「出戻り女性社員」が増加する? 2018年以降の社会はどう変わるのか/エコノミスト崔真淑さん

国は「女性活躍」だ「働き方改革」だと言っているけれど、大きな変化は感じられず、淡々と毎日は過ぎていく。日々のニュースに目はやるものの、つらいトピックスが目に入るばかりで、明日からの暮らしがより良くなっていくイメージはあまり持てない……。それが、今を生きる働く女性たちの本音かもしれない。

しかし、2017年10月の選挙結果を受けて「2018年以降、数多くの企業で女性が働きやすい環境づくりが加速していく」と話すのは、マクロエコノミストの崔 真淑さん。政治・経済分野に詳しい崔さんに、2018年以降、働く女性たちを取り巻く社会環境がどう変わるのか、予測してもらった。

20~30代は売り手市場! 女性が就職しやすい環境は続く

マクロエコノミスト 崔 真淑さん

マクロエコノミスト
崔 真淑さん

Good News and Companies代表。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。化粧品会社エイボン・プロダクツ取締役。1983年生まれ。神戸大学経済学部、一橋大学大学院(ICS)卒業。MBA in Finance。大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)では株式アナリストとして活動し、最年少女性アナリストとして株式解説者に抜擢。2012年に独立。経済学を軸にニュース・資本市場解説をメディアや大学などで行う。若年層の経済・金融リテラシー向上をミッションに掲げる
Good News and Companies
http://www.goodnews.jp.net
エイボン・プロダクツ
http://www.avon.co.jp/

今、世の中の企業は人手不足で中途人材の採用を加速させています。それゆえに、特に20~30代の若手人材は就職しやすい状況が続いていくと思います。

また、「女性活躍」推進の動きは引き続き加速していき、女性が働きやすい環境づくりは国全体で続くと見ています。それは、企業の自発的な動きというよりも、深刻な人手不足からくるものです。

アベノミクスが始まったことで正社員数の増加や、失業率の低下が起こりました。けれど、男女別でみると、ここ数年、女性の正社員の伸びは相対的に鈍化しています。

これにはさまざまな理由が影響しているのですが、一つには、家事や育児、出産、介護といったライフイベントが女性に偏っている現状が理由として挙げられます。

ただ、そんなことを言っていては企業側も疲弊することは目に見えています。そこで、2018年も貴重な労働力として女性を採用し、その活躍を支えながら、人手不足を補おうとする企業が増えていきます。働き続けたい女性にとっては追い風と言えるでしょう。

特に分かりやすい変化では、「出戻り社員」に関する制度設計を行う企業が増えていますね。

出産、育児で一度は職場を離れてしまった女性社員の「出戻り制度」づくりに乗り出す企業は今後も増えていくのではないかと予測しています。

1つの会社に依存する働き方は崩壊の一途
「学び直し」が奨励される

2016年8月3日に発足した第3次安倍第2次改造内閣では、「働き方改革担当大臣」という新しいポストができました。それからすでに1年が経ちますが、政府の働き方改革推進は2018年以降も続いていくでしょう。これも、前述した労働人口不足にはどめをかける狙いがあるからです。

また、労働時間が短縮化されることで、余暇の時間をいかに過ごすかが問題となってきます。国や企業としては、その時間を使ってよりいっそう“魅力的な人材”を育てたい。そこで、リカレント教育(生涯学習)の推進が注目されています。つまりは、学び直しです。

社会人が大学に戻って勉強したり、学位や資格を取得することが欧米などでは一般的なのですが、日本ではまだまだ少数派。長期的に能力豊かな人材を育てるために、社員の学び直しに投資する企業も増えてくるのではないでしょうか。

学び直し

終身雇用制度が崩壊し、「人生100年時代」とも言われるいま、1つの会社に依存して働く生き方はもう当たり前のものではありません。今後は転職、自営業、セカンドキャリアがよりいっそう当たり前になっていく中で、女性たち一人ひとりがスキルアップする必要があります。“稼ぐ力”を常に磨き続けていかなければいけない時代が到来しています。

人事評価制度のフォーマット見直しが進む

国会では「残業代ゼロ法案」が審議されているところ。働く女性にとっては気になるニュースの一つだと思います。しかし、この法案を通すことは頓挫するのではないかと私は予測します。

というのも、残業云々を説く前に、能力給制度の働き方をする人と、時間給制度の働き方をする人への人事制度や評価制度のフォーマットが企業全体で出来上がっていないからです。このまま推し進めてしまうと、企業内で大混乱を招きます。もしも強行されるようなことがあるなら、一次的に残業代が出ずに疲弊するだけの人が出てくるような気がしてなりません。

日本企業の中には、ホワイトカラー人材に対しても、高度成長期に確立した工場労働モデル(時間管理)の評価を当てはめてしまっているところが少なくありません。まずは人事評価の仕組みを見直すことが先でしょう。

また、会社員の「お金」に関わることでいくと、「国民皆保険」や「所得控除」がどう変化するかといったところは一人ひとりが意識的に情報をキャッチアップしていくべきポイントです。給料に如実に影響しやすい税制に与党がどんなスタンスなのかという点を引き続き注目しておくといいと思います。

取材・文/栗原千明(編集部)