桐谷健太が貫く仕事哲学「直感を信じること、人に任せる勇気を持つこと」キャリアの幅を広げた2つのこだわり
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
普段は自分たちとは別世界の住人に見える芸能人。しかし、この人がテレビに映ると、つい親しみを感じてしまう人も多いに違いない。桐谷健太、37歳。その男気溢れるキャラクターでお茶の間から愛される人気者が、2017年2月25日(土)公開の映画『彼らが本気で編むときは、』では全く違う表情でスクリーンに溶け込んでいる。
本作で桐谷さんが演じたのは、素朴な眼鏡姿の書店員・マキオ。恋人であるトランスジェンダーの女性・リンコ(生田斗真)を温かく受け止める穏やかな佇まいは、熱血漢というパブリックイメージとは正反対だ。俳優としての転機を予感させる役と、桐谷さんはどのように向き合ったのだろうか。
ターニングポイントではなく“ゴーイングポイント”
自然体の変化を強みに、信じた道をまっすぐ進む
「今回の作品は、自分にとってのターニングポイントというより“ゴーイングポイント”になったんじゃないかな」
そんな意外な一言から取材が始まった。ターニングポイントではなく、「ゴーイングポイント」。その言葉に込められているのは、桐谷さんが俳優として歩んできたキャリアへの自信だ。
「『ROOKIES』だったり、CMの浦ちゃんだったり、前に出てくるものがそういうキャラクターということもあって、僕に対して明るくて元気なイメージを持ってくれている方も多いと思います。でも、これまでもいろいろな役をやってきたし、今回、特別にイメージと違う役に挑戦したという感覚はないんです」
実際、この数年、桐谷さんの仕事の幅は確実に広がっている。演じる役柄も、ドラマ『カインとアベル』で演じた優秀な兄。『水族館ガール』で演じた厳しいチーフトレーナーなど、20代の頃に見せてきたエネルギッシュな印象とは異なる役どころに次々とチャレンジしてきた。
「荻上(直子)監督が今回僕を起用してくださった理由の1つに、『20代の頃はパワフルな感じだったけど、30歳を越えて芝居に色気が出てきたから』っておっしゃっていて。その言葉は嬉しかったですね。ちゃんと自分の“自然体の変化”を感じてくれている人がいるんだって。だから、今回の映画もターンするのではなく、これからも自分が信じてやってきた道を、まっすぐ自然体で突き進んで変化していけばいいんだと思えた。だから“ゴーイングポイント”の方がしっくりくるかなって」
ゲイとか、LGBTとか、トランスジェンダーとか「特別な枠」に当てはめて考える必要はない
今回、トランスジェンダーの恋人を持つ男を演じるにあたり、事前にゲイの友人に話を聞くなど準備をしてきたそう。しかし、桐谷さん自身はこうしたセンシティブな題材についても、ごくごくナチュラルだ。
「僕の周りにはゲイの友達やトランスジェンダーの方がたくさんいて、それが普通。正直、トランスジェンダーという言葉自体、この映画で初めて知ったくらいです。『LGBT』っていう言葉も、そういう人たちがいることを世に知らしめる記号にはなるかもしれないけど、そうやってことさらに“枠”に当てはめる必要もないんじゃないかっていうのが僕の本音。近い未来に、『何でこの題材が映画になるの?』っていう時代が来るといいなと思いますね」
マキオもまた、セクシュアリティを超えた部分で、リンコに惹かれ、恋をした。物静かなキャラクターだが、「俺がリンコさんを守る」という固い決意を胸に秘めている。
「人を好きになるって、もう理屈じゃないんですよね。そういう意味でも、マキオは素直な人だと思うし、僕らと何も変わらない。劇中では『ダサい』って言われるキャラクターなんですけど、演じながら『なんて頼もしい男』だろうと思いました」
人は自然と自分にストッパーを掛けてしまうもの。
その道のプロを信頼して「任せる」勇気を持つこと
自らの決断で、リンコとの人生を選び取ったマキオ。人生は、こうした決断の連続だ。俳優デビューから15年。長いキャリアの中で、桐谷さんは何を軸に自らの進むべき道を選んできたのだろうか。
