神木隆之介・若き名優が語る“プロの条件”――「どんな仕事も必ず誰かの役に立っている。関わるすべての人に誠実でありたい」
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
6歳でドラマデビューを果たし、実力派俳優へと成長した神木隆之介さん。23歳にして長いキャリアを誇るプロフェッショナルが新たに挑んだのが、羽海野チカさんのベストセラーコミックが原作となる映画『3月のライオン』だ。本作で神木さんが演じるのは、17歳にしてプロ棋士として活躍する主人公・桐山零。このキャスティングが発表されたとき、「神キャスト!」と喝采をあげた原作ファンも多かったに違いない。ビジュアルはもちろん、若くして厳しいプロの世界で勝負をする姿も、神木さん自身とシンクロする。
なぜ神木さんは多くの作品で次々と「ハマり役」をモノにすることができるのか。若き名優が語るプロの仕事論に耳を傾けてみたい。
自ら髪にハサミを入れて役づくり!
キャラクターに命を吹き込むのは、「この人ならどうするか」という想像力
漫画の実写化というのは、決して簡単な仕事ではない。特に、人気原作ともなればファンの間でもそれぞれキャラクターのイメージが確立している。どれだけ誠実に演じても「イメージと違った」という失望の声を避けて通るのは困難だ。だが、そんな懸念を吹き飛ばすように、スクリーンの中の神木さんは確かに「桐山零」として存在していた。
紙の中のキャラクターに命を吹き込む上で、神木さんがこだわったのが“癖”。なんと、漫画の中の印象的なコマを自ら写真におさめ、日々カメラロールをチェックしながら桐山零の癖を研究したそうだ。
「例えば、何かを考えるときは、左腕の肘のあたりを右手でさすってみるとか。そのときも、さすっている右手の人差し指でリズムを取っているパターンとそうでないパターンで違いをつけてみたり。あとは、動揺したときは右手を少し握るような形にして口元に当ててみるというのも考えました。零らしい仕草を考えつつ、それが自然にできるように自分の日常生活の中にも取り入れていきました」
また、驚きなのがキャラクターのビジュアルに対する神木さんの強いこだわり。実は、劇中の髪型は、神木さん自身がカットしたものだという。
「たぶん零は自分で美容室に行かないタイプ。髪型についても鬱陶しいから切ろうというくらいにしか考えていないだろうなと思って、自分でハサミを入れました。なので、チグハグ感があるというか、左右で髪の長さが揃っていないんです。零の未熟な感じを、そういったビジュアルでも表現したかった」
役柄に合わせて主演俳優自らが髪を切るという話は、まさに異例。「この人ならどうするだろう?」という緻密な想像力と大胆な実行力が、原作ファンもうならせる神木さんの「ハマり役」の所以だ。
「神木がいる現場は、温かくて、楽しいと思っていただけたら」
一方で、23歳の若さながら主演を務める機会も多い。共演者やスタッフへの気配りも、主演俳優の務めの1つだと神木さんは自覚している。
「僕は“演技のプロ”として現場に呼んでいただいています。なので、演技に関しては何も言われなくてもできて当たり前。では、チームの中心に立つ人として必要なものは何か。そう考えたとき、一緒にお仕事をした皆さんに『神木の現場って温かくて楽しいよな』と言っていただけるのが理想だなと思いました。これは僕が仕事をする上で特にこだわっていることの1つです」
先日、行われた映画の完成披露試写会でも、実に15分もの間、自らMC役となって登壇した出演者に話を振る姿が話題を呼んだ。
「仕事をしながら感じた現場の温かさを伝えようと思ったら、あのようになりました」
そうはにかみつつ、見据えているのは、常に共演者、スタッフ、そして観客のこと。自分と関わるすべての人のために、できる気配りや努力を精一杯する。神木さんが多くの大作映画に呼ばれる理由も、このひたむきさを知れば納得だ。
どんな時も手を抜かず、丁寧に。「誠意がないと、仕事は一気に適当になる」
棋士も俳優も、プロとなれば実力勝負の世界。零は日夜棋譜を研究し、血を吐くような対局を凌いで、プロの地位を死守している。
神木さん自身は「プロとは何か」という質問に、「僕にはまだよく分からない」と一度は控え目に答えた。だが、真剣に熟慮した後、「プロとは、誠意だと思います」と、すっと前を見据えて、神木さんは話し始めた。
「僕たちの仕事で言えば、作品や現場の仲間に対して、どれだけ誠意を持って向き合えているか。それがプロの仕事を決めるのだと思います。さきほど癖の話をしましたが、現場に入れば最後に大事なのは、そういう技術の部分ではなく心です。目の前の共演者に正々堂々向き合っていくことが一番大事だと僕は思っています。誠意がないと、仕事は一気に適当になってしまう。手を抜かず、丁寧に、関わるすべての人と向き合う誠意を持つこと。それが、僕の考えるプロ像です」
誠意を持って仕事をする。言葉にすれば容易いが、多忙な毎日の中でそれを実行し続けるのは難しい。ちょっとメールの言い回しが乱暴になったり、無茶なスケジュールを相手に要求したり。配慮に欠けた仕事ぶりに、後で自分で落ち込むことも多い。
神木さんはなぜそんなにも細やかな気配りを絶やさずにいられるのか。その秘訣を知ろうとすると、こんな答えが返ってきた。
「Mr.Childrenさんの『彩り』という曲が好きで。あの曲を聴くと、どんな仕事も必ず誰かの役に立っているんだって、少し気持ちが前向きになるんです。普段現場に入っているときはなかなかそこまで考える余裕はありませんが、作品が出来上がって皆さんに喜んでいただけると、自分の行っていることが誰かの笑顔につながっているんだと実感できる。その喜びは、どんな仕事にも必ずあると思います」
「23歳の自分が言うのもおこがましいのですが」、と恐縮しながら、神木さんは言葉を重ねた。
「例えば、毎日パソコンに向き合う仕事をされている方なら、キーボードを打っているその先に、皆さんの仕事のおかげで助かっている誰かが絶対にいる。中には直接顔の見えない相手と仕事をされている方もいるかもしれませんし、必ずしも人を笑顔にする仕事ではないこともあるかもしれません。それでも、自分が当たり前と思って行っている作業にも必ず意味はあるのだということを忘れないことが、仕事を続けていく上で大切なことかなと思います」
徹底した役のつくりこみ。老若男女を問わず愛されるキャラクター。神木さんを象(かたど)るあらゆる要素は、この「誠意」という言葉に集約されている。自分は日々どれだけ「誠意」のある仕事ができているか。まっすぐにプロの道を歩む神木さんから、そんな大切な問いかけを教えてもらった。
映画『3月のライオン』【前編】3月18日(土) 【後編】4月22日(土)2部作連続・全国ロードショー
監督: 大友啓史
原作: 羽海野チカ「3月のライオン』(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
脚本: 岩下悠子 渡部亮平 大友啓史
出演: 神木隆之介 有村架純 倉科カナ 染谷将太 清原果耶 佐々木蔵之介 加瀬 亮 伊勢谷友介 前田 吟 高橋一生 岩松 了 斉木しげる 中村倫也 尾上寛之 奥野瑛太 甲本雅裕 新津ちせ 板谷由夏 伊藤英明/豊川悦司
配給:東宝=アスミック・エース
(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会
映画公式サイト:http://3lion-movie.com/
取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太
『プロフェッショナルのTheory』の過去記事一覧はこちら
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