元女性大臣が解説! 安倍内閣が力を入れる「女性が輝く日本」の真意
女性活用が叫ばれるようになり、国や企業が何やらいろいろやっているらしいのは分かる。でも、働く女性たち自身の意欲やモチベーションはどこか置いてけぼりではないだろうか。「管理職になってもらわないと」と思われているけど、「そんなの私にはできない・・・」。「育休後の復職はどうする?」って言われても、「家庭との両立をしたいからゆるめに働きたい・・・」。世間と自分の意識とのギャップにもやもやを感じている女性は多いのが現実。“活用”という言葉は、「自力で動かないものを他者がうまく使う」という響きに聞こえてしまうもの。もっと女性たち自身が「働きたい!」と思う社会になるには何が足りないんだろう。その答えを探るべく、さまざまな切り口から識者に聞いてみた。
今回お話しを伺ったのは、参議院議員の森まさこさん。政府が謳う「女性が輝く日本」のホントのところとは?
少子化対策開始から20年
やっと日本と日本の男性が本気になってきた
「女性が輝く日本」になるために、現在、安倍内閣が非常に力を入れていることは、ニュースなどの報道で、皆さんもご存知だと思います。具体的には、まずは保育園の待機児童の解消、職場復帰・再就職の支援、女性役員・管理職の増加から行おうとしています。しかしこの女性活躍推進の取り組みが日本の経済再生のために内閣が展開している、いわゆる「3本の矢」の1つ、「成長戦略」の一環に位置付けられていることで、「結局、女性を労働力、コマとしてしか見ていないのでは?」といった、不安や疑問を感じている女性も少なくないように感じています。このような状況のままでは、女性が「もっと働きたい」とポジティブに行動するのは難しいですよね。
この9月まで私が務めさせていただいていた、いわゆる少子化担当大臣は、私の後任の有村治子・現大臣で19代目。日本が少子化対策に取り組み始めてから、実はもう20年もの歳月が流れています。ですが、これまでは、プランの策定まではできてもなかなか実行にまで至らない。いざ、実行の段階になると大臣が代わってしまったり……。予算だって、しっかりと割いてもらえるようになったのはつい最近のことなんです。
ここへきて、にわかに具体的な政策が示されるようになり、「女性が輝く日本」といったフレーズが頻繁に聞かれるようになったのは、20年掛けて、国が、男性たちが、やっと「このままではいけない」と本気になってきたことの表れです。
ただ、誤解してほしくないのは、「これ以上人口が減少すれば国際的な経済競争に負けてしまうし、年金制度も維持できなくなるかもしれない。だから、女性には子どもも産んで仕事もしてもらわなければ」という理由で、政府が女性の活躍を後押ししている訳ではないということです。
専業主婦の8割が「また働きたい」と希望している
政治的な枠組みで見れば、経済的要因ももちろんあります。だって、「女性の就業率が男性並みに上昇すれば、GDP(国内総生産)が最大で13 %上がる(ゴールドマン・サックス調べ、2014年)」とか、「日本女性の労働力率が北欧並みになれば、一人あたりGDPのベースラインも8%上がる(IMF調べ、2012年)」といった具合に、女性が活躍する社会の方が、明らかに経済が好転するという試算もあちらこちらで出されていますから。
でも、誰だって分かると思います。そのような試算通りの現象が起こる社会は、間違っても、女性が強制されてコマのように働いている社会ではないということが。
政府が考えている「女性が輝く日本」とは、女性が輝くことによって、社会も輝いている日本です。では、政府が定義している「輝く女性」とは、どのような女性なのか? それは、「自ら思い描いた人生を歩んでいる女性」のこと。自分の人生、自分の働き方に対する満足度が高い女性です。
政策の中に、女性の職場復帰支援や女性管理職や役員の増加を挙げているせいもあり、「とにかく、政府は女性全員に働かせようとしている!」と誤解されている方もいるようです。けれど、私の言う「自ら思い描いた人生」の中には、専業主婦という選択肢も含まれます。どのような生き方、働き方も否定しない、自由に選択できる社会。それが、「女性が輝く日本」です。
ただ、現状、日本で専業主婦をしている人の中には300万人以上もの就職希望者がいます。家庭で家事や育児に従事している女性の実に8割が「また働きたい」と希望している。ならば、まずその希望が叶えられる社会にすることが、「女性が輝く日本」になるための重要な一歩だと思うんです。働き続けている女性の中には、役員、管理職を希望する人も本当は少なくないんですよ。でも、今現在は何らかの理由でその希望が阻まれている。
諸々の要素を考慮すると、文字で掲げる政策はどうしても先に述べたようなものに集約されてしまいますが、待機児童を減らせば、女性管理職を増やせば、女性が輝く日本に勝手に変わる、という訳ではありません。
希望する全てのお子さんが保育園に入園できても、男性パートナーの意識が変わらなければ、お母さんは希望の働き方が実現できないかもしれません。女性管理職が活躍するためには、これまで続いてきた男性主導のワークスタイルを変えていく必要があるでしょう。男性も女性も残業しなくてすむ働き方が実現できれば、「マミートラック」といった言葉もなくなります。こういった、政策実現にいたるプロセスに存在する、あらゆる“何らかの理由”を取り除いていくことが、当面、政府が行うべきこととなるでしょう。
「このタイミングを逃すモノか!」育児と仕事を両立するママ議員の思い
私は、最初の子どもを産んだ直後にその長女を連れてアメリカに留学しました。「大変だったでしょ?」とよく聞かれますが、これが快適そのものだったんですね。
現地で知り合ったエリート女性たちの多くが、働く自分とママの自分を難なく両立していました。むしろ、仕事にかまけて子どもをないがしろにしているとキャリアに傷が付くそうで、繁忙期でも仕事を休んで子どもの学校の遠足に参加したりしていて驚きました。エグゼクティブであればあるほど、ワークライフバランスの取り方は実に見事なものでした。
最初にそのような経験をしてしまったので、日本に戻ってきたときのギャップはなかなか強烈なものがありました。正直、私自身、日本での育児が楽だと感じたことは一度もありません(笑)。でも、だからこそ、その大変さが「日本の女性のために働きやすい、生きやすい社会を作りたい」という、これまでの活動の原動力にもなりました。
今回、内閣が改造され、5人という歴代内閣最多の女性大臣が新たに誕生しました。まだまだ少数派ですが、私と同様、育児と仕事を両立するママ議員も増えています。私たちは皆、「政府が本気になったこのタイミングを逃すモノか!」と頑張っています。それは、このインタビューのお題の通り、「もっと働きたい!」と、女性が自然に思える日本にするためです。でも、政府や行政が旗を振っているだけでは意味がない。世の中を変えていくには、やはり皆さん一人一人の思いが必要なんです。
だから、私たちが女性の皆さんにお願いしたいのは、「自分の思い描いた人生を送りたい」「希望の働き方を叶えたい」という気持ちを持ち続けてほしいということ。男性たちの意識改革、企業に向けての法整備などやるべきことはまだまだありますが、女性の皆さんは、もうそんなに頑張らなくてもいい。ただ、希望を持ち続けてほしいんです。今、それは、かなり高い確率で実現可能な段階にきていますから。
取材・文/阿部志穂 写真/Masaco(CROSSOVER)