「実は今まで自分から『こういう役をやらせてほしい』とか、『こういう仕事がしたい』とか、そういった希望を通したことはなくて。自分で仕事を選ぶっていうのを、やったことがないんですよ」
またしても、そんな意外な答えが返ってきた。
だが、これは決して意志がないというわけではない。むしろその仕事観には、桐谷さんらしい、一本筋の通った哲学があった。
「その持ち場のプロを信頼して、仕事を任せるというのが僕のスタンス。だから、仕事選びは事務所のプロに任せるし、服のことならスタイリストさんに任せる。もし、直感で何か感じたなら、しっかり話し合う。それさえ出来れば、あとはその道のプロを信じて任せるのが、一番いいと思うから。それに、自分で何かを選ぶと、自分の好きなものにどうしても偏ってしまいますよね。でも、自分が好きで選んでいることって、結局は自分が既にできる範囲のことが多い。本当はもっと上に行けるのに、勝手に自分でストッパーをかけている感じがするんです」
仕事において、人はつい「自分で決める」ことを美徳にしがち。だが、本当に大事なのは「自分で決める」ことそれ自体ではなく、「自分にとって最適な決断をする」ことではないだろうか。そのために人の力を借りることは、決して避けるべきことではない。人の持ち場を尊重し、自分の持ち場に専念する。それが、俳優・桐谷健太のプロ論。では、その中で自らがするべきことは何か。答えは、至ってシンプルだ。
「与えてもらった場所で、どれだけいいパフォーマンスができるか、それが全て。その他のことは全部その道のプロに任せて、僕は自分の直感を信じて、時には苦悩したりしながら、いいパフォーマンスができるよう全力を尽くすだけです」
変化を恐れず楽しむ極意は、「小さなことでもいいから面白ポイントをつくる」こと
仕事のジャンルしかり方向性しかり、敢えて他者に委ねることで予想もしなかった景色に辿り着くこともある。
「それこそ自分のやりたいことだけ見ていたら、浦ちゃんをやることもなかったかもしれないし、紅白歌合戦に出ることもなかったかもしれない」
想定外だった歌手デビューも、その持ち場のプロにすべてを任せたからこそ広がったキャリアだった。変化の絶えない毎日を、桐谷さんは「楽しいです」とにこやかに答えた。
「自分としては、毎年、毎シーズン、自分が変わっていっている実感があるし、理想を言えば、毎日新しく生まれ変わっていたい。なかなか変えられないところもあるけど、1日1日、そうやって変化し続けることができたら、それはすごく楽しいし、清らかですよね」
まるで水平線から顔を出したばかりの太陽のような笑顔で、そう笑った。
チームにおける「自分の持ち場」を意識して、それぞれがプロの仕事を追求できる環境を自らつくっていく桐谷さん。
変わり続けるしなやかさと、変わらない骨太さと。その両方を身につけた今、20代の頃よりずっと瑞々しく輝き続けている。
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映画『彼らが本気で編むときは、』
第67回ベルリン国際映画祭 パノラマ部門・ジェネレーション部門 正式出品作品
出演:生田斗真、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、込江海翔、りりィ、田中美佐子 / 桐谷健太 ほか
脚本・監督:荻上直子
製作:「彼らが本気で編むときは、」製作委員会(電通、ジェイ・ストーム、パルコ、ソニー・ミュージックエンタテインメント、パラダイス・カフェ)
制作プロダクション:パラダイス・カフェ 配給:スールキートス
2017 年/日本/日本語/カラー/アメリカン・ビスタ/DCP5.1ch/127 分/G
公式ウェブサイト:http://kareamu.com
©2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
取材・文/横川良明 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)
『プロフェッショナルのTheory』の過去記事一覧はこちら
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