経験ゼロから『AbemaTV』でヒット番組を生み出す! チームワークを最大化させた新米リーダーの心掛け/AbemaTVプロデューサー・横山祐果さん
働く女性たちに愛されているヒット商品やサービスを生み出した女性たちの頭の中を大解剖! 彼女たちがこれまで築いてきたキャリアや、仕事ノウハウを徹底インタビューしていきます。
話題の商品・サービスの「生みの親」「育ての親」から、ワンランク上の仕事をするためのノウハウや、モチベーション高く仕事を続けるコツを学びましょう!
先日、開局1周年を迎えた『AbemaTV』。2017年5月時点でダウンロード数が1,700万を突破するなど急成長を遂げているが、その中でも特に女子中高生をはじめ10代の女性たちの中で話題となったのが、17年2月から放送を開始した『オオカミくんには騙されない』だ。本作は、女子高生4名×同世代の男子4名による恋愛ドキュメンタリー番組。だが、これはよくあるリアリティーショーではない。参加している男性の中には、好きでもないのに好きというフリをしている「オオカミくん」が最低でも1人は混じっているのだ。嘘と疑惑が入り交じる恋の駆け引きが反響を呼び、最終回はネット上に驚きの感想が溢れ返った。
この前代未聞の恋愛ドキュメンタリー番組はどのようにして生まれたのか。ヒットコンテンツの仕掛け人であるプロデューサー・横山祐果さんに話を聞いた。

株式会社AbemaTV
編成制作局 制作部
横山祐果(よこやま・ゆか)さん
2008年、サイバーエージェントに入社。『Ameba』プロデュースグループに配属され、プラットフォームの機能改善を担当。10年、Amebaモバイルゲーム部門へ異動。企画・運営した携帯ゲーム『私のホストちゃん』が人気を博す。12年4月、Amebaスマートフォンゲーム部門へ異動し、『ガールフレンド(仮)』を企画。29歳で同社初の女性執行役員に抜擢される。16年より『AbemaTV』の制作部門へ異動し、プロデューサーとして『オオカミくんには騙されない』の企画から携わる
作り手が“他人事”ではヒット企画は生まれない!
自分が「面白い」と思えるまでコンテンツを楽しみ尽くす
――まずは『AbemaTV』の番組制作に関わるようになった経緯を教えてください。
私はそれまでずっと『ガールフレンド(仮)』というスマートフォン向けゲームのプロデューサーをしていました。辞令をもらったのは、昨年、『AbemaTV』が開局して間もなくのこと。番組制作は全く未知の領域。最初にお話をいただいたときは驚きました。
――横山さんと言えば、29歳でサイバーエージェント初の女性執行役員に抜擢されたことでも有名です。それだけのキャリアがありながら、ゼロベースで新しい分野に飛び込むのは勇気がいりませんでしたか?

そうですね。でも、実は以前スマホゲームのプロデューサーに就任したときも、ゲームの知識はゼロだったんです。なので、未知の分野に飛び込んでも何とかやっていける自信はありました。ただ、ド素人を受け入れてくれた周りの皆さんの方は大変だったと思います(笑)。先輩や社外のプロの方に話を聞きながら、少しずつ番組作りの流れを覚えていきました。
――想定外の分野でチャレンジをすることになった時に、そこで成果を上げるために心掛けていることはありますか?
まずは、自分が「面白い」と思えるところまでその分野のコンテンツをしっかり楽しむことですね。ゲーム作りと番組作りは業界こそ違いますが、人を楽しませるモノ作りという意味では同じ。自分が作るサービスと、自分の間に距離をつくらないようにしたいと思っています。今回も、『AbemaTV』はもちろん、地上波のテレビ番組も今まで以上にたくさんチェックするようにしました。そして、どんなコンテンツが響くのか、楽しいと思えるのか、自分の感覚で掴むところから始めましたね。
リーダーの仕事は“ぶらしてはいけない軸”を守り続けること
――では、ゼロベースからのスタートで四苦八苦する中、『オオカミくんには騙されない』が生まれたきっかけは何だったのでしょうか?
まずは「若い女性が思わず胸キュンするような番組を作ろう」というテーマがあって、それに向けて何度も話し合いながら企画を出し合いました。最初に決まったのは、「同世代の女の子たちから支持されているモデルの女の子たちを集めて、何か恋愛モノをやろう」ということ。いろいろな方にご相談する中で、「ティーンモデル同士のカップルはいつの時代も話題を呼んで人気になる」というお話をしていただいたことがきっかけとなり、これを入り口に企画を詰めたいなと考えました。そこから先、もう1つ新しい要素が必要だなという話をしていたのですが、なかなかいいアイデアが浮かばなくて、1カ月以上はずっと企画出しの期間が続きました。

――最低1人以上、嘘をついている男の子がいるというコンセプトが秀逸ですよね。これは、どんな背景から生まれたんでしょうか。
さまざまな案を出し合う中で、「出演者の中に嘘つきが潜んでいる」というキーワードが出てきて、それを聞いた瞬間に「人狼ゲーム」のようで面白そうだし、「誰が嘘つきか」という会話がネット上で生まれそうだなと思い、そこで一気に企画が固まりました。ただ、少し引っ掛かったのは「嘘つき」という言葉。ちょっと直接的過ぎて、若い女の子ウケがあまり良くないかなという懸念があって。何て言ったら面白いかなと考えているうちに「オオカミ少年」から「オオカミ」という言葉が浮かんできて、スッとはまる感覚があったので最終的に「オオカミくん」という言葉が決まりました。
――番組づくりの上で大事にしたことは?

