1万人の転職者を見てきた人事が明かす、「成果を出してきた人」ほどコンサルデビューでつまずきやすい理由
「ライフイベントを経ても自立して働き続けるために、20代のうちに市場価値を高めておきたい」
そう考える女性に人気の職種の一つが、コンサルタントだ。
優秀な人たちに囲まれて働き、国内外を飛び回りながら、若いうちから高年収を実現。転職市場でも引く手あまた——。
そんなイメージをもつ人も多いかもしれない。しかし、「コンサルタントになれば誰もが市場価値が上がるとは限らない」と話すのは、製造業に向けたDXコンサルティングを行う横河デジタルの採用責任者、塲田 聖さんだ。
外資系から日系まで多様な企業でエグゼクティブ人材のヘッドハンティングを担当した後、 人事に転身した塲田さん。採用に関わってきた10年あまりの間に出会ってきた転職者は一万人以上に及ぶ。
コンサルタント職においても未経験から経験者まで幅広く採用を手掛けてきた塲田さんに、「コンサルタントになれば誰もが市場価値が上がるというのは幻想」の真意を聞いた。
横河デジタル株式会社
タレント・アクイジション・ディレクター
塲田 聖(ばた・みな)さん
シマンテック、シスコシステムズ、デルなど外資系IT企業で営業を担当した後、ヘッドハンターに転身。外資系や日系企業のエグゼクティブ人材の採用支援に携わる。2021年にIBMに人事として転職し、中途採用を担当。2023年6月に横河デジタルに入社し、Talent Acquisition Director(タレント・アクイジション・ディレクター)として優秀な人材の採用を積極的に行っている。
コンサルタントの「市場価値」の正体
そもそも「コンサルタントになれば市場価値が上がる」と思われているのは、なぜなのでしょうか?
「コンサルタント」という言葉が持つキラキラしたイメージから何となくそう考える人が多い印象です。
メディアに登場するコンサルタントたちが、都心のきれいなオフィスでスマートな仲間たちと働き、高い給与を得ている姿を見て、漠然と「自分もコンサルタントになったら市場価値が上がりそう」と感じている人も多そうです。
メディアに映るコンサルタントの姿が、幻想を抱かせていると。
そういった一面はあるかと思います。
あとは、コンサルタントは一般的に給与水準が高いと思われているので、「コンサルタントになる=給与が上がる=市場価値が上がる」と考える人も多いです。
しかし、コンサルタントとして活躍するためには、並大抵でない努力が必要です。華やかに活躍しているように見える人たちも、顧客企業のビジネスや業界事情についてかなり深く学んでいますし、語学力の習得やMBA取得のために学ぶなど、裏では努力を積み重ねているんですよね。
当然ながら、コンサルタントになってお給料が上がったからといって、自動的に市場価値が上がるわけではありません。
では、どういう状態になれば「コンサルタントになって市場価値が上がった」と言えるのでしょうか?
コンサルタントとして市場価値が上がるというのは、単に給与が上がるのではなく、自身のプロフェッショナルとしてのスキルや経験が上がることを指していると、私は考えています。
プロフェッショナルなスキルとは?
コンサルタントは、多種多様な企業が抱える複雑な課題に取り組みますので、高い課題解決力が育まれます。
お客さまがすでに自認している表面的な課題の解決ではなく、まだ気づいていない潜在的な課題を深堀りし、クライアント自身にもしっかり自覚させ、お客さまと伴走しながら根本的な解決に導く。
こうしたスキルは、コンサルタントだけでなくどの仕事にも通用するポータブルスキルです。
社会で広く求められるスキルを身に付けられることこそ、コンサルタントとして得られる市場価値だと思います。
ライフステージが変わってからも働き続けたい女性にとっては、20代のうちにポータブルスキルを身に付けておけるのは良さそうですね。
そう思います。会社に依存しない「強み」を得られるので、働き方に制限が出たり、ブランクが空いたりした場合も、女性のキャリアを守ってくれる武器となるはずです。
成果を出してきた人ほど「コンサルタントデビュー」でつまずきやすい
今まで塲田さんが見てきた中で、市場価値を高めたくてコンサルタントになったのに、それが実現できなかった人はいましたか?
