25 FEB/2015

「あなたにしかできないことなんて何一つない。でも、必ず何かある」――“組織で働く矛盾”を乗り越えた先にある価値/株式会社電通

市場価値

女性活用が声高に叫ばれている昨今、多くの働く女性たちが、ビジネスパーソンとしてのスキルやマインドを磨き、自分の市場価値を高めていく必要性を感じ始めている。でも、市場価値の高い女性って、実際のところどんな女性? 身に付けているべきスキルやワークマインドってどんなもの……? まだまだ働く女性のロールモデルが少ない中、ぴんとこないことが多いのではないだろうか。 そこで今回は、現代の日本社会における“市場価値の高いオンナ”の姿を浮き彫りにすべく、日本のトップカンパニーで活躍中の管理職の方にインタビューを実施。各界のプロフェッショナルが考える“今、一緒に働きたい女性像”を参考に、業界、職種の壁を越えて社会に必要とされる女性になるための第一歩を踏み出そう。

特集第1弾は、株式会社電通のクリエーティブディレクター・郡司晶子さん。2012年に発足したiPR局の管理職として、コンテンツマーケティングという未開の領域にチャレンジする郡司さんに、新しいことをつくり出す組織で求められる女性像を聞いた。

“女だから”身に付けるべきものはない
ビジネスパーソンの価値は「問題意識」の有無

電通

株式会社電通 iPR局iクリエーティブ部長  
郡司晶子さん

1992年電通入社。クリエーティブ局でコピーライターとして広告の企画制作に従事した後、2012年、発足したばかりのiPR局へ異動。ソーシャルメディア環境下での新しいマーケティングコミュニケーション領域の開拓を目的に、現在は、日用品、ファッション、自動車、レジャー、住宅などの業種でオウンドメディアでのブランドコミュニケーション、CRMの会員サイト運用、コンテンツを起点とした顧客獲得支援などのコンテンツ戦略・企画・制作・運用のディレクションを行っている

まず先にお断りしておかなければいけないんですが、私は男性だから女性だからという視点では、あまり物事を見ていないんです。だから、“女性だから”こういうスキルを身に付けた方がいいとか、そういうことはよく分かりません。一緒に働く人に「こういう人であってほしい」と思う条件は、男女ともに同じです。

私たちが生きるこのビジネスの世界って、実は、スキルがあるからキャリアアップできるっていうほど単純な世界ではないですよね。会社という組織に属している以上は、年次やステージによってさまざまなことを求められることになるし、いろんなことを考えなきゃいけなくなる。組織の最終的な評価は、会社からもらっている給料に対して、その対価となるものが提示できたかどうかということだけ。小手先のスキルを身に付けたからと言って、自分のビジネスパーソンとしての価値が上がるかと言ったらそうでもない気がしています。

私自身、もう20年以上この会社にいますが、入社して15年くらい経ってふと周りを見渡してみたら同期や前後の先輩後輩に比べて全く成長してなくて……。仕事の広げ方の面でもずっと遅れをとっている自分に気付いたことがありましたし、その時はどうやったらその状況から抜け出せるのか全く分からなかった。でも、仕事って毎日動いていくものだし、悩んでいる暇もないんですよね。それで、とにかく目の前のことを片付けていくうちに、気が付いたら何とか尊敬する人たちのお尻くらいまでは追いついたと思えるようになりました(笑)。

あのとき後ろから先頭を眺めていて、ビジネスパーソンとして最前線にいる人たちとそうじゃない人たちの違いは、問題意識の有無だなあと思いました。活躍している人たちは、自分たちのビジネスと世の中の関係性について常に考えている。自分たちのやっていることは、世の中に必要とされているのか。もっと別のことをやっていかなくちゃいけないんじゃないか。ビジネスに対する問題意識の中から得た気付きや、なぜそれをやらなきゃいけないのか理由を整理し、きちんと上に通した上で仕掛けている。自分のやるべきことをきちんと自分で見つけてやっていく人たちと、ただ言われたことをやる人たちでは、ある段階で確実に違いが出てくるように思います。

チームで新しいことに挑むとき、
必ず“誰かが埋めないといけない隙間”が生まれる

それを踏まえた上で、これから一緒に働きたいと感じる人物像は、「降ってきた球は全部自分の仕事だと思ってやれる人」ですね。私のいるiPR局は、「コンテンツマーケティング」や「コミュニティーマネジメント」など、新しい領域を開拓している部署。新しい領域ってこれまでのノウハウがないので、誰がどれをやるっていう役割分担もしづらいですし、何をすべきかが全て明確になっているわけではないんですよね。効率的なチームの組み方だって、まだ知見のない状況。特に、デジタルのような新しい領域って、全部を分かっている人なんて世界中探してもいないんですよ。組織にいるメンバーがお互いの得意領域を掛け合わせても、必ずバレーボールのレシーブみたいに空いている隙間ができる。そこを誰がフォローするかってことがすごく重要。私がやるのはここだけなんですって決めちゃう人は、チームの中で機能しなくなりますよね。

変化のめまぐるしい社会においては、デジタルに限らず皆が新しいことにどんどん挑戦していかなければいけません。だからこそ、どんな職場にも、「誰がやってもいい仕事」が転がっているはず。誰がやるかも決まってない、誰がやってもいい、でも、誰かがやらなきゃいけない仕事。それをいとわずやれる人というのが、結果的に多くの新しいことを学べて、成果につなげられるのだと思います。大抵の人は「自分でなきゃできないことをやりたい」って思っていますから、そういう仕事から目を背けますよね。だから、やっぱり「誰がやってもいい仕事もいとわずやる人」の価値は高いんです。

「会社は自分のためにあるんじゃない」
その気付きが、次のステップに進むカギに

電通

ここまで、「こういう人が素敵だよね」って思う人を例に、一緒に働きたいと思える人について話をしてきましたが、これは一つの意見に過ぎないことを心に留めておいてほしいです。働き方はその人の人生を大きく左右するものですから、誰もがこうすべきって強要はできないし、年齢やライフステージの変化で仕事の価値観も変わっていくのが自然。それに、一個人が「こういうふうになりたい」って思ったところで、会社はそのためにベストな環境をあなたに用意してくれるとは限らない。

何故なら、会社の目的は会社として利益を上げることだから。入社したばかりのときは「自分は仕事を通じてこうなりたい」ってことを考えていてもいいけれど、ある程度キャリアを積んだなら、「会社の利益のために自分がどう機能すればいいのか」を考えるように視点をスイッチしないと。「会社は自分のためにあるのではない」ということを、組織で働く上では忘れちゃいけないと思います。

あなたにしかできないことなんて何一つない。でも、必ず何かある。その矛盾が組織で働くということなのでしょう。
「●●さんがチームから抜けた途端、仕事のスピードやクオリティーが落ちた」というような経験をしたことがある人も多いはず。じゃあ、それは●●さんの何が欠けたからなのか。それはきっと、その人のテクニカルなスキルではなく、「周囲の状況を見る目」だったはず。チームの状況や構成を見た上で今欠けているものは何か、自分に求められているものは何かを考え、実践している人がいなくなると、チームとしての機能に問題が出てくるのです。

自分がこの先どのような人物を目指そうか迷っているなら、まずは日々の仕事の中で、組織の中で今自分に何が求められているかを察知する能力を磨いていくことが大切。きっと、それができる人はこれからもっと伸びていく人だし、社会から必要とされ続ける人なんじゃないかなと思いますよ。

取材/文 横川良明 撮影/赤松洋太