佐々木蔵之介が大事にする客観性と楽観主義――「つらい時こそ笑え。自分を追い詰めても仕事がつまらなくなるだけ」
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。

佐々木 蔵之介(ささき・くらのすけ)
1968年2月4日生まれ。京都府出身。大学在学中から劇団「惑星ピスタチオ」で看板俳優として活躍。00年、NHK連続テレビ小説『オードリー』で注目される。以降、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動。15年、『超高速!参勤交代』にて第38回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞
京都訛りの語り口は、品があり、程よくユーモラス。年齢を重ねるごとに、味わいと色気を増していく俳優・佐々木蔵之介さんは、きっとWoman type読者にとって、こんな上司が職場にいたらと妄想を膨らませる筆頭格だろう。
そんな佐々木さんが、お人好しのお殿様に扮し、民のため、藩のため、野を駆け山を越え、刀を振るうのが、2016年9月10日(土)から公開予定の映画『超高速!参勤交代 リターンズ』だ。前作は興行収入15億円超のスマッシュヒット。第38回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞するなど、内容も高く評価された。待望の続編に、佐々木さんはどのような想いで取り組んだのだろうか。
キャラクターづくりの武器になるものは徹底して習得する

「まさか続編があるなんて僕も含めて、誰1人思ってもいなかった。でもこうして『リターンズ』をやったことで、果たせたことがあるんです」
佐々木さん演じる内藤政醇(ないとう・まさあつ)は、陸奥・湯長谷藩の藩主。湯長谷藩とは、現在の福島県いわき市だ。前作でもいわきでの撮影が検討されたが、当時はまだ東日本大震災の爪痕が深く残っている時期。現地でのロケは叶わなかった。しかし、第2弾となる本作では、地元の熱烈な歓迎も受け、ついにいわき市での撮影が実現した。
「それが地元の方々150名と一緒に踊った“じゃんがら念仏踊り”のシーン。この“じゃんがら念仏踊り”はいわきの伝統芸能で、鎮魂の踊りなんです。それを地元の方々と一緒にできたというのは感慨深いものがありました」
劇中では、「田舎侍」と揶揄される政醇が、陣内孝則さん演じる極悪非道な老中・松平信祝の権謀術数(けんぼうじゅっすう)を知恵と勇気で突破していく。その姿が、多くの人に爽快な感動をもたらす。だからこそ、佐々木さんは「田舎侍」の象徴であるいわき弁にこだわりを持った。
「役者にとって方言で話すというのは、とてもハードルが高いものです。けれど、ことこの作品においては、方言はある意味“主役”。キャラクター造形において武器になる。だから徹底してやりたいと思いました」
物語としては前作からわずか1カ月後の設定だが、撮影期間で言えば2年ものブランクがある。当然、習得したはずのいわき弁にも影響がありそうだが、キャスト陣の役者魂は2年の空白をものともしなかった。
「不思議と体に残っているものなんですよね。むしろ前作以上に訛りが濃くなったというか、音声さんから『もうちょっとマイルドに話してほしい』と指摘されてしまったほどです(笑)」
とっつきにくい分野の仕事でも、挑戦すれば必ず新しい発見がある
僕にとっては「時代劇」がそうだった
コミカルな作品ながら、アクションシーンは凄絶な迫力がある。
「初めてこのお話をいただいたとき、僕も『ふざけたタイトルやな』と思いました(笑)。でも蓋を開けてみると、意外にしっかり時代劇だし、意外に激しくチャンバラをやっている。そのギャップも、この作品の魅力だと思います。殺陣師の方が『今時、ここまで立ち回りにこだわる映画はなかなかない』と喜んでくださるくらい、アクションには気合いを入れて臨みました」
今や時代劇は年々減少の一途を辿っている。当然、本格的に時代劇を演じられる俳優も少なくなってきたのが現状だ。
「僕も演じる立場として時代劇に関してはとっつきにくさを感じていました。でも前作をやって、政醇と出会って、大きく変わった。時代劇でも弾けられるし、伸びやかにやれるんだ、と。時代劇ってある意味自由なんだと思わせてくれたのが、この作品なんです」
何となく苦手意識を持っている分野の仕事でも、思い切ってチャレンジしてみると必ず新しい発見があり、自分を成長させてくれるもの。
「難しいことや、新しいことに挑戦しなくなったら、きっと仕事はつまらなくなってしまう。期待されて任せてもらった仕事であればなおさら、できるかどうか不安でも、まずはやってみる。すると、最初に抱いていたイメージが180度変わることもあるし、自分の新しい一面を見つけられるきっかけにもなる。すると、それが次の仕事へとつながる自分の強みとして評価してもらえることもよくあるものです」
ピンチのときこそ笑った方がいい!
自分を客観的に観察すると、大変な仕事も乗り切れる
藩を守るために、政醇たちに与えられたタイムリミットは、たった2日。前作の倍のスピードで「交代」を果たそうとする政醇たち一行のもとに次々と試練が襲い掛かる。
俳優業を邁進する佐々木さんもまたこれまでの道のりの中でいくつも危機に直面してきたはず。いつもほがらかに見える佐々木さんは、どうやって仕事上のピンチを乗り越えてきたのだろうか。