面接では高い評価を得ていたのに、入社後に伸び悩んでしまう人はいましたね。
伸び悩む人は大きく2パターンに分かれます。一つは、人よりも成長に時間がかかっているだけの人。もう一つは、成長するきっかけを掴めないまま諦めてしまう人です。
横河デジタルで採用を担うようになってからは、後者のパターンで退職してしまった人は見ていませんが、以前他社で採用に携わっていた時は、こうした人を何人も見てきました。
なぜ成長できないまま退職することになってしまったのでしょうか?
共通していたのは、「オープンマインドになれなかった」点だと思います。
まじめすぎるゆえに、一人で深く考え込み、課題をすべて抱え込んでしまうタイプの人は、成長スピードが遅くなる傾向があります。
「周囲に迷惑をかけてはいけない」「忙しそうな先輩の手を煩わせては申し訳ない」という過度な配慮や、「こんな基本的なことも知らない自分はだめなのではないか」といった焦りから、周囲に相談できずに抱え込んでしまうんですね。
誰にも相談できずに抱え込んだ結果、早期での退職に追い込まれてしまうと……。
そうですね。特に優秀な方ほど、この『抱え込みの罠』に陥りやすいように思います。
優秀な大学を卒業し、大きな挫折や失敗を経験せずにきた方は、「分からない自分」「できない自分」を受け入れづらく、他者を頼ることに抵抗を感じてしまうのかもしれません。
これまでは自分一人の力で解決できていた成功体験もあるため、一人で何とかしようと抱え込んでしまい、結果として多くの時間を浪費してしまいます。
時間がかかっても最終的には成長できる人と、成長できずに折れてしまう人の違いは、他者を頼れるようになるかどうかが分かれ道になるということですね?
ええ。スタートダッシュで出遅れてしまった人でも、できない自分を受け入れて、周囲の人に分からないことを聞いたり、指摘を素直に受け入れたりできるようになることで、一気に伸びていくケースが多いですね。
本来は優秀な方なので、殻を破ることで成長のきっかけをつかむことができます。
これまで大きな挫折経験がない人にとっては、なかなかハードルが高いような気もします。自分の殻を破るためのコツはありますか?
普段から周囲と積極的にコミュニケーションを取るといいと思います。日常的に意思疎通ができていれば、質問や相談の心理的ハードルは下がりますから。上司との1on1ミーティングでも格好つけずに率直に会話してほしいです。
以前採用に関わっていた会社では、コロナ禍で同僚や先輩と交流する機会が制限されてしまった時期に、より殻を破れない人が多かったように思います。
もし、早いうちから仕事やプライベートのことを気軽に相談できる人が近くにいれば、一人で思い悩んだまま退社してしまうことはなかったのかもしれない……と思うと、すごくもったいないですね。
入社後すぐに現れる「伸び悩む人」の前兆
伸びる人と伸びない人の差は、入社後どのくらいの時期から出始めますか?
数週間で現れ始めますね。
そんな早くから……!
当社では入社後の導入研修でレポートを提出してもらうのですが、ここですでに伸びる人・伸びない人の前兆が現れます。
どのように?
