TikTokで仏教を発信する“現代のお坊さん”古溪光大さんにお悩み相談「営業職のノルマや競争がつらい」
「仏教」と聞くと、どんなイメージを持つだろうか。何となく遠い存在に感じている人も多いかもしれない。
「実は、仏教の教えって、現代を生きる人の悩みや苦しみも和らげてくれるんですよ」
そう語るのは、“現代のお坊さん”として活動する古溪光大さんだ。
古溪さんは、TikTokで仏教を発信したり、YouTubeで般若心経をラップにして配信したりと、若い人たちにもなじみのあるツールで、仏教の教えを「短く、楽しく、分かりやすく」伝えている。
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お寺に人が来るのを待つのではなく、「お寺に行くなんて発想はまったくないけれど、悩んでいて苦しい人」のもとに自ら飛び込む。
そして、仏教の法話を現代人の分かりやすい言葉に置き換えて伝えることで、少しでも生きやすくなる人を増やしたい。
そんな思いから、従来の「お坊さん」の枠にとらわれない活動を続けている。
そんな古溪さんだが、実はファーストキャリアは会社員。帝人株式会社で、5年ほど営業職に従事していた過去を持つ。
「会社員が抱える悩みを身をもって体験している僧侶」ならではの視点で、働く女性たちの悩みに答えてもらった。
20代営業職女性の悩み「売り上げノルマや競争がストレス……」
営業職に就いているのですが、ノルマに追われたり、同期と競い合ったりする生活がしんどくなってきました。
お客さまとコミュニケーションを取ったり課題解決に貢献できたりする営業の仕事は好きなのですが、数字や競争のストレスが大きく、心が折れそうです。
ポジティブに働く方法はないでしょうか。
仏教の基本となる教えに「利他の精神」というものがあります。
「自分よりもまず他の人に尽くすことが、巡り巡って自分の救いになる」という意味を持っていて、これは仕事にもそのまま当てはまるんです。
営業職に限らず全ての仕事に共通することですが、働くことの目的は数字や勝つことではなく、「世のため、人のため」。
「世のため、人のため」に働くと、自然と数字が付いてくるんです。
きれいごとを……! と思われるかもしれないですね(笑)
私が「利他の精神」を追求することが、売り上げを上げることに直結するのだと知ったのは、実は会社員時代。帝人株式会社で営業職に就いていた時です。
在宅医療機器を医師に提案する営業職を担当していたのですが、ある日上司からこんなことを言われました。
「君の仕事からはハートが伝わってこない。数字を伸ばしたいなら、もっと患者さんのことを考えなければいけない」
営業成績は悪くなかったのに、何でこんなことを言われるんだろう。そう思いながらも、仕事の仕方を患者さんファーストに変えてみることに。
それまでは、患者さんから「使い方が分からない」とか、「これを発注してほしい」といった連絡が来ても、対応は事務担当の人に任せていました。
限られた営業時間を、できる限り医師へのアプローチに使いたかったんですよね。
でも患者さんに寄り添うことで営業成績が上がるなら……と、半信半疑ながら、こういった患者さんからの問い合わせ一つ一つに丁寧に向き合うことにしました。
すると、患者さんからたくさんお悩みの声が聞こえてきて。
それらを医師に伝えると、すごく感謝されたんです。「○○さん、そんな生活してるから良くならなかったのか」なんていう感じで。
商談時間の8割を製品説明に使っていた営業スタイルを、患者さんの話8割に変えただけで、驚くほどに売り上げがグンッと上がりました。
この営業担当に任せれば、患者さんのことを思った提案をしてもらえる。そんな信頼を得られたのかもしれません。
商売というのは、製品やサービスを使う人がいるから存在しているのであって、「ユーザーのため」を追求することが結果的にお金を生む。
「世のため、人のため」を追求することが仕事なのだと、気付かされた出来事でした。
「利他の精神」という言葉を知ったのは、この出来事からもう少し後のことですが、仏教のこの教えは、会社員として働いていたからこそ、すごくしっくりきましたね。
スピードがゆっくりでも、確実に前に進んでいる
Kさんは、「課題解決に貢献できる営業の仕事は好き」とおっしゃっています。つまり、すでに「利他の精神」を持っている。
これは営業職として一番大事な素質だと思います。
とはいえ、今成果が出ていなかったり、周囲と競争したりすることが苦しいのであれば、もっと長い目で考えてみると楽になるかもしれません。
働くことって、長いマラソンに参加しているようなもの。ゴールに向かって、世の中のためになることをしている時点で、着実に前に進んでいる。
「あの人に抜かされそう」「今月は売り上げノルマを達成できなさそう」など、ライバルや目先の目標はいったん視界から外して、長いマラソンをゴールするためのペース配分を考えてみるといいと思います。
Kさんが自然と持っている「利他の精神」があれば、結果が出るようにビジネスの社会はできています。着実に進んでいる自分を褒めてあげながら、そのまま進んでいけばいいのではないかと、僕は思います。
書籍情報
『君と僕と諸行無常と。』(徳間書店)
SNSで大人気の曹洞宗雲門寺の僧侶ラッパーふるたにによる若者から寄せられる悩みや仏教の教えをまとめた問答集。
取材・文・編集/光谷麻里(編集部) 撮影/竹井俊晴