ダイバーシティがイノベーションを生む! Google人材開発担当者に聞いた、働く環境を変えるために必要なこと
“イノベーション”という言葉から、何をイメージするだろうか。革新的な技術の発明、ドラスティックなシステムの変化などのイメージが強いが、本質的には「新しいアイデアから社会的意義のある新しい価値を創造すること」「人や組織、社会の大規模な自発的変化」を意味する。
だが、そんな大きな視点で考える以前に、私たち日本女性の働く環境には、解決しなければいけない課題があるように感じる。どのような要素があれば、人は自分の働く環境を変えられるのだろうか?
創業当初から「イノベーションを起こし続ける」という命題に向かって走り続けてきたGoogleで、その社風をクリエイトするフレデリック G.プフェールトさんにお話を伺った。
誰もが企業人である前に個人
多様性を認めなければイノベーションは起こらない

Innovation & Creativity Programs 統括部長 フレデリック G. プフェールト
Innovation & Creativity Programsチームをリード。技術革新を推進する企業文化を構築し、10xthinking (10倍の思考) を促進するためのトレーニングを提供している。Googleの『Creative Skills for Innovation Lab』を運営しながら、スタンフォード大学デザイン研究センター(d.school)およびコロンビア大学のEdLabにて客員研究員を務めている。Learning Design:Labの創始者として、児童、教師から CEO にいたるまで教育を提供したことでさまざまなアワードを受賞。すでに技術革新の構築、リーダーシップ、ダイバーシティに関するグループワークは多くの組織に変革をもたらし、TIME, BBC など多くのメディアに取り上げられた
「世界をより良くするための、次なるビッグアイデアを多くの人が求めている。そのアイデアを醸成するためには、イノベーションが必要だ」
そして「イノベーションを生み出すために必要不可欠なものがダイバーシティ」と、ダイバーシティ推進のワークショップを開催するために日本を訪れたフレデリックさんは話す。
誰もが企業人である前に個人であるということ、そして、働く社員一人一人のさまざまな事情や背景を受け止める“ダイバーシティな土壌”がなければ、イノベーションなど生まれないという発想が根底にある。
「自分が認められて仲間の輪の中にいる。そういうインクルーシブな環境でなければ、つねに斬新でイノベーティブなアイデアを生み出すことは難しいでしょう。組織や社会に自分が役立っていると実感できて、初めて人は自由に声を上げられるのです」
先日、フレデリックさんの部署でも3人目の育休に突入した女性がいる。いよいよ明日から育休というその日、オフィスでは、メンバー全員でその女性を祝福するセレモニーが行われたという。
「上司である私は、『あなたは戻ってくる価値のある人材だ』と彼女に伝えました。育休や介護などで会社とのつながりが希薄になる期間があっても、ウェルカムな雰囲気の中、戻ってくることができる。
『自分は歓待されているのだ』と感じられることは、モチベーションにもつながりますよね。こういう環境であれば、組織のために良い変化を起こそうという気持ちになりますし、そうすればアイデアだってたくさん出てくるものです」
大切なのは「子どものようになること」
小さなチャレンジを重ねてみよう
さらにフレデリックさんが常々口にしているのは、「イノベーションを起こすためには、子どものようになることが大切」ということだ。
「子どもは、あらゆることに『なぜ?』と疑問を持ちます。大人なら実現不可能と思えるようなことも平気で夢見ます。そして、失敗することを恐れません。そのような気持ちで物事を考えることで、今までにないアイデアが生まれるのです」
もちろん、新しいアイデアを生み出したり、未経験のことにトライするには、当然リスクが伴う。挑戦すること自体が尊重され、失敗してもそのミスから学ぶことが大切なのだという、安心・安全な雰囲気。それを醸成することが、今、フレデリックさんたちが特に心掛けていることの一つなのだそう。
「仮に何かしらの制約を受けている環境でも、人間は本質的に『新しいことにChallengeしたい』というモチベーションを持っているものだと私は考えています。
Googler(グーグル社員)だから、イノベーションが起こせるのではありません。仮に、皆さんの働いている環境が弊社のような組織でないとしても、自分で自分にリスクを冒すことを許し、ミスしても大丈夫だと励ますことはできるはず。
そう自分を奮い立たせることで、誰もがイノベーションを起こすことができるのではないでしょうか」
海外を飛び回る日々を送るフレデリックさんだが、「同じホテルを利用したことは一度もない」と話す。短い日本滞在の間にも、5軒のレストランを試し、毎日違うルートでランニングを楽しんだ。
「こうして、私も毎日自分自身に新たなチャレンジをさせています。知らない人に話し掛ける、いつもと違う道を通って出勤してみる。道に迷ったっていいじゃないですか。そのお陰で、いつも同じ通勤路だったら決して見つけることのできなかったレストランを発見できるかもしれないのですから」
組織から与えられる制度だけにとどまらず、メンバー一人一人のこうした小さな心掛けや習慣の集大成が、働きやすい環境を作り出す要素となるのだ。
“産む性”であることは変えられないが、働き方や仕事の仕方は変えられる
とはいえ、自分の働く環境を変えるのには時間が掛かる。
育休を取得して職場復帰することが、ようやく当たり前になりつつあるものの、育休をとったばかりに出世や昇進とは縁遠いキャリアコースに転換させられるなど、気が付けばマミートラックに乗せられていたり、病気がちな子どものために「職場の人たちに申し訳ない」という気持ちにずっと苛まれてしまったり。
そんな、日本の働く女性が遭遇しがちな状況を伝えると、フレデリックさんは「私は日本の状況を完全に詳しく把握しているわけではないが」と前置きした上でこう語った。
「世の中がどれだけ進化しても自然の摂理は変わりません。つまり、女性が“産む性”であることは変えようがないですよね。けれど、私たちにはテクノロジーがある。テクノロジーを活用して、私たちはいつでもどこでも仕事ができるようになりました。
テクノロジーの恩恵で、私の妻も出産後も変わらずにキャリアを積んでいる。私たちは、妻のような女性を増やすために、また、女性に限らずあらゆる事情を抱えている全ての人たちのために、さらなるイノベーティブなテクノロジーとソリューションを提供していきたいと考えています」
新しい製品やサービスを考案する際は、ユーザーのニーズをくみ取ることが大切だが、本当の意味でニーズを把握するには、ユーザーに共感し、相手を深く理解する必要がある。
Googleの育休制度も、ワーキングマザー社員をユーザーととらえ、担当者が常にアイデアを出し合って独自の進化を続けているという。
「今抱えている問題を真剣に解決したいと欲する。その姿勢は、お客さまに対しても社員に対しても変わらないのです」
最近では『Woman Will』という、働く女性をサポートするプロジェクトも話題のGoogle。
なかなか変わらないように見えても、確実に変化は起きている。誰もがストレスなく働ける世の中が実現される日は、そう遠くないのかもしれない。
取材・文/阿部志穂 撮影/赤松 洋太