住所と名前を言わないと、神様に願いが届かないって本当?」
見よう見まねでなんとなく済ませているけれど、良かれと思ってやっているお作法が、実は本来の意味からズレてしまっているかも……?
そこで、『教養として学んでおきたい神社』(マイナビ新書)などの著書で知られる宗教学者・島田裕巳先生にインタビュー。
多くの女性が信じている「参拝マナーの勘違い」と、知っておくべき「神社の賢い頼り方」についてお話を伺った。
宗教学者・島田裕巳さん
作家、宗教学者。東京大学文学部卒業、同大学大学院人文科学研究会博士課程修了(専攻は宗教学)。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。現代における宗教現象、新宗教運動、世界の宗教、葬式を中心とした冠婚葬祭など、宗教現象については幅広く扱う。著書に『無縁仏でいい、という選択 墓も、墓じまいも、遺骨も要らない』 (幻冬舎新書)『神社から読み解く信仰の日本史』(SBビジュアル新書)など。X
勘違い1:「二礼二拍手一礼」をしないとバチが当たる
神社参拝の基本マナーとして広く知られている「二礼二拍手一礼」。
二回お辞儀をして、二回手を打ち、最後にもう一度お辞儀をする――。これを間違えると「神様に失礼だ」「願いが届かない」と、固く信じている人は多いはずだ。
しかし、島田先生は「そこまで形式にこだわるのは、ある種の思い込みに過ぎない」と語る。
実は、現在広く普及している「二礼二拍手一礼」は、平成の時代になって以降に広まった比較的新しい作法であり、あくまで簡略化されたものです。
昔の人は、地面に座り込んで祈るのが基本的なスタイルでした。今でも神職の方は、祭事の際に座って祈りを捧げています。しかし、初詣などで参拝客全員が座り込んでいたら、時間がかかって大変なことになりますよね(笑)
立って行う簡略化された形式が定着したのは、実は最近のことなのです。
つまり、私たちが「絶対に守らなければならない正式なマナー」だと思い込んでいる作法は、あくまで現代の事情に合わせた「簡易版」なのだ。
島田先生によると、形式よりも大切なのは「心の込め方」だという。
二礼二拍手は形式的すぎて、気持ちを込めるのが難しいと感じる人もいるでしょう。
それなら、静かに手を合わせる「合掌」でもいいのです。これはお寺のスタイルとおもわれていますが、手を合わせる行為の方が気持ちが落ち着くなら、それでも構いません。
「作法を間違えたらバチが当たる」なんてことはありませんから、もっと自由に、自分の心が整うやり方で参拝すればいいのです。
勘違い2:願い事は「具体的」に言わないと叶わない
お賽銭を入れた後、あなたは心の中で何を唱えているだろうか。「今年は彼氏ができますように」「年収がアップしますように」「家族が健康でありますように」……。
住所と名前を名乗り、具体的な願い事をこれでもかと早口でまくし立てる。そんな「プレゼン型」の参拝が正しいと思っている人は多い。
しかし、これも大きな勘違い。島田先生のおすすめは真逆だ。
あれこれと欲望を並べ立てるよりも、神様の前で一度、心を空っぽにして「無心(むしん)」になることをおすすめします。
神社の静寂の中に身を置き、雑念を払って心をリセットする。 イスラム教徒が1日5回の礼拝で気持ちを切り替えるように、神社を「心のスイッチを切り替える場所」として使ってみてください。
必死に願い事をして「欲」を増幅させるのではなく、一度すべてを手放して「空っぽ」になる。そうして心が整った状態になれば、自然と表情も明るくなり、良い運気や人が寄ってくる。結果として、願いが叶いやすい自分になれるのだ。
鎮守の森(ちんじゅのもり)という言葉があるように、神社の木々や空間にはリフレッシュ効果がある。
「お願いしに行く」のではなく、「深呼吸しに行く」。初詣は、そんな気軽な気持ちで行くのが正解かもしれない。
勘違い3:おみくじで「凶」が出たら一年の運勢は最悪?
初詣の楽しみといえば「おみくじ」。しかし、「凶」や「大凶」が出てしまった時のショックは大きい。
「今年は最悪な一年になるかも……」と落ち込んでしまうが、島田先生は「むしろチャンスと捉えるべき」だと笑う。
ネガティブな結果が出た時こそ、自分を変える良いきっかけになります。 昔から「断ち物(たちもの)」といって、願掛けのために好きなものを我慢する風習があります(例:お酒やお菓子を断つなど)。
もしおみくじで悪い結果が出たり、不吉な予感がしたりするなら、それを避けるために「大好きなお酒を1週間我慢しよう」「甘いものを控えよう」と、自分でルールを決めて行動を変えてみるのです。
ただ不安がるのではなく、それを「行動変容」のエネルギーに変える。 「断つ」という覚悟を示すことで、自分自身をコントロールできているという自信にもつながる。
そうやって覚悟を示すことで、悪い運気を良い運気に転換していくことができます。おみくじの結果に一喜一憂するのではなく、それをどう使うかが大切なのです。
初詣は「イベント」として楽しめばいい
最後に、島田先生は現代の神社の参拝についてこう締めくくった。
現代人にとって、伝統的な作法を完璧に守ることは難しいですし、その必要もありません。
例えばその年の干支にちなんだ神社に行ってみたり、少し遠出をして有名な神社に行ってみたり。混雑した神社に並ぶことさえも、「これだけ並んだんだからご利益があるはず」とポジティブに捉えれば、それは心の変化に繋がります。
2026年の初詣。「正しい作法」という思い込みを捨てて、「無心」になって、新しい一年のスイッチを入れてみてはいかがだろうか。
取材・文/大室倫子(編集部)


