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APR/2018

当事者が明かす“トランスジェンダーの気持ち”――「よく分からない」って言っていい。「安心感」のある職場をつくるために/杉山文野さん

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2018年の1月に発売された『広辞苑 第七版』に、新たに「LGBT」が収録された。今やすっかり世の中に定着し、それぞれの文字がレズビアン(L)、ゲイ(G)、バイセクシュアル(B)、トランスジェンダー(T)を表していることを、きっと多くの人が知っているだろう。

だが、好きになる性別の対象を表す“L”“G”“B”に対して、“T”のトランスジェンダーは、「何だかよく分からない」という人が少なくない。だが、人口の約8%がLGBT当事者と言われている中で、周囲の無理解に悩み、自分らしさを隠しながら働いているトランスジェンダーは、あなたの職場にもきっといる。

そこで、トランスジェンダー当事者で、LGBTアクティビストの杉山文野さんにお話を聞いた。

杉山文野
杉山文野さん
1981年東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。早稲田大学大学院にてジェンダー論を学んだ後、その研究内容と性同一性障害である自身の体験を織り交ぜた『ダブルハッピネス』を講談社より出版。卒業後、2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、現地でさまざまな社会問題と向き合う。帰国後、一般企業に3年ほど勤め独立。現在は日本最大のLGBTプライドパレードである特定非営利活動法人 東京レインボープライド共同代表理事、セクシュアル・マイノリティの子供たちをサポートするNPO法人ハートをつなごう学校代表、各地での講演会やメディア出演など活動は多義にわたる。日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ証明書発行に携わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める

トランスジェンダーにとっての働きやすさや、彼らと共に働く人、一人一人ができることを探っていくと、全ての人が心地よく過ごせる職場環境をつくる鍵が見えてきた。

性同一性障害とトランスジェンダーは別物?「障害ではなく、生き方の一つ」が世界のスタンダードに

トランスジェンダーは、生まれ持った体の性別に捉われない生き方をする人のこと。日本では「性同一性障害」という言葉によって認知が広まった。「『障害だから仕方がない』という福祉的な観点を伴っていたので、良くも悪くも社会に受け入れられやすかった」と杉山さん。一方、性同一性障害とトランスジェンダーは同じものだと認識している人は多いが、両者には違いがあるという。

「前者は疾患名で、『あなたは性同一性障害です』と他者から付けられるもの。後者は、自分のアイデンティティーとして『私はトランスジェンダーです』と自発的に称するものです。『障害ではなく、生き方の一つ』というのが世界的な流れですが、当事者の中でも認識はさまざまなのが現状。障害だと感じている人もいれば、そうでない人もいます」

2004年に性同一性障害特例法ができてから、日本では約8000名のトランスジェンダーが戸籍上の姓を変更している。だが、その条件は非常に厳しく、次の5つを満たす必要がある。

一 二十歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

これら全ての条件をクリアするのは、非常に難しいことのように思える。

見た目の変化を伴うため、周囲の理解がなければ、働きながら性別を移行することは困難だ。手術や治療を望んだ結果、退職へと繋がってしまうことも多いという。

また、カミングアウトに2つの種類があることも、トランスジェンダーならではの特徴だ。

杉山文野 トランスジェンダー
「今まで女性として生きてきた人が『今後、男性に移行していきます』というのは未来に対するカミングアウト。一方で、例えば男性として生きている今の僕が『以前は女子だったんです』って話をするのは、過去に対するカミングアウトです。もし僕がトランスジェンダーであることを隠して企業に勤めていたとしたら、『女子校に通っていた』という過去の話はできないんですよね。このように、本人の性別移行の段階によって、カミングアウトの意味合いが変わってきます」

トランスジェンダーであることを理由に内定が取り消されたり、不当な異動辞令を受けたりと、カミングアウトによって不利益を被ることは、残念ながら少なくないという。さらには「カミングアウトをするな」と上司に言われてしまうケースもあるという。

その一方では、社内規定の中で「カミングアウトの強要はしないし、言う権利も阻害しない」と明文化した企業が出てきたことが話題を呼んだ。世界に目を向ければ、NetflixやFacebookなどの一部外資系企業では、従業員の性別適合手術を福利厚生でカバーするところもある。世の中は着実に変わりつつあることをまずは知っておきたい。

分からないことは「分からない」でOK! 難しく考える必要はない

杉山さんの話からも分かるとおり、一言でトランスジェンダーといっても、ジェンダーに対する意識も、体の状態もさまざまだ。もし悩みを抱えているトランスジェンダーの同僚がいたら、一緒に働く私たちは何ができるのか。なんだか難しく考えてしまうが、「もっとシンプルに考えていい」と杉山さん。

「一番大事なのは、その人に向き合う姿勢です。『カミングアウトされたらどうすればいい?』とよく聞かれますが、誰かに相談をされたら、まずは話を聞きますよね。LGBTだって同じこと。“目の前にいる人とどう付き合っていくか”っていう、単純な話です。先入観を一度振り払って、フラットに話を聞くことがファーストステップだと思います」

