比嘉愛未が挑んだ人生初の仕事――「自信がなくても不安でも、新しいことへの挑戦は悔いのない人生を送るための絶対条件」

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その黒真珠のような瞳に見つめられると、あまりの美しさにはっと息を呑んでしまう。持ち前の清楚な透明感に、大人の女性としての深みも加わった女優の比嘉愛未さん。

比嘉 愛未(ひが・まなみ)

比嘉 愛未(ひが・まなみ)
1986年生まれ、沖縄県出身。2005年、『ニライカナイからの手紙』で女優デビュー。07年、NHK連続テレビ小説『どんど晴れ』のヒロイン役でブレイク。以降、ドラマ『コード・ブルー ―ドクターヘリ緊急救命―』シリーズ、『天地人』、『マルモのおきて』、『DOCTORS~最強の名医~』シリーズ、『ハンチョウ~警視庁安積班~』シリーズ、『恋愛時代』など多数のドラマに出演。映画出演作には『猿ロック THE MOVIE』、『僕等がいた』、『飛べ!ダコタ』などがある

最新主演映画『カノン』では、アルコール依存症の母(鈴木保奈美)に虐待された過去を持つ3姉妹の次女・藍を演じている。

自分が感じている不安や迷いを素直に認めたら“リアル”な主人公を演じられた

「家族の崩壊、モラルハラスメント、アルコール依存症。この作品には非常に重い題材がたくさんつまっています。私が演じた藍も心に傷を負っていて、演じながら胸が苦しくなるような場面がいくつもありましたね」

そう心の奥底に封をしていた感情を、もう一度取り出すように、比嘉さんは語り始めた。

「私自身は両親の愛情をいっぱいに受けて、沖縄という環境でのびのびと育ってきました。だから、藍と共通する部分ってほとんどないんですね。演じながら、本当にこれでいいんだろうかという不安がずっと胸の中にありました」

映画を見る人の中には、藍と同じ境遇にいたり苦悩を抱えている人もいるはず。そう考えれば考えるほど、演技への自信を失った。難しい役づくりに悩む比嘉さんに、監督の雑賀俊朗さんがかけたアドバイスは、とても意外なものだった。

比嘉 愛未(ひが・まなみ)

「『その不安な感覚が、リアルな藍らしくていいんじゃない?』って監督がおっしゃったんです。母親との悲しい過去を抱える藍は、いつも何かに怯えている。私も、自分の演技が正しいのか分からず、ずっと手探りでした。そんなふうに悩みながらももがいている私の姿が、藍の内面を表現する上で大切なんだと監督は考えられたんでしょうね。だから私も敢えて不安な状況のまま撮影に挑みました」

「どうしても自分でピアノを弾きたい」自らの意思で1カ月間特訓を積み、挑んだ仕事

バラバラになってしまった母娘をつなぐのが、ピアノだ。まだ家族が平和で幸せだった頃、藍ら3姉妹は母からパッヘルベルの名曲「カノン」について教えられる。この「カノン」を3姉妹が3台のピアノで演奏する場面が、本作のクライマックスだ。

「ピアノを弾くのはこれが人生で初めて。お話をいただいたときは、本当にできるのかなと思いました」

当時の戸惑いを懐かしそうに振り返る比嘉さん。まずは運指を覚えるところからスタート。撮影前に設けられた1カ月に渡る練習期間は、家でもキーボードでひたすら自主練を繰り返す毎日だったのだとか。

「監督はこのクライマックスのシーンにすべてを懸けていらっしゃいました。その想いが分かるから、私も吹き替えではなく、自分の手で演奏したかったんです」

楽譜に指番号を振り、指が自然に動くまで、とにかく鍵盤と向き合う日々。ピアノに限らず楽器を演奏すること自体が初めてという比嘉さんにとっては、相当ハードルの高い挑戦だったに違いない。しかし、当時を振り返る比嘉さんの表情は、なぜだかとっても楽しそう。

その理由は、挑戦の先に見えた“奇跡”の景色が今も目を閉じれば蘇ってくるからだ。

大きな挑戦をした人には、特別なご褒美がある
緊張の演奏シーンを終え、全身を駆けめぐった爽快感

ピアノの演奏シーンは、撮影スケジュールの後半に組み込まれた。3姉妹を演じるミムラさん、佐々木希さんとも、それまでの間にたくさんの山場を乗り越え、絆を育んできた。だから、3人それぞれピアノの前に座ったとき、自然に気持ちが入っていったと言う。