伸びる人は、研修内容を本質的に理解した上で、「次に自分は何をすべきか」を具体的に考えて記述しています。
逆に、聞こえのよい言葉を並べてきれいにレポートを仕上げる方は要注意。最近ではAIを活用して体裁の整ったレポートを作成することもできますが、本当に自分の血肉として吸収しようとしているかどうかは、一目瞭然です。
なるほど。逆に言うと、この段階で前兆が分かるなら早めに対策を打てますね。
はい。当社では、マネージャーが日報へのフィードバックも細かく行っています。
「これは単なる一般論を述べているだけで自分の言葉になっていないし、具体的なアクションプランがないよね」など、本人の理解が見えない時はしっかり指摘し、対話するようにしています。
入社してすぐに、殻を破るための働きかけをしているんですね。
そうですね。当社ではそれ以外にも、早い段階でオープンマインドになってもらうための工夫をしています。
たとえば、配属後の最初のプロジェクトでは、新人コンサルタントは無償で参加させていただくこともあります。もちろん、お給料は支給されますが、会社がサポートするかたちですね。
そうすることで、「すぐに成果を出さなければ」といった過大なプレッシャーを感じることなく、学び、経験を積むことに意識を向けられるようになります。
できない自分を否定しなくていい環境を会社が率先してつくっているのは、心強いですね。
ちなみに当社では、若手が自主的に企画・主導するイベントも多く、コミュニケーションが活発です。若手勉強会をはじめ、無人島でバーベキューをしたり、ドラム缶でビリヤニを食べる会を企画したり…。
リモートワークが増加すると、雑談や些細な相談がしづらかったりしますよね。でも、このようなイベントで若手同士の人間関係が構築されているので、実務で壁にぶつかった際にも「実は最近、この業務で悩んでいて……」と、雑談交じりで相談し合える環境が生まれています。
会社が強制しているイベントではなく若手が自由に企画しているものなので、自由参加でストレスなく参加できますが、会社全体で孤立を防ぐための取り組みを行っています。
横河デジタルには、大器晩成型の人はいても、結局成長できずに辞めてしまう人が少ない理由が分かった気がします。
「横河デジタルは、心理的安全性を大切にする風土だけでなく、未経験者のための成長サポート体制も充実。入社後1カ月間は、未経験者向けの導入研修を通して、製造業の顧客理解を深めたり、IT/OTコンサルティングの基礎を学べたりします。配属後はUdemyの無料講座をいつでも受講でき、プロジェクトを進める中で自分に足りない知識があると気付いたら、自分次第で新たな知見をどんどん身に付けることもできます」(塲田さん)
「自分の弱さをさらけ出せる」環境の見極め方
順調なコンサルタントデビューをするために、転職前後にやっておくといいことがあれば、教えてください。
まず、常に勉強が必要な仕事だということは肝に銘じておきましょう。
伸びる人は、ものすごく勉強しています。本を読んだり、eラーニングの講座を受けたり、資格取得に取り組んだり。若手同士の勉強会にも自主的に取り組んでいます。
あとは、自分はまだ学ぶことが多い、という前提で臨むことが大切です。たとえ前職でどんなに活躍していたとしても、新しい職場ではできないことがあって当たり前です。
「自分はこれぐらいできるはず」と思っていると、どうしても人の力を借りるべきときに二の足を踏んでしまいますし、できている他の人と比較して辛い気持ちになったりします。
「自分はまだ何もできないんだ」という前提でスタートしたほうが、結果的に早く成長できると思いますよ。
成長できるコンサルティングファームを選ぶために、気を付けるといいことはありますか?
「自分の弱いところもさらけ出せる風土」があるかどうかに注目できるといいですね。
横河デジタルには、若手同士だけでなく、役員や役職者に対しても、肩書きを意識せずフランクに話しかけられる風土があります。
選考段階で社員に会わせてもらったり、職場見学をさせてもらったりすることで、ある程度職場の雰囲気は感じ取ることができるかと思います。
実際に自分の目で確かめることは大事ですね。
オープンマインドになれる風土以外にも、コンサルタントデビューを失敗しないためのポイントはあるのでしょうか。
まずはご自身のなりたいコンサルタント像を明確にして、それに近づける環境を選ぶといいと思います。
当社の場合は製造業の現場を支援できるので、現場に入り込んだ支援に興味がある方にとっては最適な選択肢になるはずです。逆に上流特化型のコンサルティングを望む方にはミスマッチになります。
あとは、AIが進化しても「人間の力が必要とされるかどうか」も大切なポイント。製造業の現場では、AIだけでは解決できず、現場を熟知したコンサルタントの課題解決力とお客さまのご協力があって初めて解決できる問題も多数ありますから。
コンサルタントとして市場価値を高めたいなら、「『何となく良さそう』といったイメージ」で選ばず、入社後の自分を具体的にイメージしながら働く環境を選んでみてくださいね。
取材・文/一本麻衣 撮影/笹井タカマサ 編集/光谷麻里(編集部)