トイレや更衣室などの設備の問題がよく取り沙汰されるが、「一番大事なのはソフトの部分」と杉山さんは続ける。

杉山文野 トランスジェンダー

「『ハードはハートで越えよう』ってよく言うんですけど、周りの理解があれば、トラブルになることはないんですよ。制度や設備はもちろん大事ですが、そんなに大げさな話ではありません。例えば僕が経営するお店には段差があって、どうしてもその段差をなくすことは難しかった。結局、『車椅子の人が来たら、どんなに忙しくても全員で持ち上げよう』というルールにしたんです。こうやってソフトを変えれば、ハード面の不足はいくらでも乗り越えられますよね」

必要なのは、特別な配慮ではない。何かあった時に相談できる環境だ。そしてその環境は一緒に働く全員の安心感を生む。

「トイレや更衣室以外にも、人によっては婦人科検診を受けたくないとか、さまざまな困りごとがあります。でも、体に大きな傷があるとか、異性の医師は避けたいとか、LGBTに限らず人それぞれ事情を抱えているものですよね。そういうことを相談できる環境があれば、皆が安心して仕事に集中できる。

よく、企業の人事担当の方から『相談窓口を作ったけど、一件も相談がない。意味あるの?』という話を聞くことがありますが、“言わない”のと“言えない”は全くの別物。何かあればいつでも相談ができるという安心感の中で”言わない選択”をするのと、何か困ったことがあっても言えない環境とでは、雲泥の違いがあります。だから、社員の離職率を下げたい企業は、相談窓口はどんどん設けるべきですよ」

人は「慣れる」生き物。LGBTに嫌悪感を抱いていた人がアライになることもある

「困っていることがあれば教えてね」というメッセージの発信は、同じ職場で働く一人一人ができることだ。もし相談されたときに正しい対処法が分からないなら、杉山さんは「ぜひ『どうすればいいか分からないんだ』と口に出してほしい」と訴える。

「LGBTイベント『東京レインボープライド』のスポンサー企業の社長は、『僕はLGBTについてはよく分からない。だから、社員と一緒に学んでいくきっかけにしたいんだ』と言って僕のところに相談しに来てくれました。すごく正直だし、うれしいですよね。いろいろな事例を積み重ねていく中で理解は深まるから、共に学んでいきたいという姿勢があれば、それでいいと思うんです」

よく知らないからこそ、「こんなこと聞いていいの?」と悩んでしまうこともあるが、それも素直に言えばいい。

杉山文野 トランスジェンダー

「普通のコミュニケーションと一緒ですよ。『こんなこと聞いていいか分からないけど』といった前置きの一言さえあれば、相手も話しやすいですよね。それに最初から完璧を求める必要はなくて、分からないことに向き合えば必ず失敗する。でも、それだって経験の一つです。LGBTは特別に考えられがちですが、あまり恐れずに付き合ってもらえればいいと思います」

LGBTへの理解を深めたいのであれば、当事者の話を聞くこと。「慣れは大事」と杉山さんはアドバイスをしてくれた。

「僕が初めて乙武洋匡さんとご飯に行ったとき、どうしていいか分からなくて、すごく緊張したんですよ。フォークはとってあげた方がいいのかな、とか、水はもっと近くにおいてあげた方がいいのかな、とか。でも、いざ一緒に食事をしてみればどうってことはなくて、自然と慣れました。LGBTも同じです。慣れるために研修を導入するのもいいですし、今は当事者と触れ合えるいろいろなイベントもある。そういう機会をたくさん持つことが大事なんだと思います」

LGBTに関するエンターテインメント作品も多くある。生田斗真さんが主演を務めた『彼らが本気で編むときは、』や『チョコレートドーナツ』といった映画、そして漫画『弟の夫』を杉山さんはオススメしてくれた。たとえLGBTに対して「よく分からない」という違和感を持っている人であっても、こうした作品や当事者に触れていくうちに、意識は変わっていくという。

「福岡市長の高島宗一郎さんは、ゲイの人にセクハラをされた経験があって、『ゲイはこわい』という強いトラウマがあった方です。でも、理解を深めようと一歩踏み出して、当事者たちと接するうちにイメージが変わって、LGBTカップルを公的に認証する『パートナーシップ宣誓制度』の福岡での導入が加速しました。『最初は気持ち悪いと思っていた』という方が強力なアライ(LGBTの支援者)になることもあるし、気持ちは変わるものだと思います」

杉山文野 トランスジェンダー

話を聞き、当事者や関連作品に触れて理解を深め、慣れる。トランスジェンダーを理解し、アライになっていく過程は、LGBTに限らず、あらゆる人が抱える”オープンにしにくい事情”を理解する道程ときっと同じだ。

それぞれが抱える困りごとを理解し、受け入れようとする人が社内で一人でも増えていけば、皆がイキイキと楽しく働ける職場は増えていくだろう。


【参考書籍紹介】
>>『トランスジェンダーと職場環境ハンドブック だれもが働きやすい職場づくり』

【イベント紹介】
>>『東京レインボープライド』2018年イベント開催情報

取材・文/天野夏海 撮影/栗原千明(編集部)

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