比嘉 愛未(ひが・まなみ)

「辛い出来事が多いこの物語の中で、終盤の演奏シーンは希望の光のようなもの。ピアノを弾きながら、私の心を覆っていたモヤモヤがすっと晴れていくような感覚があったんです。完成した映画を見たときも、3人で『良かったね』と言い合えるくらい素敵なシーンになりました」

OKの声がかかった瞬間、全身を駆けめぐった爽快な達成感。それは仕事で大きな挑戦をした人だけに贈られる特別なご褒美だ。

「お芝居って、スクリーンには映らない頑張りや想いがすごく力になるんです。さわったことがないピアノを弾けるようになるために、毎日一生懸命でした。その努力が報われた気持ちがあったし、私たちが本当に演奏することで、この映画のメッセージが一層強く伝わったんじゃないかなという気がします」

比嘉さんは「この作品が、仕事でも、家族のことでも、何か問題を抱えて立ち止まっている人たちが前を向いて生きていくための心の栄養剤になれば」と願いを込めた。その真摯な想いが届いたのだろうか。その日、撮影現場では、思わぬ“奇跡”が起きたと言う。

「屋外での撮影だったのですが、天気はあいにくの曇り空でした。でも、私たちが演奏をしていたら、雲間から光が射して、綺麗な夕日が見えたんです。それはもう今思い出しても鳥肌が立つくらい不思議な体験でした」

「もしかしたら神様が私たちのことを支えてくれたのかも」と、比嘉さんは微笑む。

「この仕事をしていると、そんな“奇跡”に遭遇することが時々ある。だからハマッちゃうんですよね。忙しくて眠れないこともあるし、ものすごくハードな現場で身も心もボロボロになることだってある。それでも、仕事にとことん向き合っていくと、そういう“奇跡”に出会える瞬間があるから、またやりたいって思ってしまうんです」

新しいステージにいけないまま立ち止まっているのが一番つらいこと

女優業に限らず、会社員であってもきっとそう。愚直に、想いを込めて仕事に取り組み続けてきた人にだけ、時々見える“奇跡の景色”があるのではないだろうか。

また、そんな“奇跡”に立ち会えるのも、「新しい挑戦」に踏み出してこそ。着々とキャリアを積んできたように見える比嘉さんも、自身の仕事に対して不安を感じたことがないわけではない。

比嘉 愛未(ひが・まなみ)

「新しい領域のことにチャレンジするのに恐怖はつきもの。いろいろな機会を与えてもらっても、足がすくんで一歩踏み出す勇気が持てなくなるときがあります。でも、藍を演じて思ったのですが、一番つらいのって、そこで立ち止まっていることなんですよね。藍はずっと過去のトラウマから抜け出せず苦しんでいた。でも自分の傷に見て見ぬふりをせずに向き合えば、必ず道は開けてくる。挑戦することも、きっと同じですよね」

比嘉さんが演じた藍は、母の人生と向き合うことで、長年背負い続けていた苦しみから解放されていく。仕事でも、プライベートでも、いつだって道を切り開くのは、ほんのひとかけらの勇気なのだ。

「思い切って未知の世界に飛び込んでみると、今まで見たことのない景色が待っているもの。それを自分自身が見たいかどうか。私はどんなときも悔いなく生きたいと思っていて。無理だと思う仕事でも、とりあえずやってみれば、いつか振り返ったときに必ず自分の人生を彩る深みになると信じています。だから、私にとって新しいことへのチャレンジは、悔いのない人生を送るための必須項目なんです」

撮影当日、比嘉さんが見た淡紅藤の夕焼け。あの感動が胸にある限り、比嘉さんは働く女性の一人として、きっと挑戦することをやめないだろう。いつかまた、まだ見たことのない“奇跡”の景色と出会うことを夢見て。

比嘉 愛未(ひが・まなみ)

映画『カノン』
10月1日(土)より、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
出演:比嘉愛未 ミムラ 佐々木希 / 桐山連 長谷川朝晴 古村比呂 島田陽子 / 多岐川裕美 / 鈴木保奈美
監督:雑賀俊朗 脚本:登坂恵里香 音楽:嶋崎宏
主題歌:渡 梓「セピア」(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
公式HP: http://kanon-movie.com


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