「それはね、危機的な状況にいる自分を客観的に見て笑い過ごすことですよ。自分をギリギリまで追いつめたって仕方ない。それよりも、『ありえへんな』って笑いに転化させた方が気持ちもぐっと楽になります」
佐々木さんはそう言って、あっけらかんとした笑顔を見せた。
初舞台は学生時代。20代は所属劇団の看板俳優として演技を磨いた。世間の脚光を浴びたのは、2000年、NHK連続テレビ小説『オードリー』から。当時、佐々木さんは32歳。決して早いブレイクではない。
以降、親しみやすいキャラクターでお茶の間の支持を集めつつ、精神病院内でひとり『マクベス』を演じる入院患者、ナチス政権下のドイツで強制収容所送りにされた同性愛者など難役・大役を演じてきた。そんな佐々木さんだからこそ、その言葉に一層の深みが増す。
「仕事をしていれば誰しも、『やばい』と感じる危機的な状況って大なり小なりありますよね。僕は以前、広告代理店で働いていたことがありましたが、毎日がピンチの連続ですよ(笑)。例えば、上司から『あと2日でプレゼンせえ』と言われたとします。予算も人もないし、『どないすんねん、そんなアホな……』ってなるのが本音ですよね。でも、そんな試練を与えられるのは、できる見込みがあってこそ。弱音を吐いて諦めるより、政醇たちのように明るく知恵と勇気とチームワークで乗り越えた方が絶対に楽しいですよ。僕自身も、そういうときこそ、“笑(わろ)てまうで”って自分でツッこんで笑いにして、切り抜けてきたような気がします」
そう振り返る目元に、優しい笑いジワが刻まれる。佐々木さんのチャームポイントであるこの笑いジワこそが、数多の逆境を笑い飛ばしてきた証かもしれない。俳優・佐々木蔵之介は、これからもいくつものピンチを笑って吹き飛ばしていくことだろう。その目元に、醇厚(じゅんこう)な笑いジワをたたえながら。

【映画情報】
『超高速!参勤交代 リターンズ』は2016年9月10日(土)より全国公開!
キャスト:佐々木蔵之介 深田恭子 伊原剛志 寺脇康文 上地雄輔 知念侑李(Hey! Say! JUMP)柄本時生 六角精児/ 陣内孝則(特別出演)西村雅彦
監督:本木克英 脚本:土橋章宏 音楽:周防義和
配給:松竹
©2016「超高速!参勤交代 リターンズ」製作委員会
公式HP:cho-sankin.jp
主題歌:「行き先は未来」斉藤和義(スピードスターレコーズ)
取材・文/横川良明 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)
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