とにかく10代の女の子に胸キュンしてもらうことですね。そのためにこだわったのが、どれだけ視聴者の間で会話を生むことができるかです。特に『AbemaTV』の場合、画面横に視聴者のコメントが出るのが特徴。ここが盛り上がれば、自然と話題が広がっていくんじゃないかという狙いはありました。だから、観ている人たちが「オオカミは誰なんだろう?」、「早く次が観たい!」と感想を言い合えるつくりを目指していました。
――そのこだわりは、具体的には番組のどんなところに反映されていきましたか?
絶対譲らないと決めていたのが、ヴィジュアル的な綺麗さですね。やっぱり胸キュンするなら、魅力的な男の子と女の子が出演していて、雰囲気もオシャレな方がいい。そういう番組の「空気感」に関しては、私自身の中に確固たるものがありました。
――番組づくりと言えばたくさんの人が関わる共同作業。いろいろな人と意見を交換し合う中で、チームをまとめる難しさや方向性を見失ってしまうこともあると思いますが、その点はどうでしたか?
おっしゃる通りだと思います。だからこそ、私自身が軸を固めておこうということは決めていました。自分がどういう番組を作りたいのか、そのビジョンをちゃんとスタッフに発信する。そして、何があってもその軸だけはブラさない。それが、プロデューサーである私の務めだと思っていました。
――具体的にはどんなやり方で自分のビジョンを共有していったんですか?

私の場合は、なるべく具体的な事例でイメージを持ってもらうようにしていたので、例えば「この雑誌の特集のこんな雰囲気を入れたい」、「あの番組のこういうエッセンスをヒントにしたい」というような感じでスタッフの皆さんに伝えるようにしました。ただ、実際の番組作りで言うと、制作会社の皆さんがとても優秀な方たちばかりだったおかげで、私が必要以上に細かく口を挟まなくても、頭の中にあったイメージ通りのものが自然と出来上がっていきました。
1人で考えてもヒット企画は生まれない
各分野のエキスパートから“本気”を引き出す方法を考えた
――そういう意味では、チーム全員でつかんだヒットだったわけですね。
そうですね。いい企画は一人の力で生まれるものじゃない。皆で力を合わせるから、たくさんの人の心を動かせるコンテンツが生まれるんだということは、スマホゲームを作っていた頃からずっと変わらないポリシーです。だから私だけがヒットメーカーと呼ばれるのはおこがましいというか……(笑)。今回もチームの力があったからこそ、多くの人に喜んでもらえるものができたんだと思います。
――では、そうしたヒットを生み出すチームをまとめる人間に必要なことは何だと思いますか?
一緒にやるメンバーに対して、こういうものを作りたい、こういう状態を目指したい、といった「ビジョン」を「熱意」を持って伝えること。それは人一倍あって然るべきもの。あとは、皆に楽しんで働いてもらうことだと思います。自分だけでいくらアイデアを膨らませても、良い悪いの判断なんてつかないし、限界がある。仕事はたくさんの人との協働があって進んでいくもの。特に、こうしたクリエーティブの仕事の場合、チームには各分野のプロフェッショナルがいますから、私にできることはそうしたエキスパートの皆さんが気持ちよく働ける環境を整えること。そうしたら、一人一人から良いアイデアがどんどん生まれてくるし、企画もブラッシュアップされていく。皆さんに「本気」になってもらうために、私自身が熱意を持って向かっていくことが大事なんじゃないかと考えています。
――業界・分野を問わず、ヒット商品を企画するために日々の生活の中で意識していることはありますか?

月並みですが、今、流行っているものをちゃんとチェックしておくことでしょうか。私自身もともとミーハーな性格なので、話題になっているものは食わず嫌いせず、何でも試してみるようにしています。そういう蓄積が、Webやテレビを問わず、どんなジャンルの仕事でも使える自分の基礎筋力になっている感覚はありますね。
――横山さんを見ていると、29歳で執行役員にまでなられたのに、決して自分のキャリアに固執せず、異分野の仕事にも躊躇なく飛び込んでいるところがすごいなと思います。最後にそのしなやかなマインドの秘密を教えてもらえますか。
そこは私個人の性格によるところでもあるのですが、すごく飽き性なんです(笑)。ずっと同じことをしているよりも、新しいことにどんどんチャレンジする方が楽しくて。だから、長期的な目標もあえて決めないようにしているんです。特にWebの世界では1年後に何が当たっているかなんて全く予測不可能! 私もほんの1年前までは自分が番組制作をしている未来なんて想像もしていませんでした。将来なんて自分の力だけではコントロールしきれません。だから、与えられた場所でやれることを一生懸命やるというスタンスでいることが、結果的にプラスになっているのかもしれませんね。
取材・文/横川良明 撮影/栗原千明(編集部)
『オオカミくんには騙されない』
ガチで恋愛をしたい女子高生4名と、20歳までの男子4名が出会い、デートを繰り返しながら恋に落ちていくまでを追いかける恋愛ドキュメンタリー番組です。 しかし、男子の中には嘘をついて、好きでもないのに好きというフリをみせている「オオカミくん」が最低でも1人、混ざっています。「オオカミくん」は他の参加者にばれないように、密かに他の参加者の恋を邪魔しようとしています。女子たちは誰が「オオカミくん」なのか、誰が本気で好きと言っているのかを見極めなくてはなりません。また男子同士も、「オオカミくん」に負けないように自分の真剣な思いを女子たちに伝えなければなりません。果たして、誘惑や嘘のトラップを乗り越え、彼らは本当の恋人をみつけることができるのでしょうか?
『“ヒットgirl”の頭の中』の過去記事一覧はこちら
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