「幸せよりも、夢中になれることを探しなさい」少女漫画家・大和和紀さんから全ての女性へ。“豊かな人生”を送るための3つの助言
「豊かな人生」って何だろう。雑誌の見出しに踊るそのフレーズを見るだけで、つい羨ましくなってしまう。とは言え、自分にとって“豊かな人生”とは何か言葉にしてと言われても答えにつまる……。ただ何だかよく分からないけど、今、私たちはとても“豊か”であることに憧れを抱いてやまないのだ。
心の貧しい、パサパサとした生き方は嫌。人生の歓びも、悲しみも、予想外のアクシデントさえも、道に咲く名もない花を愛でるように深く味わって生きていたい。そう頭ではイメージしているのだけど、じゃあそのために目の前の毎日をどう生きていったらいいのか、その答えは誰も教えてくれない。
だから、聞いてみた。今回のお相手は、昨年画業50周年を迎えた漫画家の大和和紀先生。1975年、代表作『はいからさんが通る』の連載を開始。そして連載終了から40年を経て今、劇場版新作アニメ『はいからさんが通る 前編 〜紅緒、花の17歳〜』が公開されるなど、大和先生が生み出したヒロイン・花村紅緒は、時代を超えてなお私たち女性に元気と勇気を与えてくれている。時代を超えて読者の胸に生き続ける数々のヒロインを描き続けてきた大和先生が考える、これからの時代の「豊かさ」とは?
幸せが何かを考えるより前に、夢中になれるものを見つけましょう

大和 和紀(やまと・わき)さん
1966年、短大在学中に投稿した『どろぼう天使』でデビュー。以後『週刊少女フレンド』を中心にラブコメ、シリアスと幅広いレパートリーでヒット作を発表。代表作『はいからさんが通る』はシリーズ累計発行部数1200万部超の大ヒットを記録。テレビアニメ化や実写映画化もされ、少女漫画史に金字塔を打ち立てた。その他、『あさきゆめみし』『N.Y.小町』『ハイヒールCOP』などヒット作多数
豊かな人生って何でしょうね。ただ1つはっきりと言えることは、正解はないということです。幸せなんて人それぞれ。それこそ昔は「嫁に行くことが女の幸せだ」なんて言われていた時代もありました。でも、結婚すればそれがゴールかと言えば、そんなことは全くないということは、もう皆さんお気づきでしょう?
だからこれから私が話すことは、あくまで私個人の考え。別に何か強要するものでもない。そう思って、楽に聞いてくださいね。
私の20代は、ちょうど『はいからさんが通る』を描いていた頃。週刊の連載だったし、もう毎日が仕事一色でした。でも、私はあの頃、自分が「働いている」なんて思ってもいなかった。私は漫画を描くことが、大好きでした。だから「仕事」や「労働」といった強制的な感覚はなかったのです。そして毎日眠る時間もないほど忙しかったから、それこそ「女の幸せとは何か?」なんて考える余裕もなかったですね。
あの頃の私の頭の中を占めていたのは、とにかくもっと絵が上手くなりたいということ。そして、もっと話を上手くつくるにはどうすればいいかということだけ。好きなことを夢中でやれていたから忙しいけれど不満はなかったと思います。
だから、まずは自分が好きなもの、夢中になれるものを見つけることが大切かもしれません。これが、私からの1つ目のアドバイスです。
人生は基本的につらいものだと思いましょう
次に、私たちが覚えておくべきことは、人生は基本的につらいものなんだということ。人生が幸福な砂糖菓子のようなものだと夢見るのはちょっとどうかな……? 人生は、つらくて、苦しい。まずそう標準設定をしてみましょう。漫画や物語の主人公をご覧なさい。みんな不幸です。それを跳ね返していくから、主人公は素敵なのですよ。
豊かな人生に憧れを抱いているうちは、まだ本当の不幸や悩みに直面していないのかもしれないですね。本当につらいときは、そんなこと考えられないし、人にも話せないものです。私にも“不幸”と呼べる時間がありました。そんな時も私は普通に仕事をしていたし、苦しみを背負って、ただ黙って日々を生きていました。それにね、不思議なもので、どれだけつらくても、人はいつまでも「不幸の踊り場」にとどまっているわけにはいかないんです。
やがて時間が経てば小康状態の幸せな日々もめぐって来るものです。とりあえず何も悩みがないって幸せですよ。「人生はつらいもんだ」と受け止めていくことが、一番自然じゃないかと思うんです。幸せというのは、人生の合間合間にあるわずかなプレゼントのようなもの。そして「つらさ」は自分を磨く砥石(といし)です。これが私からの2つ目のアドバイスです。
自分の仕事を「よりよいもの」にしましょう
これだけ物質的に恵まれている時代に、「豊かさ」を求めてしまうのはちょっと不思議です。私から見ると、それは少し贅沢なのかも。たぶん、本当は物質的か精神的に自分の欲求が叶えられないことが悩みなのではないでしょうか。
私の20代だって、そうでした。さっき漫画を描くことに夢中だったとお話ししましたけど、逆に言えばその分、嫉妬や劣等感にからめ取られることも多かった。自分の漫画が下手に見えて仕方なかったし、漫画家仲間が良い仕事をしたら妬ましくてしょうがなかった。傍目では売れっ子として幸せに見えても、内心不幸でした(笑)。
みなさんも自分の10代の頃を少し思い出してごらんなさい。振り返るのもおぞましいくらい惨めな思い出やキツい記憶でいっぱいじゃないですか(笑)? 周りの大人たちからは「若くていいじゃん。青春じゃん」なんて羨ましがられたけど、内心は「どこが!?」と腹を立てていたはず。そんなものなんですよ、人生って。私たちはいつだって欲求不満だし、いつだってつらい。そして、それが即座に解消されることなんて、ありません。30代になれば30代の、40代になれば40代の欲求不満がある。完璧に満たされている人なんているんでしょうか?
じゃあ、そんな人生を私たちはどう生きていけばいいのか。
まずは、自分の仕事を好きになりましょう。この仕事が自分に向かないと思っても、何かしらこの点は好きかも……ということを見つけるのが一番です。そしてもしもあなたが20代なら、まず仕事の目標を高く掲げましょう。と言っても、まるで実現できないような途方のないものでなく、あくまで達成可能な範囲の目標です。20代は、危なげながらもとにかく一番優れた仕事ができる期間なのです。そして30代になったら、その高く掲げた仕事の幅を太らせる。経験を増やして、裾野を広げる。それが30代の仕事です。で、40代、50代はその仕事をさらにしっかりと構築していって、20代のあなたが掲げた高さの大きなピラミッドにしていく。その大きなピラミッドが、「あなたの仕事」の全てになるのです。
そして仕事は一人でできるものではありません。パートナーや仲間を大切にしましょう。人間関係は自分を支える大きなものです。みんなと一緒に自分の仕事をより「よりよいもの」にしてください。「あなたと一緒に仕事をするのが楽しい」と思われたら、もうその時点であなたは豊かな人生を送れているのだと思います。これが、私からの3つ目のアドバイスです。
取材・文/横川良明

劇場版『はいからさんが通る 前編 ~紅緒、花の17歳~』2017 年11 月11 日(土)全国公開
原作:大和和紀「はいからさんが通る」(講談社KCDXデザート)
監督(前編)・脚本:古橋一浩(「機動戦士ガンダムUC」「るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-」「らんま1/2 熱闘歌合戦」)
製作:劇場版「はいからさんが通る」製作委員会
配給:ワーナー・ブラザース映画
>>公式サイト
コピーライト:(C)大和和紀・講談社/劇場版「はいからさんが通る」製作委員会